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「ふっ、ふははははっ」
遥人が天下を取ると聞いて、楓が吹き出して笑った。
「よく言ったな、遥人。よしっ、ちゃちゃっと抑えますか、いつっ」
楓は右腕を抑える。どうやらぶつかったときに腕のどこかを痛めてしまったようだ。
「大丈夫っすか、楓先輩」
「ああっ!なんせ、天下取るんだからなあはっはっはっ」
痛みを我慢した笑い方。急に噴出した嫌な汗。
(僕はSなのかな?こんな痛いのを強がっている先輩を見てほっとしているなんて)
「ピッチャー交代っすね」
遥人が冷静に言いながら、プロテクターを外していく。
「ん?」
「ちょっと、何してんの?遥人」
太鳳がスネをガードしているレガースを外すためにしゃがんでいる遥人に声をかける。
「ピッチャーできるの、僕しかいないでしょ」
「はああっ!?」
太鳳がびっくりする。
「いやいや、マウンドは譲らないぞ、遥人」
楓が凛々しい顔で断る。
「一緒でいいんですよね?」
「何が?」
「天下を取るの。僕は嫌ですよ、楓先輩だけが天下取っているのを指咥えて見ているのなんて」
遥人はさっきの上原にグローブを向けられた時の楓の横顔を思い出しながら、作業を続ける。
「・・・遥人が投げて勝てるのか?」
待っているのは3番、4番、5番のクリーンナップ。特に4番の上原は今日も絶好調で、楓のピッチングでもあわやホームランのバッティングもあった。
「わかんないっす」
(けど、あの人にだけは負けたくない)
体格も上原と遥人では仕上がり方が違う。
それでも、遥人は負けたくないと思った。
「じゃあ・・・っ」
断ろうとする楓。
「天下取った、織田信長も、豊臣秀吉も、徳川家康も、本場の曹操も劉備も、負けてトンズラしたことあるじゃないですか。だから、まぁ、負けてもいいのかなーって思ったり・・・殿(しんがり)は僕に任せろ的な」
「ストライクは入るの?」
「それは、大丈夫っす。自信を付けさせるバッティングピッチャーをやったこともあるんで」
「それは・・・大丈夫なのかい?なんなら、私が・・・」
麗が決めポーズをとりながら発言しようとする。
「任せてもらえると嬉しいです」
ポーズの途中で目をパチパチさせる麗。
「ふっ、ふはっはっはっはっ。愚問だったようだ。君に任せるよ」
そう言って、セカンドへ戻っていく麗。
「まっ、ハルトがやりてぇって言うなら、おれは任せるぜ」
金剛がファーストへ戻っていく。
「まっ、恥かかないようにね」
太鳳がサードへ戻っていく。
「じーーーーっ」
「すみれさん?」
遥人はすみれの冷たい視線に困惑する。
「じーーーーっ」
「はぁ・・・」
楓が諦める。
「いいよ、すみれ。ショートよろしく」
「かしこまりました、楓様」
すみれはきれいなお辞儀をしてショートへ帰っていく。
「さて・・・キャッチャーはやろうかな?」
遥人が脱いだプロテクターを拾う楓。
「くさっ、ハルト臭がするっ」
鼻をつまむ楓。
臭いはずだけれど、少しだけ嬉しそうな楓。
「いやいや、そんなに・・・臭いっすか?」
ちょっと涙目になる遥人。
「うーーん、クンクンッ。ま・・・っ、心が広い私だから平気よ」
上目遣いで遥人のリアクションを見ながらプロテクターの匂いを嗅ぎ、遥人の恥ずかしそうな顔を嬉しそうに笑う楓。
「でも・・・大丈夫ですか?なんなら、こんな時のために千尋が・・・」
「なーに、『一緒に』天下取るんだろ?」
遥人が吹き出すように笑うと、楓は頼んだぞと言わんばかりに軽くグラブで遥人の腕を叩く。
楓の笑顔は遥人をこの部活に誘ったときと同じ魅力的な笑顔だった。遥人は再び自分の心が動き始めたのを感じた。
つまらない小学生生活を過ごしていた遥人。
遥人はホームベースへと向かう楓の背中を見ながら、自身の高鳴る鼓動を楽しんでいた。
