泡沫のゆりかご 二部 ~獣王の溺愛~

丹砂 (あかさ)

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本編

第74 雨季の終わり 6

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「部下共の軟弱さも話に成らないが、何よりもお前をあてにする輩の存在に腹が立つ」

ブツブツと「私だけの御饌だというのに……」と続けて文句を言っているギガイの姿に、レフラは一瞬キョトンとした。ゆっくりと言葉の意味が染み込んでくるのと一緒に、じわじわと笑いがこみ上げてきて。

「……プッ、……ック……ッ!」

ついには堪えきれずに吹き出してしまった。そんなレフラへギガイが不機嫌そうに眉を寄せる。いつもなら不安になるようなその表情も、今はお気に入りの玩具を取られた子どもが、ふてくされているように見えてしまう。

冷酷無慈悲と言われる黒族の長を可愛い、と思う日が来るなんて。

(昔の自分が聞いたら、卒倒してしまいそうですね……)

そんなことを思いながらも、やっぱり可愛くて仕方がない。でも、一晩中教え込まされたギガイの悋気を思えば、そんな笑いごとじゃないのだろう。

レフラはどうにか笑いを引っ込めて、ギガイの方へ手を伸ばした。でもレフラの態度にギガイの機嫌をかなり損ねてしまったのか、その手を一瞥しただけで、今度はギガイがスッと視線を逸らしてしまった。

ずっと快感に翻弄され続けた身体は、いまだに力が入らない。レフラの方からは動きようがないのだから、何をするにしてもギガイが動いてくれるのを待つしかない。

一見するとひどく不機嫌そうに見える姿でも、伝わってくる雰囲気や一瞬向いていた視線にも、冷たさは全く感じなかった。添えられた掌もさっきと変わらない力で、レフラの身体を支えている。

そんな端々から優しさが感じられていた。それにこんなに愛されているのだ。誰よりもレフラを愛しんでくれるギガイだから、悋気さえも嬉しくて、愛おしくて、幸せで。不安になんて今はなりようがなくて。レフラはそのままギガイの方へ手を伸ばし続けていた。

フワッと微笑みを浮かべたまま、手を向け続けるレフラの方へギガイの視線がチラッと向けられる。ガシガシッと頭を乱暴に掻いた後、諦めたようにギガイがその手に顔を寄せた。

(野生の獣が自分から、近付いて来てくれるのを待つみたいだ……)

ギガイに知られてしまえば、ますます機嫌を損ねそうなことを思いながら、レフラはまたフフッと小さく微笑んだ。素直に折れて、レフラのやりたいようにさせてくれるギガイに胸の中が暖かくなる。

首に腕を絡めて、頬や眦、額や鼻先、いたる所にレフラがキスを落としていく。

「ギガ……だけ……。受けいれ……るのも、こんな……ふれる……のも……」

まだ不慣れなキスを唇にも落として、何度も啄みながら心を精一杯伝えていく。誰の中でも揺れることなく想っているのだと、しっかりギガイへ伝わるように、ギガイだけなのだと、何回も言葉を繰り返す。

そんなレフラからの言葉や態度に、ギガイの表情が和らいでいく。

「……そうか。だが、せっかくのお前の言葉だというのに、声が嗄れていて残念だ。また喉が治ったら聞かせてくれ」

声が嗄れる原因となった張本人が何を言っているのか。呆れながらも、柔らかな眼差しで強請るギガイの表情に。

(仕方ないですね……)

苦笑をしながら、レフラはコクッと頷いた。
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