【勇者】が働かない乱世で平和な異世界のお話

aruna

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第1章 P勇者誕生の日

第13話 千年の眠り

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「おい、黒龍!!、俺は【勇者】だ!!、俺を倒しに来たんだろ!!、俺はここに居るぞ!!!」

 俺は力の限り叫んだ。

 その場にいたのはクロとメリーさんだけ、だから【勇者】を名乗っても問題は無かった、故に黒龍が注意を向けるほどに大きな声で、しかし黒龍が即座に攻撃する事が叶わない遠くから、力の限り叫んだ。

 距離を置いたのは単純に黒龍が想像通り、いや、実際に対面するとそれ以上に、恐ろしく威容で強大な存在だったからだ。
 災厄と呼ばれるような人智を超えた化け物相手に正面から戦うなど、正気の沙汰では無いし、啖呵一つ切るのも命懸けだ。

 それなのにクロの奴は一人で黒龍とやり合ってたみたいだから本当に馬鹿げているし、イカれた幼女だった。

 クロが生きていた事も、俺が間に合った事も、共に奇跡的な巡り合わせであり、もし間に合わなかったとしたらフエメとの契約も無くなり全てが水泡に帰す所だった。

 故に俺は、その瞬間だけは恐怖より先に安堵を感じていた。



「・・・なんでライアがここに、・・・それに、・・・怪我をしている筈じゃ」

「あ、あれはライアさんの作戦だったんです、サマーディ村を出し抜く為の・・・」

「・・・まぁどうせ仮病だったんだろうけど、やっぱりライアは嘘つきな、・・・これで二回目なのん、もうクロの命だけじゃ返せなくなったのん・・・」

 クローディアはこの絶体絶命の最凶最悪の鉄火場にライアが来た事に、喜びと悲しみ、両方に感情を揺さぶられて、それが現実なのか疑った。
 だがかつてのライアは自分と同じくとびきりの大馬鹿者だったことを思い出し、かつての面影をかさねると、気が抜けたようにその場に崩れた。

「・・・グルルォ、ナルホド、貴様ガ勇者ノ末裔カ、確カニ濃厚ナ気配を感ジル、我ノ目覚メヲ促シタノハオ前カ、右目ガ疼ク、久方ブリノ衝動ダ」

 黒龍の興味は完全にライアの方に向いた。
 その見るもの全てを震わせる、最強の暴力を秘めた強靭で凶悪な体躯を揺らして、ライアの方へと歩み出す。

「ついてこい黒龍、ここじゃお前も窮屈だろう、俺たちの戦いは邪魔の入らないもっと広い場所でするべきだ」

 黒龍のブレスにより火の海となった廃虚の舞台から、ライアは黒龍を連れ出す為にそう言った。

「グルルルル、ヨカロウ、案内セヨ、我ガ宿敵ヨ」

 そして黒龍は、念願の宿敵との戦いに胸を踊らせて、ライアの提案を承諾した。

 そこからライアが向かったのは、“殺戮の森”、“黄金山地”を超えた樹海の奥、この世で最も危険な魔物達のいる秘境、“失われた聖域サンクチュアリ”。
 そこはかつての古代人が作り上げた遺跡の残る土地であり、同時に樹海化して凶悪な魔物が住み込むようになった危険地帯でもあった。

 うっそうと生い茂る木々の合間を駆け抜け、険しい山道を登ったり下ったりしながら、俺は黒龍を引率しながら走った。

 段取りは簡単だ、村から離れた“失われた聖域”の奥深くまで連れ込み、黒龍にドラゴンブレスを吐かせて、その一撃で決着がついたと思わせられたなら俺の勝ち。
 目的を遂げた黒龍は満足して穴倉に帰るし、勝てない相手にやり過ごすにはもうそれしか無いだろう。

 そこから俺は無心で走り続けた、かつてのマラソンが俺に「ランナーズハイ」という快感を体に覚えさせてくれたのだろう、数時間に及ぶ疾走も大して苦に感じる事もなく、黄金山地の山岳地帯を踏破し、古代人が築いた“失われた聖域”へと到達する。

 走ってる間俺はずっと考えていた。

 何故俺はこうも苦しい思いをして、ここまでキツイ仕事をしなければならないのか。
 どうして俺は、この辛くて死にそうな仕事を自ら進んで行おうと思ったのか。
 逃げても良かった、なのに俺は引き受けた。
 考えてみれば納得のいかない話だ。

 俺は今日まで俺の為に生きて、その為に【勇者】を秘匿して来たのに、勇者を秘匿するという目的の為に命を懸けるというのは、何ともちぐはぐで手段と目的が逆になったような自家撞着だからだ。

 こんなキツい仕事を魔王を倒すまで続けなくてはならないのだとしたら、仮に美少女ハーレムを作る権利が貰えたとしても、一生金と女に困らない生活が約束されるとしても、人々から称賛され、歴史に名を残す偉業を成し遂げられるのだとしても。

 絶対に俺は御免だった。

 もう二度とやらない、これっきり、この一度で俺は一生分の仕事を成し遂げたとして【勇者】を引退する、【勇者】なんて俺には荷が勝ち過ぎるどころの話では無いのだから。
 適正、相性、資格もろもろ、俺とは何一つとして一致してない、やる気すら起きない仕事。
 だからこれっきりにする。

 そうだ、そもそもこれをやろうとしたのは故郷である村と、そして妹ライムの身代わりになったクロを守る為だ。

 この二つには自分の命を懸ける価値があるものだから仕方ないと言えなくもなくもない。

 自分の事しか考えていない俺が他人の為に頑張るというのもおかしな話だが、だけどそんな俺でも、他人の為に頑張るという事は、自分の為では諦めてしまうような事も簡単に諦めさせてくれないという、そんな感性は持っていた、不思議な事に。

 これが義理とか人情か?、馬鹿げている、衣食足りて礼節を知る、人間が道義を貴べるのは、それが自分の生活が保証されて、その日の生活に何の苦労も感じていない時だけだ。

 他人を救おうという発想は心に余裕がある人間の贅肉のようなもの、それをクズで無能で貧弱な無い無い尽くしの俺が持つのは馬鹿げているし。

 たとえどんなに尊い人間であっても、聖人や神様のような人物であっても、貧しさを知り、その上で暴力に晒され、更に生きる為のパンを奪われたのならば。
 それが人間であるのならば、パン一つの為に人を殺せるだろう。
 それが人間の、この弱肉強食の世に生きる生物としての自然な行いであり、それを無慈悲で凶悪だと罵れる人間は、同じ苦しみを知らないだけだ。

 だから義理とか人情とか馬鹿げているし、俺は俺の為だけに生きる事しか考えていない。

 なのに俺は他人の為に奔走し、命を懸けて、死ぬかもしれない恐怖と戦って、そしてそれにやり甲斐を感じている。

 どうして俺は、この明らかに間違った選択を肯定し、この度し難い運命を受け入れつつあるのだろうか。

 承認欲求という奴なのだろうか、だが、この行為は誰にも知られずに行われるという意味では真の自己犠牲であり、自己満足でしかない。

 だからその衝動の根源が理解出来ず、分からない。

 分からないのに、分からない癖に、この馬鹿で正直な体はすこぶる軽快に弾み、勝手に調子に乗って、無駄に血潮を滾らせているのだ。

 もしかしたらそれが【勇者】特有のスキルによるものかもしれない。

 ・・・本当に、「宣告」とはよく出来たシステムだと俺は思う。

 人によっては冒険者や騎士と言った戦闘職は、命をコストとして消費するだけの理不尽な仕事だと思い忌避、倦厭するだろうし、俺もそう思っている。

 だがそれを「宣告」で自分の運命だと、作為では無く無作為に割り振られる国民の義務だと言ってしまえば、それがどんなに理不尽な貧乏くじの押し付けだとしても、愚民は疑うことなくそれを受け入れるものだろう。

 兵士が本当に国民の命と財産を守る為の尊い仕事なのならば、過去の軍隊は略奪を行ったりしないし、退役軍人が傭兵崩れや暴力団などに身を落としてアウトローに所属する筈も無い。
 本質は貧乏くじの押し付け、弱者への圧政だからこそ、兵士は尊重されないのだ。

 「宣告」は無作為であるが故に、簡単に詐称が出来るほどに秘匿性が高いのが救いではあるが、これがもし仮に神が恣意的に作為的に選んで、その結果を閲覧できる人間、もしくは工作する事が出来る人間がいたならば、この世で最も残酷なシステムと言わざるを得ない。

 だってそうだろう、自分の望む人間にだけ当たりジョブを引かせて、望まない人間に外れジョブを付与するという事は、人が人の運命を操るに等しい。

 それは、人間に食われる為に育てられる家畜と同じ、人間が人間の食い物になる人間を作るという話になるのだから。

 だから俺は、俺の運命が無作為で偶発的なものだと信じたかったし、だからこそ【勇者】に対して微塵も責任や義務を感じていない。

 しかしそんな俺でもこの瞬間だけは【勇者】であろうと、柄にも無く熱く、必死になって演技では無い役割を全うしているのだ。

 それが何とも青臭くむず痒くて、そして相反するように心地よい。

 そんなせめぎ合う葛藤を抱えたまま、俺は最終局面の終点まで駆けた。






「はぁはぁ、着いたぜ、ここが俺たちの決着をつけるに相応しい場所だ」

 “失われた聖域”は古代人の文明の名残が形を保ったまま残る遺跡地帯。

 かつては終局迷宮ラストダンジョンと呼ばれ、多くの冒険者達がそこに一攫千金を夢見て旅立ったが、そこに棲む魔物のあまりにもレベルの高さから今となってはリスクに見合わないと挑戦する者はいなくなった。

