カリスマ主婦の息子、異世界で王様を餌付けする。

織緒こん

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蛇の足的な。

誘惑はショコレ《バレンタインSS》

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 ショコレのお菓子を作ろう。そう思い立ったのは、年が明けて一ヶ月と半月過ぎたころだ。暦を見てはたと気づく。俺はバレンタインという行事を自分のためにやったことがない。
 前世でのこぐま君は料理研究家の母の手伝いをしたり、クラスの女子が彼氏に作るのにアドバイスをしたりしてた。俺がほとんど作って最後にアラザンを散らすだけのチョコレートを自作だと言い切る猛者もいたが、あの子はその後、彼氏とうまくいったのだろうか。

 それはさておき、ショコレである。誰に言わなくたって自己満足でいい。自分だけの特別なチョコレート菓子を作ってリュシー様に食べてもらいたくなった。ほら、俺、イベントには乗っかりたい性分だし。

 リューイも猫の間から王太子宮に居を移したので、部屋が広すぎて寂しい。内務大臣のおじいちゃんに教えてもらったオススメのショコレの味を思い出しながら、ウィレムさんに揃えてもらった材料を調理台に並べる。前世の母さんがテンパリングしていた様子を脳裏に浮かべ、大理石の上でクリームナイフを踊らせた。

 ウィレムさんは元からなんでも器用にこなしていたけれど、すっかり料理好きになっていた。俺に付き合って色々作っているうちにハマってしまったらしい。旦那さんは騎士で大食漢だから、何を作ってもペロリと食べてしまうようだ。淡々と話してくれたけど、耳がちょっと赤いのは見逃さなかったよ。今も俺を手伝ってショコレを作っているので、半分渡そう。バレンタインを知らなくても、旦那さんと一緒に食べると思う。

 夕食後、遠慮するウィレムさんにお持たせして見送ると、リュシー様とふたりでまったりとソファで寛ぐ。リュシー様の前にはブランデーとショコレだ。

「今夜はショコレ?」

 カラカラとグラスの氷が鳴る。ブランデーもあるなんて最近まで知らなかったけど、お菓子の香り付けにラムを多用していたので、単純に市井では安酒しか手に入らないだけだった。普段はワインかエールだしね。

 でもショコレなら、ブランデーでしょ。

「チーズもいいけど、ショコレの気分だったの」
「艶々していて綺麗だね」
「ちょっと頑張ったんだ」

 ショコレ──チョコレートは温度とスピードが命だ。そしてこれからすることは、思い切りが肝心。ブランデーで唇を湿らせたリュシー様の肩に手をかける。

「ん」

 星の形のひとかけを咥えて彼の濡れた唇に押し当てると、蜂蜜色の瞳がきらりと光った。

「どうなるのかわかってるの?」
「……ん」

 わかっているというか、そうなりたいから頑張っているんだけど。耳が熱い。絶対に顔が赤くなっている。焦らされて羞恥が込み上げてきた。やっぱりこんなの、俺のキャラじゃなかったかな。諦めて身体を離そうとしたら、腰に手が回されてぐっと引き寄せられた。

 ショコレごと唇を奪われる。コロコロと互いの間を行き来するうちに、ねろりと形を失っていく星のかたち。ベタベタに汚れているだろう唇はブランデーの香りも混じって、官能の味がする。

「フィン、誘ったのは君だよ」
「……ん」

 恥ずかしすぎて返事は曖昧にしかできないが、リュシー様は俺の気持ちをわかってくれたみたいだ。ソファーに押し倒されながら、必死でキスに応える。愛される喜びを知る身体が期待に震えた。

 どろんどろんのぐっちゃんぐっちゃんにされる予感──俺が求めたものが与えられるのは……すぐ。
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