泡沫のゆりかご 二部 ~獣王の溺愛~

丹砂 (あかさ)

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本編

第6 雨季の時期 6

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「午後からは訓練棟に向かう。そこでお前には近衛隊の訓練を手伝ってもらおう」

「私がですか?」

近衛隊といえば、最強種族である黒族の中でもギガイの直近に控える武官で、戦闘に特化しているとラクーシュ達から聞いていた。

そんな人達を相手に最弱種族でしかない自分が役に立つのだろうか。驚いた顔で見上げたレフラの頭を、ギガイの大きな掌がクシャッと撫でてくる。

「あぁ、だが剣などではなく、お前は逃げるか追うだけでいい」

「逃げるか追いかけるだけですか?」

それはどういう訓練なのだろう。

「互いに付けた鈴を回収するだけの訓練だ。だが、お前の俊足や身の軽さには、あいつらでもなかなか捌くことも追いつくことも難しいだろう。それだけでも十分訓練にはなる」

「まるで、鬼ごっこみたいですね。やった事がないので楽しみです」

子どもの頃に跳び族の村で、他の子ども達がやっていたことを思い出す。

「鬼ごっこか…まぁ、そうだな。だが、捕まえられなかったで済むわけではないからな、その後のペナルティで加算する訓練を考えたらあいつらも必死になるだろう」

「そ、そうなんですか……」

たしかに最強種族内の戦闘特化の部隊が「かないませんでした」では済む話ではないのだろう。

加算される訓練がどれだけツライものかは分からない。でも、視線の先にいる3人の顔が明らかに引き攣っている状態なのだ。レフラが “楽しみだ” なんて言っていられるようなものではなさそうだ。

そうなると、レフラだって全力でかわすことが躊躇ってしまうようだった。

「あぁ、だがお前も手加減してやろうとは思わない方がいいぞ。本当はお前の姿を他へ見せるのも癪だからな」

そう言ってギガイが言葉を切って唇を耳元へ寄せてくる。

「それなのに、触られて鈴を取られたりなんかしたら、お前にも仕置きが待ってるぞ。そうならないように必死になれ」

直接吹き込まれるような低い声音と吐息が耳殻を掠めていく。まるで交わる時を思い出させるようなその状況に、レフラの腰がゾクッと疼いた。

とっさにギガイから距離を取ろうと試みる。だが、そんな動きは予測していたのだろう。すぐに腕を捕まえられて引き戻され、ポスッと隠すようにギガイの胸元に埋められた。

その顔の熱さから、真っ赤に染まっているのが分かるようだった。

人前でこんなことを言わないで欲しい。そう抗議をギガイへやりかけて、言われた内容を反芻する。

ようやく理解が追いついた言葉の中身に、今度は顔が青ざめていくようだった。

「ギガイ様、じょうーーー」

「冗談じゃないぞ。もういい加減分かるだろ?」

その言葉にもう1度、血の気が引いていくようだった。

「ほら、この後はハードになるからな。体力温存の為にも少しは寝ていろ。最近あまり寝ていないだろ」

そう言って抱き上げられていた身体を始めの足の間に降ろされる。

でも眠っていないのはギガイだって同じなのだ。それなのに自分だけ寝てしまうことはどうしても申し訳なかった。

リュクトワスから受け取った掛布がレフラの身体を包み込む。皆が仕事に戻る中、1人だけ休み始める違和感にレフラは横になることができなかった。

「いいのか? 休まないまま体力切れになると、お前の負けになるが?」

だけど、そう言ってニヤリともう一度笑われてしまえば、レフラは慌てて身体を横にするしかなかった。
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