 故にそこには数々の神殿や石像などがそっくり残っており、そしてそんな古代都市の残骸の中に一際存在感を放つ異質な建物。

 古代人の作った円形の闘技場、そこが俺が黒龍を招いた終点だった。






 闘技場の観客席から、一人の少女がこの誰にも知られない決闘を観戦していた。

「ふふっ、とうとうやる気になってくれたね、頼むよ、これは君の血の宿命さだめ、君は本物の勇者になる資格があるんだから、世界が沸き立つような戦いを見せてね。
 ・・・ええと、勇者クンのステータスは・・・、ええっ!?、まだレベル7!?、宣告から三週間あったのに、相変わらず怠け者だなぁ、そして黒龍のレベルは1070と、あはは、ひどい格差だ、アリとゾウの戦いだね、まぁ人間ヒューマンが単体で黒龍に勝てるようには出来て無いけど、でも宿命の血が流れる君なら、一矢報いる所くらいは見せて欲しいかな」

 少女は幼い容姿をしているが、その姿は天使のように神秘的で、少女の姿とは裏腹に浮世離れしたような知性と品位を持っていた。
 その姿を一目見るだけで、少しでも勘の冴えた者ならば直ぐにその存在が何たるかを見抜き、平服し頭を垂れるだろう、それほどに彼女のオーラは人間離れしており、異質なものを持っていた。

「楽しませておくれよ勇者クン、私は君の誕生を100年待ちわびていたんだ、これで呆気なく死なれたら、流石に退屈過ぎてこの乱世を更に壊滅的にはちゃめちゃにしてしまうかもしれない」
 
 少女はあどけない相貌を無邪気であるが故に無慈悲に歪めながら、人知れず鑑賞に耽っていた。






 
「グルル、懐カシイナ、ココ二来ルトカツテココデノ戦イノ日々ヲ思イ出シ、体ガ疼ク」

「?、どういう事だ、お前はここで誰と戦っていたんだ」

「グルル、ココハ神ノ定メシ強者達ノ聖地、我ラハココデ、最強ノ名ヲ賭ケテ戦ッテイタノダ、種ノ存続トイウ、タダヒトツノ目的ノ為二」

「種の存続?つまり、負けたら滅ぶという事か?」

「ソウダ、ソシテ我ラノ一族ハ人間トノ戦イ二敗レ、滅ビタ、我ハソノ最期ノ生キ残リトイウ訳ダ、故二勇者ヨ、願ワクバ我ヲ滅ボシ、我二永遠ノ眠リヲ授ケヨ、我ハソレヲ求メ、今日マデ生キ長ラエタ」

 黒龍のその望みは、人間に対する憎しみや恨みでは無く、ただ純粋に己より強い者の手で葬られたいという、戦士としての矜恃だった。
 己より強い者を探し求め、それに倒される事に生きる黒龍は、既に亡霊のような存在なのだとライアは思った、だから黒龍を葬る事に躊躇は感じない、それが出来るかは別として。

「事情は分かった、だがそれなら、他にも災厄と呼ばれるような強い奴はいるだろう?『鳳凰フェニックス』とか『神狼フェンリル』とか、そいつらと戦うんじゃ駄目なのかよ」

「愚問ダナ、我ラヲ滅ボシタノハ人間、ナラバ我モ人間ノ手デ引導ヲ渡サレタイト思ウノガ自然デアロウ」

「まぁそうなるか、なら俺がやるしかないな」

 いや、やるしかないと言っても出来ることは踏み潰されるしかないんだけど。
 だが黒龍と話してみた感じからして、そこまで話の通じない奴という訳でも無さそうだ。
 素直にホイホイとここまでついてきてくれたし、頼めばもう一個くらい我儘を聞いてくれるかもしれない、恐らく黒龍はそこらの子供よりよっぽど世間知らずで、所詮は魔物、ならば騙すのも人間よりは容易く思えた。

 だからその一個のおねだりで如何に戦況を変えられるか、それに思考を巡らせて状況の打開を図る。

「グルル、デハ始メヨウ、我ガ千年ノ宿命ニ終止符ヲ打ツ、悲願ノ戦イヲ」

「ま、待ってくれ!」

「グルル、ドウシタ、準備運動ハ十分ダロウ?」

「ああ、、だが、準備運動は万全でも、準備は万全では無い、この辺りにはわんさか居るだろう、漁夫の利を狙う薄汚い野良犬、凶悪で好戦的な魔物達が、そいつらが俺たちのな決闘を邪魔するかもしれない、だから実際さっきから何匹かを狙ってる魔物がこちらを伺っているしな、だからそいつらを先に片付けて、完全に邪魔が入らなくなってから思う存分戦いたいんだ」

 実際にこちらを伺っている魔物が狙ってるのは間違いなく俺だろう。
 そいつらはハイエナのように、低レベル雑魚勇者である俺を獲物として認識し、ここに来た時からずっと付け回していたのである。

 奴らが実際に黒龍を消耗させる事が出来るかは分からないが、せっかく終局迷宮と呼ばれる最強の魔物が棲む秘境まで来たのだ、せめて時間稼ぎの役には立てても損は無いだろう。

「確カニ雑魚ニ気ヲ取ラレテ我ラの決闘ヲ邪魔サレルノハ許シ難イ、良カロウ、コノ周辺ノ魔物ヲ全テ、蟻一匹残サズ駆逐シテクレル」

 そう言って黒龍は息を吸い込みながら、黒い翼を大きく広げて空高く飛翔した。

 そして円形の闘技場の中心から闘技場の外側に向けて、全てを焼き尽くす、一網打尽、燼滅じんめつする灼熱の息吹を吐き出した。

 災厄級である黒龍のドラゴンブレスは人間の放てる最上の上級魔法などより遥かに高火力で高出力であり、核規模の破壊力を持つ。

 目の前で見たそれは想像を遥かに凌駕して苛烈で強力だった。

 その黒龍の放ったドラゴンブレスにより、“失われた聖域”の遺跡や神殿などの建造物は、闘技場を残して全て焦土と化し。

 そして、樹海化していたそれらの建物はよく燃えて、既に夜のとばりが降り始めた夜空を、赤く熱く照らしていた。



「これがドラゴンブレス・・・」

 ドラゴンブレスを受け止めて死んだフリをするという計画はそもそも不可能であり破綻していると、その一撃を見て俺は悟った。

 どう見ても人間に受け止めきれるようなモノでは無い、それは隕石や地割れ、洪水や津波に等しい、人間には到底抗う術を持たない、絶対的な暴力だからだ。

 やばい、このままでは素直に愚直に死ぬしかない。

 それを悟った時、俺の体は恐怖でガチガチに強ばり、自分の安易な冒険心で死の入り口に立ってしまった事を激しく後悔し、自然と涙が零れてくる。




「グルル、コレデ邪魔モノハイナクナッタ、サァ、始メヨウカ」

「はぁはぁはぁはぁはぁ・・・あ、ああ」

 動悸が激しく息切れし、思考は働かない、俺の頭は既に、生きる事を諦めて、潔く散って、せめて金縛りで動けなくなる前に、痛みの無い死を迎える事しか頭に無かった。

 仮に俺の人生に、凶暴な魔物相手や、肉体を引き裂かれるような苦痛を伴うような戦闘経験があれば、この土壇場でももう少しマシだったのかもしれない。

 だが俺はずっと、剣を振るって何かを壊す術を磨くという在り方そのものを否定していた。

 そんなものに時間を使うより、もっと有意義なものにコストを費やした方が、人生を助け、役に立つと思っていたからだ。

 だから戦いそのものを否定してきたし、戦闘訓練などは自衛の為の護身術程度しかした事がない。

 そんな俺が、命の駆け引きという土壇場で、平常心でいられる訳が無かったのだ。

 そして俺はガチガチに強ばった体で、親父から貰ったオンボロの護封剣を抜刀すると、恐怖から逃れる為だけに黒龍に直進する。

 手足はバラバラに動いていて、思考は真っ白だった。

 恐らくあと数秒の内に俺は黒龍の爪に薙ぎ払われて絶命する。

 そんな未来に向かって俺は盲目的に突き進んだ。






 そこに、一筋の銀河が流れ落ちた。

 それは、黒龍と対を為すような白銀の体躯をした獣であり、影のように音もなくその場に突如として出現した。
 そして、その身震いひとつで突風が吹き荒れる。


「ガルル、オレの縄張りを荒らしたな黒龍、一体何のつもりダ」



 『神狼フェンリル』、黒龍と並ぶ、災厄級の獣。

 この大陸に災厄として伝わる三匹の獣、バハムート、フェニックス、フェンリル。

 かつての言い伝えでは、黒龍は一撃で王国を壊滅させ、鳳凰は大陸全土の命を燃やし尽くし大地のリセットを行い、神狼は一日で【勇者】と【魔王】、大陸の端と端にいる両者を屠り暗黒の時代を作ったと言われている。

