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竜司と子猫の長い一日

樋山徹の主張①

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*樋山徹サイドのお話です。2話予定です。「こいつの話は見たくない!」という方は、今回と次話を読み飛ばしてくださいな。






 俺が噂でしか知らなかった伊東のぞみを認識したのは、本当に偶然だった。

「あいつ。ほら、ビッチの」
「ビッチって」

 いきなりの友人の言葉に不快感を表しつつも、講堂の前側の隅の席に座る人物を見て「ああ、彼が」とも思った。

「講師も教授も誑し込んでるらしいぜ。ホテルに入るところ見たってやつがいる」
「誰にでも足を開くホモでビッチなんだと」

 同期の間でその噂はかなり広がってる。
 彼は俺たちの会話も聞こえているだろうに、全く反応もせず本を開いている。

「そんなに『客』が取れるほどいい体なのかね」
「興味あるなら誘ってみりゃいいじゃん」
「嫌だよ。いい体でもいい顔でも、男とヤるなんて鳥肌しかたたねぇわ」

 友人たちの下品な会話をただ聞き流す。
 彼はいつもパーカーのフードを目深に被っているから、あまり素顔が見えない。どうやらかなり整った容姿だと、これも噂が流れている。

「男もいいもんだけどな」
「は?もしかして樋山、男と経験済みか?」
「俺は博愛主義者だからな」
「マジか」
「大マジ」

 どうせ、将来はどっかの社長の娘と結婚させられるんだ。学生のうちに遊ぶだけ遊んだって構わないだろ。

「かわいい子限定な」
「さすが面食い」
「お前らだって結局は顔で選ぶだろ」
「違いない!」

 可愛くてエロかったら最高。ただそれだけだ。

 伊東のぞみとは学科が違うが、共通科目で同じ講義を取ることが何度かあった。多分今までも同じ講堂の中で何度も目にしていたはずだったが、気にもしなかった。
 彼はいつも一人だ。自分から誰かに話しかけてる姿は見たことがない。隅の席でひっそりと講義を受けて、終われば気配なく講堂を出ていく。
 俺がなんとなくそんな彼を見続けたある日。俺の前を彼が通り過ぎようとしたそのタイミングで、誰かが開けた窓から強い風が入り込んだ。

「うわ…」
「!」

 俺の目の前で彼のフードが風に煽られた。
 いつも隠されてた彼の顔が、そのときにあらわになる。
 黒というより茶に近いサラサラした髪に、色白の肌。大きな瞳に、ふるっとした唇。全体にあどけなさが残る甘い容貌だった。
 彼はすぐにフードを戻すと周りを見ることなく講堂を出て行ってしまった。
 俺は最速で荷物を片付け、彼の後を追った。ほぼ、無意識に。

「……なぁっ」

 昼休みの、人で溢れた廊下。
 目指した人物を難なく探し出し腕をつかんで振り向かせた。
 あの大きな瞳が俺を真っ直ぐに捉える。

「なぁっ、ちょっと、話を――――」
「……誰?」

 これが、俺がのぞみと始めて交わした会話だった。

 俺は自分でも驚くほどのぞみにハマった。
 同じ大学の学生は相手にしないと言われたのに、一回だけとなんとか口説き落として『一回』に持ち込んだ。
 初めては無難にラブホを選んだ。学生らしく、肩肘張らないように選択した。
 のぞみはラブホにも慣れていた。全面ガラス張りのバスルームにも恥じらう様子はなかった。

「先に使うね」

 そう言ってバスルームに入って行ったのぞみは、やはり恥じらいもなく衣服を脱ぎ捨てていく。
 華奢な体にしなやかな筋肉がついているのが見える。
 俺に背を向けながらシャワーを使うのぞみ。そのうち、指を自分のアナルに入れてそこも洗い始める。
 ちらりと流される視線に、俺の喉が鳴った。
 今までにないほど興奮を覚え、俺のペニスはすでに硬く張り詰めていた。
 湯けむりでガラスが曇るまで、視姦し続けていた。目をそらすなど勿体ない。ただシャワーを使い、体を洗っているだけだと言うのに、完成された官能映画のようだった。

