泡沫のゆりかご 二部 ~獣王の溺愛~

丹砂 (あかさ)

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本編

第5 雨季の時期 5

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いままで色々な感情を押し殺してきたのだと分かっている。そんなレフラからの懸命な訴えを聞いてやりたいとは思っている。だが。

「私の目の届く範囲で、お前に任せきれること……」

黒族長であるギガイの行う執務は政の中核なのだ。手元にある仕事はおいそれと振れるような仕事ではない。

逆を言えば気軽に依頼できそうな仕事ほど、ギガイから離れた場所に存在している。そんな仕事をレフラへ割り振るなど論外だった。

「……申し訳ございません。そうですよね、やりたいで出来るものでもございませんね。子どものお使いでもないんですから……」

恥じ入るように頬を紅く染めて俯いてしまうレフラの頭をギガイが一撫でした。

「ちょっと待っていろ」

手元にあった鈴を鳴らす。退出を命じられていたリュクトワスやアドフィル、いつもの3人が数分も経たない内に入室してくる。

「今日の近衛隊の鍛錬はどうなっている?」

「午前中は第1と第4部隊が外で雨天時の基礎訓練を、第2と第3部隊が訓練棟で模擬戦です。午後はその逆が予定されております」

事前に確認していたのか、すらすらと回答が出てくるリュクトワスにギガイが呆れたような目を向けた。

「お前の聡さが時々、空恐ろしくなる」

「いえ以前、レフラ様の俊足を拝見した時から思っていた事でしたので、思惑がちょうど一致しただけでございます」

「いまの状況で私が抜けられる時間は?」

「あちらでそのまま書類を捌いて頂けるのでしたら、だいたい2時間程度かと」

ギガイの言葉へ今度はアドフィルの方から即答が返ってくる。何の確認もないまま「この書類です」と書類の束まで差し出してきたアドフィルに、ギガイが顔を少し引き攣らせた。

「お前もか…」

「レフラ様とご一緒の時には、表情等からも推測ができますので」

「私と一緒の時は、ですか?」

なぜそこで自分が絡んできたのかが分からないのだろう。レフラが不思議そうな顔でアドフィルの方を見つめていた。

「レフラ様とご一緒の時には、いつもに比べて格段に表情が豊かでいらっしゃるんです」

「……アドフィル、余計な事は言わないでよい」

渋い声で発言を止めるギガイへアドフィルが強ばったような顔ではなく、苦笑染みた顔で「失礼しました」と一礼を返す。

「お前まで、最近リュクトワスに似てきていないか?」

そんなアドフィルへ「まったく…」と言いながら、ギガイがリュクトワスへ視線を向ける。だが肝心のリュクトワスは口許に笑みを浮かべたまま、その目を飄々と受け止めるだけだった。

「では午後はご不在の2時間ほど、対外的な件についてはリュクトワス様で、内部的な事は私にて連携致します。レフラ様の護衛のこの3人を、こちらと訓練棟での連携に動かすということでよろしいでしょうか?」

「あぁ、そうしろ」

ギガイがそう言って頷いて見せた。
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