【勇者】が働かない乱世で平和な異世界のお話

aruna

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第2章 〇い〇く〇りん〇ックス

第5話 いつか「その日」の約束に答えは出るだろう

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 いつもの如く、家族団欒と三人で硬いパンとじゃがいもと人参の薄味のスープだけの質素な食事で晩餐をしていると。
「そうだ」と、親父が思い出した風に、俺にとっては凶報となる話題を切り出した。

 ちなみに黄金山地の利権の殆どは、黒龍の討伐の手柄を俺個人からフエメに譲渡した事と、フエメが一人で村長やサマーディ村との調停をして利権の分配をした事も相まって、ンシャリ村は還元されるほどの取り分は貰えていない為に、村人の生活は質素なままだった。

 父さんと母さんが借金苦だった事からも分かるように、俺が渡した200万も借金の返済で帳消しとなったので我が家の晩餐が向上するような変化なども無く、いつも通りの質素で寂しい晩餐だったが、それでもいつも通りの仲良く団欒の時間になるはずだったのだが、親父の切り出した話題は、それを打ち砕くものだった。

「そういえば、そろそろの時期だけど、ライア、多分、今年徴兵されるのはお前だぞ」

「え・・・・・・?」

 ぼとり、と、俺は口に含んでいたじゃがいもをスープの中に出戻した。

 いや、村の若者はほとんど徴兵されていなくなってるし、成人した俺が徴兵されるのも当然の話ではあるのだが、それでも俺は抗議せずにはいられなかった。

 徴兵の帰還率は半分にもみたない、ここ数年で言えばゼロだ、故に俺みたいな劣兵が無事に帰ってこられる可能性は低いと言わざるを得ないだろう、だから徴兵なんて絶対に嫌に決まっていた。

「ま、待ってくれよ親父、今は黄金山地で大金を得ている筈だし、その黄金山地を奪還した影の立役者である俺を、徴兵なんかで取られていいものなのかよ!、確か、金払えば免除される筈だろ?、今なら村長だって俺の為に金払ってくれるだろうし、なんとか断ってくれよ!」

「・・・いや、それなんだがな、村長じいさんは自分も先は長く無いし、唯一の生きがいだったクロっちもの家に取られちまったし、だったら残った財産は全部次の村長に預けて、自分は引退すると言ったんだ、お前の事も一応きにかけてはいたが、まぁ黒龍を撃退したお前なら、徴兵されてもなんとかなるだろうと、この間の会議でも満場一致でお前を徴兵に出すって話なったんだ」

「・・・満場一致って、親父は反対してくれなかったのか?」

「100万貰う前だったし、あの頃のお前は【モンク】になったにも関わらず、勤勉さや誠実さは皆無のクズ野郎だったからなぁ、村のマドンナであるメリーさんを独り占めしていたお前が嫉妬や恨みを買うのも、必然っちゃ必然だし」

「なら仕方ないか・・・、分かった、フエメに借金してでも金を作るから、徴兵の免除にいくらかかるか教えてくれ、なんとかかき集めるから」

 と、言いつつも、俺にはまだ700万もの隠し財産があるし、金の心配はして無かったが。

「・・・いや、それなんだがな、どうやら戦局がかなりヤバくなってるらしくて、徴税もキツいが徴兵もかなりヤバい事になってるらしい、噂では少年兵も志願すれば受け入れるレベルだとか、だからお前が徴兵を金で免除して貰うのは多分無理だろうな、だって村には他に徴兵出来る若者がいないんだから」

