神の末裔は褥に微睡む。

織緒こん

文字の大きさ
63 / 95

幸せな光景。

しおりを挟む
 ユーリィが可愛い。レントの三つ子ちゃんも可愛い。リリィナのプラムちゃんも、メイフェアのメイルーちゃんもその他の乳母たちの子もみんな可愛い。

 そんで乳母たちに混じって一生懸命、赤ちゃんを世話する鳥の民フィーリアクォーターのナルージャ君が絶妙に可愛い。

 可愛いが過ぎて悶える。

 おっさんだけど母性本能がくすぐられてるんだろうか? おっさんが母性駄々漏れってキモいか? 見た目は可憐なアリスレアだから許されるんだろうな。

 すっかり乳児園と化した茶話室サロンはお義母様の指示でテーブルセットもチェストも片付けられた。もちろん花瓶なんて無い。カーペットも新品の毛足の長いものに取り替えられたので、俺はそっと『土禁』を提案してみた。いや、だってハイハイちゃんたちもいるんだし、なんでも口に入れるだろ? 俺たちが土足で歩いたカーペットの毛とか、絶対舐める、間違いない。

 レントが床に盛ったクッションにもたれて両手と膝でうまく支えながら、赤ちゃんをふたり抱いている。ひとりは目つきの悪さが笑っちゃうくらい父親に似ていて、もうひとりはレントの遺伝子しか見当たらない優しい顔立ちをしている。レントが抱いているのは男の子ふたりで、両親のいいとこ取りをしたただひとりのお姫様は、メイフェアがメイルーちゃんと一緒に抱いている。

 三つ子ちゃんは名前がまだない。父親が帰ってくるのを待っているからだ。

「皆さま、そろそろ水分を補給致しましょうね」

 シュリが少し離れた場所にお茶の支度をしている。彼は俺に遅れること二日、鳥の民フィーリアのサルーンに抱かれて、空を飛んで帰ってきた。冷え切って真っ青な顔でテラスに降りたシュリは、「もう二度と空なんか飛びません」と呟いたけど、それフラグっていうんじゃね? 二度あることは三度あるって言うしな。

 用意されたお茶とお菓子は俺たちだけのじゃなくて、ここにいる乳母たちも含めた全員分だった。乳を与えているととにかく喉が渇くしお腹が空く。乳母たちは恐縮しながらもそそくさとシュリの元にやってきた。

 気持ちはわかる。逃げる隙を狙ってたな。

 なにしろ彼女たちの娘や息子は、イェンに空中ブランコされたり、にこやかに微笑むユレによじ登ったりしているからだ。イェンがアクロバティックに子どもをあやす姿は珍しいものじゃないんだけど、それはシュトレーゼン領内に限ったことだ。

「アリス、ブレント。その子たちも寄越しなさい」

 こらイェン、寄越せってなんだ。

「まだ首が座ってないからダメ」

「んもう、ケチね」

「いけませんよ、姉様あねさま人間ひとの子は脆いのです」

 かつて人間ひとに転身して子どもを産んだユレは、姉神を嗜めた。助かる。その調子でイェンに人間ひとの常識を教えてやってくれ!

 意外と⋯⋯でもないか、すっかり肝の据わったリリィナが、すすっと双子神のそばに寄った。

「神様がた、ご一緒にお菓子を召し上がりませんか?」

 乳母たちが一斉に涙目で首を振った。これ以上は彼女たちが可哀想なので、赤ちゃんたちのおっぱいタイムを口実に、部屋に下がってもらうことにした。全力で遊んでるから、疲れてそのままお昼寝タイムに突入だろう。ママたちは一緒に寝落ちても良いと言付けて送り出す。

 茶話室サロンは一気に静かになった。リリィナの娘のプラムちゃんがユレに抱かれている。父親のアーシーが扉を守っているけど、いつものデレデレは封印されている。可哀想なくらい緊張で固まっていた。

 プラムちゃんはあうあうと声を出しながら、ユレの長い髪を引っ張って口に入れた。ヨダレでドロンドロンになるのを、ユレは微笑んで見つめている。

 スゲー幸せな光景だ。

 でもな、今日はもっと幸せなことがあるんだよ。早馬が討伐隊の帰還の知らせを持ってきた。待ちきれなくてソワソワしっぱなしでいたら、シュリが茶話室サロンでの外気浴を提案してくれたってわけだ。

