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43 本来の力
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メリーナの言葉にシリル様が首を傾げた。
「俺がいるって、どう言う事ですか?」
「シリル、あなたの魔力はそんなものではないの。あの日、私が掛けた封印の魔法を今から解くわ、そうすれば……」
「メリーナ様、俺は既にかなり強い魔力を持っています。強すぎて上手く使えない魔法も多い……それなのに、これ以上……」
シリル様は驚いた顔でメリーナを見る。
「そうね、魔力は確かに強いわ。けれど、あなたの魔力はそれだけじゃないの。それに、あの時の封印の魔法で悪くなってしまった魔力の流れを戻さなければ、それが原因で微妙な調整が出来なくなっている。そもそも、魔力が強いのに生活魔法が使えないなんて事はあり得ないのよ」
「なぜ、俺が生活魔法を使えないと分かるのですか?」
メリーナはやっぱりね、と頷き「私、そういう事が分かるの」とだけ話した。
次にメリーナは、ラビー姉様達をじっくりと見る。
「あなた達もあの時、魔力が封印されちゃっているわね」
「……封印? 私たちも?」
「そう、確かあの時二人は城の中にいたわ。そのせいね。それに、ルシファも母親である王妃様が城にいた。だから封印されている可能性は高い。私の考えが正しければ、解けば皆、本来の姿に戻るわ」
「本来の姿?」
ラビー姉様達の疑問の声を聞き流し、メリーナは両手の指をバラバラと動かしながら、呪文を唱え出した。
それはとても不思議な声だった。
幾つもの鈴の音が重なるような、心地よく耳に響き渡る声。
しかし私の感じ方とは裏腹に、シリル様達は疼くまり苦しそうに呻き声を上げはじめた。
「メリーナ、皆は大丈夫なの⁈ 」
皆の様子に不安になり声をかけた私に、メリーナは呪文を唱えながら、大丈夫だとウインクをする。
メリーナの呪文の中、ルシファ様がかけていた変化の魔法が解ける。
シリル様達の体が徐々に変化していき、獣耳と尻尾が現れる。
「うわぁ、漆黒だ……」
バーナビーさんは大きな尻尾をフルフルと細かく動かし、シリル様を驚嘆のまなざしで見つめている。
狼獣人の姿に戻ったシリル様の毛は、艶やかな漆黒。
獣人の中でも漆黒の毛は珍しく、恐れをなす者がほとんどだ。
ただ、バーナビーさんの反応は恐れというより、憧れのように見える。
目の前のシリル様が元の姿に戻り、立ち上がった。
漆黒の獣耳がピンッと立ち、長い尻尾がファサリと揺れる。一つに束ねていた髪は解かれ、長い前髪の間から覗く黄金の双眸は、輝きを増しこちらをみている。
(……ううっ、カッコいい)
ラビー姉様の獣耳や尻尾の白かった毛色は、薄っすらとピンク色になっていた。
メイナード様は獣耳や尻尾は真っ白の毛色のままだが、全体的にキラキラとした輝きが強くなっている。
そして二人とも、短めだった尻尾が少し長くなっているようだ。
ルシファ様の氷のような水色の目には、金色が混じり、獣耳や尻尾の金の毛色は、長兄カイザー様と同じ黄金色へと変わった。顔立ちも、やや大人びた雰囲気になっている。
「あら、やっぱりそうだったのね」
メリーナは納得した様に頷く。
「メリーナ、やっぱりって何? 皆少しずつ違うみたいだけど、それはどうして?」
私の疑問に、メリーナは優しく応えてくれた。
「私と幼いシリルの魔力がぶつかった時、マフガルド城にいた全ての者に何らかの封印がかかってしまっているみたいなの。それを今解いたのよ。彼らは今、ようやく本来の魔力を取り戻した。特にルシファは、母親の体の一つでしかなかった。だからシリルやラビー達よりも多く封印されていたみたいね。本当なら、もっとちゃんとした変化の魔法が使えるはずなのよ」
横ではラビー姉様が指を回し、さっきメリーナが出した様にテーブルとお茶を出し喜んでいる。
「凄いな、僕」
そう言ってメイナード様は、部屋の中を綺麗に改装してしまった。
「これが本当の僕……」
ルシファ様は部屋の鏡を、マジマジと見ている。
シリル様は微動だにせず、黙って私を見つめていた。
「シリル様? 具合でも悪いですか?」
「……いや、そうじゃない」
「…………?」
スッとシリル様は私に近づき、優しく頬に手を添えた。
スリ、と指で撫で、甘く見つめてくる。
「リラ……」
ど、どうしたのだろう⁈
何だかシリル様の様子がおかしくなっちゃった、目が……正気じゃないと思う!
