美しい姉と優秀な姉に邪見にされても、王子を取られても、国外追放されても、最後に幸せになるのはこの私です。

西東友一

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 夜の森は怖い。

 町ですら、時々野犬が人々を襲い、衛兵たちが数名で防具や武器を装備して制圧するというのに、夜の森は野犬以上に恐ろしい熊や狼、そして得体の知れない何かが棲んでおり、装備している衛兵たちですら簡単に命を落とす。

『ふふっ。うそつき。こわいわけないじゃない』

 瞼を開けると、月夜が差し込む薄暗い部屋の天井が見え、声がした方を横目で見ると少女がいた。少女は前髪で顔を隠して俯きがちにケラケラ笑っていた。年端も行かない女の子なんてみんな無邪気でかわいいはずなのに、その女の子は薄気味悪くて、勝ち誇った嫌な笑い方をしていた。

 こんな気持ちは初めて。
 珍しく人に対して嫌悪感を覚えた、その時、少女は顔を上げた。

『だって、わたしは―――』

 そうその少女は昔の私だ。
 怖くなって、飛び起き、瞬きをすると、

「あっあっ・・・・・・あ・・・・・・?」

 昔の私は消えてしまった。

「んっ」

 気が付くと、私はとても汗を掻いていて、胸の動悸が警鐘を鳴らすようにとても激しかった。

「なんで・・・・・・?」

 人生で一番幸せな日々を過ごしているというのに、なんで一番自己嫌悪している時期の自分が現れたのだろうか。

(一番自己嫌悪している時期? いいえ、違うじゃない。だって、あの時は―――)

 あの時の私は無敵だった。
 そして、常々自分のことを好きになれないし、自分のことを嫌いなわけだけれど、今の良識ある私が振り返った時、あの時の私が最低で一番嫌いなのだ。だから、あの時の私も、今と同じように人生で一番幸せな日々だと思って過ごしていた。

(これは忠告・・・・・・なのかしら?)

 調子に乗るな、と私の本能がそう言っている?

 確かに、イケメンで優しくて面白い男性を独占している。
 でも、ちゃんと自分を律して救援の手紙を書いたじゃない。

『とちゅうでハトさんがしんじゃえばいいっておもっていたじゃない』

 どこからか、また昔の私の声が聞こえる。

「違う、そんなこと・・・・・・思ってなんかいな・・・・・・」

『いたわよ、たしかにいた』

「なんで、そんなことがあんたに分かるのよ!」

 昔の私がケラケラ笑う。

『だって、わたしは、あなたよ』

「違う、私は変わったのよ」

 過去の私がどんなに強い言葉を使っても、子どもっぽい棒読みのような拙い言い方だったので、平気だと思っていた。
 
 でも―――

『へぇー、そういって、かこのつみからにげるの? とーってもひきょうものね」

 その言葉は私の心の壁をすり抜けて、心の柔らかい部分を鋭い切れ味で傷つけた。
 

 
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