 最近は王城を覆う黒雲が濃くなって来て、赤ちゃんを庭に連れ出すのも躊躇われる。茶話室サロンの広いテラスはガラスで覆われた温室なので、子どもたちの運動場になっている。窓を開けて外気を取り込むと、気を紛らわすには最適だった。

「ほにゃあ」

 ユーリィがぐずり始めた。おっぱいタイムかな。リリィナがアーシーに合図をして、扉の外に追い出した。

「男同士だから、構わないのに」

「アリス様はうちの夫を殺す気ですか?」

 リリィナがにっこり笑った。ちょっと怖い。

「ブレント様がお乳をあげるときにもそうおっしゃいますか?」

 シュリに言われてハッとなる。たしかにレントの胸を見たりなんかしたら、軍務卿ハイイログマに殺されそうだ。と言うことは、俺の場合はジェムエゾヒグマに殺されちゃうかもしれないのか。

 シュリはいいのか?

 ⋯⋯ハイスペックなスーパー侍従だもんな。むしろ不測の事態に備えて見守って欲しいとか言われそうだ。

 なんかもう、王城があの状態なんで帰還の挨拶はしないらしいから、もうまもなく帰ってくるだろう。騎士団の演習場で解散式が始まったらしいって知らせが来た。出立のときクズ王が激励もしなかったし、いいんじゃね?

「軍務卿と将軍、ふたり一緒に帰って来られるかな」

「留守居の副官が残ってくれるそうですよ」

 疑問は晴れたけどシュリはいったい、どこからその情報を仕入れてくるんだろう。新たな疑問だ。

 レントがふわりと微笑んだ。俺はこの間までジェムと一緒にいたけど、レントが軍務卿に会うのは三ヶ月以上ぶりだ。

「そろそろでしょうか」

 ソワソワするレントは貴重だ。

 リリィナとメイフェアの視線がヌルい。ユレは慈愛の笑みを浮かべていて、イェンは悪戯を思いついたような表情カオをしている。

 コンコン

 茶話室サロンの扉がノックされた。ピクンと顔を上げる。

「名前を呼ばれた子犬みたいね」

 イェンが笑った。

「若様と軍務卿様がご到着されました」

 先触れの侍女も笑顔だ。

「え、え、え、待って待って! まだユーリィがおっぱい中なんだけど!」

 赤ちゃんタイムは大人の都合では進まない。子育てあるあるだな! お乳を一生懸命吸うユーリィを急かすわけにもいかず、一家の大黒柱を玄関で待たせることになったのだった。
しおりを挟む
感想 240

あなたにおすすめの小説

雪解けに愛を囁く

ノルねこ
BL
平民のアルベルトに試験で負け続けて伯爵家を廃嫡になったルイス。 しかしその試験結果は歪められたものだった。 実はアルベルトは自分の配偶者と配下を探すため、身分を偽って学園に通っていたこの国の第三王子。自分のせいでルイスが廃嫡になってしまったと後悔するアルベルトは、同級生だったニコラスと共にルイスを探しはじめる。 好きな態度を隠さない王子様×元伯爵令息(現在は酒場の店員) 前・中・後プラスイチャイチャ回の、全4話で終了です。 別作品(俺様BL声優)の登場人物と名前は同じですが別人です! 紛らわしくてすみません。 小説家になろうでも公開中。

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

不憫王子に転生したら、獣人王太子の番になりました

織緒こん
BL
日本の大学生だった前世の記憶を持つクラフトクリフは異世界の王子に転生したものの、母親の身分が低く、同母の姉と共に継母である王妃に虐げられていた。そんなある日、父王が獣人族の国へ戦争を仕掛け、あっという間に負けてしまう。戦勝国の代表として乗り込んできたのは、なんと獅子獣人の王太子のリカルデロ! 彼は臣下にクラフトクリフを戦利品として側妃にしたらどうかとすすめられるが、王子があまりに痩せて見すぼらしいせいか、きっぱり「いらない」と断る。それでもクラフトクリフの処遇を決めかねた臣下たちは、彼をリカルデロの後宮に入れた。そこで、しばらく世話をされたクラフトクリフはやがて健康を取り戻し、再び、リカルデロと会う。すると、何故か、リカルデロは突然、クラフトクリフを溺愛し始めた。リカルデロの態度に心当たりのないクラフトクリフは情熱的な彼に戸惑うばかりで――!?

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

愛され少年と嫌われ少年

BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。 顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。 元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。 【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】 ※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。

処理中です...