「・・・じゃあどうすれば俺は徴兵を免除出来るんだよ?、諦めるしか無いってのか?、徴兵されるくらいなら、俺は王都で物乞いやってでも逃げるけど・・・」

「そこで、俺と村長が一計を案じた訳よ、まぁこれが実現するかはお前次第な話ではあるが・・・」

「一計?、徴兵に来た役人を騙すとかそういう事か?」

「いや、さっきも言ったが村長じいさんは引退を考えてる、そして、もうすぐ闘技祭の時期だ、この村は武力こそが全てに於いてモノを言う村、つまり・・・」

「俺が闘技祭で優勝すれば次期村長に推薦されて、村長である俺は徴兵されない、親父と村長は八百長でトトカルチョをして丸儲け、そういう事か」

「そういう事だ、まぁトーナメントを工作したり、八百長を仕組んだりは出来るが、予選を勝ち抜いたり、優勝出来るかどうかはお前次第だが、お前を救うにはそれしか無いって話だ、どうだ、やれるか?」

 俺は元々、この村に骨を埋める気でいた。
 村長になって役人を騙したり村人達をうまく管理出来るかは不安だが、まぁ今回は徴兵を免れればいい話だし、俺が村長になってどうするかは後から考えればいい。
 そもそも、脱税体質だったンシャリ村はサマーディ村から憎まれて蛇蝎の如く嫌われている。
 そこでサマーディ村の支配者フエメと唯一パイプを持っている俺がこの村の村長になるというのも、客観的に見れば最適手と言える采配と言えるだろう。

 それに、村長になれば、徴収した税金を横領して脱税する事で不労所得、真のベーシックインカムが手に入る訳だし、俺の一生楽して暮らすという目的とも合致している夢のような職業でもある。

 考えれば考える程に俺にとってはメリットしかない話だし、俺はこんな素晴らしい一計を案じてくれた親父と村長に感謝するとともに、こんな素晴らしい一計を案じて貰える自分は特別な存在なんだと嬉しくなった。

「ありがとう親父!、俺、頑張って闘技祭で優勝するよ!!」

「・・・でも、本当にライアに優勝できるのかしら?、だって今年は・・・」

 と、そこで母さんが不安そうに疑問を言葉にした。

「【軍師】のクロの事?、大丈夫だよ母さん、だってクロはサマーディ村のフエメさん家の子供になった訳だし」

「・・・だから、黄金山地が開放された記念に今年はサマーディ村と合同で闘技祭をやる事になったから、いつもみたいに八百長するのはすごく大変なんじゃないかなって」

「・・・え?」

「・・・まぁ優勝はキツいだろうが、サマーディ村からの参加者を村長にする事は出来ないからな、村の中で一番だと示せばそれでいい、だから、やりようはあるさ、多分」

「これ、クロが村長なるとかそんなオチだろ、絶対・・・」

 そう口にしつつも、勝たなければ徴兵されてしまうので、俺は今日から少しでもレベル上げに勤しんで、絶対優勝しようと己を奮い立たせたのであった。





 翌日、俺はこのままでは徴兵されてメリーさんと離れ離れになった挙句二度と会えなくなるかもしれないとメリーさんに事情を説明したが。
 それに対して「黒龍すらも撃退した【勇者】のライアさんなら、徴兵されてもなんとかなりそうですけど」と親父と似たような感想が帰って来た。
 しかしこのままでは「メリーさんが処女のまま30歳に到達してしまう」と返すと、メリーさんは顔を赤くしながら何か手伝える事はないかと聞いてきたので、そこで俺は少しでもレベルを上げてステータスの底上げをする事を手伝って欲しいと頼んだのである。

 こうして俺は、凶悪な魔物の居なくなった“殺戮の森”、“黄金山地”を抜けて、凶悪な魔物の住処である“失われた聖域サンクチュアリ”までやってきた。
  ここも黒龍の最強のドラゴンブレスによって焦土と化した黒龍の爪痕の残る場所であったが、黒龍が焼き払ったのは闘技場の周りが中心なので、廃墟が残る場所には魔物も残っていたし、聖域に辿り着いた瞬間に凶悪な魔物に襲われたのであった。

「うぅ・・・痛い、痛いよぅ、・・・メリーさん、早くヒールかけて」

「水の精霊よ、加護を授け、我らの傷を癒せ、《ヒール》、どうですかライアさん?」

「うぅ・・・、収まりました、はぁはぁ、・・・メリーさん、今更疑うのもアレですけど、俺って本当に【勇者】なんですか?、一度はカンストした筈なのに、Bランク相手とはいえ魔物の突進如きで瀕死になる【勇者】なんておかしくないですか?」

