上 下
9 / 15

9

しおりを挟む
―――9回表

「ボール、フォアボール」

「よし、ナイセン、ナイセン」

 野球部のベンチが盛り上がる。

「あぁん」

 楓たちのマネージャーとしてベンチにいる優子が残念がる。

「楓先輩、ドンマイですぅ」

 優子のとなりにいた千尋がかわいらしい声で声援をかける。

「さぁ、私のところに打たせてごらん」

 麗が声をかけるが、両膝に手を置いた楓は肩で息をしている。
 ノーアウトランナー1塁。

「ここはさすがにバントだ、いいな上原」

「おう」

 野球部キャッチャーがベンチからサインを出す。
 2番バッターはそのサインを見て頷く。

(さっきの目・・・)

 キャッチャーのマスクを被った遥人は先ほどの楓の横顔が脳裏に焼き付き、頭から離れなかった。

「ボールッ」

 2番バッターはバットを引く。
 
 シュッ

 コツンッ

「あっ」

 2番バッターの打ったボールが山なりにピッチャーの前へ飛ぶ。

 追いかける遥人。

(楓先輩にとって・・・僕たちは負けた方がいいのかな?)

 遥人はボールから目を切って、目の前にいるピッチャーの楓を見る。

「あぶないっ」

 サードの太鳳が叫ぶ。

「えっ」

 ドンッ

 ぶつかる楓と遥人。
 遥人の方が防具を着けて、体格がいいのと、方向的に捕った後にその勢いを使って投げようとしていた分、スピードが出ており、楓の方が飛ばされる。

「くっ」

(やっちまったっ)

 ランナーはオールセーフ。
 投げるところが無くなっていた。
 審判がプレーを止めたのを確認して、楓にかけよる遥人。
 他の内野のメンバーも二人を囲うようにやってきた。

「楓先輩、大丈夫ですか!?」

「あはははっ、ごめん。遥人っ」

(悪いのは僕なのに・・・)

 遥人は楓の腕を引っ張って起こす。
 楓は体操着の砂を払う。
 明らかに疲れている楓を見て、自分が嫌になる遥人。

「あと、アウト3つだ。頑張ろう」

 ポンポンっと楓は遥人の肩を叩く。

「・・・勝っていいんですか?」

「何言ってんだ遥人?」

 金剛が口を挟もうとするが、麗に止められる。手を出す姿も優雅だ。
 びっくりした顔をする楓。何かを言おうとするが、言葉が出ない。
 その楓を疑うような目で見る遥人。

(そんな顔見たくなかったな・・・)

『何当然のこと言ってんだ、バカ』

 遥人はそう言ってほしかった。
 なのに、いつもの自信がある顔じゃなくて困った顔をする楓。疲れて弱っているのもあるかもしれないが、いつものテンポの良さではなかった。

「みんなはなんのためにここにいるんですか?」

「勝つためだ」

「ふっ、同じく」

 金剛と麗が答える。

「楓様のために」

「私は・・・遥人が変なことをしないように監視するためよ・・・」

 すみれと太鳳が答える。

「僕は、天下取りにここに来ました」

 遥人は自信満々に答えた。
しおりを挟む

処理中です...