 神代じんだいの三帝、災厄級と呼ばれる黒龍に並び立つ獣が、特攻する俺を吹き飛ばして黒龍の前に立ちはだかった。

「グルルォ、ヤハリ邪魔スルカ、今コノ一時ニ目ヲ瞑ッテクレタナラ、我モ大人シク逝ケタトイウノニ」

「ガルルルルゥ、巫山戯るナヨ黒龍、オレの縄張りを荒らしテ、オレを無視するなど許される筈が無いダロウ、何のつもりかは知ランガ、落とし前は付けて貰ウゾ」

 決闘に水を差された黒龍、そして縄張りの眷属を皆殺しにされた神狼、両者共に憤慨し、獰猛に息を荒らげながら相手を威嚇していた。

 神狼に吹き飛ばされた俺は、その痛みと衝撃で冷静さを取り戻して、この好機に縋るしか無いと即座に立ち上がり声を上げた。

「なら【勇者】である俺と戦う権利は、二人で戦って勝った方の物とする、黒龍よ、お前も万全の状況で戦いたいだろう、なら邪魔者は倒すべきだ、仮に神狼に負けて傷ついたならば、その時は俺が神狼を倒し、そしてお前には傷を癒す猶予だって与えてやろう、どうだ、出来るか」

 黒龍と神狼の相打ち、“失われた聖域”に数多存在する凶悪な魔物たち、そいつらに黒龍の相手をさせるという当初の目論見は失敗したが。
 だがその代わりに親玉である神狼を呼び出す事が出来たのは、不幸中の幸いであり、奇跡と呼べるような僥倖だった。

 だから俺が生き延びる道があるとするならば、ここで二人に共倒れさせて、それで勝ち残るしかない。

 一か八か、二人を戦わせる方に俺は舵を切って二匹を誘導する。


「グルルォ、愚問、我ヲ倒セルノハ人間デアリ【勇者】デアルオ前ダケ、ソレ以外ニ負ケル道理ナド無イ」

「ガルルゥ、大口叩くな黒龍、貴様は一度【勇者】に負けた軟弱者では無いカ、オレは【勇者】など、束になって相手にしても負けたりはしナイ」

「グルルォ、オデュッセウスニ尻尾ヲ振ッテ喜ンデイタ貴様ガ我ヲ侮辱スルカ」

「ガルルゥ、フン、愚か者ガ、あのお方に盾突く貴様が愚か者なノダ、オレはあのお方のおかげでこの世界の素晴らしさを知リ、ただの地を這う獣からこの世に生きる生き物とシテの生き方を学ンダ、あの方はオレに最も大切な事を教えてくれたノダ、そんな己より優れた存在を認められぬ貴様が野蛮で低俗なノダ」

「悟ッタ風ニ語レド、語ルニ落チタナ、【勇者】ノ軍門ニ下ッタ貴様ニ、【勇者】ヲ倒ス道理ナドアルモノカ」

「ガルルルルルルルゥ、あのお方を【勇者】という枠に留めるお前が愚かなノダ、凡百の人間風情、比べる事すら烏滸がまシイ、そこの小僧ニ、いかほどノ神威や神通力があるというノカ」

「過去ヲ美化シタガルノハイカニモ老害ラシイ拘泥ダナ、来イ、過去ヲ生キル者ニ、我ハ倒セヌ」

「ガルルルゥ、抜かせ節穴の木偶の坊、貴様の残った左目ゴト、噛み砕いてすり潰してくレル」

 こうして災厄級の怪物、『黒龍』と『神狼』は戦闘を始めた。

 俺はそれを大人しく闘技場の観客席から観戦する。

 それは人智を超越した、怪獣同士の戦いだった。

 黒龍の地ならし一つで大地が鳴動し、神狼の突進は風よりも疾い、そして雷が鳴るように両者は激しくぶつかる。

 そして人間なら一瞬で分隊が全滅する、その神狼の放つ神速の一撃すら、黒龍は腕であしらい、尻尾を使って反撃すらしてみせる。

 それは生きるか死ぬかの世界に生きる獣、魔物界の頂点に立ち、そして遥か昔に、この闘技場で上り詰めた者同士にしか出来ない珠玉にして至高の武闘会だった。

 全ての動きが長年にわたって研鑽、洗練された戦闘技術の粋であり、それらは当然、この世に生を受けて16年、怠惰な平和主義者である俺には比べる事すら烏滸がましいような天上の領域。

 それを観戦する事で俺は改めて、戦わずに済んだ事に対して、存在するかも分からない運命の神様に感謝するのであった。



「ねぇ、もしかして黒龍をここに連れて来たのって、最初から辺りを焼き尽くして、怒ったフェンと戦わせる為だったのかな?」

「・・・え?」

 観客席にて必死に頭を働かせてこの後の計画を練っていたら、突如として声をかけられて、俺は動揺した。

 それは浮世離れした風貌の少女だった、見た目だけならクロより幼いが、その瞳に宿す知性と落ち着いた雰囲気は、まるで年老いた賢者のように感じられた。

 何者か、という選択肢は、この場において多く無い。

 深く考えてみれば、このような最果ての地に、普通の幼女が存在出来る訳が無いからだ。

 考えられるとするなら、魔物、幽霊、魔女、こんな所だろうか。

 少なくとも自分より遥かに強い存在と考えていいだろう、故に、誤って無礼な発言をし彼女の機嫌を損ねる事は、命取りになりかねない。

 【勇者】とはあくまで人間から尊重される者であり、人間でないものからすれば宿敵なのだから。

 しかも神狼フェンリルと愛称で呼んでいる、そんな相手など、警戒レベル最大で対処しなくてはいけないような難敵で間違い無いのだから。

 俺は言葉を選び、冷静を取り繕って、少し間を空けて息を整えてから答えた。

「い、いえ、僕は周辺の魔物達を「平和的」に追い払おうと考えていたんですけど、「黒龍」が「勝手に」ドラゴンブレスで一掃しちゃって、まぁ多分僕と戦うのが楽しみで気が焦ったからなんでしょうけど、もしあなたの仲間やお家が燃えたのなら謝ります、すみませんでした、弁償も補てんも、出来る限りの事はするので何卒ご容赦を・・・」

 幼女相手に腰が低過ぎる気もするが、機嫌を損ねた結果神狼をけしかけられても困る、故に俺は最大限の謝意を示すつもりで謝罪した。

「ふーん、まぁおかげで私の大事にしてたワインとかおやつとか宝物とかいろいろ、全部燃やされちゃって流石にぷちんと来てたけど、わざとじゃないなら仕方ないか、しょーがない、じゃあ許してあげよう、でも次やったら容赦しないからね」

 と、幼女は思っていたより怒っていないのか、それとも表に出していないだけのかは分からないが、俺の謝罪を受け入れて、顔を曇らせつつも納得したようだった。

 なので俺は、ここから幼女にあれこれ追求されても困るので、間を取り繕う為に質問を投じた。

「あ、ありがとうございます、ワインとか宝物も、僕がなんとか用意して弁償しようと思うので、よろしければ欲しい物の好みなどを教えて頂ければ・・・!、ちなみに村ではリキュールを使用した白ワインが人気で、その上品な味わいは貴族すら一度飲んだら虜になるとか言われています」

 ちなみにワインは村の共用財産のようなもので教会の地下に貯蔵されており、そしてその絶品シャンパンを製造し村に広めたのは王都出身のメリーさんだった。
 メリーさんの作ってくれたワインのおかげで村のワインの売上も向上し、財政が潤う程にそのワインは美味しいらしい。
 まぁ俺は成人したばっかだから飲んだ事は無いのだが。

「へぇ、それは気になるね、銘柄はなんて言うの?」

「『シャン・ペリ』です、元は王都で流行したシャンペリ地方の特産ワインを『シャン・ペリ』と言うらしいんですけど、最近は模造品も増えたそうなので、製法が一緒という事でンシャリ村産『シャン・ペリ』、村では俗に『シャ・ペリ』という名前で呼んでます」

 パチモンくさいネーミングだが、あくまで村での通称であり、売り出す時は正規の『シャン・ペリ』と銘打っている。
 グレーな商売だが、まぁ足がつかない買い手がいるからこその贋作売りだし、それに品質が悪い訳では無いので、需要は高い物だった。

「『シャン・ペリ』かぁ、ワインの王様だもんね、あれなら樽で飲んでも飽きないよ、うん、じゃあその『シャリ・ペリ』を樽で持ってきてくれたら、今回の事は水に流してあげよう」

「本当ですか、ありがとうございます!、村で最高の『シャリ・ペリ』を持ってきます!」

 と、言いつつ、村からここまで、凶悪で凶暴な魔物が山のように跋扈している中で、重たい樽を運ぶのは現実的では無い、それを実現するなら幼女を村に連れて行った方が早いだろう、そして自分で持ち帰って貰うのが一番だ、そこは後で上手く誘導して後からそういう風に仕向けよう。

「それで君はこの後、どっちと戦いたい?」

「え・・・?、いや、出来れば、どっちとも戦いたくないッスかね・・・」

 俺の賠償の支払いにはさほど興味が無いのか、いきなり幼女がマジトーンでそんな質問を投げてくるが、俺はどちらも嫌なのであははと愛想笑いを浮かべながらやんわり否定した。

「それは出来ないよ、だって勇者クンの人生には冒険と闘争の物語が必要だ、その為に彼等は生かされて来たし、生きて長らえて来たんだから、だから君と彼等の役割を果たして貰わないと」

「・・・っ!!」

 【勇者】と呼ばれた事に驚きはしなかった、何故なら目の前の幼女が、【女傑】であるフエメより遥かに上等な存在であると、そんな予感だけは感じていたからだ。

 そしてそこで思い至る、黒龍と神狼を戦わせるこの策は、決して俺の望んだ展開で終わる事は無く、俺はこの後に黒龍か神狼のどちらかと戦う、だから今は彼等の動きを予習する為の猶予期間でしか無いという事を。
 神狼を呼び出した事は下手をすればやぶ蛇であり、敵を増やすだけの失策だったのかもしれない。