「俺の……」
「シ、シリル様?」
どんどん顔が近づいてくる。
……えっ、今そういう雰囲気ですか⁈
皆、見ているんですけど⁈
◇
…………キラキラ……キラキラ…………
メリーナに封印を解いてもらったシリルの目には、リラとの繋がりがハッキリと(輝いて)見えた。
あんなに深刻な話をしていたと云うのに、これから危険な場所へと向かわねばならないと云うのに、シリルの頭の中は今違うことを考えている。
(……リラ、俺の宿命の相手……)
見える繋がりは強いものだが、まだ完璧ではない。
完璧にしたい。
今すぐ、その繋がりを確固たるものにしたい衝動に駆られている。
(……せめて、口づけだけでも……今……)
シリルはリラに顔を寄せる。
「ちょっと! シリルっやめなさい! こんな所で私のリラに何するつもりよっ!」
メリーナ様がぎゃあぎゃあと口煩く言っているが、そんな事はどうでもいい。
(一度だけ……ほんの……ちょっと……)
◇
「えーっ、ちょっと宜しいですか?」
急にバーナビーさんが声をかけた。
男性の声に、シリル様がビクッと体を震わせる。
「これは私の想定ですが……」
バーナビーさんは、シリル様の行動を一切無視して、話を始める。
シリル様はハッとした顔をして、私に「すまない」と言うと近くの椅子に腰掛け顔を覆った。
「俺は、皆の前で、何を……」
正気に戻り落ち込むシリル様の横に、メイナード様が座り、彼の肩を叩くと「大丈夫だよ、僕ならやってた。お前は止めたんだから偉いよ」と慰めている。
「そうか……?」
「ああ、なんなら最後までやると思う」
「……俺もそうしたかった……」
「おおっ! シリルも封印が解けて大人になったんだ!」
(…………! 封印が解けて、変わってしまったんですね、シリル様……)
そんな二人のやり取りはまるで聞こえていないように、バーナビーさんは続きを話し始める。
「先ほどの話に出てきた『魔王』と呼ばれる者。今、リフテス王を操っていると思われる者ですが、それはマフガルド王国の者ではないですか?
実は『デフライト公爵』の名は、私がカダル山賊にいた頃、何度も耳に入れた事があるのです。その時一緒に『クラッシュ』の名も上がっていました。王妃は公爵の娘です。裏で繋がっている可能性が高いと、私は思うのですが」
『クラッシュ』……それはマフガルドの山道で、私達を襲って来た黒づくめの人達の組織名だ。
メリーナはその話に大きく頷き、知っている事を教えてくれた。
「『クラッシュ』という組織は、鷲獣人の男が作り、率いる組織です。そしてその者は、マフガルド家やラビッツ家に並ぶ魔力の持ち主と言われています。あの男は狡猾な男。……もしかして、リフテス王国を手に入れようとしているのかしら」
それを聞いたメイナード様が、それならと口を挟む。
「国を支配したいのなら簒奪すればいい事じゃないの? リフテス王族を滅ぼして、乗っとれば済む事じゃない?」
メイナード様はキラキラと輝きを放ちながら、長くなった真っ白な尻尾をフワッと揺らす。
「普通ならそうするわね、けれどあの男はそう言った手段は選ばないの。相手から求められ、崇められる事が好きなのよ」
「どうしてそんなに詳しいの?」
ラビー姉様が不思議そうに尋ねた。
メリーナは、もう長い間リフテス王国にいる。
マフガルド王国にいた時間よりも長いのだ。それに、戦地に向かったことのあるシリル様が知っているのは分かるが、メリーナは公爵令嬢で、この国ではメイドとして暮らしていた。そういった組織と関わる事はなく、詳しく知ることはないはずだ。
「私の幼い頃、お祖父様が話してくれたの。自分の事を『神』と呼ばせている悪い男がいるから気をつけろってね。どうやっているかは知らないけれど、その男は三百年以上生きているんだって言っていたわ」
「「「三百年ーーっ⁈」」」
皆、思わず叫んでしまった。
リフテス人の寿命はせいぜい八十年、獣人でも百五十年生きれば長生きと言われているらしい。
それを越える年数を、どうやったら生きられるのだろう⁉︎
「本当らしいわよ、お祖父様が子供の頃から居たと言っていたもの」
その男は、『ラビッツマフガルド王国』を乗っとろうと革命を起こした。
始まりは、ただ単調に過ぎていく平和な日々がつまらなくなっただけだった。
