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約束は果たせない
しおりを挟む男の言葉を思い出す。
「次は、誰が死んだかな?」
もし、男の言葉が本当なら、亡くなったのは、田嶋さんではないか…?
昨日、彼女に「死ね」と言われて心が怒りに揺さぶられてしまった。
それを見透かされて夢の男に殺されてしまったのではないか…?
部署に近付くにつれ、心臓が早鐘のように鳴り出した。
たとえ、不慮の出来事で誰かが亡くなっても、自分のせいだと思ってしまう。
不安で不安で心が押し潰されそうになった。
部署のフロアのドアを開けるのも怖い。
震える手でドアノブを握ったまま動けずにいる。
「入るなら早くしてよ。邪魔なんだけど」
私に痺れを切らしたのか、誰かがすぐ後ろから声を掛けた。
「す、すみません。退きます」
慌てて後ろを振り向き謝罪した。
「なに突っ立ってんの?」
不審なものを見るような目で見てきた人を見て驚く。
「田嶋さん…!」
気だるげに私を見やり、ドアを顎でしゃくる。
「入るなら早く入りなよ」
「あ…うん」
部署のフロアに入った。
つかつかと田嶋さんは自分のデスクに近寄り、座った。
昨日と何も変わった様子はない。
ばっちり化粧をして、髪も整えている。
夢の中で、男は確かに「次は誰が死んだかな?」と言っていた。
それを田嶋さんだと決めつけていたが、違ったようだ。
よかった。
あれは、あの男の嘘だったのだろう。
やはりあれはただの夢だ。
私の不安定な心が見せた悪い夢なんだ。
ほっとして、パソコンの電源を入れた。
昨日国塚くんに手伝ってもらった資料を朝一提出しなければ。
ちゃんとお礼もしたいし、この案件が終わったら予定を確認しよう。
そう思っていた矢先だった。
「おーい、みんな。ちょっと集まってくれるか」
係長が職員を集めはじめた。
打ち合わせだろうか。
その割に係長の表情は固い。
集まれば、「慌てず、落ち着いて聞いてくれ」と前置きされる。
「営業課の職員が昨日亡くなった」
まるでナイフを刺されたような衝撃が心臓に走った。
係長は一呼吸置いて、続ける。
「名前は、国塚 和真君というらしい。昨日の帰り、事件に巻き込まれて…そのままだったそうだ…」
話している最中、ひどく耳鳴りがした。
ぐわんぐわんと脳が揺さぶられる感覚になって視界がちらつく。
血がさっと引いて、自立できない。
「うそでしょ、国塚が…?」
隣にいた田嶋さんもひどく驚いていた様子だった。
ふらついて、近くのデスクに手をついた。
係長がこちらを心配そうに見た。
「そうか、君たちと国塚君は同期だったな…」
ざわつく他の職員をなだめるように係長は言葉を続ける。
「営業課でも、期待の社員だったそうだよ。惜しい人を亡くしてしまったね…」
沈んだ係長の声は耳に入らなかった。
近くにいた女性の先輩が、「大丈夫?具合が悪いなら仮眠室に行ってもいいのよ?」と身体を支えてくれた。
「大丈夫…です…」
出した声は震えて、今にも搔き消えてしまいそうだった。
「大丈夫には見えない。顔真っ青だよ?いいから、仮眠室でやすんでなさい係長には私が言っておくから」
少し語気を強めて、先輩は言ってくる。
「はい…すみません…」
謝罪し、その場を後にする。
ふらふらと、上の階にある仮眠室へ向かう。
寝たくない。けれどここにも居たくない。
なんで…どうして…
ぶつぶつと同じことを繰り返し言う私は、端からみたら不審者そのもの。
でも、始業時刻になり仮眠室の廊下は誰もおらず静まり返っている。
仮眠室も当然誰もいない。
しん、としている。
ドアを閉めた瞬間、嗚咽が漏れる。
「う…あぁ…っ!」
ここが会社だということも忘れて、私は仮眠室でひとり泣き叫んだ。
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