「逃げるなら今のうちだよ勇者クン、まぁ逃げたら逃げた先で戦う事になるだけだけどね」

「・・・くっ」

 幼女の言葉を聞いて改めて死闘を繰り広げる黒龍と神狼を見る、素人目には互角だ、故にどっちと戦っても同じ。

 いやそもそもあの中に混ざれと言われても無理、どっちを選んでも死亡確定のクソ選択肢だ。

 なら少しでも延命する為に逃げるのが人間としての正解だろう、仮に自分が黒死病などの伝染病を患っていたとしても、それで封殺する為に殺されるくらいなら殺されない為に逃げるのが人間として当然の行いなのだから。

 ・・・なんて、頭であれこれ考えても、体は退く気にならなかった。

 それはきっと、人格破綻者の極みであるリューピン由来の思想なのだろう。

 今の俺は、この理不尽で不条理で巫山戯た運命を、面白いと、最後までやり遂げたいと、そう思っていたのだから。

 自分の命をコストと考えて、そのコストを支払う事でこの極上の見世物である黒龍と神狼の激闘を観戦し、そしてさらにその当事者になれると考えたら。

 どう考えても安くてお得であり、俺のゴミみたいな命には釣り合わない最高のエンタメだと、そう思ってしまっていたのだ。

 もしかしたら、俺がここに来た理由も実は単に「面白そうだったから」、それだけなのかもしれないし、そういう馬鹿さ加減を、確かに昔の俺は持ち合わせていた。

 何故なら俺は遊び感覚でドラゴンの巣穴に裸で飛び込んだペテンスト・ノストラダムスの息子なのだから。

 だから好奇心で死ぬような、己の欲望を優先させてしまうのだ。

 それは世界を救う【勇者】に選ばれてその義務を果たすのとは違う、ただ純粋に自分の楽しみの為に命を支払う行為だからこそ、興味が惹かれたものに命を使う事に躊躇しないという事だ。

 自分本位な俺の、自分が本当にやりたい事ならそれは、やる価値はあるしやる理由として十分だ。

 そう思うと不可能に思えるこの理不尽も、ゲーム感覚で楽しめそうな気さえしてくる。

 ・・・そうだ、元々俺の武器は武力でも優れた弁舌でも無く、ただ無知で蒙昧な阿呆を詐欺る事のみ。
 なら俺の人生の全てをかけて奴らを詐欺るしかないし、それで災厄級の魔物を出し抜けたなら、前人未到、唯一無二の成果を示す俺の大勝利じゃないか。
 それに死ぬ時はどうせ一瞬だ、苦しまないし、俺が死んで悲しむ人間も少ないし、人生にやり残しや未練がある訳でも無い。
 どうせ一生童貞、一生嫌われ者、一生怠けて適当に生きるだけの無味無臭うだつの上がらない無価値な人生。
 ならこの一時の娯楽、楽しみの為だけに命を賭ける事、それこそがもっとも俺らしく、有意義で、俺には幸せ過ぎる死に様だろう。

 ・・・その時あらためてフエメとの約束を思い出した。
 どうせ村には未来が無いし、俺の背負っている運命にも未来が無い、だからここで死んでも、俺はそれでいいと思えてしまった、苦しくて辛いだけの人生ならここで終わっても別に構わないと。
 この残酷な世界に生きる生き物としての覚悟なんて俺には無い、だから運命に流されるし、その流れに抗うつもりも無い。

 だから勝算は博打で十分だった。

 博打だとしても、選択肢は「戦って死ぬ」だけでは無い、「詐欺って勝つ」事だって可能なんだ。

 だからここで諦める必要なんて無いんだ、信じていれば奇跡だって起こるんだ。

 奇跡は信じる者にのみ訪れる。

 だからやるんだ、千載一遇、値千金の奇跡を起こす為に・・・!。



「・・・逃げないの?、そんなに震えて、怖くないはず無いよね」

「・・・ええ、怖いですね、黒龍と神狼を倒しちゃったら、最強の勇者として歴史に名を残して伝説になってしまいます、そう考えると人生の軌道修正が大変そうで怖い」

 俺は強がりで先ず自分を騙した。

 そうだ、俺は年老いた乞食から、貴族の愛人まで演じられる、なら、命知らずの勇者の演技くらい、容易いものだろう。

 乞食になってダニやノミに刺され不良にオヤジ狩りされながら、必死にスラム街で行方不明者の情報を集めた日々を思い出せ。

 貴族の愛人を演じてトロールみたいなマダム達相手に営業かけて、死ぬ気で裏社会の情報を集めた日々を思い出せ。

 あの何のやり甲斐も無い上に報酬も少ない汚れ仕事に比べれば命知らずの勇者くらい、全然マシ、100億倍マシなものだろうが。

 そもそも演じるまでもなく、俺は【勇者】だ。

 なら【魔王】を倒せるような最強で最高のスキルをいっぱい持っている筈、どんな人間でも最強にしてしまうのが【勇者】なのだから。

 なら詐欺るのに失敗したとしても、【勇者】としての最強で無敵のスキルが守ってくれる。

 ロクに「更新」をしていなかったのがこの場に於いてはむしろ好都合だった。

 仮に勇者としてのステータスを聞かされていたら現実に引き戻されていただろう、しかし「宣告」されてから一度も「更新」を受けていなかったが故に、この場に於いても絶望する要因が一つ減っていた訳である。

 どうせ逃げられないのなら、覚悟を決めればいい。

 自己暗示により、俺は理性と思考力と引き換えに、無謀で命知らずな勇気を獲得した。

 もう、恐怖など微塵も感じない。

「・・・へぇ、やっぱり見込みあるね、君、流石私の見込んだ勇者クンだ、なら今すぐあそこに混ざりに行きなよ、じゃないといつまで続くか分からないよ二人の戦いは、その気になれば千日だって戦い続けられるんだから」

 既に数刻、人間なら動きが鈍って然るような時間が経過していたが、二匹の魔物の動きは依然として衰えること無く、人智を超越した全力の応酬を続けていた。
 そこに人間の入り込む余地など無い。
 ・・・無いのだが。

「そうだな、まだるっこしいのはヤメだ、俺は【勇者】、地上最強の存在、なら誰が相手だろうと負ける筈が無いッ!!」

 俺は颯爽と闘技場の観客席から飛び降りて、死の舞踏会の行われるステージに舞い降りた。

 3メートル近い高さからの着地だったが、今の俺はそれをスムーズにこなし、空中でクルッと一回転して華麗に着地する程の余裕すらあった。

「体が軽い、昨日のウーナ達をもてなす宴で久々に肉を食ったからか、仮病を使って10時間以上寝たからか、それともこれが【勇者】の本当の力なのか、理由は分からないが、体調はベストコンディションだな・・・、ふっ、これで負けたらしょうがない、だから当たって砕けてやるぜ」

 俺は親父から貰ったオンボロの護封剣を抜刀する。

 そして大声で叫んだ。



「オイオイ、いつまでそんなチンタラした談合試合をしてんだ、そんなんじゃ何時まで経っても決着はつかねぇぞ、試合じゃねぇんだからちゃんと相手を殺すつもりでやれ、それとも「決闘の流儀」を知らないのか」

 それに反応し黒龍と神狼は一度動きを止めてこちらを向いた。
 全く消耗していないのか、あれだけ激しく動いていたにも関わらず、息切れすらせずに冷静だ。
 ただ以前より瞳が獰猛に血走っていて、殺気が漏れだしている事が、彼らが手を抜いていた訳では無いことを示していた。


「グルル、確カニ我ト彼奴ノ実力ハ互角故ニ、コノママ続ケヨウト埒が明カナイガ、シテ、ナラ貴様ナラドウスルト言ウノダ」

「ガルル、我らの戦いは百万の軍勢が戦うようなモノダ、故に決着が着くノハ冗長として遅延して然るものダガ、貴様ならどうすると言うノダ」

 意外な事に両者は戦いを中断し俺の言葉に耳を傾けてくれた。
 という事は恐らく、俺の【勇者】としての何かしらのスキルが作用しているのだろう。
 世界最強にして古今無双、その【勇者】としての本領を実感すると、俺はさらに自信を持って発言した。

「なに、簡単な事だ、今この場で、お互いがお互いに放てる最高の一撃で相手に攻撃する、順番にな、それを受け止められたら次は相手の攻撃を受け止める、受け止められなくなった奴の負けだ、簡単だろう?」

 ようはプロレス式だ、相手の技を受け止める事により、己のタフネスさを披露し、そして華麗な技を披露する事により、テクニックとパワーを誇示する。
 強さを示すという点に於いて、最も単純明快でシンプルな方法、それでこの決闘の決着を着けようと言う訳だ。

「相手ノ一撃ヲ受ケ止メルダト・・・?」

「馬鹿ナ、そんな事、先に攻撃する方が有利に決まっているダロウ」

 流石に馬鹿正直に受け入れる程素直では無いのか、二匹とも俺の提案に対して懐疑的だったが。

「順番はじゃんけんでもして適当でいいさ、どうせ一発勝負という訳でも無い、俺は最後でいいぜ、何故なら一発でも多く受け止めた奴、すなわち一番タフでCOOL!なソイツが最強なんだからな、それで、やるのかやらないのかどっちだ」

