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自信のない治癒士と大人な子ども。
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傷もなんとなく癒えてきた俺は、この世界が魔法の力に満ちていると知った。ギィと長く話をした次の目覚めは、人の良さそうな治癒士と言う人が連れてこられて、魔力による治療をしてもらったからだ。
サイという名のその人は、ギィに連れられて部屋に入ってきた瞬間、直角に腰を折って大声で「さーせんしたッ‼︎」と叫んでギィに「うるさい!」と小突かれた。たしかにうるさかった。
俺は初めて会うこの人に、謝ってもらう理由に思い至らなかった。
「ビンちゃんが⋯⋯ビンちゃんが⋯⋯」
只ごとでないサイさんの様子に驚いて、うつ伏せでベッドの上に起きあがろうとして痛みに呻く。ギィさんが俺を宥めるように落ちかかった髪の毛をかき上げてくれた。
「ビンは大丈夫だ。サイ、お前もいきなりそれじゃ、患者がビビるだろ?」
サイさんに向ける声は呆れを含んでいて、その様子にさほどのこともなさそうだと安堵した。
「お前さんが眠ってる間に何度か来てるから、ビンも怪我を見て驚いたりしないさ。いいぞ、入ってこい」
ギィさんが扉の向こうに声をかけると、ミヤビンがひょっこり顔を出した。俺が起きてるのに気づいて動きを止めて、目をまん丸に見開いた。すぐにうるっと涙を溜めて手の甲で乱暴に拭うと、広くもない部屋の中をサイさんを押し退けて俺のそばまで飛んできた。
「お兄ちゃん! カ⋯⋯ルン兄ちゃん!」
うわぁあんと幼稚園児みたいに泣いて、床にぺったりと座り込んだ。
「ビンちゃん、心配かけてごめんね」
力の入らない手を伸ばして、ミヤビンの頭を撫でる。指で梳いた髪の毛はスルッと通り抜けた。背中の真ん中あたりまで伸びていた髪が、ショートカットになっていた。
なにがあったのかと視線を巡らせると、サイさんが真っ青になって「ごめんなさいぃ!」と身を震わせた。
ミヤビンが泣き止むまでしばらく待って、話を聞くことにした。サイさんは治癒をしに来たはずなのになんでこんなことになってるんだろうと思ったら、彼が修行中の治癒士だったことがこの騒ぎの原因だった。
死にそうな刀傷を負った俺が生きているのは、サイさんが魔力を使って治癒してくれたおかげらしい。ただ彼は魔力が少なくて、知識はあるのに治癒がかけられない。刻一刻と俺は死に向かっている⋯⋯という状態で、巨大な魔力を持った聖女ちゃんが隣にいた。媒体に髪の毛をもらえないかと頼んだら、ミヤビンは自分でさっくり長い髪を切って突き出してきたんだそうだ。
「ほんのちょっぴりでよかったんですーーーーッ」
サイさんはさめざめと泣いた。その辺の鋏で適当に切った髪はザンバラで、手先の器用な若いヤツに揃えてもらったら、すっかりショートカットになったと頭を抱えている。
「僕の治癒術は、一気に大量の魔力を流しすぎると暴発するんで、ちょっとずつしか治せないんです。だからホントにちょっぴりでよかったんです。それをまさか、根本から切り落とすなんて⋯⋯」
思い切ったとは思うけど、毎年プールの授業が始まる直前にショートボブにするから、そこまで悲観することないと思うんだけど⋯⋯。
「女性をこんな目に合わせるなんて、本当に申し訳ない⋯⋯ッ」
「⋯⋯もしかして、この国の女の人って、髪の毛が長いのが美しい証とか?」
「短いのは尼さんか罪人だな」
サイさんは返事どころじゃなくて、代わりにギィさんが答えをくれた。なるほど、そりゃあサイさんがこんなになるわけだ。
「サイさん。私、気にしてないよ。だから早くルン兄ちゃんの怪我を治して」
ミヤビンが涙の乾かないうるっとした瞳で言った。女子小学生の涙は無敵だと思う。サイさんは弾かれたように俺の枕元にやって来て、エグエグ泣きながら小さな瓶をかざして、呪文のようなものを唱え始めた。ときどきしゃくり上げてるけど、それは呪文に影響ないのだろうか?
