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 遥人はベンチで防具を着け始める。
 そんな彼の元へ二人の少年が遥人へ近づいていく。

「いや、惜しかったね、遥人くん」

「センスあるよ、キミ」

「あなた方は・・・」

 遥人は名前を憶えていない、外野を守っていた6番バッターと7番バッターの二人に声をかけられて、次の言葉が出ない。

「あぁ、その人たちは、モブローとモブジローよ」

 楓の言葉の「モブ」に引っかかる遥人。

「はああっ!?なんすか、どっちがどっちでもいい人みたいな名前はっ!!?確かに特徴がない顔で、校舎であっても気づかないかもしれませんが、一緒に戦う仲間でしょっ!!?ニックネームを付けるにしたって「モブ」扱いは雑過ぎません!!?」

「「はっはっはっはっ」」

 遥人のツッコミにモブローとモブジローが元気よく笑う。

「「本名さっ」」

 親指を立ててグッドポーズをしてくる二人。

「うわーひくわーーっ。一緒に戦っている仲間を「モブ」扱いするなんてーーっ」

 棒読み気味に楓が言う。

「へっへっ?」

 遥人はモブローとモブジロー、そして楓を順番に何度も見るけれど、嘘を言っている様子はない。
 ベンチの全員がじーっと、遥人の人格を疑うような目で見る。

「さっいてーーーっ」

 遥人の幼馴染の平井太鳳(ひらいたお)が横目でゴミを見るように遥人を見る。

「ちょっと、待ってよ、太鳳。太鳳はどっちがどっちかわかるの?」

「・・・恥に恥を重ねるなんて・・・ホントひどいわ」

「あっ、絶対、太鳳もわかんないでしょっ!!ねぇ!!」

 太鳳は必死に澄ました顔をしてセカンドへと走っていく。

「がっかりだぜ・・・相棒」

 金剛も遥人の顔を真っすぐ見ることはせず、筋肉をぴくぴくさせている。

「猛はどっちがどっちか・・・」

「じゃあな!!」

 ファーストへ猛ダッシュする金剛。

 ポンッ

「まっ、元気を出したまえ」

 遥人の肩を優しく叩く麗。

「麗さん・・・っ」

「まぁ、私という主人公の前ではキミも「モブ」だがなっ。はーっはっはっはっ」

 大笑いしながら、サードへ向かっていく麗。

「遥人くん・・・信じてたのに・・・」

 その可愛らしい声に遥人は後ろを向く。

「ひっ」

 まるで小動物のような可愛らしい子が、目をウルウルさせながら怯えて震えていた。
 その子の名前は小宮千尋(こみやちひろ)1年生。
 唯一のベンチ要員としてみんなを2年でマネージャーのポジションの牛山と応援していたメンバーだ。

「違うんだ、ちひろちゃんっ。ちなみに・・・ちひろちゃんは・・・っ」

「ひいいっ」

 遥人が声をかけようと、手を伸ばすと千尋は頭を抱えながら防行体制を取る。

「やめなさいよっ、ハルト。汚らわしい」

 まるで小動物のように可愛らしく、千尋と同じ顔の女の子が遥人を睨みつける。
 同じ顔をしていても、こちらは狂犬。その女の子の名前は小宮千早(こみやちはや)1年生で、センターを守っていた。

「きっと、ボクらの区別も遥人くんはつかないんだ・・・」

「いや、それはつくぞ。ちひろちゃん。かわいいのがちひろちゃん、かわいくないのがちはやだ」

「はあああああんっ!?」

 千早が阿修羅のような形相で遥人を見る。

「千尋はかわいいけど、私がかわいくないってどういうことよっ!?ハルトッ!!」

「さっきから、「ちゃん呼び」しているけど・・・ボク男だよ?遥人くん」

「あぁ、もちろん。知っているよ」

「うぅぅ・・・っ」

(そう、ちひろは男だ。だが、かわいい)

 見た目のかわいさもそうだが、千尋の立ち振る舞いは男心をくすぐる。
 男女ともに人気が高い千尋。

「ほら、早くしろよっ」

「はーいっ」

 千尋を構って満足した遥人はすっかりモブローとモブジローのことなんか忘れ、再びホームベースへ向かった。

 

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