当時のマフガルド王とラビッツ王は類稀なる魔力を持っていた。
にも関わらず、彼らは戦う事を好まない。
自由と平和が一番いいのだと言っていた。
しかし、それだけでは国は裕福にはならない。
それに不満を持つ、野心家な鳥獣人達が集まり、革命を起こす事に決めたのだ。
自分達ならば、隣国を全て自国の傘下に置き、獣人が崇められる国にする。
代表となった鷲獣人の男の魔力は、当時の王達と引いては劣らないほどだった。
だが、成功すると思われていた革命は、仲間の裏切りによって失敗に終わる。
仲間だと信じていた鳥獣人達が、戦況を見極め、鷲獣人の男では勝てないと判断すると、王達の方へ寝返った。
鷲獣人の男は、裏切られたと分かった瞬間、革命を止めた。
そして、自分を貶めた者達から全てを奪い、姿を消した。
ーーーーが数年後、その男は、魔力が高く攻撃魔法を得意とする獣人達を集め、組織を作りあげる。
それが、『クラッシュ』である。
彼らは鷲獣人の男を『神』と呼び、その者の言葉を信念とした。
それがどんな悪意に満ちた言葉であっても、彼らにはそれが正義だった。
『神』は信念の為に動いた者には、分け隔てなく恵を与えた。
それは金品であったり、土地や名誉といった物であったりした。
その者が欲しがる物、全てを与えるのだ。
その上『神』は、病気や怪我を治す力を持っており、命までも操るのだと言われていた。
その力は、まさしく『神』そのものだったのだ。
弱者は神に救いを求め、強者は蟻の如く群がった。
強者の中には欲にまみれた人々が多い。
争いが生じる事で、莫大な利益を生む者も少なくなかった。
『クラッシュ』は、そういった者達からの依頼を受け、火種を生み、事を起こさせる。
マフガルド王国とリフテス王国の争いでも、『クラッシュ』はどちらにも味方をし、戦いを長引かせる為に暗躍していたのだ。
「もし『魔王』がその男なら、相当気をつけなければならないわ。私は話にしか聞いた事はないけど、一筋縄ではいかないと思う。それに一人では行動をしないはず、近くに仲間もいるとすれば……」
メリーナは、シリル様達に魔法の使い方を教えると言い、彼らを奥の部屋に呼び話しを始めた。
その間私は、ニコくんから詳しく糸の使い方を教わった。
「俺がいるって、どう言う事ですか?」
「シリル、あなたの魔力はそんなものではないの。あの日、私が掛けた封印の魔法を今から解くわ、そうすれば……」
「メリーナ様、俺は既にかなり強い魔力を持っています。強すぎて上手く使えない魔法も多い……それなのに、これ以上……」
シリル様は驚いた顔でメリーナを見る。
「そうね、魔力は確かに強いわ。けれど、あなたの魔力はそれだけじゃないの。それに、あの時の封印の魔法で悪くなってしまった魔力の流れを戻さなければ、それが原因で微妙な調整が出来なくなっている。そもそも、魔力が強いのに生活魔法が使えないなんて事はあり得ないのよ」
「なぜ、俺が生活魔法を使えないと分かるのですか?」
メリーナはやっぱりね、と頷き「私、そういう事が分かるの」とだけ話した。
次にメリーナは、ラビー姉様達をじっくりと見る。
「あなた達もあの時、魔力が封印されちゃっているわね」
「……封印? 私たちも?」
「そう、確かあの時二人は城の中にいたわ。そのせいね。それに、ルシファも母親である王妃様が城にいた。だから封印されている可能性は高い。私の考えが正しければ、解けば皆、本来の姿に戻るわ」
「本来の姿?」
ラビー姉様達の疑問の声を聞き流し、メリーナは両手の指をバラバラと動かしながら、呪文を唱え出した。
それはとても不思議な声だった。
幾つもの鈴の音が重なるような、心地よく耳に響き渡る声。
しかし私の感じ方とは裏腹に、シリル様達は疼くまり苦しそうに呻き声を上げはじめた。
「メリーナ、皆は大丈夫なの⁈ 」
皆の様子に不安になり声をかけた私に、メリーナは呪文を唱えながら、大丈夫だとウインクをする。
メリーナの呪文の中、ルシファ様がかけていた変化の魔法が解ける。
シリル様達の体が徐々に変化していき、獣耳と尻尾が現れる。
「うわぁ、漆黒だ……」
バーナビーさんは大きな尻尾をフルフルと細かく動かし、シリル様を驚嘆のまなざしで見つめている。
