僕を裏切らないと約束してください。浮気をしたら精算書を突きつけますよ?

ゆずは

文字の大きさ
42 / 67
竜司と子猫の長い一日

竜司は子猫から『あーん』される

しおりを挟む



 プレゼントに服はまだ早かった。焦りすぎた。だが、猫のシルエットモチーフがついたストラップを見つけ、これならばとお伺いしてみれば、子猫も気に入った様子。ならば、と、即二つ購入し、一つは自分のスマホに取り付けた。
 お揃いと言ってもいやな顔をせず、むしろ喜んでくれたと思う。いそいそと自分のスマホにも取り付けていたから。
 最初の店で子猫を散々イかせたのに、買い物と称したデート(少なくとも俺的にはそれ)で歩かせすぎたかもしれない。
 疲労が見えてきたな…と感じたとき、子猫の腹の虫が鳴った。
 そういえば、朝食は十時頃だった。今はもう十六時。腹が空いてもおかしくない。
 恥ずかしがる子猫を促して手近な喫茶店に入った。
 軽食かデザートか……とざっくりメニューに目を通していると、子猫がスイーツのところで目が釘付けになっている。
 なにをそんなに……と視線を追えば、こってりと甘そうなパンケーキ。子猫の視線は別のものを見てはそこに戻る。
 ……食べたいなら素直に食べたいと言えばいいのに。
 了承も得ずに注文を終わらせた。
 子猫が喜んでいるから問題ない。
 それから間もなくして眼の前に置かれたパンケーキ。ナイフを入れる前に写真にも収め、ようやく一口目を口に放り込んだ。

「ん~~!」

 ……子猫、甘いものが好きだもんな。
 ナイフを入れただけで、シロップがにじみ出る。うん……本当に甘そうだ。これは見てるだけで胸焼けがしそうだ。
 幸せそうに食べてる子猫を見ながらコーヒーを飲んでいると、子猫は何を思ったのか、小さめのひと口を切り出し、フォークにさして俺に差し出してきた。

「竜司さん、はい、あーん」
「っ」

 そこかしこから視線を感じた。
 まあ……それは、いい。いいんだが……。

「ん」

 シロップの滴るそれを、口を開けて迎え入れる。途端、口の中に凶悪な甘さが広がっていく。

「美味しい?」
「……ああ」

 思わず口元を隠していた。
 ……甘いものが苦手だからといって、子猫が可愛らしく『あーん』と差し出してきたものを断るなんて、無理だ。
 でもじっと俺を見る視線。
 どうにかその視線をはぐらかしたくて、パンケーキに添えられていた葡萄を一粒指でつまみ、子猫の口元に差し出した。

「ほら」
「ん」

 ほんのり頬を染めた子猫が口を開けて葡萄を食べる。つまんでる俺の指も舐めて。

「へへ……美味しい」
「そうか」

 そこでようやくコーヒーで口直しができた。

「竜司さん、もう少し食べる?」
「いや。あとはのぞみが食べると良い」
「ん!」

 ……よし。これで問題はない。

 あっという間にパンケーキを完食した子猫。喫茶店を出ると、満足そうな顔をして俺の腕に抱きついてきた。

「ありがと」
「どういたしまして」

 ……傍から見たら、どう見えるだろうか。
 明らかに自分のサイズではないカーディガンを羽織り、ニコニコと男の腕に絡みつきながら歩く子猫。
 援助交際とかパパ活……のように思われたら悲しいが、それより、父親と息子のように思われるとその方がダメージが強いかもしれない。
 それほど老けて見えることはないだろうが、人の目というのは推し量れないものの一つだ。
 仮に、ゲイカップルと見られたとして、俺は問題ない。だが、子猫はどうだろう。……子猫の様子を視る限り、それも杞憂な気はするが。

