ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi

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ドレスと爪痕

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 男爵家に戻った次の日から、私は半年前と変わらず働いていた。
 背中の痛みは変わらずあって、それを感じる度にどうしても思い出してしまう。

 ……エスター様の事……
(それと、払っていない治療費の事も……)


 そんな中、叔母がドルモア伯爵の元へ行く為に(仕方なく)ドレスを作ってくれるという。

 叔父達と暮らしはじめてから、ドレスを作って貰うのは初めての事だ。未だ、社交界にも出ていない私には、ドレスなど必要なかったから。
 
 普段はメイド服ばかりを着ていた。(それしか渡されなかった……)

 ……コレはコレで動きやすくて悪くないけれど、同じ歳のソフィアは社交界デビューも済み、もう何度もパーティーに参加している。その為、ドレスを何着も仕立て持っていた。

 私だって女の子、男爵令嬢なのだ。本当は社交界デビューもしてみたい、ドレスも着て見たかった。

 だから、すごく楽しみにしていた。

 ……初めて作って貰う、私だけのドレス。


ーーーーーー*


 仕立て屋が呼ばれたのは、その二日後の事だった。

「ーーひいいっ‼︎ 」


 仕立て屋の女性の悲鳴が部屋中に響く。
 その後を、叔母とソフィアの罵声が続いた。

「なっ! 何なのこれはっ‼︎」
「気持ち悪いっっ!」

 仕立て屋の女性、叔母とソフィアは、採寸をする為に下着姿になり露わとなった私の背中を見て青ざめている。


 ーーそんなに?

 私はあれから背中を一度も見ていないのだ。
 キョトンとする私に、仕立て屋が姿見を二つ向い合わせて、私に背中を見る様に言った。

「うわぁ……」

 背中には数本の魔獣の爪痕が残っていた。
 斜めにはしる紫色の爪痕は紫色に歪に膨らんでいる。

 ……体を洗う時は、あまり触れない様にしていたから気づいてなかった……。

 ……見た目ほど痛くはないが……確かに、自分の体でなければ悲鳴も上げてしまうだろう。
 色も形も……かなり気持ち悪いかも……。

「どういう事なのっ! この体ではドルモア伯爵に何と言えばいいのか‼︎」

 恐ろしい物でも見るかの様に、叔母は私の背中の爪痕から顔を背けている。

「……城で魔獣に襲われたのです」

「何をバカなことを! 城には結界が張ってあるでしょう⁉︎」

「本当です、突然魔獣が現れて……そこに居合わせてしまったのです。死んだかと思いましたが、城の治癒魔法士様に命を助けていただいたようなのです」

 城の治癒魔法士と聞いて、叔母は目を顰め私を見た。

「お前……治療費はどうしたの?」

(まずそこなのね…… 心配はして貰えないと分かってはいたけどお金の事が先に気になるとは……)

「あの……払えないと思って、逃げました」
「逃げた……」
「はい、誰にも見つからない様に……こっそりと……多分、大丈夫だと思います」

 それを聞くと安心した様に叔母は頷いた。

「そう……ならばいいわ。そうよ、お前のその体もどうせ服を着ていれば見えやしないものね! あちらに行ってからなら、その気持ちの悪い背中を見られても構わないわ」

 機嫌を取り戻した叔母は、仕立て屋にそのまま採寸をさせてデザインを決めていた。仕立て屋に三日で作ってくる様にと無理を言い、この娘の体の事は他言無用よ、と少額の口止め料を支払った。


ーーーーーー*
 


 三日後、ドレスが出来上がり男爵家に届けられた。

「私……こんな風に頼んだかしら⁈」

 叔母は、どうも自分が頼んだ物と違う様だと言いだしたが、仕立て屋は「いいえ、頼まれた通りにお仕立て致しました」と、譲らない。

 私にと仕立てられたドレスは、淡い黄色の生地に青と銀の糸で刺繍が施された上品な物だった。
「良くお似合いですわ」
 私の体にドレスを当てながら、仕立て屋の女性が笑顔で言った。

 ……本当に素敵なドレスだ、私は嬉しくて叔母にお礼を述べた。

「叔母さま……こんな素敵なドレスを作って頂きありがとうございます。……本当に素敵、叔母さまはデザイナーになれるわ」
 
 本心を伝えると、それまで眉間に皺を寄せていた叔母は、褒められて嬉しかったのだろう、途端に上機嫌になった。

「ほほほ……それぐらいなんて事ないわ」

 すると仕立て屋がもう一枚ドレスを出す。

「さすが、お洒落で名高いディーバン男爵夫人ですわ! それにコチラも大変素晴らしい出来ですのよ!」

「それは……?」

 叔母はそんな物は知らないといった顔をしているが、横にいるソフィアは目を輝かせている。

「ソフィアお嬢様のドレスでございます」

 それを聞いたソフィアは喜んでドレスを体に当て、回って見せる。

「素敵!」

「ま、まちなさい! ソフィア」

 叔母は慌ててソフィアからドレスを奪うと、仕立て屋の女性に押し付けた。

「この子にと頼んだドレスはこの色では無いでしょう⁈   この色がシャーロットにと頼んだはずの……」

「いえ、こちらのお色はソフィア様のドレスにと注文を承っております」

「そんな……」

「お気に召されませんか? もし……今から作り替えなされますなら、申し訳ございませんが料金は倍頂く事になります。如何なさいますか?」

「倍⁈」

「え、嫌よお母様! 私このドレスとても気に入ったわ! コレがいいわ!」

 ソフィアにと作られたドレスは、黄金色の生地に赤い飾り石が散りばめられた豪華な物だった。
 それはソフィアに良く似合っているのに、何故か叔母は首を横に振っていた。

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