似ている

神山 備

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真実への入り口

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 しかし、それにしても親子でないのなら美奈子はどうして出奔せねばならなかったのか、志乃の今の両親である妹夫妻は何か知っているようだが、とんでもなく敷居は高い。
「何ですか、部長」
親子でないと知っても浮かぬ顔をしている光一に、志乃は不安気にそう聞いた。
「ん? いやな、志乃の今のお父さんはいくつだと思ってな」
「お父さんですか? 昭和XX年生まれだから、45歳になります」
「やはり年下か」
光一は予想通りの答えに、思わず深いため息をつく。
「部長はおいくつでした?」
「47だ」
「じゃぁ、あまり変わらないじゃないですか」
きっと話が合いますよと、志乃は暢気にそう言う。
「そんな問題じゃないだろ。娘の夫だぞ、義理の息子になるんだぞ。大事な娘をかっさらていくだけでも問題なのに、それが自分より年上だなんて、私が親なら絶対に反対だ」
そう言うと、志乃は、
「娘の夫……」
という言葉に反応してはにかんでいる。
「親子じゃないなら嫁にもらえって言ったのは、お前だぞ、志乃」
「い、いえ……言いましたね……はい……」
「それなら一刻も早くお前の実家に行かないとな」
「何でですか?」
生方家に出向くと言った光一に、志乃は意味が分からず首を傾げた。そこで光一が、
「私は既成事実で事後承諾などという手は使いたくない。
もう若くはないが、だからと言って可能性はまったくゼロじゃないからな」
と言うと、その言葉に昨夜の行為を思い出したのか、志乃の頬が真っ赤に染まる。
 もちろんそれもあるが、もし待って志乃まで失ってしまったら……もうどんなことをしても立ち直れない気がする。だから、オヤジががっついていると言われても、誰にも彼女を渡したくない。そのためには、『将を射んと欲すればまず馬を射よ』だ。

 すぐさま志乃に電話をかけさせ、翌日の午前中に帰省する旨を伝えさせた光一は、夜半まで寝かせてくれと志乃に言ってソファーで横になると、すぐに寝息を立て始めた。志乃はその横で途方に暮れる。
「車での長丁場だ。少しでもたくさん休ませてくれよ。もう若くないんだ、回復が遅いからな」
と言い、一度帰ると言った志乃に、
「後で送るから絶対に一人で帰るな」
と再三念押しした。志乃はそう言われると、置き手紙だけで彼を置いたまま部屋を出ることが出来なかった。
 かつての日、自分がそうして置き去りにされたことを思い出すだけではなく、光一もまた同じ経験があることを知っているからだ。彼の場合、置き手紙どころか、何の説明も謝罪もなかったのだ、急に消えることに対して過剰反応するのは致し方ないと志乃は思う。
 仕方なく志乃は光一が明け渡した彼のベッドに横になった。これからのことを考えるととても眠れそうにもなかったが、自分の家に向かうのに、運転してもらっている横でずっと眠りこけている訳にもいかない。

 それでも、いつしか眠ってしまっていたようだ。
 そこには小さな子供の志乃がいた。そして、小さな志乃の周りには明らかに外国人だと思われる彫りの深い若い女性が数人、
「シーノ、ゲンキデネ」
「ヘンナモノ、タベルジャナイヨ」
「シーノ、クリステラナイネ、ソンナコトシナイヨ」
志乃の頭を撫で、ハグをして彼女との別れを惜しんでいた。
「シーノ、ママ、マモルヨ、イイ?」
「シーノ、ダイジョブ、シーノ、イイコ」
「カエッテゴメンネ。シーノ、ガンバル」
その一言一言に、
「うん、しのがんばるよ」
と小さな志乃は明るく答えたが、次の瞬間、彼女たちは煙のようにかき消えた。
 次に現れたのは志乃の母、美奈子。場所もいつの間にか伊勢にある福島の実家に変わっている。
「ママな、行かんならんとこあるんさ。あんたはここで待っとってな」
そう言う母に、
「うん、大丈夫だよ。志乃いつもじょうずにお留守番できるでしょ」
小さな志乃は、胸を張ってそう答える。

 それが今生の別れとは知らなかった。それを知っていたら、自分はどんなに泣きわめいても暴れても引き留めたろう。そうだ、今なら間に合うかもしれない。
「志乃、止めて、ママを行かせたらあかん。止めて!」
志乃は小さな志乃に向かって声の限りに叫んだ。
「聞こえやんの、志乃! ママもう帰ってけーへんようになるんやよ!!」
だが、必死の叫びも小さな志乃には届かないらしく、
「ママ、いってらっしゃい」
とニコニコ大きく手を振る。すると、
「行ってくるわな」
と戸口で振り返った母は、明らかに今の志乃と目を合わせて軽く会釈をした。
「ま、ママ! 私が分かるの? ママ、ママ、せやったら行かんとって、行ったらママ死ぬんやで。
なぁ、なぁって……ママ! ママ!!」
母は、聞こえないほど小さな声で『ありがとう、志乃。あんたは幸せになりな』
と言って扉の外に消えていった。



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