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「ねぇ、ベティ。それはダメよ。それは、結婚の冒涜だわ」

「ぼうとく? よくわからないけれど、私が幸せになることが大切でしょ? あーもしかして、ひどいお姉様のことだから「私」ってのが不満? なら、お父様。お父様が結婚してほしいと言って、私はそれを叶える。ほら、素敵なことじゃない」

 自信満々のベティ。もしかしたら、この子はどこかのリーダーになれる素質があるかもしれない。

「私は・・・・・・離婚を否定派しないわ。婚約したり、結婚して苦しむ人もいる。一度結婚したからといえ、神に誓ったといえ、それで苦しむのは私も良くないと思う。けどね、離婚前提というのは違うわ。それは、あなたは平気で相手を裏切り、神を裏切るということよ」

 私もかなり大胆なことを言っている。どこの世界を見れば、離婚をしていいのか。もしかしたら、別の世界、別の国では認められるかもしれない。けれど、今、この国で離婚をするというのは風当たりも強いし、なぜだか女が悪いという風になってしまうのが実情だ。

「相手は了承しているわ。なんなら、なんて父親想いなんだなんて褒めてくれたわ。神様もそう言ってくれるんじゃない? じゃっ、そういうことで」

「ちょっと、まだ話は・・・」

 ベティはお父様の部屋へと向かった。
 お父様はたいそう喜ばれた。だから、私はそれ以上何も言えなくなってしまった。お父様はいつも夕食は一人で食べていたけれど、今日はみんなでお祝いの料理を食べたいと言い出し、この頃ふさぎ込みのお父様が明るいことを仰ったので、私も喜んで参加した。久しぶりにお父様と私とベティが一緒のテーブルで食事をしている。いつの間にか、私もベティもなんとなく食事の時間をずらして食べていたので、姉妹で食べるのも久しぶりだ。

「あら、お姉様。悔し泣き?」

「えっ?」

 私は涙を流していた。いつも苦しそうで辛そうなお父様の笑顔を見ていたら、胸が熱くなっていてどうやら私は涙を流していたようだ。

「大丈夫か?」

 そんな私をお父様が心配してくださいます。心配されるべきはお父様なのに。

「いいえ、嬉しくて。こうやって、みんなで楽しく・・・ご飯が食べられるなんて」

「あーはいはい、負け惜しみ、負け惜しみ」

 そう言って満足そうなベティは自分の勝手な解釈をする。

(お父様はどうだろうか?)

 私はお父様を見ると、お父様は私の気持ちが分かってくれた様子で優しく笑ってくださった。
 お父様だけはわかっていればそれだけでいい、と思う気持ちと、そんな私の理解者であるお父様の命がわずかしかないと思うと、一層悲しく感じました。
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