似ている

神山 備

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ご休憩

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 夜半から出た二人は、事故渋滞に巻き込まれることなく、夜が明けないうちに松阪インターにたどり着いた。実家はもっと南のインターを利用した方が近いのだが、光一が、
「ホテルで休憩する」
というのを聞いて、志乃はそこで降りた方が良いと判断した。
 
 しかし、志乃が案内したのがビジネスホテルだと分かると、光一は、
「違う違う、こんな所じゃない。今はブティックホテルと言うんだったかな、そういう所で良いんだ」
と臆面もなく言う。
「部長、何考えてるんですか!」
と思わず真っ赤になって反論した志乃に、光一は、
「おまえこそ何考えてるんだ、志乃。休憩だ、休憩。
ブティックホテルもバカにしたもんじゃないぞ。ベッドは2人で使うようにできているし、そういうところだから風呂も充実している。旅の汚れを落として着替えて仮眠できる。理想的じゃないか。
それにな、如何にビジネスと言えども、この夜中から泊めてくれるところはないと思うぞ。
大体、親に会う前に一戦交えて、艶っぽい顔で帰れるのか?」
と、ニヤニヤ笑いながら返す。
「部長!」
「それからな、いい加減私のことを役職で言うのは止めろ。特にご両親の前ではな。光一か100歩譲っても成瀬だ」
「そんなこと言っても、部長は部長ですもん」
そんなことを言い合いながら県道を走っていると、記憶の片隅にあったブティックホテルの派手な電飾が見えてきた。
「あ……」
「あったな」
光一はそう言ってハンドルを切り、車を駐車場に滑り込ませる。
「ぶ……あの、こういうとこ利用されたことあるんですか?」
そして、物怖じすることなく車を降りてどんどんと奥に行く光一に、志乃はそう尋ねた。
「ああ、皆無じゃないな。そうだ、国見とも何度か泊まったぞ」
「国見さんって、あの国見さんですよね」
志乃の記憶に間違いがなければ、国見というのは自分も面接してもらった人事部の人間で、男性だ。
「あの国見だ。ベッドがひとつしかないことを除けば、昔はシティーホテルよりずいぶん格安だからな。予約も要らんし。場所柄、金さえ払えば従業員は客の顔は見ん。
一回目は躊躇したが、慣れればどうでもなかったぞ」
そして、どん引きしてしまった志乃を見ながら、
「もちろん、いやらしいことなんぞ何もないぞ。
ただ、煙草吸いだった国見がうっかりマッチを持って帰って、当時まだ婚約者だったあいつの嫁とすったもんだになったことはあったな」
と、その当時の事を思い出しながら唇を緩ませてそう
続けた。
「件の嫁に、『浮気じゃないのは分かったけど、なんか納得行かない』と、しばらく会う度に言われたな」
「そりゃそうですよ」
国見の嫁も(もちろん志乃もだ)自分の愛する男が男を欲する性癖だとは思ってはいないが、世の中には男女問わず愛せる者もいる。国見にその気はなくても、シチュエーションを整えられて相手から迫られたらムードに流されることも……相手が独身を貫いている光一だけに、そういう妄想を持つかもしれない。
「私が今聞いてもイヤです」
大切な人がそういう誤解をされることも、自分がそんなもしもの想像をすることも。口を尖らせてそう言う志乃に、
「怒るな、若気の至りだ。
それにそんな顔をされると抑えが利かなくなる。いい子にしててくれよ」
光一は小さい子にするように志乃の頭を撫でると、そう言ってさっさと部屋に入り、浴槽に湯を張る。
 その部屋は志乃が想像していたような薄汚さはなく、ベッドも風呂も広々としている。確かに下手なビジネスホテルで泊まるより身体は休まるかもしれない。
 それでも、荷物の中から夜着を取り出している光一を見ながら、
「なんか納得できやん」
光一に聞こえぬよう、小さくそうつぶやく志乃だった。





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