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本編
第172 続いていく日々 1
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「また、置いていかれました……」
「間に合わなかったのだから、仕方がないだろう」
宮のいつものソファーの上で、抱きかかえたギガイがクツクツと笑った。その振動を触れた所から感じながら、レフラはむぅと唇を尖らせる。
ギガイが言っていることは分かるのだ。
アドフィルから出されている今日の課題が、ギガイの市場の調査の時間までに終わっていれば、一緒に連れて行ってもらえる。
もともと、その約束だ。時間までに終われなかった自分が、確かに悪いとは思う。だから、自分の能力が低いせいだ、と初めの頃は落ち込みもした。
でも、こうも毎回、ギリギリ。本当にギリギリ終われないような、微妙な量の課題なのだ。しかも、内心で自分の至らなさに落ち込むレフラに反して、周りからの評価は悪くない。
最近リランに変わってレフラの学習を見てくれるアドフィルからも、飲み込みが早いと褒めてもらえているし、時折レフラの書いた物を確認しているギガイ自身も褒めてくれる。もちろんレフラへ甘い人達だから、お世辞が入っているかもしれない。それでもだ。
「確かにそうなんですが……。でも、いつも同じように、あとちょっとって所で、間に合わないんです……」
まるで、ぴったり計られているように同じなのだから。さすがに、意図的なものを感じてしまう。
レフラはジトッとギガイを腕の中から見上げてみた。それを片眉を上げて飄々と見返すギガイからは、その心の内なんて読み取れない。
「……ギガイ様はお忙しいから、デートだって出来ないのに……」
レフラはそんなギガイへ真っ向から挑むことは諦めて、小さくポツリと呟いた。
「デート?」
「はい。私も他の人みたいに、経験してみたいです。でも、ギガイ様はお忙しいから、そんなお時間は取れないでしょう……? だから、せめて市場に一緒に出て、そんな感覚だけでも体験したいのに……」
レフラはチラッとギガイを見て、落ち込んだように俯いて見せる。
御饌の立場で出歩くこと自体が論外だとか、そういったことは、今さらギガイも言ってこない。
そして思った通り、レフラの様子にギガイがグッと押し黙っていた。
最近気付いたことだが、ギガイはレフラのこういった様子に、だいぶ弱いようなのだ。申し訳ないとは思いながらも、数少ないギガイの弱点なのだから。ここぞ、という時には、頼ってしまう。
「…………お前は、狙ったように」
目敏いギガイにしても、そんなレフラを見透かしてはいるようだ。それでも、ギガイは結局折れてくれるのだ。
「でも、本当にそう思うんです……」
嘘を吐いているのではなく。以前よりも、ただ素直に、甘えをぶつけているだけだった。だって、御饌や大人として、我慢することを止めてみても、ギガイは変わりなく受け入れてくれるのだ。
「デートの時間を、割いて欲しいとは言わないです。だけど、市場に一緒に行くぐらいはしたいです……」
レフラが間に合わないように、課題の調整までしている様子のギガイなのだから。できるだけ、連れ出したくないのだろう。
「祭りではなくても、素性の知れない者達が、大勢行き交っているんだぞ」
表情はかなり渋かった。それでもクシャと頭を掻いたギガイは、ダメだとは言って来ない。葛藤しながらも、きっとレフラのお願いを呑んでくれるのだろう。分かっているから、今はそんな表情も怖くなかった。
「でも、ギガイ様なら、その辺の狼藉者に負けたりしないでしょ?」
レフラは信頼を乗せて、満面の笑顔をギガイへ向けた。
「間に合わなかったのだから、仕方がないだろう」
宮のいつものソファーの上で、抱きかかえたギガイがクツクツと笑った。その振動を触れた所から感じながら、レフラはむぅと唇を尖らせる。
ギガイが言っていることは分かるのだ。
アドフィルから出されている今日の課題が、ギガイの市場の調査の時間までに終わっていれば、一緒に連れて行ってもらえる。
もともと、その約束だ。時間までに終われなかった自分が、確かに悪いとは思う。だから、自分の能力が低いせいだ、と初めの頃は落ち込みもした。
でも、こうも毎回、ギリギリ。本当にギリギリ終われないような、微妙な量の課題なのだ。しかも、内心で自分の至らなさに落ち込むレフラに反して、周りからの評価は悪くない。
最近リランに変わってレフラの学習を見てくれるアドフィルからも、飲み込みが早いと褒めてもらえているし、時折レフラの書いた物を確認しているギガイ自身も褒めてくれる。もちろんレフラへ甘い人達だから、お世辞が入っているかもしれない。それでもだ。
「確かにそうなんですが……。でも、いつも同じように、あとちょっとって所で、間に合わないんです……」
まるで、ぴったり計られているように同じなのだから。さすがに、意図的なものを感じてしまう。
レフラはジトッとギガイを腕の中から見上げてみた。それを片眉を上げて飄々と見返すギガイからは、その心の内なんて読み取れない。
「……ギガイ様はお忙しいから、デートだって出来ないのに……」
レフラはそんなギガイへ真っ向から挑むことは諦めて、小さくポツリと呟いた。
「デート?」
「はい。私も他の人みたいに、経験してみたいです。でも、ギガイ様はお忙しいから、そんなお時間は取れないでしょう……? だから、せめて市場に一緒に出て、そんな感覚だけでも体験したいのに……」
レフラはチラッとギガイを見て、落ち込んだように俯いて見せる。
御饌の立場で出歩くこと自体が論外だとか、そういったことは、今さらギガイも言ってこない。
そして思った通り、レフラの様子にギガイがグッと押し黙っていた。
最近気付いたことだが、ギガイはレフラのこういった様子に、だいぶ弱いようなのだ。申し訳ないとは思いながらも、数少ないギガイの弱点なのだから。ここぞ、という時には、頼ってしまう。
「…………お前は、狙ったように」
目敏いギガイにしても、そんなレフラを見透かしてはいるようだ。それでも、ギガイは結局折れてくれるのだ。
「でも、本当にそう思うんです……」
嘘を吐いているのではなく。以前よりも、ただ素直に、甘えをぶつけているだけだった。だって、御饌や大人として、我慢することを止めてみても、ギガイは変わりなく受け入れてくれるのだ。
「デートの時間を、割いて欲しいとは言わないです。だけど、市場に一緒に行くぐらいはしたいです……」
レフラが間に合わないように、課題の調整までしている様子のギガイなのだから。できるだけ、連れ出したくないのだろう。
「祭りではなくても、素性の知れない者達が、大勢行き交っているんだぞ」
表情はかなり渋かった。それでもクシャと頭を掻いたギガイは、ダメだとは言って来ない。葛藤しながらも、きっとレフラのお願いを呑んでくれるのだろう。分かっているから、今はそんな表情も怖くなかった。
「でも、ギガイ様なら、その辺の狼藉者に負けたりしないでしょ?」
レフラは信頼を乗せて、満面の笑顔をギガイへ向けた。
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