 と、最後でいいと自信満々で言った俺の様子で不信感を脱臭できたのか、二匹ともならばと言った様子で提案を受け入れた。

「グルル、我ハ勇者ニ遅ヲ取ル訳ニハイカナイ、故ニ、是非モ無イ」

「ガルル、黒龍と千日かけて戦うのもつまらんシナ、良いダロウ、貴様の決闘の流儀で決着を着けよウカ」

「流石だな、【勇者】である俺に真正面から勝負を挑めるなんて中々出来ることでは無い、流石は黒龍と神狼!、この世に千年と君臨する存在だ、腕が鳴るゼェ~っ!!」

 と、軽くおだてながら、俺はルールを説明した。

 ルールは簡単、一人がドラゴンブレスなどの全力の一撃を放ち、残る二人が並んでそれを受け止めるというもの。

 そして順番はじゃんけんにより黒龍→神狼→俺、の順番になった。

 二匹とも人間と交流があったからなのか、魔物の癖にじゃんけんを知っていたのは意外だったが、まぁオデュッセウスがどうとか言っていたし、昔はそれなりに人間と関わりがあったという事だろう、不思議でも無いか。




「ばっちこーい!、来いよ黒龍、俺を殺すつもりでな!」

 俺は黒龍を煽るように挑発する。
 そんな俺に神狼は怪訝に思ったのか質問する。

「貴様、恐れないノカ、海さえも蒸発させる奴の破滅の息吹ドラゴンブレス、それを正面から受け止めるナド、正気の沙汰では無イ」

 と、神狼でも黒龍のドラゴンブレスは怖いのか、敢えて神狼の一歩前に立っている俺に対して、神狼は驚いているようだ。

「確かに奴のドラゴンブレスは強力だ、だがそれを受け止められるのが真の最強じゃ無いのか?、自分が強えって事を本当に証明したいんだったら、逃げて相手の隙を突くような戦略じゃ無くて、正々堂々正面から受け止めるもんだろ、それが最強の生物の戦い方だ、知力で戦いたいなら囲碁や将棋でもすればいい、俺は本当の最強を決めたくてこの決闘を申し込んだんだ、その決着に不満があるならお前は別に逃げてもいいんだぜ」

「グルル、ドウヤラ人間デアル勇者ノ方ガ貴様ヨリ余程肝ガ据ワッテイルヨウダナ、勇者ノ言ウ通リ、貴様ニコノ決闘ニ参加スル資格ナド無イ、臆病者ハ去ルガヨイ」

「ガルルルルルルゥ、図に乗るなよ阿呆ガ、貴様ら如きに遅れを取るオレでは無イ、人間風情に負けてたまルカ」

 と、煽られた神狼は一歩踏み出して俺の先頭に立って、受け止める構えを見せた。

 それを見た黒龍は密かに笑い、勝利を確信した。

「グルル、愚カ者メ、我ノ一撃ヲ受ケ止メル者ナド、コノ世ニ一人モオランワ、先ズハアノ邪魔者ヲ滅シテ、ソノ後ニ勇者ト神聖ナル決闘ヲスルトシヨウカ」

 黒龍が息を吸い込むと、それだけで周囲に強烈な突風が吹いた。

 都市を破壊し、全てを消し炭に変える破滅と暴力の塊、必殺のドラゴンブレス。

 それを黒龍は一切の手加減無しに吐き出した。






「っ─────────!」





 一瞬の事、確かに俺は死の予兆を感じ取った。

 受け止めたら【勇者】だろうと【魔王】だろうと等しく死ぬ。

 それは「燃やす」という行為では無く「滅ぼす」という概念であり、都市、人間、魔物、全てのモノを等しく屠ってきた滅びを象徴する無慈悲で抗いようの無い一撃だ。

 当然俺に受け止める力なんて無いし、恐らく神狼もこれを受けては無事では済まないだろう。

 今すぐ逃げ出したい、逃げなければ死ぬ、だがそんな事、ここに来る前から分かっていた。

 活路を求めてここに来たのでは無い、最高のエンタメを求めるリューピンと親父の因子に導かれて、俺はここに辿り着いたのだ。

 だから俺は逃げずに一歩、更に神狼の前へと踏み出して先頭に立つ。

 当然だ、俺が引き下がればそれを見た神狼は即座に回避に移るだろう、そうなれば俺が助かるという可能性の目すら消滅する。

 だから俺は最初から逃げずに踏み出す事だけを考えていた、神狼の頭の片隅に、「逃げれば負けになる」という意識を植え付けた上で、この状況に誘導したのだ。

 そこまでお膳立てされた状況であれば、神狼が黒龍の一撃を受け止めてくれるという現象はギャンブルでは無い、完全に誘導された策であり、犬が球を追いかけるより確実に罠に嵌るモノ。

 そしてその策に、神狼は見事嵌った。

 神狼は最強の一角であり、それ故に野生の勘や死の恐怖という直感的なものを退化させていた。

 だから黒龍の一撃を受ければ死ぬ、そんな子犬でも分かるような簡単な真実を、神狼は見誤ってしまった。

 だから神狼は自分の先頭に立ったライアを見て恐怖心よりも対抗心に衝き動かされて、更にライアより一歩前に踏み出して、逃げる意志を放棄し黒龍の一撃を正面から受け止める事を選択したのであった。




「グルルゥ、ドウダ我ノ《バーストストリーム》ハ、・・・ッテ、モウ聞コエナイカ、受ケ止メラレルハズガ無イモノナ」

 黒龍は完全に勝利を確信した様子で笑った。

 神狼は自慢の白銀の毛を焼かれて黒焦げとなり、そしてその体は尚も燃焼しているにも関わらず、微動だにしなかったからだ。

 生きていたとしても、まともに動く事すらままならないダメージを受けているだろう、その炎は間違いなく神狼の肉を焼いた、故に黒龍は勝利を確信し、神狼を嘲る。

「グルル、愚カ者メ、オデュッセウスニ傾倒シ、人間ニ靡イタ貴様ニ、我ヲ倒セルハズモナイノダ、ドウダ、介錯シテヤロウカ、今スグオデュッセウスノ下ニ送ッテヤロウ、アノ胡散臭イ詐欺師ノ下ヘナ!!」

 黒龍は犬猿の仲でもあった神狼が調子に乗って死んだのがおかしくて、面白そうに嘲笑あざけわらう、だが、神狼は死んではいなかった。

「・・・・・・殺ス」

「・・・アァ?、何カホザイタカ、雑魚犬ヨ」

「ガルルルルルゥ、・・・オレノ、・・・前デ、・・・あの方ヲ、・・・侮辱シタ、・・・貴様は万死に値スル」

「・・・フゥ、シブトイ奴メ、イイダロウ、サッサト来イ、満身創痍ノオ前ニ我ヲ倒セル訳モ無イガナ」

 既に虫の息となった神狼に自分を倒せる訳が無いと侮り、黒龍はやれやれと言った様子で神狼の一撃を待った。

 それも当然だ、黒龍の鱗はダイヤモンドに匹敵する最高硬度の防御力を誇り、黒龍が傷を付けたられたのは千年生きた中でただ一度だけ。

 つまり黒龍は最強のドラゴンブレスだけでなく防御力にも絶対の自信があった。

 故にこのプロレス式は自分の為にあるようなルールだと喜んでいたし、先攻を引いた時点で勝利を確信し、敗北など微塵も考えていなかった。

 そしてその黒龍の目論見は的中し、神狼には既に死に体であり、反撃する余力も残り僅かとなっていた。



「・・・行くぞ黒龍、貴様だけは必ず地獄に送ってヤル」

「・・・ンン?、勇者ガ居ラヌヨウダガ、・・・流石ニ人間ニアレヲ耐エラレル訳モナイカ、来イヨ神狼、何ヲシタ所デ我ニ傷一ツ付ケル事ハ能ワヌガナ」

 再び黒龍は嘲笑、いや、みすぼらしい神狼の姿を見て一笑した、かつての宿敵が醜態を晒している事に、笑いを堪えきれなくなったからだ。

 ─────故に、黒龍もまた、見誤った。

「ガルルルルルゥ、・・・オレの命に代えテモ、貴様を殺ス、・・・神ヨ、オレに力ヲ・・・」

 捨て身の一撃、それが窮鼠が猫を倒す事も出来る、起死回生の一撃になり得ると。

 神狼の肉体は既に死んでいても、その魂までは死んでいなかった事に、黒龍は気づいていなかったのだ。

 青天の霹靂、雲ひとつ無い月の見える夜天から、神狼の体に一筋の雷が降り注ぐ。

 それにより神狼の肉体は白く発光し、満身創痍でありながら神通力により神々しさを身にまとい、そして残る余力を最期の一撃の為に振り絞り疾駆した。

 ブゥーン。

 空気を切り裂くような音だけが認識出来た。

 それは質量を持たない霊体と化した神狼の突撃、地面を一息で駆けた神狼のその速度は全宇宙最速を誇る光速に迫るものであり、音すらも置き去りにし、衝撃波ソニックブームを纏って突撃するそれは、自傷技ではあるが、一撃必殺にして回避不可の黒龍のドラゴンブレスにも劣らない最強の破壊力を生み出す。

 だが初見の黒龍に、それがどれほど驚異的なものなのかを知る事は能わない。

「グルル、光ッタ所デ死ニカケハ死ニカケ────────」




 直後、隕石が直撃するような衝撃が黒龍を襲う。

 光速で動く質量を持つ物体に貫通出来ぬ物は存在しない、なら光速に準ずるようなその一撃なら黒龍の最強の鎧である鱗すらも貫通する、ましてや黒龍は完全に相手を侮り、防御姿勢すら取っていなかった。