遥人が天下を取ると聞いて、楓が吹き出して笑った。
「よく言ったな、遥人。よしっ、ちゃちゃっと抑えますか、いつっ」
楓は右腕を抑える。どうやらぶつかったときに腕のどこかを痛めてしまったようだ。
「大丈夫っすか、楓先輩」
「ああっ!なんせ、天下取るんだからなあはっはっはっ」
痛みを我慢した笑い方。急に噴出した嫌な汗。
(僕はSなのかな?こんな痛いのを強がっている先輩を見てほっとしているなんて)
「ピッチャー交代っすね」
遥人が冷静に言いながら、プロテクターを外していく。
「ん?」
「ちょっと、何してんの?遥人」
太鳳がスネをガードしているレガースを外すためにしゃがんでいる遥人に声をかける。
「ピッチャーできるの、僕しかいないでしょ」
「はああっ!?」
太鳳がびっくりする。
「いやいや、マウンドは譲らないぞ、遥人」
楓が凛々しい顔で断る。
「一緒でいいんですよね?」
「何が?」
「天下を取るの。僕は嫌ですよ、楓先輩だけが天下取っているのを指咥えて見ているのなんて」
遥人はさっきの上原にグローブを向けられた時の楓の横顔を思い出しながら、作業を続ける。
「・・・遥人が投げて勝てるのか?」
待っているのは3番、4番、5番のクリーンナップ。特に4番の上原は今日も絶好調で、楓のピッチングでもあわやホームランのバッティングもあった。
「わかんないっす」
(けど、あの人にだけは負けたくない)
体格も上原と遥人では仕上がり方が違う。
それでも、遥人は負けたくないと思った。
「じゃあ・・・っ」
断ろうとする楓。
「天下取った、織田信長も、豊臣秀吉も、徳川家康も、本場の曹操も劉備も、負けてトンズラしたことあるじゃないですか。だから、まぁ、負けてもいいのかなーって思ったり・・・殿(しんがり)は僕に任せろ的な」
「ストライクは入るの?」
「それは、大丈夫っす。自信を付けさせるバッティングピッチャーをやったこともあるんで」
「それは・・・大丈夫なのかい?なんなら、私が・・・」
麗が決めポーズをとりながら発言しようとする。
「任せてもらえると嬉しいです」
ポーズの途中で目をパチパチさせる麗。
「ふっ、ふはっはっはっはっ。愚問だったようだ。君に任せるよ」
そう言って、セカンドへ戻っていく麗。
「まっ、ハルトがやりてぇって言うなら、おれは任せるぜ」
金剛がファーストへ戻っていく。
「まっ、恥かかないようにね」
太鳳がサードへ戻っていく。
「じーーーーっ」
「すみれさん?」
遥人はすみれの冷たい視線に困惑する。
「じーーーーっ」
「はぁ・・・」
楓が諦める。
「いいよ、すみれ。ショートよろしく」
「かしこまりました、楓様」
すみれはきれいなお辞儀をしてショートへ帰っていく。
「さて・・・キャッチャーはやろうかな?」
遥人が脱いだプロテクターを拾う楓。
「くさっ、ハルト臭がするっ」
鼻をつまむ楓。
臭いはずだけれど、少しだけ嬉しそうな楓。
「いやいや、そんなに・・・臭いっすか?」
ちょっと涙目になる遥人。
「うーーん、クンクンッ。ま・・・っ、心が広い私だから平気よ」
上目遣いで遥人のリアクションを見ながらプロテクターの匂いを嗅ぎ、遥人の恥ずかしそうな顔を嬉しそうに笑う楓。
「でも・・・大丈夫ですか?なんなら、こんな時のために千尋が・・・」
「なーに、『一緒に』天下取るんだろ?」
遥人が吹き出すように笑うと、楓は頼んだぞと言わんばかりに軽くグラブで遥人の腕を叩く。
楓の笑顔は遥人をこの部活に誘ったときと同じ魅力的な笑顔だった。遥人は再び自分の心が動き始めたのを感じた。
つまらない小学生生活を過ごしていた遥人。
遥人はホームベースへと向かう楓の背中を見ながら、自身の高鳴る鼓動を楽しんでいた。
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