ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi

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会いたい……

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「ええっ!シャーロットちゃん、どうしたの⁈ 」

 メイド服を着て客間の掃除をする私を見たローズ様が驚いて声を上げる。

「何もする事がないとどうしても悪いことばかり考えてしまって……だからお願いします。やらせてください」

 部屋に一人でいると嫌なことばかり考えてしまう。彼が怪我をしていないか、病気になっていないか( ほとんど怪我も病気もしないらしいけど……) 。
体を動かしていれば考え事をせずにいられるかも知れない、という安易な思いでカミラさんに頼んでみると、メイド服を貸してくれ掃除ならとやらせてくれた。
とはいえ今いる客間だけなのだが。

それだけではすぐに終わってしまうと言うと、カミラさんにそれなら料理をしてみないかと提案された。
ディーバン男爵家では皿洗いしかした事がなく、城では主にランドリーメイドだった為、料理をするのは初めてだ。

 長年レイナルド公爵家でコックをしている女性のダーナさんが教えてくれる事になった。

「エスター様は基本的に肉ですね。ヴィクトール様もオスカー様も肉、肉しか召し上がりません」
「……お肉だけ?」
「そうです、それもシンプルに塩で焼いた物です」
「それは……私は覚える必要があるのでしょうか?」

そう言った私の手を強く握り、ダーナさんは熱く語った。

「だから!だからこそです。シャーロット様に肉以外の食材でお料理を作って頂き、食べさせて欲しいのです。そして美味しいと言わせたい!」

 そんな私達の様子を頬杖をつきながら見ていたローズ様が「無理ヨォ、私もやったけど全然ダメだったもの」と笑う。

ダーナさんは項垂れて
「そうなんです……以前ローズ様にお料理を作って頂きましたが結果は惨敗。あの時はキッシュでした、だから今回はお菓子にします」
拳を握るダーナさんはヤル気に満ちている様だ。

「お菓子?」

「そうです、クッキーを作って頂きます。ふふふ……今度は必ず食べます。エスター様は必ず食べます! ローズ様も一緒に作りましょう、ヴィクトール様にも食べて頂きます」

ダーナさんはニマニマと微笑んでいた。

…………⁈




ーーーーーー*




 エスターが魔獣討伐へと出てから二十日。
ヴィクトール様はあれから三回程帰って来られた。
エスター達のいる場所よりも近く、あちらは当主が二人だから帰れるのだと、エスターは『花』と巡り会い力も増しているがオスカー様はまだだ。
そのせいもあり帰れないのだろうとローズ様が話された。

 魔獣が凶暴さを増す夜は、主に獣人騎士達が討伐をしている。中でも無尽蔵の体力を持つ竜獣人のオスカー様とエスターは昼夜問わず魔獣を駆逐しているのだという。
執事のバロンさんからの報告で知り得るのはこれくらいの事だった。

少しは休んでいるのかな……いくら体力があるとはいえやはり心配だ。

「大丈夫よあの子たちは。一時間も眠れば全回復よ? シャーロットちゃんも知っているでしょう」
「はい」


 この間、竜獣人の事を学んだ時にそう聞いたが、何とも信じられない。
(……いや、身をもって分かってはいるけれど……)

ただ、他の獣人を凌駕するほどの力を持つ傍ら、子供が出来にくいのだということも知った。
だからなのか、ヴィクトール様もガイア公爵閣下も兄弟はいない。
そして竜獣人はなぜか男子しか生まれないらしい。
それに授かるまでも時間がかかり、ヴィクトール様とローズ様のように出会ってから五年で第一子を授かるのはとても早い方なのだと言われた。

 私は毎日いろいろな事を学びながら、ダーナさんにお菓子作りを教わる。ローズ様やカミラさんから、エスターの子供の頃の話を聞いたりしながら一日を過ごしていく。

エスターの部屋はまだ修理されていない為、夜は一人、客間で過ごしていた。
その窓から見えるあの日丸かった月は、すっかり欠けてしまっている。


「エスター……」

 夜空に向かいそう呟いても、いつものように後ろから抱きしめる優しい腕はない。

「会いたい……」

いつのまに、私はこんなに寂しがり屋になったんだろう。
つい、この前まで一人でも平気だったのに、一度二人になってしまったら途端に一人でいるのが寂しくなってしまった。



彼は後どれぐらいで帰ってくるだろう……


エスター

会いたい


一目でいいからあなたに会いたい……





ーーーーーー*




「絶対おかしいわ、カミラもそう思うでしょう?」
「はい、ローズ様」

 レイナルド公爵家の執務室では今回の件で疑念を抱いているローズとカミラ、それに執事のバロンが集まり話をしていた。


「あのエスターが何の連絡もして来ないなんてある? いくら会いに来れないとしても、シャーロットちゃんに手紙の一通も寄越さないとはどう言う事? まさか忘れているとは言わないでしょうね⁉︎ 」

 ローズは珍しく怒っていた。
魔獣討伐に向かったエスターが何の連絡も寄越して来ないからだ。それに最近のシャーロットの落ち込む姿は見ているこちらが耐え難いほどだった。

