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幸せな光景。
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ユーリィが可愛い。レントの三つ子ちゃんも可愛い。リリィナのプラムちゃんも、メイフェアのメイルーちゃんもその他の乳母たちの子もみんな可愛い。
そんで乳母たちに混じって一生懸命、赤ちゃんを世話する鳥の民クォーターのナルージャ君が絶妙に可愛い。
可愛いが過ぎて悶える。
おっさんだけど母性本能がくすぐられてるんだろうか? おっさんが母性駄々漏れってキモいか? 見た目は可憐なアリスレアだから許されるんだろうな。
すっかり乳児園と化した茶話室はお義母様の指示でテーブルセットもチェストも片付けられた。もちろん花瓶なんて無い。カーペットも新品の毛足の長いものに取り替えられたので、俺はそっと『土禁』を提案してみた。いや、だってハイハイちゃんたちもいるんだし、なんでも口に入れるだろ? 俺たちが土足で歩いたカーペットの毛とか、絶対舐める、間違いない。
レントが床に盛ったクッションにもたれて両手と膝でうまく支えながら、赤ちゃんをふたり抱いている。ひとりは目つきの悪さが笑っちゃうくらい父親に似ていて、もうひとりはレントの遺伝子しか見当たらない優しい顔立ちをしている。レントが抱いているのは男の子ふたりで、両親のいいとこ取りをしたただひとりのお姫様は、メイフェアがメイルーちゃんと一緒に抱いている。
三つ子ちゃんは名前がまだない。父親が帰ってくるのを待っているからだ。
「皆さま、そろそろ水分を補給致しましょうね」
シュリが少し離れた場所にお茶の支度をしている。彼は俺に遅れること二日、鳥の民のサルーンに抱かれて、空を飛んで帰ってきた。冷え切って真っ青な顔でテラスに降りたシュリは、「もう二度と空なんか飛びません」と呟いたけど、それフラグっていうんじゃね? 二度あることは三度あるって言うしな。
用意されたお茶とお菓子は俺たちだけのじゃなくて、ここにいる乳母たちも含めた全員分だった。乳を与えているととにかく喉が渇くしお腹が空く。乳母たちは恐縮しながらもそそくさとシュリの元にやってきた。
気持ちはわかる。逃げる隙を狙ってたな。
なにしろ彼女たちの娘や息子は、イェンに空中ブランコされたり、にこやかに微笑むユレによじ登ったりしているからだ。イェンがアクロバティックに子どもをあやす姿は珍しいものじゃないんだけど、それはシュトレーゼン領内に限ったことだ。
「アリス、ブレント。その子たちも寄越しなさい」
こらイェン、寄越せってなんだ。
「まだ首が座ってないからダメ」
「んもう、ケチね」
「いけませんよ、姉様。人間の子は脆いのです」
かつて人間に転身して子どもを産んだユレは、姉神を嗜めた。助かる。その調子でイェンに人間の常識を教えてやってくれ!
意外と⋯⋯でもないか、すっかり肝の据わったリリィナが、すすっと双子神のそばに寄った。
「神様がた、ご一緒にお菓子を召し上がりませんか?」
乳母たちが一斉に涙目で首を振った。これ以上は彼女たちが可哀想なので、赤ちゃんたちのおっぱいタイムを口実に、部屋に下がってもらうことにした。全力で遊んでるから、疲れてそのままお昼寝タイムに突入だろう。ママたちは一緒に寝落ちても良いと言付けて送り出す。
茶話室は一気に静かになった。リリィナの娘のプラムちゃんがユレに抱かれている。父親のアーシーが扉を守っているけど、いつものデレデレは封印されている。可哀想なくらい緊張で固まっていた。
プラムちゃんはあうあうと声を出しながら、ユレの長い髪を引っ張って口に入れた。ヨダレでドロンドロンになるのを、ユレは微笑んで見つめている。
スゲー幸せな光景だ。
でもな、今日はもっと幸せなことがあるんだよ。早馬が討伐隊の帰還の知らせを持ってきた。待ちきれなくてソワソワしっぱなしでいたら、シュリが茶話室での外気浴を提案してくれたってわけだ。
最近は王城を覆う黒雲が濃くなって来て、赤ちゃんを庭に連れ出すのも躊躇われる。茶話室の広いテラスはガラスで覆われた温室なので、子どもたちの運動場になっている。窓を開けて外気を取り込むと、気を紛らわすには最適だった。
「ほにゃあ」
ユーリィがぐずり始めた。おっぱいタイムかな。リリィナがアーシーに合図をして、扉の外に追い出した。
「男同士だから、構わないのに」
「アリス様はうちの夫を殺す気ですか?」
リリィナがにっこり笑った。ちょっと怖い。
「ブレント様がお乳をあげるときにもそうおっしゃいますか?」
シュリに言われてハッとなる。たしかにレントの胸を見たりなんかしたら、軍務卿に殺されそうだ。と言うことは、俺の場合はジェムに殺されちゃうかもしれないのか。
シュリはいいのか?