 そんな黒龍の迎えた結末とは、悲惨なものであった。

「・・・バ、馬鹿ナ、捨テ身ノ一撃ダト・・・、コレデハ共倒レデハ無イカ、・・・貴様、我ト心中シテ、ソレデ満足ナノカ・・・」

 神狼の一撃は鱗の無い黒龍の腹部を直撃し、その衝撃で弾かれた黒龍の内蔵は破裂し、黒龍は再起不能なダメージを受けていた。

「・・・ガルル、オレは昔から貴様が気に食わなかったノダ、・・・オレの縄張りを何度も荒らして来た貴様ガナ、・・・壊すしか能の無い獣、畜生と同じ世界に生きる愚か者、そんな貴様に負ける事ダケハ、・・・オレのプライドが許サン、・・・だから死んでも殺ス」

 そして持てる力の全てを使って特攻した神狼も死に体だったが、意地を貫いて立ち上がる。

「・・・ガルルゥ、・・・さぁ来いクソ野郎、・・・来ないなら、・・・オレが介錯してヤロウ」

「・・・グルルォ、・・・ナラ望ミ通リ引導ヲ渡シテヤロウ、死ニ晒セ、・・・消シ炭トナッテナ」

 黒龍は神狼にトドメの一撃を放つ為に、ドラゴンブレスを放とうと息を吸い込んだ。

 しかし神狼も畜生だが只の馬鹿ではなかった為に、こうなる事を予測し、黒龍の肺をきっちり潰していた。

 故に黒龍は上手く息を吸い込めず、激しく咳き込んだ。

「・・・どうシタ、黒龍、・・・まさかドラゴンブレスを吐けないから待ってくれとは言わないヨナ、・・・来ないならオレから行クゾ、・・・どうせ死ぬ身ダ、卑怯とは言うまイナ」

「・・・マ、マテ、神狼、・・・話セバ分カル、ダカラマテ」

 人間から見れば無尽蔵と言えるほどに圧倒的な体力、魔力、生命力を持つ二匹が共に瀕死となり、故に既に状況は、先に一撃与えた方が勝ちとも言えるほどに切迫していた。

 故に神狼も自分の命が窮地に陥って初めて冷静さを取り戻し、この好機を逃すまいとボロボロの体に鞭打って黒龍に一撃加えようと力を込める。





 ───────しかしそこに待ったをかけた人物がいた。

 俺だ、ライアだ。

 全ての賭けに勝って生き延びた俺は、瀕死の二人にトドメを指す為にそこで名乗りを上げたのであった。




「おいおい、俺を忘れてもらっちゃ困るぜ、次は


 ───────────俺の番だろ?」



 黒龍と神狼は信じられないようなものを見るように戦慄する。
 当然だ、人間に黒龍のドラゴンブレスの一撃を受け止められる術など存在しないのだから。

 だが、俺は咄嗟に伏せて、全身を地面に擦り付ける事により、ダメージを後頭部と臀部に留めるという軽傷で抑える事が出来たのだ。
 背中は黒焦げになったが、幸いな事に激痛はあるが欠損はしなかった。

 それは黒龍のドラゴンブレスの的が小さい俺では無く、黒龍に匹敵する巨体を持つ神狼を狙ったからであり、ドラゴンブレスの的は完全に俺を外すと当初の時点で読んでいた。
 そして更に、前に踏み出す事で黒龍の放つブレスの俯角の外に、ギリギリ逃れる隙間が生まれた。
 そして更に更に、神狼が正面から受け止める姿勢を見せた事で黒龍は、ドラゴンブレスの出力を範囲を狭めて威力で一撃必殺する事に特化させた。
 それ故に神狼に的を搾ったその一撃は地面に伏せた俺をギリギリ掠める程度に留めて、俺は最小限のダメージで生き延びる事が出来たのである。

 ここまで上手くいった事は完全に偶然であり奇跡だ、当初の俺の目論見は黒龍と神狼を同士討ちさせて、俺の命と引き換えに村の平和が保たれればそれで満足出来る程度の期待しかしていなかったが。
 だが意志を持って行動すれば何かが起こる、送りバントがホームランになったり、風が吹けば桶屋が儲かるように、小さな行動が大きな結果に繋がる事だって奇跡が起こればある、だからこれは偶然であり必然でもあるのだ。
 俺は全ての賭けに勝利し、そしてここであと一撃加えれば死を迎えるという状況で一撃加える権利を有するという、究極の幸運ラッキーで唯一の勝ち筋を手繰り寄せたのであった。

 後頭部とケツは燃えて焦げているが、正面からは見えない、故にほぼ無傷で現れた俺を見て、黒龍と神狼はド肝を抜かれたように戦慄していた。

「・・・ナ、何故貴様ハ生キテイル、・・・我ノ《バーストストリーム》ヲ受ケ止メラレル人間ナド、・・・有リ得ナイ」

「俺は【勇者】だ、最強にして無敵の存在、その俺をそこいらの人間と同じに思うな、あれくらい受け止められずして、世界を救う役割が担えるか」

 俺は絶望している黒龍と神狼を見て勝利を確信し、ここからはウイニングランだと思いノリノリで【勇者】を演じた。

「さて、先ずはお前からだ黒龍、俺は神狼の一撃を受けていないから神狼は後でいい、「最強」の勇者である俺の一撃で、お前の長きに渡る因縁、怨念、因果、その全てを断ち切り引導を渡してやろう、それがお前の願いなのだろう」

 死にぞこなった自分が自分より強い者と競い、そしてその結果としての死に至ったならば黒龍は受け入れるという、黒龍の行動原理はそこに集約されていた。

 故に俺は自分の強さを誇示する口ぶりで黒龍を最期まで騙してやる。

 自分を倒した【勇者】は、紛れもなく史上最強で、負けて恥じる事の無い存在なのだと欺く為に。

「・・・・・・アァ、我ノ願イハ、・・・ヨウヤク果タサレタカ、永イ、・・・永イ微睡ミノ生涯ダッタ、・・・時ガ経ツニツレテ弱クナッテイク人間ニ辟易シ、アノ時代ニ戻レナイカト何度モヤリ直シヲ願ッタガ、・・・ココデ二度にたびトシテ人間ニ負ケタノナラバ、・・最早我ノ破滅ハ必定ノ定メデアリ、残ス未練モナシ、・・・我ハ運ガイイ、ココデ貴様ニ倒サレタノダカラナ」

 そういう黒龍の顔は穏やかだった。

 それも当然の話だ、黒龍は肉体の衰えこそ無いものの、孤独と退屈により既に精神は耄碌し、摩耗した魂は食う寝る遊ぶの単調な行為を繰り返すだけであり、数年間眠ってはたまに起きて強敵を探す、その変わり映えの無い生に既に見切りをつけていたからだ。

 故に自分の望みであった自分より強い者と出会えたという実感を得た時、黒龍の中に燻っていた未練や閉塞感が霧散し、その一時に確かに宿願が叶い報われたという幸福と絶頂を感じていたのであった。

「・・・勇者ヨ、最期ニ、・・・オ前ノ名前ヲ聞カセテクレ、・・・我ヲ倒シタ、最強ノ男ノ名ヲ」

「ライアだ、勇者ライア、では、黒龍、最期の一撃、いくぞ、俺の最強にして最大、全身全霊の一撃、受け止めてみろ」

 名前を聞いた黒龍は介錯を待つ様に目を瞑った。

 俺は何の感慨もなさけも持たずに、ただ【勇者】になり切って本気の一撃を放った。


「唸れ聖剣!!、ダークネスゥウウウウウ・、ギガ・、ソード・、ブレイクゥウウウウウウウウウウウ!!!!」

 ダークネス・ギガ・ソード・ブレイク、それは名前だけ一丁前にしたただの切りつけである。
 なんの効果も威力も生み出さないが、盛り上げる為の臨場感だけはあった。

 俺は高く跳躍し、その勢いのままに黒龍を袈裟で切りつけた。
 そして黒龍は「見事ダ・・・」と言い残し、満足そうに崩れ落ちた。

 完全決着、誰の目から見ても、俺の勝利に間違いない結末で、俺は俺の運命の戦いを終わらせた。

 だが、自己暗示により自信満々で放った一撃であったが、ダメージが通っていたのかは疑問だった、なぜなら。

「・・・って、剣折れたァ!?、流石に黒龍の鱗にサビサビの刃物が通るハズも無いか、でも黒龍は未練なく逝ったみたいだし、これで万々歳だな!」

 流石にダイヤモンド並と言われるような黒龍の鱗を貫通出来る武器など、魔法による強化エンチャントでも無ければ存在しないだろう。
 しかし黒龍は倒れた。
 それが瀕死で受けた俺の一撃によるものなのか、ただの演出で死を錯覚したからなのかは分からないが、真偽などどうでもいい、大事なのははた迷惑で災害のように脅威であった害獣が討伐され死んだ事。

 この事実だけが俺にとって最も重要な事であり、黒龍が死んだのであれば俺にはもう後はどうでもよかった。

 なので俺は神狼に向けて言ってやった。

「これで決闘は終わりだ、俺は剣が折れて戦えないし、君もその体では立つのでやっとだろう、そもそも俺たちに戦う理由も無い、だから戦いはこれで終わり、それでいいよね、理由も無いのに戦うのは・・・、もう沢山なんだ、これ以上俺に、誰も殺させないで欲しい」