 【勇者】は最強にして無敵の存在、常勝無敗にして黒龍や神狼のような神代の三帝以外には1度も敗北した事の無い、人類の救世主の筈なのだが。

「間違いなく【勇者】です、これについては疑いようも無い話なのですが、ですがクロさんは魔族というのもありましたが、最初からオールD近くのステータスで、レベルに比例してステータスも向上したにも関わらず、ライアさんは【詐術師】レベル99の時でさえもステータスはオールEで、それは【勇者】になっても変わりませんでした・・・」

「え・・・、じゃあもしかして俺、一生このままって事なんですか、どれだけ頑張っても、ステータスは一生上がらないって事なんですかっ」

「・・・分かりません、ただ、ステータスは全く上がりませんでしたが、スキルに関しては違います、普通はスキルなど獲得する事も稀で、レアスキルなんて一つでも持っていればすごい事なんですが、ライアさんはレアスキルを既に10個以上持っています、魔王であるクロさんが【超学習】【覇者の大号令】【不死身の肉体】【魔王の誘い】【火事場の底力】の5つである事を考慮すれば、倍以上持っているライアさんは間違いなく勇者だと言えます」

「レアスキル・・・、何の効果があるかも分からない【黒龍の因子】と【神狼の加護】は知ってますが、他には何があるんですか?」

「ええと、どれもレア過ぎて効果とかは知らないんですけど【魔物使い】【金価の雄弁】【貧者の一撃】【愚者の乾坤一擲】【万死に一生】【天命知らず】【最強喰い】【ドラゴンスレイヤー・偽】【擬態EX】【蟷螂の威圧感】…。
 多分ですけど、ライアさんはステータスが上がらない代わりにスキルだけ貰えるとか、そういうレアな成長をするタイプなんじゃないかと思います」

「・・・なんか、【覇者の大号令】とか字面だけで強そうなのと比べるとちょっと微妙そうなのばっかですけど、でもレアスキルばかりなら、普通よりは強くなってる可能性はあるって事ですかね?」

「・・・分かりませんが、でも、こんなに異常な成長するって事は多分、紛れもなくライアさんは【勇者】の末裔として生まれた【勇者】の器であり、だから【勇者】としての素質も十分にあるって事なんだと思います」

「うーん、Bランクのヘルサウンズチキンに勝てない勇者なんて本当に勇者なのかって感じですけど、この感じだともしかしたら、俺の持ってるスキルが原因で弱体化されてる可能性もありますね、確か、【なまけ】とか【スロースターター】みたいな自分にデメリットしかないスキルだってありますよね?」

「・・・ええ、両方ともライアさんは持ってます、あと、【力配分】と【ムラっけ】も」

「・・・・・・・・・、えぇー・・・・・・・・・・・・」




 その後、俺は黒龍たちと戦った闘技場のような場所に行き、持ってきたユリシーズへのお詫びの品であるワイン、「シャン・ペリ」の入った樽をユリシーズに渡しに行こうとしたのだが、その道中にてユリシーズと遭遇した。


「あ、勇者クーン!、久しぶりー、相変わらずよわよわだねー、ダメだよもっと鍛えないと」

 彼女の名はユリシーズ、見た目は幼い幼女だが、その外見に反して圧倒的な存在感と神々しさを放つ、幼女の魔神であるミュトスと並び立つような存在。
 先日の黒龍退治の時に軽く会話した程度だが、ミュトスと違いユリシーズは俺の事を覚えてくれていた。

「精進します、それでユリシーズ様、こちらが約束の品である「シャリペリ」です」

 シャリペリとはンシャリ村産の、ワインの王様シャンペリの俗称である。

「おお、これが、わざわざありがとう!、これだけあれば1年はお酒に困らないね、うん、じゃあこれでこの間の事はチャラって事でいいよ!、それと、勇者くんの村に行ったミュトスは元気?、私としてはそのまま村で永住しててくれたら、私としても大分楽なんだけど・・・」