⋯⋯ハイスペックなスーパー侍従だもんな。むしろ不測の事態に備えて見守って欲しいとか言われそうだ。
なんかもう、王城があの状態なんで帰還の挨拶はしないらしいから、もうまもなく帰ってくるだろう。騎士団の演習場で解散式が始まったらしいって知らせが来た。出立のときクズ王が激励もしなかったし、いいんじゃね?
「軍務卿と将軍、ふたり一緒に帰って来られるかな」
「留守居の副官が残ってくれるそうですよ」
疑問は晴れたけどシュリはいったい、どこからその情報を仕入れてくるんだろう。新たな疑問だ。
レントがふわりと微笑んだ。俺はこの間までジェムと一緒にいたけど、レントが軍務卿に会うのは三ヶ月以上ぶりだ。
「そろそろでしょうか」
ソワソワするレントは貴重だ。
リリィナとメイフェアの視線がヌルい。ユレは慈愛の笑みを浮かべていて、イェンは悪戯を思いついたような表情をしている。
コンコン
茶話室の扉がノックされた。ピクンと顔を上げる。
「名前を呼ばれた子犬みたいね」
イェンが笑った。
「若様と軍務卿様がご到着されました」
先触れの侍女も笑顔だ。
「え、え、え、待って待って! まだユーリィがおっぱい中なんだけど!」
赤ちゃんタイムは大人の都合では進まない。子育てあるあるだな! お乳を一生懸命吸うユーリィを急かすわけにもいかず、一家の大黒柱を玄関で待たせることになったのだった。
そんで乳母たちに混じって一生懸命、赤ちゃんを世話する鳥の民クォーターのナルージャ君が絶妙に可愛い。
可愛いが過ぎて悶える。
おっさんだけど母性本能がくすぐられてるんだろうか? おっさんが母性駄々漏れってキモいか? 見た目は可憐なアリスレアだから許されるんだろうな。
すっかり乳児園と化した茶話室はお義母様の指示でテーブルセットもチェストも片付けられた。もちろん花瓶なんて無い。カーペットも新品の毛足の長いものに取り替えられたので、俺はそっと『土禁』を提案してみた。いや、だってハイハイちゃんたちもいるんだし、なんでも口に入れるだろ? 俺たちが土足で歩いたカーペットの毛とか、絶対舐める、間違いない。
レントが床に盛ったクッションにもたれて両手と膝でうまく支えながら、赤ちゃんをふたり抱いている。ひとりは目つきの悪さが笑っちゃうくらい父親に似ていて、もうひとりはレントの遺伝子しか見当たらない優しい顔立ちをしている。レントが抱いているのは男の子ふたりで、両親のいいとこ取りをしたただひとりのお姫様は、メイフェアがメイルーちゃんと一緒に抱いている。
三つ子ちゃんは名前がまだない。父親が帰ってくるのを待っているからだ。
「皆さま、そろそろ水分を補給致しましょうね」
シュリが少し離れた場所にお茶の支度をしている。彼は俺に遅れること二日、鳥の民のサルーンに抱かれて、空を飛んで帰ってきた。冷え切って真っ青な顔でテラスに降りたシュリは、「もう二度と空なんか飛びません」と呟いたけど、それフラグっていうんじゃね? 二度あることは三度あるって言うしな。
用意されたお茶とお菓子は俺たちだけのじゃなくて、ここにいる乳母たちも含めた全員分だった。乳を与えているととにかく喉が渇くしお腹が空く。乳母たちは恐縮しながらもそそくさとシュリの元にやってきた。
気持ちはわかる。逃げる隙を狙ってたな。
なにしろ彼女たちの娘や息子は、イェンに空中ブランコされたり、にこやかに微笑むユレによじ登ったりしているからだ。イェンがアクロバティックに子どもをあやす姿は珍しいものじゃないんだけど、それはシュトレーゼン領内に限ったことだ。
「アリス、ブレント。その子たちも寄越しなさい」
こらイェン、寄越せってなんだ。
「まだ首が座ってないからダメ」
「んもう、ケチね」
「いけませんよ、姉様。人間の子は脆いのです」
かつて人間に転身して子どもを産んだユレは、姉神を嗜めた。助かる。その調子でイェンに人間の常識を教えてやってくれ!
