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前編

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 朝。

「いま~わたしの~♪」

 何度目かの合唱。
 いい加減同じことの繰り返しで飽きてきた。


 ちょいちょい。

 僕はかっちゃんの背中を指で押す。
 もじもじするかっちゃんは前を向きながら僕の手を払ってくる。
 当然、僕も真面目な顔をしながら歌を歌う。

「ちょっと、男子っ。真面目にやって!!」

 ちっ、バレてしまったか。
 
 かっちゃんが反応するかしないかの絶妙なラインで遊んでいたけれど、指揮者として全体を見ていた委員長にはばれてしまったようだ。僕は粛々と真面目な顔をして下を向く。

 それから、委員長の小言が始まった。
 
(朝から勘弁してくれよ・・・たくっ)

「おはよー」

 能天気に野中君があいさつしながら教室に入ってくる。


「それに、男子はいつも集合が遅い!!」

「あっ、はい。すいませんでした!!」

 すぐさま元気よく謝る野中君を見て、男女問わず笑い声が生まれた。

「じゃあ、もう一回・・・っ」

「○○さん、そろそろ授業が・・・」

 女子の中の一人がやんわり言うと委員長も仕方なく諦めた。

◇◇

放課後

「よーし、やっと終わった~」

 両腕を上に伸ばして座りっぱなしで固くなった身体を伸ばす。
 今日は体育も無かったから、早く部活に…。

「は~い、静かに。今日の朝は人数が少なかったから放課後もやりますっ」

 委員長の教壇に立ち皆に声をかける。

「はぁ!?ふざけんなっ。俺らは部活があんだよっ」

 サッカー部の高橋君がキレた。

 彼を筆頭に不満を持っていた男子の意見が爆発する。
 女子の一部も委員長を庇って、男女の戦争になる一歩手前まで行った。 

「帰れ、帰れっ…」

 誰が言ったかは覚えていない。
 誰かが「帰れコール」をし出すと、男子はそいつに続いた。
 

 委員長はそのまま悔しそうな顔をして、教室を飛び出した。
 
 罪悪感はあった。
 けれど…。

「これで、委員長も少しは懲りるだろう。俺らの都合とか考えてねーもん。女子だって部活行きたい奴いただろう?」
 
 高橋君が言う通り、こちらにはこちらの言い分がある。
 そう言って、みんな合唱練習をすることなく、自分たちの予定で部活に行ったり、帰宅したり、塾に行ったり教室を後にした。

 次の日から、委員長は学校に来なくなった。
 そして、しばらくして委員長は転校していった。

 もともと、転校の予定があり、みんなとの合唱コンクールまでは待ってほしいと親に言っていたそうだ。
 そして、僕らの合唱は精細を欠き、不甲斐ない結果で終わった。

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