11 / 11
11
しおりを挟む
「うううっ」
男が目を覚ますと、ぼんやりと女性の顔があった。瞬きをするとようやく目のピントが合ってきて、その女性が妻であることがわかった。
「あなたっ」
妻はその華奢な腕で男をぎゅっと抱きしめる。
男は一番知っている女性ではあったけれど、そんなに安堵した顔をした妻を見たことが無かったので驚きながらも、ゆっくりと妻の背中をさする。
「俺は・・・いったい・・・」
「あなたの傍に雷が落ちたのよ。よかったぁ、無事で」
抱きしめていた腕を緩めて、もう一度妻は男の顔を覗く。妻の目は涙で潤んでいた。男は外を見ると太陽の光が差し込んできており、昼間だと理解した。
「俺はどれくらい寝てたんだ?」
「大丈夫よ、一晩ぐっすり寝ていただけよ」
「そうか・・・」
男は額に手を当てながら、目を閉じて記憶を辿る。
「そう・・・そうだっ。あの子たちはっ!!?」
「痛いっ」
男は慌てて両手で妻の二の腕を掴むと、必死過ぎて加減を誤り、妻が苦悶の顔を浮かべたので慌てて謝りながら、手を緩める。
「それで・・・俺の近くにいた男の子たちはどうなった?」
妻が怪訝な顔で夫を見る。
「男の子なんていなかったわよ・・・?」
男は狐に頬を摘ままれたような顔をした。
「いや、でも人はいただろう?」
「いないわ。誰も、なんなら動物だっていなかったわよ」
「そんな・・・」
男は自分の記憶を思い返す。けれど、あんな血まみれの少年たちのすさまじい光景を、あんな血生臭い吐き気がする臭いが幻だったなんて思えない。
「夢でも見てたんじゃない?さて、お腹が減っているでしょ、スープを持ってきてあげるわ」
そう言って、妻は立ち上がり、台所へと向かう。
「あぁ・・・頼むよ」
男はぼーっと一点を見つめながら、どこから事実でどこから夢なのか頭を巡らせたけれど、どうしても全てが事実にしか思えなかった。男はしばらくの間、安静にしていたら、すぐに元気になった。
「あれはなんだったんだろうか・・・」
男は雷が落ちた場所に行ってみようと考え、妻に断りを入れて現場に行くことにした。街の様子は何事もなかったかのように変化はない。
(まぁ・・・俺ごときに何かあっても泣いてくれるのは、家族とわずかな友人くらいだろう)
そんなことを考えながら、男は雷に落ちた場所にたどり着いた。
「うーむっ」
男は腕を抱えながら、眉間にしわを寄せる。それもそのはず、そこにはなんの痕跡もなかった。血の跡も、なんなら雷が落ちたのだから少しくらい焦げ跡でも残っていてもいいと思ったが、よく見ても何にもない。
「はぁ、わからん」
男はお手上げだと言わんばかりに、腕を組みながらのけ反った。
「おっ・・・」
男は夜空を見て少し驚いた顔をした後、満足そうな顔をした。
「良かったなぁ・・・」
独り言を呟いた男は愛する妻に会いたくなって、小走りで家へと向かった。
Fin
男が目を覚ますと、ぼんやりと女性の顔があった。瞬きをするとようやく目のピントが合ってきて、その女性が妻であることがわかった。
「あなたっ」
妻はその華奢な腕で男をぎゅっと抱きしめる。
男は一番知っている女性ではあったけれど、そんなに安堵した顔をした妻を見たことが無かったので驚きながらも、ゆっくりと妻の背中をさする。
「俺は・・・いったい・・・」
「あなたの傍に雷が落ちたのよ。よかったぁ、無事で」
抱きしめていた腕を緩めて、もう一度妻は男の顔を覗く。妻の目は涙で潤んでいた。男は外を見ると太陽の光が差し込んできており、昼間だと理解した。
「俺はどれくらい寝てたんだ?」
「大丈夫よ、一晩ぐっすり寝ていただけよ」
「そうか・・・」
男は額に手を当てながら、目を閉じて記憶を辿る。
「そう・・・そうだっ。あの子たちはっ!!?」
「痛いっ」
男は慌てて両手で妻の二の腕を掴むと、必死過ぎて加減を誤り、妻が苦悶の顔を浮かべたので慌てて謝りながら、手を緩める。
「それで・・・俺の近くにいた男の子たちはどうなった?」
妻が怪訝な顔で夫を見る。
「男の子なんていなかったわよ・・・?」
男は狐に頬を摘ままれたような顔をした。
「いや、でも人はいただろう?」
「いないわ。誰も、なんなら動物だっていなかったわよ」
「そんな・・・」
男は自分の記憶を思い返す。けれど、あんな血まみれの少年たちのすさまじい光景を、あんな血生臭い吐き気がする臭いが幻だったなんて思えない。
「夢でも見てたんじゃない?さて、お腹が減っているでしょ、スープを持ってきてあげるわ」
そう言って、妻は立ち上がり、台所へと向かう。
「あぁ・・・頼むよ」
男はぼーっと一点を見つめながら、どこから事実でどこから夢なのか頭を巡らせたけれど、どうしても全てが事実にしか思えなかった。男はしばらくの間、安静にしていたら、すぐに元気になった。
「あれはなんだったんだろうか・・・」
男は雷が落ちた場所に行ってみようと考え、妻に断りを入れて現場に行くことにした。街の様子は何事もなかったかのように変化はない。
(まぁ・・・俺ごときに何かあっても泣いてくれるのは、家族とわずかな友人くらいだろう)
そんなことを考えながら、男は雷に落ちた場所にたどり着いた。
「うーむっ」
男は腕を抱えながら、眉間にしわを寄せる。それもそのはず、そこにはなんの痕跡もなかった。血の跡も、なんなら雷が落ちたのだから少しくらい焦げ跡でも残っていてもいいと思ったが、よく見ても何にもない。
「はぁ、わからん」
男はお手上げだと言わんばかりに、腕を組みながらのけ反った。
「おっ・・・」
男は夜空を見て少し驚いた顔をした後、満足そうな顔をした。
「良かったなぁ・・・」
独り言を呟いた男は愛する妻に会いたくなって、小走りで家へと向かった。
Fin
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
麗しき未亡人
石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。
そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。
他サイトにも掲載しております。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
退会済ユーザのコメントです