僕を裏切らないと約束してください。浮気をしたら精算書を突きつけますよ?

ゆずは

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竜司と子猫の変わる日々

僕と竜司さんの秘密の伝言の件

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「日替わりセットお願いしようかな」

 竜司さんは普通の声量で注文してくる。内緒話はここで終わりってこと。

「は、はい、ひが、ひがわり、ですね」

 ギクシャクしてるのは僕だけで、まるで新人のようにしどろもどろ。
 そんな僕を見て竜司さんはくすっと笑うと、入口の方を指さした。

「あそこのケーキは持ち帰りできる?」
「あ、はい」

 レジの近くには小さめのケーキショーケースが置かれていて、毎日五種類くらいのケーキが並ぶ。数は多くなくて、閉店頃には売り切れることも多いけど、今日はまだ少し残ってた。

「オススメはどれかな」
「えと…」

 残ってるのは、定番のショートケーキと、アップルパイとレアチーズケーキだけど、どれも美味しい。
 オススメ。
 竜司さんは甘いものが苦手だから、きっと、自分用じゃない。だったら、誰に?

「じゃあ、全部一個ずつ、持ち帰り用に包んでくれるかな」

 答えられない僕に、竜司さんはまたくすっと笑うと、そんな注文をしてきた。

「あ、…はい」

 誰へのお土産なの、なんて聞けない。聞く権利もない。
 僕はペコペコと頭を下げて厨房にオーダーを通す。
 それから、ショーケースの中からケーキを箱に移して、倒れないように丸めた厚紙で隙間を埋める。
 それをまたショーケースに戻して、テーブルNo.をメモに書いて貼っておく。
 相手は誰。
 あの部屋には僕以外誰も呼ばないって言ってくれた。だったら、ケーキをおみやげに持っていく場所は、家以外?
 ちらりとマスターの顔が浮かんだけど、マスターはケーキ好きって話は聞かない。
 だったら、部屋には呼ばないけど外で会う人……なんだろうか。
 ケーキが好きで、竜司さんは食べないだろうから、三個食べちゃうような人。竜司さんからそんな気遣いを貰える人。
 ……あ。
 なんだか、胸がモヤモヤする。また、チクチク痛んで、勝手に苦しくなる。

「伊東くん、ケーキばかり見つめてないでレジ入って」
「え」

 そんな声ではたっと我に返ると、お会計待ちのお客さんが目の前にいた。

「申し訳ありません!」

 わたわたと立ち上がってレジに入る。
 お客さんは女性客の二人連れで、「大丈夫ですよ」って笑ってくれる。
 ……なにやってんだろ、僕。
 ちらりと視線を動かしたら、こちらを見ていた竜司さんと目があった。その途端、笑われた気がして、顔は熱くなってくるしいたたまれないし、なんかもうごちゃごちゃになった。
 レジを終えてお客さんを見送って、テーブルのバッシングをしながら小さく小さくため息をつく。
 いつも通りにしよう。
 何も考えずに、いつも通りに。

「五番テーブルのよろしく」
「あ、はい!」

 厨房から声がかかってプレートとかをトレイに乗せる。五番は竜司さんの席だから。

「お待たせいたしました」

 声を掛けるとスマホを確認していた竜司さんが視線を上げて、僕を見て笑って頷いてくれる。
 ……ドキドキしてる鼓動を無視しながら、なんとか料理をテーブルに並べると、竜司さんはニコニコしながら僕の手元に小さな紙片を出してきた。

「?」
「ありがとう」
「あ、はい」

 紙片を握りしめて、ペコッと頭を下げて離れた。
 人目につかないところまで戻って手の中の紙片を開いたら、『上がりは何時?送るよ。待ってるから一緒に帰ろう』って、言葉が。

「っ」

 息が止まるかと思った。驚きすぎて、嬉しすぎて。
 レジ裏の電話機の近くにおいてあるメモ紙を一枚取って、『二十時あがり、嬉しい』って書く。それを折りたたんで不自然にならないように手の中に握り込んで、お冷の入ったピッチャーを手にホールに向かった。
 周りの目なんて気にしない僕だけど、今ばかりは周りの目を気にしながら動いた。変な注目は浴びたくないし、竜司さんのこと、これ以上誰かに注目されたくないし。

「お冷をお入れしますね」
「ああ、うん。ありがとう」

 グラスを持ち上げるときにテーブルの上にメモ用紙を滑らせた。
 竜司さんは表情を変えることなくメモ用紙を手に取り、開いて中を見た。

「いいね」

 口元に笑みを浮かべて短い返答。
 視線がメモから僕に向いてくる。
 細められた目に、僕の心臓がやたら騒がしくなってしまった。

「ご、ゆっくりどうぞ」
「ありがとう」

 体がギクシャクする。
 ……バイト始めた頃だって、竜司さんと初めて会ったときだって、こんな緊張しなかった。
 不思議すぎる、僕自身のことなのに。

 それからも何組かの出はいりがあって、僕が他のお客さんを案内してるときに竜司さんは席を立った。
 食べ終わってたしそろそろかなとは思っていたけど、僕の手が空いてるときにお会計してくれるんだと思ってたから、勝手に気落ちしてしまう。
 横目でチラチラと盗み見てしまった竜司さんは、嬉しそうにレジに立った女の子と何か話をしていた。話の内容までは聞こえてこない。
 レジ横を通るときにやっぱり竜司さんの事を見たら、ばっちり目があった。
 僕の心臓はまたしてもやかましく鳴り始めたけど、僕を見た竜司さんが目を細めて微笑む顔を見たら、それまで以上に速く鼓動を打ち鳴らした。

 ……僕、死ぬかも。

 そんなことを思ってしまうくらい、心臓はずっと鳴り続けた。




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