ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi

文字の大きさ
33 / 68

指輪と手紙

しおりを挟む
 ソフィアの結婚式から六日後の朝。
ディーバン男爵家の主寝室に叫び声が響いていた。

「ない! ないわっ!」

 その声の主は、装飾品の入った引き出しを開けたディーバン男爵夫人だった。

「どうした? 朝からそんなに煩い声を上げて、何がないと言うんだ」

 どこに行く訳でもないが、キチンとした格好をして壁に掛かる楕円形の鏡に向かい、薄くなってきた髪を櫛で整えながら、ディーバン男爵がつまらなそうに聞く。

「私の指輪よ! あなたが昔くれたでしょう、婚約する時に一生お前を愛するって言って!」

「ああ! あの古代文字を入れてもらった、高いヤツか!」
「そうよ、今日のお茶会に着けていこうと思っていたのに何処にも無いのよ。まさか……あなた売ったりしていないでしょうね⁈ 」
「うっ売るわけないだろう、アレだけは売らん……たぶん」
「じゃあ……どこよ⁈ 」

 騒いでいる両親の声を、廊下でカルロが聞いていた。

 先日、ソフィアの結婚式でカルロがシャーロットに渡した小さな袋、アレは母親の引き出しから偶然、自分の髪色と瞳の色の石が付いた指輪を見つけ、それを渡したのだ。

 まさか両親の婚約指輪だとは思わなかった。
しかも、自分も彼女に『婚約指輪』のつもりで渡したのだから。





 シャーロットが五歳の頃、ディーバン男爵家に家族で訪問した当時八歳のカルロは、彼女に一目惚れをした。
( 妹と同じ歳だというのに、なぜ可愛く見えるのだろう )

 だが、シャーロットの父親とその弟である自分の父はなぜか仲が悪く、彼女とは一度会っただけで疎遠になってしまった。
ところが彼女の両親が不慮の事故で亡くなった。
一人になったシャーロットを両親が引き取ると言い出し、長年想い続けてきた彼女と家族として、一緒に暮らせる様になったのだ。
 
 しかし両親の計らいで、メイドとして扱うことになってしまった。
カルロは、もともと人付き合いが苦手な事もあり、シャーロットに対しどういう態度をとれば良いか分からなくなった。結果として、声もかけず無視をするという冷たい態度をとってしまった。

 けれど、カルロはいつも陰ながら彼女を見ていた。
気づかれない様に……見守っていたのだ。
彼なりに……
 子供の頃から内気で思い込みの強いところがあるカルロは、月日が過ぎていくほどにシャーロットへの想いを拗らせていった。

 いつの日か僕がロッティ(シャーロット)と結婚する。
いとこ同士は結婚できる。

……何をするでもなく、ただ遠くから見守るだけの日々は続いていた。

 そんなある日、両親が彼女を城へと働きに出してしまった。けれど半年経てばまた此処へ帰ってくるのだ。
その時には自分の、この気持ちを伝えよう。
ずっと見守って来たんだ、彼女も気が付いている。
僕からの告白を、待っている。

 だが、両親が知らぬ間にドルモア伯爵と婚約させていた。半年振りに帰って来たシャーロットは、城で背中に大きな傷まで負ってきていた。
でも、大丈夫だ。
きっと僕が何とかしてあげるから……


