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1-3 余暇、余分と余韻のひととき

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「ん~ちょっと、休憩しよっと」

 昼間の自宅で一人。
 掃除に着かれた私は、ヤカンに水を入れて、コンロの火をつけて、テレビをつける。

「んーーーっ」

 お茶請けとお腹周りを交互に見る。

「我慢・・・我慢っ」

 自分を言い聞かせるようにお茶請けを目に見えないところに仕舞う。さすがにこの頃食べ過ぎで、ちょっと肉付きが良くなりすぎている。

「あ~ぁ、いつもはみんなで注意し合っていたのになぁ」

 会社勤めの時は同じ女性社員同士で一緒に我慢して、そして、やっぱり食べてしまう日々が懐かしくなってしまった。

「おっと、いかん、いかん」

 ピーーーーーーーッ

 私はヤカンの日を止めて、コーヒーをカップに注ぐ。

 そして、カップを手に取り、香りを味わう。

「んーーーーんっ」

 やはり、コーヒーはまず香り。それも、淹れ立てを楽しむもの。

 その香りは気持ちをホッとさせてくれる。

「ふぅーふぅー」

 とりあえず、キッチンで一口飲む。
 飲むと言っても、熱いのはわかっているから舐める程度。
 味なんて楽しめず、とりあえず熱さを確認したコーヒーを持って、ソファーに座り、テレビを見る。
 昼の番組はあんまりおもしろくないけれど、今日は夜に録画した作品を見る気分じゃない。

 何気ない一日。

 そして、退屈な―――。

「って、私が仕事辞めたいって言ったんじゃん。明久にこんなんじゃ怒られちゃう」

 私は軽く自分へゲンコツをする。
 明久への感謝だけは忘れないでいよう、そう決めたはずなのにちょっとしたことで心が揺らいでしまう。

 時間というのは残酷だ。

 強く心に決めたことも薄れるし、会社からの仕事で聞きたいことがあるって、頼られた電話もほとんどなくなり、会社のみんなも私を忘れて仕事をしているのだろう。

 なんだろう。

 仕事を辞めてしまったら、私を必要としてくれるのは澪と明久だけになってしまった。
 そうやって、家族では必要とされても、社会から切り離されて行くような気がした。

「なーんか、寂し・・・っ」

 ピロンッ

 私が画面を閉じているスマホを見ていると、スマホが鳴って、画面が光る。

 私は何も考えずに、無意識にスマホのロックを解除してなんのメッセージか確認する。
 この一連の動作は条件反射のように身体が勝手に動いてしまう。

 いつもと同じ動作。

 だけれど、もしかしたらそのメッセージだけは私を吸い寄せていたのかもしれない。
 
 運命のメール。

 そんな風に言ったら、大げさだけれど、この時の私は、このメッセージが私の人生を左右するメッセージになるとは予想をしていなかった。
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