意外と⋯⋯でもないか、すっかり肝の据わったリリィナが、すすっと双子神のそばに寄った。
「神様がた、ご一緒にお菓子を召し上がりませんか?」
乳母たちが一斉に涙目で首を振った。これ以上は彼女たちが可哀想なので、赤ちゃんたちのおっぱいタイムを口実に、部屋に下がってもらうことにした。全力で遊んでるから、疲れてそのままお昼寝タイムに突入だろう。ママたちは一緒に寝落ちても良いと言付けて送り出す。
茶話室は一気に静かになった。リリィナの娘のプラムちゃんがユレに抱かれている。父親のアーシーが扉を守っているけど、いつものデレデレは封印されている。可哀想なくらい緊張で固まっていた。
プラムちゃんはあうあうと声を出しながら、ユレの長い髪を引っ張って口に入れた。ヨダレでドロンドロンになるのを、ユレは微笑んで見つめている。
スゲー幸せな光景だ。
でもな、今日はもっと幸せなことがあるんだよ。早馬が討伐隊の帰還の知らせを持ってきた。待ちきれなくてソワソワしっぱなしでいたら、シュリが茶話室での外気浴を提案してくれたってわけだ。
最近は王城を覆う黒雲が濃くなって来て、赤ちゃんを庭に連れ出すのも躊躇われる。茶話室の広いテラスはガラスで覆われた温室なので、子どもたちの運動場になっている。窓を開けて外気を取り込むと、気を紛らわすには最適だった。
「ほにゃあ」
ユーリィがぐずり始めた。おっぱいタイムかな。リリィナがアーシーに合図をして、扉の外に追い出した。
「男同士だから、構わないのに」
「アリス様はうちの夫を殺す気ですか?」
リリィナがにっこり笑った。ちょっと怖い。
「ブレント様がお乳をあげるときにもそうおっしゃいますか?」
シュリに言われてハッとなる。たしかにレントの胸を見たりなんかしたら、軍務卿に殺されそうだ。と言うことは、俺の場合はジェムに殺されちゃうかもしれないのか。
シュリはいいのか?
⋯⋯ハイスペックなスーパー侍従だもんな。むしろ不測の事態に備えて見守って欲しいとか言われそうだ。
なんかもう、王城があの状態なんで帰還の挨拶はしないらしいから、もうまもなく帰ってくるだろう。騎士団の演習場で解散式が始まったらしいって知らせが来た。出立のときクズ王が激励もしなかったし、いいんじゃね?
「軍務卿と将軍、ふたり一緒に帰って来られるかな」
「留守居の副官が残ってくれるそうですよ」
疑問は晴れたけどシュリはいったい、どこからその情報を仕入れてくるんだろう。新たな疑問だ。
レントがふわりと微笑んだ。俺はこの間までジェムと一緒にいたけど、レントが軍務卿に会うのは三ヶ月以上ぶりだ。
「そろそろでしょうか」
ソワソワするレントは貴重だ。
リリィナとメイフェアの視線がヌルい。ユレは慈愛の笑みを浮かべていて、イェンは悪戯を思いついたような表情をしている。
コンコン
茶話室の扉がノックされた。ピクンと顔を上げる。
「名前を呼ばれた子犬みたいね」
イェンが笑った。
「若様と軍務卿様がご到着されました」
先触れの侍女も笑顔だ。
「え、え、え、待って待って! まだユーリィがおっぱい中なんだけど!」
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