 善人ぶって、あくまで【勇者】らしく「無益な争いはこれで終わりにしよう」、みたいな有無を言わさない雰囲気を演出する。

「・・・貴様からスレバ、オレもまた黒龍と同じ仇敵では無いノカ、・・・ここでオレを生かしておケバ、いつかまた相見える事になるハズダ、・・・それでもお前はオレを見逃すノカ」

 神狼は既に足が震え、立っているのがやっととでもいう状態だったが、そこまで追い込まれても三帝として君臨する者の矜持ゆえか、目は死んでおらず、未だ確かな威圧感を放っていた。

 つまり、神狼は油断も無ければ黒龍のように諦観も無いという事。

 死んでも一矢報いてやるという強い闘争心をこの期に及んでも絶えず燃やしていたのだ。

 しかし俺には瀕死が相手でも、神狼を倒せる道理は無い。

 しかも俺は神狼の一撃を受けていないので、プロレス式も通用しない。

 だから選択肢は上手く煙に撒いて有耶無耶にして終わらせるしかない。

 神狼からすれば俺のせいで縄張りを荒らされて、自分も大怪我を負う踏んだり蹴ったりの状況だが、それをうまく黒龍にスケープゴートしてヘイトをかわして和解しなくては、後の禍根となり脅威となるだろう。

 だから俺は最期まで気を抜かずに、最強で最低の【勇者】を演じ切った。

「たとえ再び戦う事になったとしても、手負いの君を倒す理由は俺には無い、だってそうだろう?、最強は俺、絶対は俺だ、なら君とまた戦う事になっても、俺には恐れる事も断る理由も無い、だから何度でもくればいいさ、何度でも何度でも、君がそうしたいなら好きにすればいい、君が元気になったらまた相手になるよ、でも君は賢いから、そんな無駄な争いなんて好まないよね」

 善人を演じつつも、戦いが無駄だと強調し、神狼が俺と戦う理由が無いと悟らせるように誘導する。

 これが終われば村に帰って自室のベッドで寝て、ついでに“黄金山地”も奪還して村の経済は潤い、フエメとの契約に対しても大きな武器となっていい事尽くしで幸せな未来が待っている。

 そう考えると一刻も早く村に帰ってベッドで寝たいが、あくびを噛み殺しながら笑顔で神狼を諭した。



「──────────っ」



 ライアの言葉を聞いた神狼は、その顔にかつての主の面影を見た。

 いや、よく見れば生き写しだったのかもしれない。

 何故なら神狼の主であるオデュッセウス、彼もまた、詐欺師と呼ばれた勇者なのだから。



 何故か無言で黙り込んだ神狼の様子に、俺は不安を募らせながら、神狼の言葉を待った。

 神狼は無言でじっと俺を見つめたままだ、何か思う所があるのか、それとも俺を生かすか殺すかの処遇を考えているのか、前者であってほしいと願いつつ、神狼が答えるのをじっと待った。





「───────君は賢い子だ、だから無闇な殺生はせず、必要な獲物だけを狩る、だから僕の事は見逃してくれるよね、なんせ僕は明確に君とって得になる存在なんだから」

 神狼はかつて共に旅をして、主として仰いだ男の事を追憶していた。

 彼は人となりは最低だったが、だが話しているといつの間にか全ての者が彼に心酔するような、そんな不思議な魅力を持った男だった。

 【勇者】でありながら争いを放棄し、その地位を利用して貴族から徴収や借用をして借金を重ね、その金で各地を放浪して数々の逸話を残したろくでなしの勇者だったが。

 その冒険の同行者であった神狼にとっては、その道中こそが人生で一番実りがあり、充実感を得ていた青春だった。

 故に懐かしい気持ちで、神狼はライアを見て愁眉に耽っていたのだ。

 オデュッセウスの最期は、【勇者】を騙る偽物として、人間達に魔物の手先だと見なされて追放された。

 借金は多かったが、それでも各地を巡り数多くの武勇伝を残し、そして魔族とも和解して平和な時代を実現させようとしていた。

 だけどそんな彼を王国は、貴族は、人々は、悪者にして見捨てたのである。

 故に神狼は人間が嫌いだったし、【魔王】を倒す事にしか執着しない【勇者】という存在にも辟易していた。

 そして、いつしか【勇者】を見つけてはいたぶる事が趣味になるくらいに、神狼は過去を拗らせていた。

 そんな神狼が黒龍のドラゴンブレスで致命傷を負い、今際の際にライアという、オデュッセウスの生まれ変わりのような男に出会った事は。

 確かに神狼の救いであったし、それ故に何も言う事は無かった。




「・・・オレは逝ク、宿敵が消えた今、この時代にオレの生きる理由もナイ、・・・汝の生涯ガ、悲劇で終わらない事をあの世で祈ロウ、・・・サラバダ」

 と、神狼は天を仰ぐと、直立したまま絶命した。

 俺は何故神狼が黙り込んだのかは分からなかったが、取り敢えず感傷的な雰囲気に合わせて湿っぽく無言を貫いた。

 詐欺師の俺がハードボイルドを気取っても似合わないと分かっていたが、だからと言って早く帰って寝たいと口に出す程野暮でも無いからだ。



「ムートだけじゃなくてフェンも逝っちゃったか、まぁ二人とも亡霊みたいなもんだし、千年も生きたしこの節目が潮時というのも丁度いいか、おめでとう勇者クン、二人を倒した君には、晴れて試練に挑む権利が得られました、わーぱちぱちぱちぱちぱちー!」

 と、ここで野暮な幼女が意味深な事を言いながら現れた。

「・・・ていうか、見ていたなら僕が倒した訳じゃないって分かってますよね、なのでその権利の進呈は固辞させて頂きます」

「残念、それはもう出来ないのです、何故なら今の勇者クンにはちゃっかりきっちりと、フェン神狼ムート黒龍二人分の経験値が入って、【黒龍の因子】と【神狼の加護】を授かっちゃったからね、後はニック鳳凰を倒して【鳳凰の洗礼】を手に入れたなら晴れて試練は達成、とても凄いご褒美が貰えるかもしれないのです」

 この儀によりよく分からないスキルを手に入れたらしいが、それが試練に挑む権利の引き換え券なのだとしたら、どうせスキルに大した効力は無いのだろう。
 そもそもスキルとは経験値に反映されて得られるもの、今回俺はまともに戦っていないので、有用なスキルを得られる条件を満たしていない、故にそのスキルが使えるものかは微妙な話だ。

 むしろ倒してもいないのに勝手に倒した事にされて面倒事を押し付けられたというマイナス要素でしかない。

 とは言え希少なユニークスキルを獲得したなら勝手に消す事もままならないので、取り敢えず鳳凰さえ倒さなければ何も問題無いのならこれ以上ツッコむ必要も無いか、黒龍と神狼がいなくなった今、彼らと並び立つ存在である鳳凰を倒せる生物など、この世のどこにも存在しないのだから。

「・・・取り敢えず、今日はもう帰ります、えっと、良かったら一緒に村に来ませんか、多分これから村は多少潤う事になるので、そこそこいいもてなしが出来ると思います」

 俺は危険な帰り道の護衛をして貰う+賠償の品をセルフで持ち帰って貰う為にそう提案した。

 この幼女が実は鳳凰の化身だったりしたら村がとんでも無い事になるかもしれないが、だが今は「俺」が村に無事に帰還する事の方が大事だ。

 “黄金山地”の奪還という特A級、いや黒龍と神狼を含めればSSS級の極悪任務を達成した今、村の繁栄はほぼ約束された物であり、さっきまでの未来の無い絶望的な状況とは違い、今はいくらでも希望は見えるし、これからどんどん発展していく可能性に満ち溢れている。

 まさに死中に活ありという奴だろうか、この茶番で起こした奇跡により、一発逆転の一転攻勢が起こったのだから。

 故にこの満身創痍の帰り道に魔物に襲われて死ぬという結末オチだけはごめんだった。

「うーんどうしよ、確かに『シャリ・ペリ』で祝杯あげるのも楽しそうだけど、でも、あの村に行くのはなぁ・・・」

「え?、ンシャリ村に来た事があるんですか?」

「昔ね、だってあそこは・・・、ってそう言えば君の剣、あれって魔神を封じていた護封剣の筈だよね、なんであれを君が持っていたのかな?」

 魔、それが幼女がンシャリ村に行きたくない理由なのか、思い出したように食い気味にそこにツッコんで来た。

「ええと、村ではいにしえの悪魔を封じていた護封剣だと言われてたんですけど、数年前に封印が解けていたらしくて、それで親父が村長から剣を受け継いで、俺が親父から剣を貰ったんです」

「封印が解ける?、そんな筈は無いよ、だってあれは牢獄に閉じ込めた魔神の魔力を土地と結界に還元する呪いのような物だから、だから永久的に持つ筈だし、そもそも剣が錆ていた事すらおかしい、・・・君に剣を託した人は────────」

 と、幼女の言葉はそこで中断された。

 ここに来て本日の最高潮を更新するような、有り得ないくらい暴力的な破壊力を孕んだ一撃が飛んで来たからだ。

 幼女の立っていた場所にぶっとい大剣のようなものが突き刺さり、辺りは吹き飛ばされる。



「ククク、いつぞやぶりの現界、シャバの空気美味いなぁ、そして目の前にはかつての宿敵までおる、礼を言うぞ【勇者】よ、お前のおかげで余の封印は解けて、再びこの世に顕現する事が出来た、さてユリシーズよ、久方ぶりの邂逅だな、100年は経ったか?」