狼獣人の姿に戻ったシリル様の毛は、艶やかな漆黒。
獣人の中でも漆黒の毛は珍しく、恐れをなす者がほとんどだ。
ただ、バーナビーさんの反応は恐れというより、憧れのように見える。
目の前のシリル様が元の姿に戻り、立ち上がった。
漆黒の獣耳がピンッと立ち、長い尻尾がファサリと揺れる。一つに束ねていた髪は解かれ、長い前髪の間から覗く黄金の双眸は、輝きを増しこちらをみている。
(……ううっ、カッコいい)
ラビー姉様の獣耳や尻尾の白かった毛色は、薄っすらとピンク色になっていた。
メイナード様は獣耳や尻尾は真っ白の毛色のままだが、全体的にキラキラとした輝きが強くなっている。
そして二人とも、短めだった尻尾が少し長くなっているようだ。
ルシファ様の氷のような水色の目には、金色が混じり、獣耳や尻尾の金の毛色は、長兄カイザー様と同じ黄金色へと変わった。顔立ちも、やや大人びた雰囲気になっている。
「あら、やっぱりそうだったのね」
メリーナは納得した様に頷く。
「メリーナ、やっぱりって何? 皆少しずつ違うみたいだけど、それはどうして?」
私の疑問に、メリーナは優しく応えてくれた。
「私と幼いシリルの魔力がぶつかった時、マフガルド城にいた全ての者に何らかの封印がかかってしまっているみたいなの。それを今解いたのよ。彼らは今、ようやく本来の魔力を取り戻した。特にルシファは、母親の体の一つでしかなかった。だからシリルやラビー達よりも多く封印されていたみたいね。本当なら、もっとちゃんとした変化の魔法が使えるはずなのよ」
横ではラビー姉様が指を回し、さっきメリーナが出した様にテーブルとお茶を出し喜んでいる。
「凄いな、僕」
そう言ってメイナード様は、部屋の中を綺麗に改装してしまった。
「これが本当の僕……」
ルシファ様は部屋の鏡を、マジマジと見ている。
シリル様は微動だにせず、黙って私を見つめていた。
「シリル様? 具合でも悪いですか?」
「……いや、そうじゃない」
「…………?」
スッとシリル様は私に近づき、優しく頬に手を添えた。
スリ、と指で撫で、甘く見つめてくる。
「リラ……」
ど、どうしたのだろう⁈
何だかシリル様の様子がおかしくなっちゃった、目が……正気じゃないと思う!
「俺の……」
「シ、シリル様?」
どんどん顔が近づいてくる。
……えっ、今そういう雰囲気ですか⁈
皆、見ているんですけど⁈
◇
…………キラキラ……キラキラ…………
メリーナに封印を解いてもらったシリルの目には、リラとの繋がりがハッキリと(輝いて)見えた。
あんなに深刻な話をしていたと云うのに、これから危険な場所へと向かわねばならないと云うのに、シリルの頭の中は今違うことを考えている。
(……リラ、俺の宿命の相手……)
見える繋がりは強いものだが、まだ完璧ではない。
完璧にしたい。
今すぐ、その繋がりを確固たるものにしたい衝動に駆られている。
(……せめて、口づけだけでも……今……)
シリルはリラに顔を寄せる。
「ちょっと! シリルっやめなさい! こんな所で私のリラに何するつもりよっ!」
メリーナ様がぎゃあぎゃあと口煩く言っているが、そんな事はどうでもいい。
(一度だけ……ほんの……ちょっと……)
◇
「えーっ、ちょっと宜しいですか?」
急にバーナビーさんが声をかけた。
男性の声に、シリル様がビクッと体を震わせる。
「これは私の想定ですが……」
バーナビーさんは、シリル様の行動を一切無視して、話を始める。
シリル様はハッとした顔をして、私に「すまない」と言うと近くの椅子に腰掛け顔を覆った。
「俺は、皆の前で、何を……」
正気に戻り落ち込むシリル様の横に、メイナード様が座り、彼の肩を叩くと「大丈夫だよ、僕ならやってた。お前は止めたんだから偉いよ」と慰めている。
「そうか……?」
「ああ、なんなら最後までやると思う」
「……俺もそうしたかった……」
「おおっ! シリルも封印が解けて大人になったんだ!」
(…………! 封印が解けて、変わってしまったんですね、シリル様……)
そんな二人のやり取りはまるで聞こえていないように、バーナビーさんは続きを話し始める。
「先ほどの話に出てきた『魔王』と呼ばれる者。今、リフテス王を操っていると思われる者ですが、それはマフガルド王国の者ではないですか?
