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第1話 住む世界の違う、淡水魚と熱帯魚
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「やっぱりキツいな……」
貸し切られたホールの中にいるたくさんの人達を、俺は壁際に避難して見ていた。
これだけの人で溢れているのに、ムワッとしたような熱気がないってことは、それなりに良い設備が使われているってことなんだろう。
それでもこれだけの人の多さなのだから、感じる人いきれはゼロじゃない。そんな空気は、人ごみが苦手な俺はやっぱりつらかった。
「なんか、ようやく呼吸できたかも……」
情けないと思いながらも、避難した壁ぎわで何度か深呼吸を繰り返してひと息つく。そんな俺に反して目の前を行き交う人達は、人混みの中を泳ぎながら息継ぎをしている状態なのだ。
こんな所へ逃げ込んでしか、ろくに呼吸さえできない俺には、この人達の器用さが信じられなかった。
(同じ人間のはずなのにな)
住む世界が違うってことなんだろう。
それだけでこうも違うのかと、俺は感心してしまう。だけどよく考えれば、同じ魚でも淡水魚と海水魚では、同じ環境には住めないのだ。
俺が淡水魚で、ここにいる人達が海水の中の鮮やかな熱帯魚だと思えば、そりゃあそうかと妙に納得した。
そんな場違いな所に居るのだから、ツラくなるのは当たり前なことなのだろう。俺は壁にぐったりともたれ直しながらも、正直今すぐ帰りたかった。
(でもアイツはまさしく熱帯魚だもんな……しかもとびっきり人目を惹くようなやつ…)
このハロウィンイベントの主催者である泰弘を思って、何度目かも分からないような溜息を吐く。そしてムダだと思いながらも、俺は周りをグルッと眺めてみた。
(本当にどこに居るんだよ……)
主催者なんだから、来ていないってことはないはずなのに、ずっと探しても見つからない。
「もう疲れた……」
だってもう1時間以上探し続けている状態なのだ。人ごみに酔った体調の悪さもあって、俺はヘトヘトになっていた。
せっかくこんな格好までしたというのに。このままアイツと会えなければ、全く意味が無くなってしまうのだから、それじゃあなんの為にここまで来たのか分からなかった。
(もしこれで、泰弘が見つからなかったらどうしよう)
そんなことを思えば途方にくれてしまって、俺はまた大きく溜息を吐いた。
(とりあえず、少しだけ休むか……)
会う約束なんてしていない上に仮装をしているせいで、アイツからは俺を見つけることだってできないのだ。俺がアイツを見つけない限り、今日会える可能性は、ほとんどゼロに近いだろう。
もう1度探しに行く体力を回復させるために、俺は壁にもたれたまま、フロアをボンヤリと眺めだした。
そんな俺の目の前を、過ぎ去っていく溢れるような人、人、人。思い思いにコスプレをした人達が、俺の前を過ぎていく。
「日本人って何でこうもイベントが好きなんだろうな……」
そのイベントに便乗している俺だって、人の事は言えないけど。それでもあまりに人が多すぎるとは思うのだ。
みんな仮装を楽しんでいるのだろう。
これはもう映画の特殊メイクだろ、と思うぐらいの盛り方をしている人も多い。どれだけジッと観察しても、そんなメイクの下の素顔を当てるなんて、俺には到底できそうにない。
(えっ、待って……もしかして、見かけているのにメイクのせいで分かっていないだけとか?)