「バロンさん、何か分かりましたか?」

カミラがバロンに尋ねる。
二人も今回はおかしいと感じていた。いつもなら一週間家を離れるだけでも連絡か手紙が届けられているのだ。
しかしもう二十日経つが、一度も連絡も無ければ手紙も届けられない。

「調べて分かった事は、他の騎士の家には手紙や連絡が届いているということです」

「やっぱり……」

「届けられていないのは此処だけです。連絡をする騎士が男性なのかと思いましたが、どうやら女性騎士らしいのです。……本来なら来るはずですが」

それを聞いたローズはハッとする。

「ちょっとそれって、キャロンじゃないでしょうね⁈ 」
「その通りです」
「なぜエスターはその娘に頼んでいるの? 分かっていないの?」
「エスター様は元々、女性に関心が御座いませんので、彼女の気持ちは分かっていないのではないでしょうか」


ローズは頭を抱えた。

ああ……頭が痛い。

一難去ってまた一難?
どうして私の息子達、特にエスターは癖の強い女性に好かれるのよ
あんなに無愛想なのに、冷たい感じがいい訳?

それとも見た目? 
見た目ならオスカーも同じなのに
それに、ヴィクトールの方が何倍も素敵なのに……

分からないわ……。


「とにかくシャーロットちゃんをこれ以上不安にさせないようにしなくては!分かったわね」

「はい、かしこまりました」




ーーーーーー*





王国の南側、国境近くの森林にエスター達はいた。

 着いてすぐに近くにあった村に飛び回っていた小さな魔獣を討伐し、今はちょこまかと地上を動き回る灰色でつるりとした体の魔獣を、二十人程の騎士達が昼夜交代しながら駆逐していた。
……が、あと少しという所で魔獣はまた増える。


……帰れない……

「オスカー、一日で必ず帰って来るからシャーロットの所へ行かせて」

ダンッ!

「無理だろう⁈  行って帰るだけでお前でも二日はかかる。それに手紙は書いたんだろう? 連絡隊も遣しているし、もう少しで終わるから此処にいろ!」

バシュッ!

「手紙は書いたけど返事がないんだ」

ダンッ!ダンッ!ダダダンッ‼︎  
ゴオオッ……

「おいっ、エスター剣で突くなよ!地面が揺れるだろうっ!」


 エスターはイライラしていた。

 シャーロットに、もう二十日も会えていない。
既に二回手紙を出しているが返事がない。

 届けてくれているのは二つ歳上の女性騎士、猫獣人のキャロンだ。
男を彼女シャーロットに会わせる訳にはいかない、それにキャロンは入隊時からよく知っていて信用できる。
だから頼んでいるのだが……


「……どうだった?」
 
 先程王都から帰ってきたばかりで、休憩用のテントに一人でいたキャロンに尋ねた。
テントの幕は開けてあり、外から中の様子が見える様にしておく。仕事中とはいえ若い男女が二人きりになる訳にはいかない。


「ええ、前回と同じよ。手紙を受け取ると何も言わずに部屋へと戻られたわ、返事はもらえなかった」
「そう……母上からは?」
「こちらの事は心配しないで、とだけ」

キャロンは大きな黄色い目をクリクリと輝かせエスターを見つめる。
彼女には獣の特性が少しだけ出ており、体に黒毛のフワフワした長い尻尾がついていた。


「はあ……どうして……」
 
 最初の手紙は着いて三日後に出した。その時、届けてくれたキャロンに彼女の様子を尋ねると、手紙を受け取るとすぐに部屋へ戻ったから分からないが会った時は楽しそうで、取り立てて言う事もないと伝えられた。その次の時も同じだった。

シャーロットは一人でも平気なのか……僕だけが会いたいと焦がれているのか……

 彼女は文字が読めない訳でも書けない訳でもない。
だから前に書いた手紙を読んでいるなら、今回は返事をくれるはずなんだ……なのにくれなかった。
僕は何か変なことを書いたのか⁈


それとも、まさか僕のいない間に……誰か他のヤツが……

いや、そんな事はないはずだ。
印はしっかり付けてある。
僕より強いヤツでなければ、手を出せるはずはない。


「エスター副長の婚約者さんて意外と冷たい方なのね」
「え、どうして?」
「だって、エスター副長が一生懸命仕事しているのに心配もしていないし、手紙に返事の一つもくれないなんて……私ならそんな事しないのに」

エスターは、いつの間にか近くにいたキャロンに尻尾でスルリと足を撫でられた。

「……キャロン、あんまり近づくな」

 そう冷たい視線を向けるエスターに対し、キャロンは蠱惑的な目をしてさらに距離を詰める。
いつのまにか開けていたテントの幕が下されていた。

「ねぇエスター副長、こんな所にずっといると人肌が恋しくならない?」

「ならない」

 そう言ってすぐに出て行こうとしたエスターの腕はキャロンに引かれ、簡易ベッドの上に押し倒された。
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