ーーそう思っていたら、この国で最も強い種族と云われる竜獣人の若僧が、シャーロットの事を『花』だと言って連れて行ってしまったーー

『花』って何だ⁈   勝手なヤツらめ。
印とか訳がわからない。どうせ獣人にしか分からない事なんだ、婚約しようが僕には関係ない。
ロッティと結婚するのはこの僕だ。

 そうして、ソフィアの結婚式にシャーロットが必ず来ると見込んで、あの指輪を持っていたのだ。

 やはり彼女は来ていた、それも一人で……婚約者の男は出席すらしていない。
それに彼女は婚約して随分経つのに、婚約指輪も着けていない。

ああ、彼女はきっと公爵家で辛い思いをしているんだ……。

 可哀想なロッティ、いつでも僕のもとに帰っておいで……






 両親は部屋中を探しているようだ。
ガタガタと彼方此方の引き出しを開けている。

「まぁいいさ、その内ロッティと一緒に指輪も帰って来るから」
廊下で一人ほくそ笑むカルロ。


 昼が過ぎた頃、ディーバン男爵家にレイナルド公爵家から箱が届けられた。

「何だ?」
「早く開けてみましょうよ」

 ディーバン男爵夫妻は、きっと良いものに違いないと嬉しそうに箱を開けた。

 箱の中には一通のカードと小さな袋、小さな箱が入っていた。

カードには【壊してしまいました。これは代わりの品です】とだけ書いてある。

「壊した? 何の事だ?」

 開けてみた小さな袋には、先程探していた指輪が形を変えて入っていた。

「これは……私の指輪……こんなに割れて……でも、なぜレイナルド公爵から送ってくるの?」

「いやっ、そんなものどうだっていい、見てみろコレを!」

ディーバン男爵は小さな箱を開けて飛び上がらんばかりだ。

箱には金塊が入っていた。それは小さな物だったが

「コレはその指輪の数十倍の価値があるぞ!」
「ええっ!」

 男爵夫妻は割れた指輪の事などすっかり忘れて金塊を掲げて喜んだ。



そんな両親の姿を見て、カルロはため息を吐く。

「ロッティは一緒じゃないのか……」

婚約指輪だけ送ってくるなんて……
サイズが合わなかったのかな?

まあ、そのうちロッティも帰ってくるだろう。

 彼は今だにディーバン男爵家で、二度と戻る事はないシャーロットを、何をするでもなく待ち続けているのだった。




ーーーーーー*





 エスターが帰って来てから五日後、オスカー様がレイナルド邸に帰って来られた。

 私は城で助けて貰って以来、オスカー様に会うのは二度目だ。
( とは言っても助けてもらった時の事は、殆ど憶えていないのだけれど )


「初めまして、シャーロットです」

 オスカー様はキョトンとした顔をしている。
一度会っているとはいえ、私達が言葉を交わすのは初めてになるのだから。

「あ……ああ……そうか、俺あの日以来君に会っていなかったね」
「はい、お城では助けていただきありがとうございました」

 やっとお礼を言う事が出来た。
あの日、必死な顔をして私に手を伸ばしてくれた美少年はオスカー様だったのだ。
( マリアナ王女様付きの侍女さん達が馬車の中で教えてくれた)


 オスカー様はエスターと、とてもよく似ている。
エスターよりも長い銀の髪を後ろで一つに結び、長めの前髪は左に流している。スッと通った鼻筋と吸い込まれてしまいそうな真っ青の瞳。容姿端麗、まばゆいほどの美男だ。

「あの時は、まさか君がエスターの『花』だとは思わなかったからね、本当に助けられて良かった。あの背中の傷も、すっかり綺麗になったんだってね」

「背中の傷……」
最初に見たのだろうか? そう思っていると、私のその表情に気が付いたオスカー様が「サラの所で見たんだ」と言われた。

「治療室で見られたのですか?」

「そう、あの傷は凄く痛そうだったね、こう君の白い肌に斜めに紫色の……あ……」

 私の横でエスターが、オスカー様を睨んでいた。
( 見られていたのね、私の背中……うっ、恥ずかしい……でも傷を見たんだし…… )

「背中しか見てないから、そもそも俺は遠くから見ただけだから。意外に胸あるなぁとか、思ってもいないから」

「オスカー……どこ見てたんだよ」

「……竜獣人は目がいいですからね……胸、見えたんですか……」
( ううっ、婚約者のお兄さんに見られるなんて)

「いやっ!うつ伏せだったからっ、横しか見えてない‼︎ 」
( 横……横しかって……)

「もう話すな、オスカー」

 エスターが冷ややかな声で言うとオスカー様は「はい、すみません……」と呟いた。


 オスカー様が私にひとしきり謝った後、エスターと話があるからと二人は執務室へ向かった。



ーーーーーー*



 執務室に移動したオスカーは、先程までとは違う真剣な顔をして、エスターに話をした。

「キャロン達女性騎士五人は第四部隊に移動になった」
「そうか……」
「俺とお前がいる間は、第三部隊には女性騎士は入れないことになったよ」
「そう……」
「それから、これ……」

 オスカーはエスターがシャーロットへ宛てて送っていた手紙の束を渡した。
キャロンに預けていた手紙は、全て封が開けてあった。

「……これ」
「俺じゃないぞ、キャロンが読んだらしい。それで余計にお前と関係を持ちたくなったと言っていたぞ、エスター……お前何書いたんだよ」

「……シャーロットにしたいこと」



 キャロンには入隊した頃いろいろ教えて貰った、恋愛感情なんて持った事すら無かった。
姉の様に思っていた、これからも一緒に仕事が出来ると思っていたのに……
……何故だか凄く残念だ……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

処理中です...