実は『デフライト公爵』の名は、私がカダル山賊にいた頃、何度も耳に入れた事があるのです。その時一緒に『クラッシュ』の名も上がっていました。王妃は公爵の娘です。裏で繋がっている可能性が高いと、私は思うのですが」
『クラッシュ』……それはマフガルドの山道で、私達を襲って来た黒づくめの人達の組織名だ。
メリーナはその話に大きく頷き、知っている事を教えてくれた。
「『クラッシュ』という組織は、鷲獣人の男が作り、率いる組織です。そしてその者は、マフガルド家やラビッツ家に並ぶ魔力の持ち主と言われています。あの男は狡猾な男。……もしかして、リフテス王国を手に入れようとしているのかしら」
それを聞いたメイナード様が、それならと口を挟む。
「国を支配したいのなら簒奪すればいい事じゃないの? リフテス王族を滅ぼして、乗っとれば済む事じゃない?」
メイナード様はキラキラと輝きを放ちながら、長くなった真っ白な尻尾をフワッと揺らす。
「普通ならそうするわね、けれどあの男はそう言った手段は選ばないの。相手から求められ、崇められる事が好きなのよ」
「どうしてそんなに詳しいの?」
ラビー姉様が不思議そうに尋ねた。
メリーナは、もう長い間リフテス王国にいる。
マフガルド王国にいた時間よりも長いのだ。それに、戦地に向かったことのあるシリル様が知っているのは分かるが、メリーナは公爵令嬢で、この国ではメイドとして暮らしていた。そういった組織と関わる事はなく、詳しく知ることはないはずだ。
「私の幼い頃、お祖父様が話してくれたの。自分の事を『神』と呼ばせている悪い男がいるから気をつけろってね。どうやっているかは知らないけれど、その男は三百年以上生きているんだって言っていたわ」
「「「三百年ーーっ⁈」」」
皆、思わず叫んでしまった。
リフテス人の寿命はせいぜい八十年、獣人でも百五十年生きれば長生きと言われているらしい。
それを越える年数を、どうやったら生きられるのだろう⁉︎
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当時のマフガルド王とラビッツ王は類稀なる魔力を持っていた。
にも関わらず、彼らは戦う事を好まない。
自由と平和が一番いいのだと言っていた。
しかし、それだけでは国は裕福にはならない。
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仲間だと信じていた鳥獣人達が、戦況を見極め、鷲獣人の男では勝てないと判断すると、王達の方へ寝返った。
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そして、自分を貶めた者達から全てを奪い、姿を消した。
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それが、『クラッシュ』である。
彼らは鷲獣人の男を『神』と呼び、その者の言葉を信念とした。
それがどんな悪意に満ちた言葉であっても、彼らにはそれが正義だった。
『神』は信念の為に動いた者には、分け隔てなく恵を与えた。
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その者が欲しがる物、全てを与えるのだ。
その上『神』は、病気や怪我を治す力を持っており、命までも操るのだと言われていた。
その力は、まさしく『神』そのものだったのだ。
弱者は神に救いを求め、強者は蟻の如く群がった。
強者の中には欲にまみれた人々が多い。
争いが生じる事で、莫大な利益を生む者も少なくなかった。
『クラッシュ』は、そういった者達からの依頼を受け、火種を生み、事を起こさせる。
マフガルド王国とリフテス王国の争いでも、『クラッシュ』はどちらにも味方をし、戦いを長引かせる為に暗躍していたのだ。
「もし『魔王』がその男なら、相当気をつけなければならないわ。私は話にしか聞いた事はないけど、一筋縄ではいかないと思う。それに一人では行動をしないはず、近くに仲間もいるとすれば……」
メリーナは、シリル様達に魔法の使い方を教えると言い、彼らを奥の部屋に呼び話しを始めた。
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