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 演劇。

 「主役をやりたい人?」って先生が訪ねる。
 手を挙げる人は決まっている。
 たまに場違いな奴が手を挙げることもあるけれど、相応しい人間だけがその舞台に立てる。

 まぁ、場違いな奴は自分には何か秘められた才能があると勘違いして、借金して起業して、数年で失敗して、多額の借金をかかえるような奴だろう。

 劇をやる気のある人も、ない人も泥船に乗る気はさらさらない。
 先生すら、場違いの奴にはセリフが覚えられるか、何度も尋ねて心を折ろうとしてくる。

 その場違いだと思われていた少年が遥人だった。
 遥人は主役になれず、いてもいなくてもいいような役になった。

「さぁ!みんなっ!!僕についておいで!!」

「「「はいっ!!!」」」

 結局劇は一番クラスの人気者が主役を務めたが、セリフをほとんど覚えず、アドリブばかりで練習の時は笑いがたくさん起きていたけれど、本番はぐだぐだに終わった。

 絶対に儲かるなんて、豪語して泥船に乗せた人気者。でも、失敗しても笑い話でみんな呆れ笑いでいい思い出にした。遥人を除いて。

 遥人はそれなりになんでもできた。
 勉強もスポーツもそして、演技も。


(あーぁ、僕は結局噛ませ犬か・・・)

 野球部のベンチが上原の打ったボールを目で追って盛り上がった声がグラウンドを響き渡らせる。そんなに騒がなくても結果は同じだと悟った遥人はちっ、と舌打ちをする。

「モブタローッ!!!捕ってええええっ」

 キャッチャーの楓の大きな通る声を聞いて、目を開ける遥人。淡い期待を持ちながら遥人はレフトを見ると、全速力でフェンスに向かって走っているモブタローがいた。高々と上がったボールの方が速くフェンスの向こう側につきそうだけれど、かすかに希望が残っていた。

「・・・っ」

 遥人は声が出なかった。
 声を出すと言うことは期待しているということを表現するということ。期待しているのがダサい、期待しても簡単に裏切られるということばかりあった遥人は眉をしかめながら、じーっとみるしかできなかった。

「うおおおおおおっ」

 パッ

 上原の打ったボールがモブタローのグローブに触れる。

「くっ」

 しかし、グローブの先端に触れたボールはそのまま勢いがほとんど衰えることなく、はじかれてスタンドへと吸い込まれて行った。

「「「うおおおおおおおおおおおっ」」」

「しゃああああっ」

 2塁ベース付近までボールの行方を確かめながら走っていた上原が、ボールがスタンドに入ったと同時にガッツポーズをしながら、叫ぶ。野球部のベンチからは上原を讃える賞賛の嵐が湧きおこり、守備についていたナインたちは呆然とスタンドの向こうに行ってしまったボールの方を見つめていた。

 9回表2アウトからの貴重な2点。
 2対0。野球部リード。
 点を取れる様子が一切なかった楓たちにとってはひどく重たい2点となった。




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