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 彼、オリバーはそれから私のことを考えてくれた。

『貴女様にとっては短い私の一生ですが、一生を懸けて、ボクオリバーはスカーレット様を大事にします』
 
 そう宣言したオリバーは自慰的に眷属になるという発想は捨て、ちゃんと私がどう感じるか、どう思うか、どうすれば楽しいと思えるのかを考えて一緒に暮らしてくれた。

 時々は、思い上がりや勘違いが合って、私は怒ったり、悲しんだり、私も私で時々彼のためを思ったことが裏目に出てしまったり・・・・・・眷属になったら起こりえないことで失敗した。でも、そういう思い出も愛しい思い出。その後仲直りするときは気持ちがリセットした新しい気分で再び彼のことを愛する人として見れたし、彼も私のことを愛する人と見てくれた気がした・・・・・・いいえ、見た。

「あぁ、アナタが告白した時、私ってとっても身体が熱くなって、嬉しかったのよ」

 オリバーは私が冷え性なんじゃないかと心配してくれたけれど、ヴァンパイアは人間よりも若干体温が低いのだ。

(でも、今はアナタの身体の方が冷え過ぎよ?)

 私は目を閉じたオリバーの顔を撫でる。
 もう、彼の体温が私を上回ることはないだろう。

「アナタの真っすぐなところが好きだったの。私、ヴァンパイアなのに怖がらずに最初から褒めてくれて、私のことを気に入ってくれて・・・・・・嬉しかったなぁ」

 もう、彼の口が私のことをストレートに褒めることはないだろう。

「オリバーぐらいなんだから。死ぬまで心を読まなかった人なんて。光栄に思いなさい」

 もう、彼の胸の奥にある心が動き出すことはないのだろう。

「子ども・・・・・・欲しかったね」

 私とオリバーはヴァンパイアと人間。
 子どもなんてできるわけがない。
 でも、できたとしたら、それは愛による奇跡の力。

(子どもができたら、その子は私と同じでほぼ不老不死の存在なのか、それとも、不老だけ、不死だけなのか、アナタと同じ寿命があるかなんて、話し合ったわね)

『もし、不老不死だったら、やっぱり眷属にしてよ』

 私も同じことを思っていたから、あの言葉は嬉しかったし、愛の力をますます信じた。
 けれど、奇跡はまったく起きなかったから、二人とも眷属の話は次第にしなくなったね。

「じゃあ、お別れね」

 私は棺の蓋を閉める。

「ごめんなさいね、眷属もだけど、ゾンビだとしても、私、アナタをアナタだと思えないの」

 私は棺に火をつけた。
 やっぱり、私は嘘つきなヴァンパイアだ。
 
 燃やすことで、オリバーの体温は私の体温のはるか上をいっているし、オリバーが死ぬときは離れるのが寂しいなんて言ったけれど、魂が入っていない彼が燃えても涙1つ流れない。

 それに・・・・・・

「アナタが最後に言った言葉も覚えていないわ」
 
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