回復師の再就職は容易です。魔王討伐した勇者パーティーにいたのに国王からの感謝状に名前がない私は国を去ります。

西東友一

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孤独な旅、歓迎のニアメア王国

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(それでも……僕は彼女を助けたい)

 アレキサンダー王子は試行錯誤した。
 フローレンスの力を頼りに全軍を突撃させて一気に魔物を撃退する方法も、死傷者が出ることを覚悟でフローレンスには休んでもらう方法も、せめて自分だけでも戦場に出続けること方法も。王子として、戦闘員として、一人の人間としてどう判断すればいいのか悩んだ。そして、現にこれから軍団長や大臣達とも話し合いをするつもりでいる。

 ただ、フローレンスの姿を見てしまった彼は、自分の様々な立場もあったけれど、一人の人……というよりも男として、彼女の支えになりたいと思った。アレキサンダー王子は勇者のパーティーとして魔王討伐をしたフローレンスを尊敬しているし、現に今も多くの兵のために誰よりも頑張ってくれている彼女に尊敬の念を抱かずにはいられない。その尊敬の念の中に敬服と敬愛が入っており、アレキサンダー王子は自分の感情を整理できる人間だったので、さらにその敬愛の中に異性としての愛が含まれていることも自覚していた。

 一人の女性のために今まで自分に尽くしてきた国民を裏切るわけにはいかない。アレキサンダー王子は自身、王子としての判断としても、フローレンスに回復師を付けることは間違いでないと思いつつも、彼女をひいきしてしまっているかもしれないとも思っていた。聡明なアレキサンダー王子でも、初めての感情に戸惑ってしまっていた。

(無理強いはしない……協力が得られなければ……僕が彼女を……)

 アレキサンダー王子は拳を握り締める。神の領域に等しい彼女であっても、必死に兵の安全のため回復等を行っていた彼女の背中は小さくか細かった。そんな彼女を自分だけでも支えになりたいと思っても、全権を担っている彼がその職務を全うしないわけにはいかない。

「……わかりました。私が行きます」

 先ほど、手を上げた女性の回復師が再び手を上げてくれた。

「じゃあ、私も行こう」

「じゃあ、私も」

 アレキサンダー王子が顔を上げると、5名の回復師が手を上げてくれた。それを見て、アレキサンダー王子は目頭が熱くなりながら、

「ありがとう」

 と言って、もう一度頭を下げた。
 それから、アレキサンダー王子とフレイア、そして5名の回復師はフローレンスのいる場所へと向かった。

「こんな遠くで、いいんですか?」

「あぁ」

 戦場から遠いことがわかった回復師たちはホッとして安堵の声を漏らす。

「でも、凄い……この距離を届かせるなんて……」

 一人の回復師がフローレンスの回復を目の当たりにして、唖然とする。今まで戦場に行くと言ったものの、戦場に行くのが怖い、という感情で埋め尽くされていた回復師たちは、ようやくフローレンスの凄さに気づく。

「いいえ、万を超える人数の方が」

「それよりも、全ての状況を把握していることの方が」

 回復師たちも世界で考えれば、上から10パーセントもしくは5パーセントに入るレベルの回復師たちだった。だが、そんな彼女達であっても、回復師の頂点に立つであろうフローレンスの実力ははるか雲の上の存在だった。

「みんな、彼女の補助を頼む」

 アレキサンダー王子に言われて、我に返った回復師たちは慌てて、フローレンスに回復をかけ始めた。すると、汗をかいて、険しい顔をしていたフローレンスの顔が徐々に健やかな顔になっていく。

「ありがとうございます……みなさん。そして………アレキサンダー王子」

 大規模な回復・強化・弱体化に慣れてきて、魔物の弱体化も進み、アレキサンダー王子が連れてきた回復師たちの回復と強化でようやく喋る余裕ができたフローレンスは皆に、そして、アレキサンダー王子にようやくお礼をいうことができた。

「ああっ」

 アレキサンダー王子はフローレンスが元気になったのを見て、嬉しい気持ちになりながら、笑顔で返事をした。

(この気持ちは……)

「よし、待たせたなフレイア。行こう」

「はいっ」

 国民一人一人が自ら考え行動し、魔王城の近くであっても生き延びてきた。当然、アレキサンダー王子やフレイアが居なくても、すでに軍団長や大臣達を始めている。アレキサンダー王子はフローレンスの傍に居たいと思う気持ちがありながらも、それでも王子として、知略を発揮できる者として、軍議に急いで向かった。

(この気持ちは……この戦が終わったら伝えよう)
 
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