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帰宅
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一方未来は、ほのかが嫁に行ったことを半ば信じないまま家に帰ったが、果たしてほのかは本当に結城家の離れからいなくなっていた。
それでもまだ身体のこわばりが取れない彼女に向かって、克也はもちろん、秀一郎までが、
「怖がらなくていいんだよ。今はもう、未来さんがここの女主人だ。彼女はもう鳴澤の人間なんだからね」
と何度も何度も説く。
さらに、未来の部屋はそれまでの二階から一階に移動されていて、壁紙も以前とは変わって優しいパステルカラーになっていた。秀一郎曰く、オーガニック素材なのだそうだ。さらにそこにはもうベビーベッドが置かれていて、中をのぞき込むとそこには歯固めやガラガラなど、いくつか乳児が持つおもちゃが。今日は戌の日だ、まだ早すぎだろう。くすっと笑った未来に、
「こ、この間壮平叔父様に会ったから、ついで……そう。ついでにね、お願いしたんだよ。
後で、お揃いのベビー箪笥も来るから」
と、秀一郎は少し頬を赤らめて未来が尋ねる前にそう答えた。
壮平といえば、義父龍太郎の異母兄弟で、一点物の高級家具を作る職人であると聞いている。よく見れば、そのベッドはその強度はもちろんのこと、そこここにかわいい彫りがされているのだが、その一つ一つが丁寧に研磨されていて、月齢が増し、それに興味を持って触るようになっても、その小さな指をいささかも傷つけることはない。おそらく、箪笥がまだなのは、同様かそれ以上の手間を壮平がかけていてくれるということなのだろう。そしてこれだけ手のかかったものが今ここにあるということは、秀一郎は未来の妊娠を知ってすぐ叔父に依頼したということだ。決してついでなどではないだろう。
未来は不思議な気がした。秀一郎はそのお腹の子が自分の血を引いていないことを一番よく知っているはずであるのに、なぜここまで子供の誕生を心待ちにするのだろう。跡取りがなんとしてでもいるという事情はあるだろうが、そこには喜びの感情などなくても問題はない。今の秀一郎はどう贔屓目にみたところで親バカの域、それもかなり重症の。
やがて、未来が帰ってそう日を置かず、ほのかも妊娠したことを聞かされた。しばらくはこちらにも来ないという。出産後も鳴澤の実家に行くと聞いて未来は首を傾げる。結婚前は夫にべったりだった義妹がどうしたらこんなに変わるのだろうか。(もしかして、秀一郎さんの子ども?……まさかね)未来はほのかが今結城家に寄りつかないのは、子どもの本当の父親を気づかせないためという考えに思い至って、慌ててその考えを否定する。いくらなんでもそれは、彼女の夫が気づくだろうと。
ただ、出産後帰ってこないのは、結城家側の事情だった。
双子の母夏海の再婚相手諏訪健史は衆議院議員なのだが、その地盤である選挙区が定数是正のあおりを受け、一人区になったのだ。
「一票の格差だと? そんな数だけの論理で政治がはかれるもんか。そんなことしとると、都会ばかりの声が大きく反映されて、地方の意見は蔑ろにされていくだけじゃて」
と剛造も憤慨していたが、決定されたことは仕方がない。その地盤を彼の腹違いの妹華子に譲り、自身は知事選に打って出ることになった。因みに諏訪健史は未来の祖母の甥。秀一郎とは義理仲なので血のつながりはないが、再従兄妹にあたる。
そして、知事を目指している夫を支えるため、夏海もその県から長く離れることができない、 もっとも、初孫に湧く鳴澤家がほのかを離さないという一面もあるのだが……
こうして、危惧していたのが嘘のように静かに時は過ぎていき、未来は女の子を出産した。
それでもまだ身体のこわばりが取れない彼女に向かって、克也はもちろん、秀一郎までが、
「怖がらなくていいんだよ。今はもう、未来さんがここの女主人だ。彼女はもう鳴澤の人間なんだからね」
と何度も何度も説く。
さらに、未来の部屋はそれまでの二階から一階に移動されていて、壁紙も以前とは変わって優しいパステルカラーになっていた。秀一郎曰く、オーガニック素材なのだそうだ。さらにそこにはもうベビーベッドが置かれていて、中をのぞき込むとそこには歯固めやガラガラなど、いくつか乳児が持つおもちゃが。今日は戌の日だ、まだ早すぎだろう。くすっと笑った未来に、
「こ、この間壮平叔父様に会ったから、ついで……そう。ついでにね、お願いしたんだよ。
後で、お揃いのベビー箪笥も来るから」
と、秀一郎は少し頬を赤らめて未来が尋ねる前にそう答えた。
壮平といえば、義父龍太郎の異母兄弟で、一点物の高級家具を作る職人であると聞いている。よく見れば、そのベッドはその強度はもちろんのこと、そこここにかわいい彫りがされているのだが、その一つ一つが丁寧に研磨されていて、月齢が増し、それに興味を持って触るようになっても、その小さな指をいささかも傷つけることはない。おそらく、箪笥がまだなのは、同様かそれ以上の手間を壮平がかけていてくれるということなのだろう。そしてこれだけ手のかかったものが今ここにあるということは、秀一郎は未来の妊娠を知ってすぐ叔父に依頼したということだ。決してついでなどではないだろう。
未来は不思議な気がした。秀一郎はそのお腹の子が自分の血を引いていないことを一番よく知っているはずであるのに、なぜここまで子供の誕生を心待ちにするのだろう。跡取りがなんとしてでもいるという事情はあるだろうが、そこには喜びの感情などなくても問題はない。今の秀一郎はどう贔屓目にみたところで親バカの域、それもかなり重症の。
やがて、未来が帰ってそう日を置かず、ほのかも妊娠したことを聞かされた。しばらくはこちらにも来ないという。出産後も鳴澤の実家に行くと聞いて未来は首を傾げる。結婚前は夫にべったりだった義妹がどうしたらこんなに変わるのだろうか。(もしかして、秀一郎さんの子ども?……まさかね)未来はほのかが今結城家に寄りつかないのは、子どもの本当の父親を気づかせないためという考えに思い至って、慌ててその考えを否定する。いくらなんでもそれは、彼女の夫が気づくだろうと。
ただ、出産後帰ってこないのは、結城家側の事情だった。
双子の母夏海の再婚相手諏訪健史は衆議院議員なのだが、その地盤である選挙区が定数是正のあおりを受け、一人区になったのだ。
「一票の格差だと? そんな数だけの論理で政治がはかれるもんか。そんなことしとると、都会ばかりの声が大きく反映されて、地方の意見は蔑ろにされていくだけじゃて」
と剛造も憤慨していたが、決定されたことは仕方がない。その地盤を彼の腹違いの妹華子に譲り、自身は知事選に打って出ることになった。因みに諏訪健史は未来の祖母の甥。秀一郎とは義理仲なので血のつながりはないが、再従兄妹にあたる。
そして、知事を目指している夫を支えるため、夏海もその県から長く離れることができない、 もっとも、初孫に湧く鳴澤家がほのかを離さないという一面もあるのだが……
こうして、危惧していたのが嘘のように静かに時は過ぎていき、未来は女の子を出産した。
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