痛みによる熱とは違う温かさが背中を覆って、俺が落ち着くと痛みが薄れた。痛いよりも鈍い痒みを感じる。治りかけの痒さって、こんな感じだよね。
「表皮は塞がりました。温湯ならかけても大丈夫ですが、擦っちゃ駄目ですよ。まだ表皮だけなので、仰向けで寝たり、歩き回ったりもいけません。薄皮が裂けちゃいますからね」
「⋯⋯頭を洗うのはいいですか?」
ベタベタして気持ち悪い。シャンプーだけでもしたい。
「腕を上げると肩甲骨が動くので、自分で洗うのは絶対駄目です」
「なら俺が洗ってやるよ」
「私もお手伝いする!」
サイさんが風呂の支度を頼みに部屋を出て行って、ギィさんが俺をシーツで包んで抱き上げた。背中に触れないよう、子どもを抱くみたいに縦に抱っこされる。知ってる、これお父さん抱っこって言うんだよな。
あ? なんか大事?
「いや、手伝ってもらうくらいなら我慢するから。この調子でサイさんに治癒してもらったら、ニ、三日で完治するでしょ?」
「清潔にするに越したことないだろう」
正論をぶちかまされた。シャンプーくらいなら美容院でしてもらってるから甘えちゃおうかな、と思った俺は甘かった。風呂場で丸洗いされた⋯⋯。怪我のためにしばらく発熱していたようで、抵抗する体力もない。
意識してなかったけど、背中を斬られていたから治療のために上半身裸だった。下もゆるいリラックスパンツみたいなズボンしか穿いてない。風呂場で脱がされたらパンツ穿いてなかった。ミヤビンは風呂場の入り口でギィさんが止めてくれたから、情けない姿は見られずに済んだけど。
風呂が終わるとギィさんは、疲れ果てた俺を再び抱き上げて部屋に運んだ。全身が重怠くて腰がふにゃふにゃで身体が支えられない。仕方なくギィさんの太い首に腕を回した。もたれるみたいにして体重を預けると、耳元で「いい子だ」と囁かれた。優しい声で俺を甘やかす。⋯⋯これは日本人あるあるか? 子どもに思われているのかもしれない。
ギィさんが歩みを進めるたび、廊下の床がギシギシと鳴った。幅は学校の廊下より狭いけど桜木の自宅より断然広い。天井も高いし、眠ってたベッドも傍らにあった椅子も大きい。この国の人々の基準で作られているってことだよな。ギィさんもサイさんも大きいし、俺を斬った男も大きかった。つまり、この国の平均身長は、テレビで見たスポーツ選手くらいあるのだろう。
⋯⋯子どもに見えても仕方がないのか?
それから三日して傷はすっかり塞がった。もちろん自然治癒じゃない。サイさんが朝昼晩の三回に分けて少しずつ治癒術をかけてくれた。お陰で自力で座れるようになって、ギィに支えてもらわなくても食事が出来るようになって嬉しい。世話をかけてると思うと、地味に居た堪れないんだよ。
ミヤビンと並んでベッドをソファーがわりに座って、椅子に座ったサイさんの話を聞く。
「僕の力では傷を塞ぐだけで手一杯です。拠点に戻ったら傷痕を消せる治癒士がいますので、それまで我慢してください」
「生きてるだけで感謝です」
サイさんはとっても自己評価が低い。俺はこうして生きてるんだから、誇っていいと思うんだけどなぁ。
「そうだぞ、他人と比べるな。お前は充分すごいぞ」
部屋に入ってきたギィさんがため息をつきながら言った。サイさんは曖昧に笑った。
「それよりルン。お前が助けてくれたコニーが謝罪と礼をしたいと言って、扉の陰で震えてるんだが」
「震えてる?」
「自分のせいで人が死にそうになったと絶望してるんだ」
⋯⋯コニー君、悪くないじゃん。
「会ってやってくれるか?」
「当たり前じゃないか。て言うか、俺もコニー君の無事な姿が見たい!」
「だとよ」
身を良すぎて乗り出すようにして言うと、ギィが扉の向こうに呼びかけた。おずおずと顔を出したのは、ミヤビンと同じくらいの身長の男子だった。眦をキッと吊り上げてこっちを睨みつけるように見ている。ありゃりゃ、これは泣くのを必死で我慢してる表情じゃないか。
「おいで」
コニー君はピクリと肩を揺らした。
「おーいーで」
両手を広げても来ないので、ミヤビンが立ち上がってコニー君を引っ張って来た。勢いをつけて俺に向かって押して来るから、コニー君はバランスを崩して倒れ込んで来た。
「捕まえた」
こういう子はハグの刑だ! ぎゅーっとハグハグしてやる!
