泡沫のゆりかご 二部 ~獣王の溺愛~

丹砂 (あかさ)

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本編

第108 窮兎、狼を噛む 4

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「……分かった。で、どうしたいんだ?」

まさか、ギガイが取った方法と、同じ事を望むとは思えない。

「……えっと……」

だけど、とっさの思い付きで、出た言葉だったのだろう。
言い出したものの、内容までは考えていなかった、という感じで、レフラが答えに詰まっていた。

チラチラと視線を向けてくる、レフラの頬や眦を拭っていく。
あんなに怒っていたはずなのに、無防備に目を瞑って、拭う指先を受け入れる姿に、愛おしさが増してくる。

乱れた髪も手櫛で整え、背に回した腕で引き寄せ直せば、さっきのように腕を突っ張って拒絶する様子はなかった。

もう1度、安堵の息を小さく吐き出して、首元にあるレフラの頭に顔を寄せる。だがそのタイミングで何かを思いついたのか「そうだ!」と、言ったレフラがギガイの首元からガバッと身体を起こした。

「明日ギガイ様は、私を抱えちゃダメです!」

キラキラした目で見つめてくるレフラに、ギガイが眉を寄せた。

「何を言っている、それはダメだ」

「だって、イヤな事じゃなきゃお仕置きにならない、ってギガイ様が言ってました!」

「いや、それとこれは別だ。お前を離すのがイヤだから、という事では無く、安全を考えてーーー」

「えっ、別にイヤじゃないんですか……」

ギガイの言葉に勘違いしたのだろう。ショックを受けた表情のレフラに、またギガイが慌て出した。

「いや、ちょっと待て! だから、そうやって悪い方向へ結論を急ぐな! そういう事じゃなくて、安全性の問題があると私は言っているだけだ」

「それじゃあ、私が離れるのはイヤですか?」

「あぁ、当たり前だろう」

もし何も感じないのなら、そもそも安全なはずの宮の中でまで、抱き上げたりはしなかった。
大切で、愛おしくて。いつでもその存在を感じていたい、と思うからこそ、ずっと腕の中に抱えていたかったのだ。

「それなら、やっぱり、それにします!」

「レフラ!」

嬉しそうに笑うレフラに、ギガイが声を荒げた。

「……どうして、そうやって怒るんですか……ギガイ様だって……」

途端に薄らと、レフラの目に涙が張ってしまう。

「あっ、すまん……怒ったわけじゃない……大声を出して悪かった……」

せっかく宥めて、こうやって腕の中に戻したのに、これではまた逆戻りだった。

「……ただ、お前に何かあれば、私は冷静さを失う……。頼むから、お前の安全に関わること以外にしてくれ」

「でも、さっきギガイ様がおそばに居る時には、無謀な事でも良い、って言いました」

「そうだが……祭の最中にずっと、というのは……」

「ちゃんと、ギガイ様のそばに居ます。勝手に離れたりはしません。ギガイ様が治めるこの場所を、自分でも歩いてみたいんです……」

お仕置きと言いながらも、懇願するようにレフラはギュッとギガイの手を握り締めていた。涙が張った目で真っ直ぐに見つめられれば、ギガイももう強くは言えなくなる。

「……せめて移動中は、いつも通りにしろ」

様々な者が行き交う中での移動は、何かと狙われやすく、対処に遅れがでやすい場面だ。安全を考えるならば、それだけは譲ることができなかった。それに。

「お前にしても、移動中に私の腕から降りてしまえば、護衛の者達の姿に邪魔されて、何も見えなくなるぞ」

小柄なレフラが、黒族の屈強な武官達に囲われてしまえば、周りを見回したところで人の壁しか見えないはずなのだ。

「あっ、そうですね……」

その光景を想像して、どうしようか、と考え込んでいるようだった。

「じゃあ、移動中でなければ、降りたいってお願いしたら、降ろしてくれますか?」

その結果、首をコテンと倒して伺ってくるレフラに、ギガイは渋々頷いた。
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