「こちらとしてもそうしたい所なのですが、ミュトス様はユリシーズ様に対する敵愾心が強く、いずれはユリシーズ様に下克上をする事を目標としている故に、簡単には手なずけられないものです」

「そっかー、まぁ、ミュトスからしたら、私が世界で唯一の因縁の相手になる訳だし、今更他のものを目標にするなんて出来ないよね、勇者くんが世界最強の勇者として、この世界を支配してミュトスに挑むとかしてくれない限りは」

「それは無理ですね、多分志半ばで諦めます。
 ・・・それと、ユリシーズ様、一つお尋ねしても宜しいでしょうか?」

「なに?、いいよ、勇者くんの頼みだし、オデュッセウスの冒険譚から、ミュトスの誕生と封印まで、聞きたい事にはなんでも答えるよ!」

「いえ、それはまた、俺が世界を支配してユリシーズ様に挑む機会にでも・・・、俺が聞きたいのは、何故ユリシーズ様は、最初から俺の事を【勇者】と呼んだかという事です、あの時点での俺は【勇者】では無いただの【詐術師】、なのに何故ユリシーズ様は俺を【勇者】と呼んだのか、その意味を聞いてもよろしいでしょうか?」

「ああ、その事、単純な話だよ、ねぇ勇者くん、君は【宣告】とは作為と不作為、どっちだと思う?、教会は完全ランダムを謳って、転職する時だけスキルと経験値の影響を受けるって事にしてる訳だけど、勇者くんはそれについてどう思う?」

「俺は・・・、作為と不作為、どっちもあるんじゃないかと思ってます、だってメリーさんは、【勇者】【魔王】【聖女】、世界に1人しかいないはずのレアジョブを1人で3回も引き当てた、これで作為が無いと断言するのは、流石に無理がある話ですから、でも、不作為な部分もきっとあると思います、だってそうでないと説明出来ないような理不尽な宣告だってある訳ですし」

「そう、作為と不作為、両方ある、でも【勇者】と【魔王】については昔から「世界の中心にいる人間」に勝手に与えられた称号だったし、【聖女】という役割も最近作られたもので、その役割は【勇者】と【魔王】に対抗して天下を三分する為の存在だし、だから単純に、乱世を望むがいて、その誰かの作為で君は勇者に選ばれた、だから君が勇者になる事は、黒龍に挑んだ時点で運命だったし、それが君の血に流れる宿命でもあった、そういう話だよ」

「血の宿命、ですか、まぁ王族であるディメアが【姫君】の役割を授かっている訳ですし、血統による作為は存在するという事ですね・・・」

「そういう事、だって、・・・こんな事あんまり言いたく無いけど、蛙の子は蛙で、虎の子は虎で、魔族の子は魔族でしょ、血には運も才能も宿命も秘められている、だから、何の因縁も持たない人間が、世界の中心である【勇者】や【魔王】に選ばれるような、そんな道理は無いって話なんだよ、だって血の宿命だけで勝手に敵が増えていった方が、にとっては都合がいい話なんだし」

「・・・でも俺は、救世主になんてなりませんよ、だって、魔族の事、嫌いじゃないですから」

「それならそれでいいんだよ、聖女ちゃんも似たような考えで魔族を保護してる訳だけど、そのせいで人類は人間同士で争うようになった訳だし、結局、君が誰の味方をしても、誰かが敵になってくれるから、それで物語は綴られるからね」

「・・・じゃあつまり、絶対世界は平和にならないって事ですか?」

「さぁ、それは私には分からないけど、でも世界のどこかに平和な世界があったとしても悲劇の無い世界は存在しないし、そして、この世界は平和じゃないけど、そこまで悲劇的でも無いよね、だって、絶対権力者の機嫌ひとつで、命を買われたり虐殺が起きたりはしないし、戦争があるから下克上や成り上がりの期待も出来る訳だし、だから、平和が一番っていうのは所詮、食料や薬や田んぼの水源に不自由してない人間の、驕った感想でしかないって事だよ」