「映画にでも行くか?」

 子猫がキョトンと俺を見た。
 ……唐突すぎたか。

「買い物終わり?」
「ああ。……ベッドも買い替えるなら、家具屋に行くが」
「なんでベッド?」

 本気で聞いてる目だな。
 ……俺が言ったこと、覚えてないのか。

「のぞみが嫌ならベッドも買い替えると言っただろ?」

 往来で普通に話すことでもなく、子猫の耳元に口を寄せて言えば、くすぐったいのか肩を震わせた。

「んっ、や、それは……いらない…っ」
「そう?」
「うん」

 子猫は少し周りを見てから、俺の腕を引いて背伸びをしてきた。

「竜司さんの匂いがするから、今のがいい」

 俺と同じように耳元でそう言った。
 ……匂いがするのはベッドではなく寝具だろうが、子猫がそう言うなら買い替えなくていいな。

「そうか」

 思わず腰を抱き寄せキスを――――しそうになって、我に返った。
 せめて車の中までは待たなければ。

「映画、どうする?」
「竜司さん何か観たいのある?」
「……いや。あー……すまん。今何が公開されてるのかもわかってない」

 正直に言ったら子猫が笑った。

「知らないで映画とか言ったんだ?」
「……まぁ」
「興味ないなら別にいいよ。僕もそんなに映画とか見ないし」
「そうなのか?」
「うん。あんまデートとかしたことな、い、し……」

 言いながら、子猫の頬がどんどん赤く染まっていく。ちら、ちらっと俺を見上げながら、そろそろと絡めていた腕を離していく。

「えと、あの、なんかはしゃいでて、ごめんなさい……」
「のぞみ?」
「ただの買い物なのに、楽しくて甘えちゃってた」

 困ったように笑う子猫。
 俺は漏れ出る溜息を隠せないまま、子猫の手を握る。

「デートだろ」
「え」
「いちゃいちゃして、買い物して、肩を寄り添わせながら歩いて、揃いのものをつけて、喫茶店で食べさせ合って。のぞみもデートだなって感じたんだろ?俺はそもそもそのつもりだし。デートってことでいいだろ」

 ……この年になってこれほど『デート』と連呼するとは思っていなかったが、子猫は自分の気持ちにセーブをかけることが度々あるし、子猫が誤解しないように言葉にすることは必要なことだ。
 子猫はどう思うだろう。まだ恋人にもなってない男にデートだと言われて、騙されたような気になってないだろうか。

「デート……」

 俺の心配を他所に、子猫は小さく控えめに呟き、繋いでいた手をきゅっと握り返してきた。




しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【2話目完結】僕の婚約者は僕を好きすぎる!

ゆずは
BL
僕の婚約者はニールシス。 僕のことが大好きで大好きで仕方ないニール。 僕もニールのことが大好き大好きで大好きで、なんでもいうこと聞いちゃうの。 えへへ。 はやくニールと結婚したいなぁ。 17歳同士のお互いに好きすぎるお話。 事件なんて起きようもない、ただただいちゃらぶするだけのお話。 ちょっと幼い雰囲気のなんでも受け入れちゃうジュリアンと、執着愛が重いニールシスのお話。 _______________ *ひたすらあちこちR18表現入りますので、苦手な方はごめんなさい。 *短めのお話を数話読み切りな感じで掲載します。 *不定期連載で、一つ区切るごとに完結設定します。 *甘えろ重視……なつもりですが、私のえろなので軽いです(笑)

死に戻りした僕を待っていたのは兄たちによる溺愛モードでした

液体猫(299)
BL
*諸々の事情により第四章の十魔編以降は一旦非公開にします。十魔編の内容を諸々と変更いたします。 【主人公(クリス)に冷たかった兄たち。だけど巻き戻した世界では、なぜかクリスを取り合う溺愛モードに豹変してしまいました】  アルバディア王国の第五皇子クリスが目を覚ましたとき、十三年前へと戻っていた。  前世でクリスに罪を着せた者への復讐は『ついで。』二度目の人生の目的はただ一つ。前の世界で愛し合った四男、シュナイディルと幸せに暮らすこと。  けれど予想外なことに、待っていたのは過保護すぎる兄たちからの重たい溺愛で……  やり直し皇子、クリスが愛を掴みとって生きていくコミカル&ハッピーエンド確定物語。  第三章より成長後の🔞展開があります。 ※濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭、ちょっとだけ重い展開あり。 ※若干の謎解き要素を含んでいますが、オマケ程度です!

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

愛され少年と嫌われ少年

BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。 顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。 元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。 【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】 ※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に1話ずつ更新

処理中です...