俺は今さらそんなことに気がついて、血の気が引いていくようだった。
「それってもう、俺にはどうしようもないじゃん」
慌てて俺はどうにか元の顔を探ろうと、アイツに似た背格好の男の顔をジッと確認する。でも見渡す限りの化け物たちは、元の顔がわからない奴も多かった。
(…どうしよう……このままだと、せっかくの俺の決意も意味がなくなるよな……)
俺はそんな焦りのままに、思わずフロアに足を1歩踏み出した。
ドンドンと鳴り響く音楽に、瞬くライトがチカチカする。
正直疲れは酷かったから、もう少し休んでいたかった。でもそれ以上に湧き上がった焦りで、立ち止まってもいられない。
だから俺は俯きたくなるのを我慢して、周りをどうにか見回した。
こうやってホールの中をただ歩くのも、もう何度目かも分からなかった。それでも俺は諦めきれないまま、もう一度ホールの中を歩き始めた。
貸し切られたホールの中にいるたくさんの人達を、俺は壁際に避難して見ていた。
これだけの人で溢れているのに、ムワッとしたような熱気がないってことは、それなりに良い設備が使われているってことなんだろう。
それでもこれだけの人の多さなのだから、感じる人いきれはゼロじゃない。そんな空気は、人ごみが苦手な俺はやっぱりつらかった。
「なんか、ようやく呼吸できたかも……」
情けないと思いながらも、避難した壁ぎわで何度か深呼吸を繰り返してひと息つく。そんな俺に反して目の前を行き交う人達は、人混みの中を泳ぎながら息継ぎをしている状態なのだ。
こんな所へ逃げ込んでしか、ろくに呼吸さえできない俺には、この人達の器用さが信じられなかった。
(同じ人間のはずなのにな)
住む世界が違うってことなんだろう。
それだけでこうも違うのかと、俺は感心してしまう。だけどよく考えれば、同じ魚でも淡水魚と海水魚では、同じ環境には住めないのだ。
俺が淡水魚で、ここにいる人達が海水の中の鮮やかな熱帯魚だと思えば、そりゃあそうかと妙に納得した。
そんな場違いな所に居るのだから、ツラくなるのは当たり前なことなのだろう。俺は壁にぐったりともたれ直しながらも、正直今すぐ帰りたかった。
(でもアイツはまさしく熱帯魚だもんな……しかもとびっきり人目を惹くようなやつ…)
このハロウィンイベントの主催者である泰弘を思って、何度目かも分からないような溜息を吐く。そしてムダだと思いながらも、俺は周りをグルッと眺めてみた。
(本当にどこに居るんだよ……)
主催者なんだから、来ていないってことはないはずなのに、ずっと探しても見つからない。
「もう疲れた……」
だってもう1時間以上探し続けている状態なのだ。人ごみに酔った体調の悪さもあって、俺はヘトヘトになっていた。
せっかくこんな格好までしたというのに。このままアイツと会えなければ、全く意味が無くなってしまうのだから、それじゃあなんの為にここまで来たのか分からなかった。
(もしこれで、泰弘が見つからなかったらどうしよう)
そんなことを思えば途方にくれてしまって、俺はまた大きく溜息を吐いた。
(とりあえず、少しだけ休むか……)
会う約束なんてしていない上に仮装をしているせいで、アイツからは俺を見つけることだってできないのだ。俺がアイツを見つけない限り、今日会える可能性は、ほとんどゼロに近いだろう。
もう1度探しに行く体力を回復させるために、俺は壁にもたれたまま、フロアをボンヤリと眺めだした。
そんな俺の目の前を、過ぎ去っていく溢れるような人、人、人。思い思いにコスプレをした人達が、俺の前を過ぎていく。
「日本人って何でこうもイベントが好きなんだろうな……」
そのイベントに便乗している俺だって、人の事は言えないけど。それでもあまりに人が多すぎるとは思うのだ。
みんな仮装を楽しんでいるのだろう。
これはもう映画の特殊メイクだろ、と思うぐらいの盛り方をしている人も多い。どれだけジッと観察しても、そんなメイクの下の素顔を当てるなんて、俺には到底できそうにない。
(えっ、待って……もしかして、見かけているのにメイクのせいで分かっていないだけとか?)
俺は今さらそんなことに気がついて、血の気が引いていくようだった。
「それってもう、俺にはどうしようもないじゃん」
慌てて俺はどうにか元の顔を探ろうと、アイツに似た背格好の男の顔をジッと確認する。でも見渡す限りの化け物たちは、元の顔がわからない奴も多かった。
(…どうしよう……このままだと、せっかくの俺の決意も意味がなくなるよな……)
俺はそんな焦りのままに、思わずフロアに足を1歩踏み出した。
ドンドンと鳴り響く音楽に、瞬くライトがチカチカする。
正直疲れは酷かったから、もう少し休んでいたかった。でもそれ以上に湧き上がった焦りで、立ち止まってもいられない。
だから俺は俯きたくなるのを我慢して、周りをどうにか見回した。
こうやってホールの中をただ歩くのも、もう何度目かも分からなかった。それでも俺は諦めきれないまま、もう一度ホールの中を歩き始めた。
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