「ほら。もう俺、元気だろう? 俺が怪我をしたのは頭のおかしい殺人鬼のおっさんのせいで、コニー君のせいじゃないよ。しばらく傭兵団で世話になりたいから、仲良くしてよ」
どさくさに紛れて、ご厄介になります宣言をしてみる。現実問題、怪我が治ったからって追い出されたら、三日で死ねる自信がある。
「俺も働くからさ、傭兵団の決まり事とか教えてくれる?」
「うん。⋯⋯⋯⋯うん、任せて」
言葉のお尻が震えて、肩がヒクヒク揺れた。泣け泣け。泣いてスッキリしちゃいなよ。背中をポンポンしてやる。この間のミヤビンと違って、ワンワン泣くって感じじゃない。耐え忍ぶような押し殺した大人の泣き方だ。
ちらっと視線を上げてギィさんを見る。縦も横も大きい鍛え上げた肉体の傭兵は、日に焼けた顔をくしゃりと歪めた。幼い従弟を愛おしむ眼差しに心が揺れた。
この子はどうしてか、大人にならなきゃいけないって思ってるようだ。⋯⋯召喚陣の生贄になりかかったことと言い、重たいものを背負わされているのかもしれない。
俺はギィさんに目配せして、コニー君の背中をさすり続けた。
サイという名のその人は、ギィに連れられて部屋に入ってきた瞬間、直角に腰を折って大声で「さーせんしたッ‼︎」と叫んでギィに「うるさい!」と小突かれた。たしかにうるさかった。
俺は初めて会うこの人に、謝ってもらう理由に思い至らなかった。
「ビンちゃんが⋯⋯ビンちゃんが⋯⋯」
只ごとでないサイさんの様子に驚いて、うつ伏せでベッドの上に起きあがろうとして痛みに呻く。ギィさんが俺を宥めるように落ちかかった髪の毛をかき上げてくれた。
「ビンは大丈夫だ。サイ、お前もいきなりそれじゃ、患者がビビるだろ?」
サイさんに向ける声は呆れを含んでいて、その様子にさほどのこともなさそうだと安堵した。
「お前さんが眠ってる間に何度か来てるから、ビンも怪我を見て驚いたりしないさ。いいぞ、入ってこい」
ギィさんが扉の向こうに声をかけると、ミヤビンがひょっこり顔を出した。俺が起きてるのに気づいて動きを止めて、目をまん丸に見開いた。すぐにうるっと涙を溜めて手の甲で乱暴に拭うと、広くもない部屋の中をサイさんを押し退けて俺のそばまで飛んできた。
「お兄ちゃん! カ⋯⋯ルン兄ちゃん!」
うわぁあんと幼稚園児みたいに泣いて、床にぺったりと座り込んだ。
「ビンちゃん、心配かけてごめんね」
力の入らない手を伸ばして、ミヤビンの頭を撫でる。指で梳いた髪の毛はスルッと通り抜けた。背中の真ん中あたりまで伸びていた髪が、ショートカットになっていた。
なにがあったのかと視線を巡らせると、サイさんが真っ青になって「ごめんなさいぃ!」と身を震わせた。
ミヤビンが泣き止むまでしばらく待って、話を聞くことにした。サイさんは治癒をしに来たはずなのになんでこんなことになってるんだろうと思ったら、彼が修行中の治癒士だったことがこの騒ぎの原因だった。
死にそうな刀傷を負った俺が生きているのは、サイさんが魔力を使って治癒してくれたおかげらしい。ただ彼は魔力が少なくて、知識はあるのに治癒がかけられない。刻一刻と俺は死に向かっている⋯⋯という状態で、巨大な魔力を持った聖女ちゃんが隣にいた。媒体に髪の毛をもらえないかと頼んだら、ミヤビンは自分でさっくり長い髪を切って突き出してきたんだそうだ。
「ほんのちょっぴりでよかったんですーーーーッ」
サイさんはさめざめと泣いた。その辺の鋏で適当に切った髪はザンバラで、手先の器用な若いヤツに揃えてもらったら、すっかりショートカットになったと頭を抱えている。