「・・・戦争があるから人は平等でいられる、か、・・・確かに、貧しさで死んだり、飢餓で死んだりみたいなのは、ただ押し付けられた理不尽ですもんね、そう考えると乱世には乱世の道理があると、それが平等だという事なのも分かります」

 この世で最も残酷な格差とは、毒と薬を見分けられないような知識の格差だと俺は思っている。
 そういう点で言えば乱世の今は全ての人間が「兵力」という単位で尊重されて、宣告で当たり職を引けば優遇されるという点でもそこまで不公平さを感じないようにも思えた。
 これが治世ならば、貧しい人達は毒を薬だと騙されて買い、金を払って疾病を患うような、タバコ、阿片、水銀中毒にさせるようなブラックビジネスで毒と薬を買い知らず知らずの内に搾取される訳だし、村人は用途も知らずに領主が贅沢をする為の重税を課されたりもする。

 どう考えても治世の方が理不尽に救いが無いし、それは人間を家畜や餌として扱うような非道な話だ。

「ま、私は別に乱世でも治世でもそんなに気にしないけどね、治世で世の中の文化や娯楽が発展するのを見るのも楽しいし、ただ、ミュトスみたいに、闘争と暴力の世界でのみ生の実感を得られる戦闘民族みたいなのもこの世にはいるって話、だから、どっちが正しいかなんて考えるだけ無駄なんだよ、きっと」

「闘争もまた生物の本能、なんですかね、他者より上へとか、我こそは王だとか、弱者は死すべし、とか、そういう自分本意な理屈を振りかざすのもまた、人の業であるが故に」

「生物の本能、どうだろうね、全ての戦争が作為か不作為かなんて、これも想像で語るしか無いわけだし、ただ、戦争になりそうな時に戦争をしたい人間としたくない人間がいる、だからきっと、これも両方正しい事なんだよ、勇者くんは、?」

「・・・俺は、何もしたくありません、俺の行動で誰かが死んだり悲しんだり恨まれたり、そういうのは本当に嫌なんで、だから、戦争は俺のいない所で勝手にしてくれればいいし、仮に俺が誰かと戦う時が来たとしても、それは100%自分の為です、大義とか理想とか掲げてる癖にその手段が武力による制圧とか馬鹿げてる、それなら潔く最初から独裁者を名乗り出て戦争しろって話ですから」

「そっか、・・・じゃあ勇者くんの独裁国家が出来る日を楽しみにしてるよ、その時は私のと戦ってね」

「・・・つまり、舞台を用意してるって事ですか、・・・じゃあ気長に待っててください、いつかはミュトス様とともに挑みにくるので」

「・・・まぁ、勇者くんが私を楽しませてくれるうちはね、気長に待つ事にするよ、でもこれ、約束だからね」

 そう言ってユリシーズはクロより更に小さい手を差し出して指切りを要求して来た。

「・・・俺の軍勢が貧弱だったとしても、文句言わないでくださいね」

 ユリシーズの戦力がどんなものかは分からないが、だが仮にミュトスとクロを配下に出来たとしても、ンシャリ村の戦力などたかが知れてるし、戦争と呼べるような戦いにはきっとならないだろう。

 俺は「その日」がいつ来るのか、どんな風に来るのか、何故来るのかを夢想しつつも、「その日」が来なければいいなと平和主義に日和っていたのであった。

「ああ、それと───────」

 ミュトスは思い出したように声を出して俺を引き止める。

「なんです?」

「『女王』の目覚めの日は近い、ほら、聞こえるでしょ、地の底に木霊する悪魔の声が   
 ─────────」

 本能的に恐怖を感じるような悪寒。

 遠くから、悪魔のうめき声が低く反響していた。

 それを聞いた俺は一目散にメリーさんの手を引いて、“失われた聖域”を後にしたのであった。
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