 入れ違いに俺もシャワーを使う。
 見るに耐えない体はしていないはず。筋肉質になりすぎないよう注意しながら鍛えた体だ。ペニスだって長さも太さも十分ある。朝までだって使えるくらいのタフさも持ち合わせている。
 満足させられない訳がない。
 髪を拭き、体を拭き、タオルを腰に巻いた。ペニスは勃ったままだが、これでいい。
 バスルームから室内に戻ると、のぞみはバスローブ姿でベッドに腰掛けていた。
 頬は赤らみ、目元が濡れているように見える。
 俺の体を見て欲情したのか、抱かれることに恥じらいを覚えたのか――――色々と楽しい理由を考えていたが、どれも違っていた。
 キスはしないと言ったのぞみは、ベッドに上がった俺の腰タオルを剥ぎ取り、小さな口の中に俺のものを咥え込んだ。舌使いが巧みすぎる口淫に満足しながら、のぞみが羽織ったままのバスローブをめくった。
 下着をつけていない、丸みを帯びた尻。そこを撫でながらアナルに手を伸ばしたとき、異物の存在に手がとまった。

「すぐできるように準備したから」

 頬を赤らめていたのは、俺に見惚れていたからでも恥じらっていたからでもなかった。ただ単に、『準備』のために自分で挿入したディルドがのぞみの体を苛んでいたからだった。
 俺に準備をされるのが嫌だったのか。それともさっさと終わらせたかったのか。
 正直苛ついた。
 今まで抱いた女も男も、俺にこんな対応するやつはいなかった。
 のぞみの頭を抑え込んで喉の奥までペニスで犯した。苦しげなうめき声も、目尻から流れる涙も全て無視した。
 そうやって手荒に扱っても、のぞみは決してペニスに歯を立てることなく、泣きながらも受け入れていた。
 喉の奥で思い切り射精し、飲み込みきれずにむせたのぞみを気遣うことなく仰向けに押し倒し、片足を思い切り広げながら秘部をあらわにさせた。
 反応を見せているのぞみのペニスはピンク色で手の中に収まるくらいの大きさだ。それが上を向き蜜をこぼしている。
 その下に、アナルに嵌まる黒いディルド。
 見れば見るほど苛々が募り、力任せにそれを抜き取った。
 のぞみは小さな悲鳴を上げながら達した。
 咥えていたものがなくなり物欲しそうに蠢くアナルに、俺は迷わず己のペニスを突き立てた。
 一瞬、のぞみの息が止まる。
 アナルはぐずぐずに濡れて解れていた。僅かな抵抗を感じたが、構わずに最奥まで一息についた。
 ……ゴムもつけてないがどうでもいい。
 最初から激しく腰を振った。
 最奥を突くたびに、のぞみのペニスからは白濁が噴き上がった。
 最奥で一度射精した。それと同時にのぞみも何度目かの絶頂に達していた。
 まだだ。
 腰を抱え直し、最奥を亀頭で叩く。
 そのうち、そこが開き、躊躇うことなくそのさきへと亀頭を潜り込ませた。
 のぞみから上がる甲高い悲鳴のような嬌声。ペニスは簡単に潮を噴く。
 背中に回るのぞみの腕。
 蕩けたように濡れて俺に向けられる瞳。
 そうだ。堕ちろ。
 俺とのセックスを覚えれば、他のやつとやったって満足するはずがないんだ。
 射精して空にして、潮を噴きまくって尿も漏らせ。全身で俺を感じて俺のものになれ。
 深夜を回ってのぞみが意識を飛ばした。
 それに構わずに、その後も何度かのぞみの中に射精してやっと体が落ち着いた。
 寝息をもらすのぞみの隣りに体を沈めた。
 朝、目が覚めたら、まずは風呂に入ろうか。きっと足腰も立たないだろうから、俺が隅々まで洗ってやろう。
 朝食はどこか適当なところで摂って、そのまま俺の家に招くか。
 そんな『予定』を立てながら、俺は眠りについた。今までにないほど満ち足りた時間だった。
 ……けれど。
 翌朝目が覚めたときには、すでにのぞみの姿はなかった。
 ベッド近くの小さなテーブルの上に、お金とメモを残して、のぞみはいなくなっていた。
 室料の半額です、と書かれたメモ。丁寧な文字。
 抱き潰したと思ったのに嘘だろ…と思いながらスマホを手に取り、連絡先をまだ聞いていなかったことに気づいて舌打ちした。
 当然、のぞみの服もディルドもない。あるのは、畳まれたバスローブだけ。
 しばらく呆然としたまま動けなかった。





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