「僕の治癒術は、一気に大量の魔力を流しすぎると暴発するんで、ちょっとずつしか治せないんです。だからホントにちょっぴりでよかったんです。それをまさか、根本から切り落とすなんて⋯⋯」
思い切ったとは思うけど、毎年プールの授業が始まる直前にショートボブにするから、そこまで悲観することないと思うんだけど⋯⋯。
「女性をこんな目に合わせるなんて、本当に申し訳ない⋯⋯ッ」
「⋯⋯もしかして、この国の女の人って、髪の毛が長いのが美しい証とか?」
「短いのは尼さんか罪人だな」
サイさんは返事どころじゃなくて、代わりにギィさんが答えをくれた。なるほど、そりゃあサイさんがこんなになるわけだ。
「サイさん。私、気にしてないよ。だから早くルン兄ちゃんの怪我を治して」
ミヤビンが涙の乾かないうるっとした瞳で言った。女子小学生の涙は無敵だと思う。サイさんは弾かれたように俺の枕元にやって来て、エグエグ泣きながら小さな瓶をかざして、呪文のようなものを唱え始めた。ときどきしゃくり上げてるけど、それは呪文に影響ないのだろうか?
痛みによる熱とは違う温かさが背中を覆って、俺が落ち着くと痛みが薄れた。痛いよりも鈍い痒みを感じる。治りかけの痒さって、こんな感じだよね。
「表皮は塞がりました。温湯ならかけても大丈夫ですが、擦っちゃ駄目ですよ。まだ表皮だけなので、仰向けで寝たり、歩き回ったりもいけません。薄皮が裂けちゃいますからね」
「⋯⋯頭を洗うのはいいですか?」
ベタベタして気持ち悪い。シャンプーだけでもしたい。
「腕を上げると肩甲骨が動くので、自分で洗うのは絶対駄目です」
「なら俺が洗ってやるよ」
「私もお手伝いする!」
サイさんが風呂の支度を頼みに部屋を出て行って、ギィさんが俺をシーツで包んで抱き上げた。背中に触れないよう、子どもを抱くみたいに縦に抱っこされる。知ってる、これお父さん抱っこって言うんだよな。
あ? なんか大事?
「いや、手伝ってもらうくらいなら我慢するから。この調子でサイさんに治癒してもらったら、ニ、三日で完治するでしょ?」
「清潔にするに越したことないだろう」
正論をぶちかまされた。シャンプーくらいなら美容院でしてもらってるから甘えちゃおうかな、と思った俺は甘かった。風呂場で丸洗いされた⋯⋯。怪我のためにしばらく発熱していたようで、抵抗する体力もない。
意識してなかったけど、背中を斬られていたから治療のために上半身裸だった。下もゆるいリラックスパンツみたいなズボンしか穿いてない。風呂場で脱がされたらパンツ穿いてなかった。ミヤビンは風呂場の入り口でギィさんが止めてくれたから、情けない姿は見られずに済んだけど。
風呂が終わるとギィさんは、疲れ果てた俺を再び抱き上げて部屋に運んだ。全身が重怠くて腰がふにゃふにゃで身体が支えられない。仕方なくギィさんの太い首に腕を回した。もたれるみたいにして体重を預けると、耳元で「いい子だ」と囁かれた。優しい声で俺を甘やかす。⋯⋯これは日本人あるあるか? 子どもに思われているのかもしれない。
ギィさんが歩みを進めるたび、廊下の床がギシギシと鳴った。幅は学校の廊下より狭いけど桜木の自宅より断然広い。天井も高いし、眠ってたベッドも傍らにあった椅子も大きい。この国の人々の基準で作られているってことだよな。ギィさんもサイさんも大きいし、俺を斬った男も大きかった。つまり、この国の平均身長は、テレビで見たスポーツ選手くらいあるのだろう。
⋯⋯子どもに見えても仕方がないのか?
