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 新品のジャージの遥人がバッターボックスから睨むように野球部のエース、上原を見る。

「はん、目つきのわりい1年だぜ」

 上原がボールをお手玉のように軽く何度か上に投げて、パシッとボールをはたくように取る。
 
「プレイッ」

「遥人~、打ちなさいよ~」

 楓の気だるそうな声。

「遥人君、がんばってぇ~」

 牛山の声は優しくて、柔らかい。
 遥人は戦意が削がれてとろけたような顔になるが、首を左右に振って気合を入れ直す。

 キンッ

「おおっ」

 上原が投げたボールを遥人がバットに当てると、真後ろにファールボールが飛ぶ。

 キンッ

 再び、真後ろにファールボールが飛ぶ。

「タイミング、あってるわよ」

 ネクストバッターの楓は、遥人に対してさっきとは反対に元気よく声援を送る。

(やれやれ、ひょうきんな先輩だな)

 そのエールを聞いて、遥人はフッ、と鼻で笑う。

「くっ」

 上原は少し動揺しながら、悔しがる。
 ほぼ、棒立ちでやる気の無さそうな一年生に初球からボールを当てられたのは、彼にとってかなり屈辱だった。
 そんな上原のことなどお構いなく、遥人はバッターボックスから一度出て、スイングの微調整のため2,3回思いっきりバットを振る。

「お願いします」

 遥人は再び、バッターボックスに入って構える。
 キャッチャーは投げる球のサインを再び、上原に送る。

 ブンブン

(上原・・・)

 キャッチャーは上原がサインに首を振ったのを受けて、いくつかサインを出すが合わない。

(わかったよ・・・)

 キャッチャーがあるサインを出すと、上原は頷いた。
 上原が投球モーションに入るのに合わせて、遥人も足をあげて打つ構えになる。

 シュッ

 クククッ

 ブンッ

 ストレートのタイミングに合わせて動いていた遥人は上原の投げたカーブによって、あっさりと空振りをする。

「ストライクッ、バッターアウト、チェンジッ!!」
「くっ」

 悔しがる遥人。

「ふんっ」

 当然だと言わんばかりに、威風堂々、拳を固めてマウンドから降り、ベンチへ帰る上原。
 その姿を睨むように遥人は見ていた。 

「あーーーんっ」

 ネクストサークルにいた楓が露骨にがっかりする。

「打ちなさいよ、遥人っ」

 ベンチへ戻ろうと近づいてきた遥人に文句を言う楓。

「そんな、無理言わないでくださいよ、方や何年も野球をやってきた人、方や体育の授業でソフトボールくらいしかやってないんですから」

(そんな人らが金剛に何を囁いたんだか・・・)

 遥人も少しむすっとして言い返す。

「まぁ、いいわっ。早く、防具を着けなさい」

「わかりましたよ」

 二人は悔しがりながらベンチへと戻っていった。
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