「・・・あっちゃあ、そういう事か、これが仕組まれた結果なんだとしたら、仕組んだ人はとんでもない策士だね、・・・久しぶりミュトス、あれから200年は経ったかな」

 詳細は知らないが、状況は飲み込めた。
 つまり、親父の渡した護封剣のに魔ジンは封印されていて、そして俺が折った事によって封印は解けてしまったのだ。
 そして誰が護封剣をサビサビにしたのかは分からないが、その者によってこの状況は仕組まれた事になるらしい。

 なんともややこしくて面倒そうな話だった。

 なので俺は、その伏線やら陰謀やらに巻き込まれない為にも、敢えて空気を無視して発言した。

「あの、魔さん、貴方が封印されていた魔人だというのならば、封印を解いてあげたお礼に願いの二つや三つくらい叶えてくれませんか、多分、そういうのが魔人界におけるルールだと思うんですけど」

 幼女、ユリシーズは雰囲気的に村まで護衛してくれる感じでは無い、なら見た目からして危険な感じだが、助けた恩のある魔人に助けて貰う以外、俺が安全に村に帰る方法は他に無いだろう。

 ちなみに魔ジンも、魔族っぽい雰囲気の、超然としてるが故にどこか世間ズレしている、けれど侮れない威圧感のある幼女タイプだった。
 幼女タイプが得意という訳でも無いが、相手が幼女なら俺が気後れする必要も無いという事だ。

「それは魔人のルールで余は魔であって魔では無い、余はかつて世界を支配した最強の魔王、ミュトス、その余に対して願いを叶えろとは不遜にも程があるぞ」

 魔王ミュトス、聞いた事が無いという事は恐らくマイナー魔王であり、かつ、200年も封印されていたなら生まれた元の時代はそれよりかなり昔の人物という事も考えられる。
 見た目も幼女だし、何より知性と品位に欠ける。
 ミュトスはユリシーズより警戒する必要は無いだろう、であるならば、ユリシーズがいるこの場では、ミュトスを怒らせてもユリシーズに助けて貰える可能性があるので詐欺ってもノーリスク。
 見た目が幼女ならおつむも幼女並かもしれない、俺は態度には出さないが意気揚々としてミュトスを詐欺る事にした。

「なるほど!、神様だったんですね、それは大変失礼いたしました!、ですがミュトス様、ミュトス様が封印を解いた私めの願いを叶えるという事は、これは実はミュトス様の為でもあるのですよ!!」

 大仰な仕草でまるで宮殿の大臣のように恭しく振る舞い、礼儀正しくする事でハイソに振る舞いながら忠言っぽく提案した。
 そんな俺の態度を見てミュトスも、自分が間違っているのかと怪訝な表情を浮かべる。

「お前の願いを叶えるのが余の為になるだと・・・?、どういう事だ」

「聡明なるミュトス様ならご承知の事でしょうが」と、忠臣っぽい枕詞を付けて説明する。

「もしミュトス様が封印を解いた私めになんの施しも労いも無くこの場を去ってしまえば、ミュトス様は封印を解いた恩を返さない恩知らずな者として、次にまた封印されたとしても誰もミュトス様の封印を解こうと思わないでしょう、しかし、ここで私めに手厚く褒美を与えれば、仮に次に封印されたとしても、欲に目が眩んだ愚かな人間や恩を受けた私めの家族や子孫達が、こぞってミュトス様の封印を解くことになるでしょう、ミュトス様が次にまた100年も1000年も封印されても気長に待てるなら私めを放置しても構いませんが、もしもう二度と封印生活を送りたくないと思うのであれば、ユリシーズ様を倒すことよりも、私めに褒美を与える事の方が大事なのです」

「む、むう、確かに余も、また何年も封印されるのは嫌だが・・・、だがしかし・・・、貴様の様な俗物の願いなど、そう簡単に叶えられるものでもあるまい?、金、女、権力、貴様は余に何を望むというのだ」

「たいした物は望みません、というか、自分自身、誰かに叶えて貰いたい願いなんて、大金が遺産で転がり込んで来たらいいなと思うくらいで、基本無欲ッスよ、自分」

「この世で金に執着する人間が一番汚くて低俗だと思うが・・・、しかし困ったな、余はなんの財産も無い無一文だ、そんな余に金をせびられても、無い袖は振れぬ」

「そこは無問題ッス!、ミュトス様なら簡単に楽して大金稼ぐ事も出来ます、だからほんのちょっぴり村で簡単なお手伝いをして頂ければいいだけッスから、どうか私めに救いの手を貸してください!!」

 人間人助けと恩人に対する行動に於いては往々にして甘くなるものだ、故にそこを強調しつつ断わりにくくする為に多少強引に頼み込む。
 ミュトスが腐っても元・魔王だというのならば、その力の使い道などいくらでもある。
 だが今回は俺を無事に村まで送り届けて貰いたいというのが至上命題、というか最優先事項なので、それさえして貰えれば恩返しは建前なので無くてもいい。

 だから恩返しを口実に村まで護衛して貰いたいというのが俺の本心だった。

 プライドの無い土下座で平服した俺の姿に、ミュトスも断りきれないものを感じたのか、渋々と言った様子で頷いた。

「・・・むぅ、まぁまた200年も寝たきりで放置されるのも嫌だしな、仕方あるまい、勇者よ、そなたの願い、叶えてやろう、要は賞金首を狩ったり略奪をして大金をせしめればよいのだろう、余も久しぶりの現世を満喫する為に先立つものが欲しい、利害の一致という事でそなたの願いを叶えてやろう」

「!!、ありがとうございます偉大にして寛大なるミュトス様!!、勇者であっても分け隔てなく手を差し伸べられる貴方こそ、まさしく神の中の神、ゴッドインゴッド、この世の頂点に君臨するに相応しいお方、一生ついていきたいです!」

 まぁ現実的にミュトスに稼いで貰うとしたらその有り余る怪力を使ってもらい“黄金山地”の炭鉱夫として肉体労働系の採掘をして貰う事になると思うが。
 そこは今言うとまだ反故にされるタイミングなので黙っておく。

「うわぁ・・・、ミュトスが乗せられやすい性格だと一瞬で見抜いて籠絡するとは、勇者クンってやっぱり策士だね・・・」

 ユリシーズは一瞬でミュトスに取引を持ちかけ合意させた俺の手腕を見て冷ややかに引いていた。
 ユリシーズの言いかけていた伏線や陰謀は気になるものの、まぁ、君子危うきに近寄らず、俺が自分からその策略に加担、及び真相を追求する理由も無いので、円もたけなわ、とは違うが、ここいらで解散してもいいだろう。

「それではええと、ユリシーズ様・・・」

「ユリシーズでいいよ、勇者クンは特別だからね、それに私は神を自称するほど思い上がってもいないし」

「ほざけ、余は一対一なら決してお前に遅れを取ったりしない、そもそも余は【魔王】から転生したれっきとした【魔神】だ、お前のように【勇者】から何に転生したかを隠しているような不逞の輩とは違う」

「まぁ、私はそもそも【勇者】だなんて自分で名乗った事は一度も無いんだけどね、それを勝手に勘違いして張り合われても迷惑というか、・・・とにかく、勇者クン、君が解き放ったんだ、ミュトスの責任は君が見てよね」

 元【魔王】と、【勇者】と呼ばれた者、それが二人の関係性なのだとしたら、その因縁も深そうで浅いものなのかもしれない。
 だとすると、二人をこの場に引き留める理由も無いだろう。

「はい、偉大なるミュトス様のお世話はお任せください、ミュトス様には村を救ってもらう訳ですから、ミュトス様は村の英雄、であればもてなし、お世話をするのも当然の事・・・!、では行きましょうか、ミュトス様!!」

 俺はユリシーズに後ろ髪引かれているミュトスの手を掴むと強引に引いて行った。

「お、おう、強引だな、・・・ユリシーズよ、その首を取るのは次の機会に預けておく、首を洗って待っているんだな」

「ばいばい勇者クン、君の未来に波乱と試練が多い事を祈ってるよ」

「・・・平穏と無事を祈ってはくれないのか」

「あ、そうだ勇者クン、忘れ物だよ」

 と、ユリシーズは思い出したように俺にカードを投擲した。
 それは俺のライセンス、レベル7と書かれた【モンク】の偽造品であった。
  いつの間に落としたのかはしれないが、これを見ても俺を勇者と呼ぶのであれば、ユリシーズの審美眼は本物なのだろう。
 俺は礼を言うとライセンスを懐にしまった。

 そんなこんなで俺は黒龍の討伐という偉業を成し遂げて、焦土と化した“失われた聖域”から離脱した。

 ちなみにそこから村まで徒歩で約半日くらいの時間がかかった為に、当然の如くミュトスはまだ着かないのかと俺に抗議したが、俺は村に関連するすべらない話や、村にある特産品など、楽しみのある話題で村に興味を持たせる事によってなんとか場を繋いだ。

 道中危険な魔物は数多遭遇したが、魔物は人間よりも敏感に感じ取れるのだろう、ミュトスの持つ禍々しく強大なオーラの前に一目で退散していった。

 一番気になるのはミュトスが何故村に封印されていたのかという話だが。

 俺は陰謀も伏線も無視して、全てが終わったら村から蒸発してほとぼりが冷めるまで街でバイトして一人暮らしするか、適当に王都周辺まで周遊しに行くと決めているので、看過できない事情があると分かった上で無視した。

 こうして俺は大仕事を終えて、その帰路で事故に遭う事もなく無事に村に帰還したのだった。

 取り敢えずはめでたしめでたしという訳である。
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