それから三日して傷はすっかり塞がった。もちろん自然治癒じゃない。サイさんが朝昼晩の三回に分けて少しずつ治癒術をかけてくれた。お陰で自力で座れるようになって、ギィに支えてもらわなくても食事が出来るようになって嬉しい。世話をかけてると思うと、地味に居た堪れないんだよ。
ミヤビンと並んでベッドをソファーがわりに座って、椅子に座ったサイさんの話を聞く。
「僕の力では傷を塞ぐだけで手一杯です。拠点に戻ったら傷痕を消せる治癒士がいますので、それまで我慢してください」
「生きてるだけで感謝です」
サイさんはとっても自己評価が低い。俺はこうして生きてるんだから、誇っていいと思うんだけどなぁ。
「そうだぞ、他人と比べるな。お前は充分すごいぞ」
部屋に入ってきたギィさんがため息をつきながら言った。サイさんは曖昧に笑った。
「それよりルン。お前が助けてくれたコニーが謝罪と礼をしたいと言って、扉の陰で震えてるんだが」
「震えてる?」
「自分のせいで人が死にそうになったと絶望してるんだ」
⋯⋯コニー君、悪くないじゃん。
「会ってやってくれるか?」
「当たり前じゃないか。て言うか、俺もコニー君の無事な姿が見たい!」
「だとよ」
身を良すぎて乗り出すようにして言うと、ギィが扉の向こうに呼びかけた。おずおずと顔を出したのは、ミヤビンと同じくらいの身長の男子だった。眦をキッと吊り上げてこっちを睨みつけるように見ている。ありゃりゃ、これは泣くのを必死で我慢してる表情じゃないか。
「おいで」
コニー君はピクリと肩を揺らした。
「おーいーで」
両手を広げても来ないので、ミヤビンが立ち上がってコニー君を引っ張って来た。勢いをつけて俺に向かって押して来るから、コニー君はバランスを崩して倒れ込んで来た。
「捕まえた」
こういう子はハグの刑だ! ぎゅーっとハグハグしてやる!
「ほら。もう俺、元気だろう? 俺が怪我をしたのは頭のおかしい殺人鬼のおっさんのせいで、コニー君のせいじゃないよ。しばらく傭兵団で世話になりたいから、仲良くしてよ」
どさくさに紛れて、ご厄介になります宣言をしてみる。現実問題、怪我が治ったからって追い出されたら、三日で死ねる自信がある。
「俺も働くからさ、傭兵団の決まり事とか教えてくれる?」
「うん。⋯⋯⋯⋯うん、任せて」
言葉のお尻が震えて、肩がヒクヒク揺れた。泣け泣け。泣いてスッキリしちゃいなよ。背中をポンポンしてやる。この間のミヤビンと違って、ワンワン泣くって感じじゃない。耐え忍ぶような押し殺した大人の泣き方だ。
ちらっと視線を上げてギィさんを見る。縦も横も大きい鍛え上げた肉体の傭兵は、日に焼けた顔をくしゃりと歪めた。幼い従弟を愛おしむ眼差しに心が揺れた。
この子はどうしてか、大人にならなきゃいけないって思ってるようだ。⋯⋯召喚陣の生贄になりかかったことと言い、重たいものを背負わされているのかもしれない。
俺はギィさんに目配せして、コニー君の背中をさすり続けた。
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