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―――クリスマス当日。

 大きなクリスマスツリー。
 大きいと言っても室内だから、

「はいっ」

「おうっ、サンキュ。四宮」

 三田先輩が脚立を使えば、一番上に星が置ける高さだ。折り紙で作った輪っかの飾りや名前も知らないキラキラ光るモフモフした飾り。

「こんなに大きいクリスマスツリー飾ったのは初めて」

「はっはっはっ、楽しいだろう」

 三田先輩が連れてきたのは児童施設だった。

「キミも飾ってみる?」

「・・・・・・」

 私が中腰になって、少年と目線を合わせて、ツリーに飾るステッキを目の前でちらつかせてもまったく少年は私と目を合わせない。まるで、声を掛けられていないような様子だった。そんな私と少年を見て、脚立から降りた三田先輩が少年の隣へとしゃがんで、

「楽しいぞ?」

 と言いながら、じーっと待つと、少年はゆっくり私の手元にあるステッキだけ見て、ゆっくり取って、ツリーへとゆっくりと飾った。私と三田先輩はお互いの顔を見ると、自然と笑顔がこぼれた。

 ここは、自閉症の児童を育む施設で、三田先輩はボランティアにたびたび訪れていたそうだ。特にクリスマスシーズンはサンタクロースの格好をして、みんなを喜ばせる飾りや企画、そして、プレゼントを考えて、毎年悩んでいたそうだ。

「・・・三田先輩らしいですね」

「だろっ?」

 どや顔の三田先輩。
 サンタクロースの格好に自信を持っているようだ。

「ほれっ」

 ポケットから可愛らしいラッピングが施された小さなプレゼントを三田先輩が横から渡してきた。

「あっ、ありがとうございます」

 私は両手でそれを預かり、重さなどを確認する。それなりの重さを感じるので、お菓子ではなさそうだ。

「ちなみに、それが一番悩んだ」

 珍しく照れながら言う三田先輩。
 いつもなら、ツッコミを入れるか、茶化す私だったけれど、私も嬉しさと照れで何も言えなかった。
 
 だって、その言葉が私の人生で一番嬉しい言葉だったんだから。

 おしまい。
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