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天使様との出会い
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「さ、最悪だわ……」
私は、某高級ホテルの廊下で動けなくなっていた。着物を着ていたせいで、ホテルの毛足の長い絨毯に足を取られて、私は豪快に転んでしまったのだ。こっそり出ようと人気の少ない駐車場に向かっていたので、誰にも見られなかったのが幸いだけど。
考えたらママ、朝から挙動不審だったのよね。
「引き出しの奥からママの若い時の着物が出てきたのよ、着てみる?」
って、鼻先に突き出された。呉服屋の娘だったママはたくさん着物を持っていて、確かにそれはママの若い頃のものだったけど、持っているだけにちゃんとカテゴライズされていて、思い出したように出てきた代物じゃない。
先生の先生がお見えになるから、迂闊な格好はできないのでママも着物で行くっていうし、私も呉服屋の孫娘、基本的に着物は嫌いじゃない。
ただ、たかがカルチャースクールの発表展示会がこんな有名ホテルで行われる訳ないってことにもっと早く気づくべきだったわ。
そう、用意されていたのは、ママのカルチャースクールの発表展示会じゃなく、私のお見合いだった。向かおうとしているラウンジに展示物が一つもなく、ちょっと頭の薄くなった男性が座っているのを見てことを察して激怒した私に、ママはしれっと、
「だって、36にもなるとお話を持ってきてくれること自体が稀なのよ。それに更紗ちゃん、最初からお見合いだなんて言ったらにべもなく断るでしょ」
と言った。だからって、だまし討ちはどうかと思う。
それで仕方なく私は席についたんだけど、この相手の男性がまた、くてくてしててどうも煮えきらないのよね。話を聞いていてイライラしちゃう。
で、私はトイレに行くフリをしてその場を抜け出してそのまま逃走を図ろうとしていたのに……マズった。
「お嬢さん、大丈夫ですか」
その時、頭の上で声がした。
「はい、Yes,」
そこにいたのは、スーツを着た外人男性。下から見上げているので、豪華なホテルの照明に照らされて、まるで天使様みたいだ。あわてて英語で話そうとするけど、言葉が出てこない。
「えっ、僕ちゃんと日本語で話しましたよね。心配しないで、僕半分は日本人ですから」
すると、天使様は困ったような顔でそう言った。は、ハーフなんだ。顔から火が出そう。
「あ、すいません」
「いいえ、最近でこそあまりなくなりましたけど、結構よくそういう反応はされてるので、慣れてますよ」
天使様はそう言いながら、私に手を貸してくれた。
「イタッ」
だけど、立とうとした私は、左足首に激痛を感じた。
「ああ、足捻っちゃったみたいですね」
天使様はそのまま屈んで私の足袋を脱がせると左足を見た。あちゃー、どうしよう、やっちゃったわ。でも、
「どうしよう、早く逃げなきゃいけないのに」
思わず口を出た(最近思ってることをついつい口に出しちゃうのよね、歳かしら)言葉に天使様は、
「えっ、君も逃げなきゃいけないの?」
驚いてそう言った。でも、「も」って何?
その時、
「タケちゃん、タケちゃん!」
と焦ったような男性の声がした。
「や、ヤバい。見つかる」
天使様は舌打ちしながら小声でそう言うと、
「君も逃げなきゃいけないんですよね」
と言いながら、軽々と私を抱き上げ、
「じゃぁ、このまま一緒に逃げますか」
と、駐車場に向かってスタスタ歩きだした。
私は、某高級ホテルの廊下で動けなくなっていた。着物を着ていたせいで、ホテルの毛足の長い絨毯に足を取られて、私は豪快に転んでしまったのだ。こっそり出ようと人気の少ない駐車場に向かっていたので、誰にも見られなかったのが幸いだけど。
考えたらママ、朝から挙動不審だったのよね。
「引き出しの奥からママの若い時の着物が出てきたのよ、着てみる?」
って、鼻先に突き出された。呉服屋の娘だったママはたくさん着物を持っていて、確かにそれはママの若い頃のものだったけど、持っているだけにちゃんとカテゴライズされていて、思い出したように出てきた代物じゃない。
先生の先生がお見えになるから、迂闊な格好はできないのでママも着物で行くっていうし、私も呉服屋の孫娘、基本的に着物は嫌いじゃない。
ただ、たかがカルチャースクールの発表展示会がこんな有名ホテルで行われる訳ないってことにもっと早く気づくべきだったわ。
そう、用意されていたのは、ママのカルチャースクールの発表展示会じゃなく、私のお見合いだった。向かおうとしているラウンジに展示物が一つもなく、ちょっと頭の薄くなった男性が座っているのを見てことを察して激怒した私に、ママはしれっと、
「だって、36にもなるとお話を持ってきてくれること自体が稀なのよ。それに更紗ちゃん、最初からお見合いだなんて言ったらにべもなく断るでしょ」
と言った。だからって、だまし討ちはどうかと思う。
それで仕方なく私は席についたんだけど、この相手の男性がまた、くてくてしててどうも煮えきらないのよね。話を聞いていてイライラしちゃう。
で、私はトイレに行くフリをしてその場を抜け出してそのまま逃走を図ろうとしていたのに……マズった。
「お嬢さん、大丈夫ですか」
その時、頭の上で声がした。
「はい、Yes,」
そこにいたのは、スーツを着た外人男性。下から見上げているので、豪華なホテルの照明に照らされて、まるで天使様みたいだ。あわてて英語で話そうとするけど、言葉が出てこない。
「えっ、僕ちゃんと日本語で話しましたよね。心配しないで、僕半分は日本人ですから」
すると、天使様は困ったような顔でそう言った。は、ハーフなんだ。顔から火が出そう。
「あ、すいません」
「いいえ、最近でこそあまりなくなりましたけど、結構よくそういう反応はされてるので、慣れてますよ」
天使様はそう言いながら、私に手を貸してくれた。
「イタッ」
だけど、立とうとした私は、左足首に激痛を感じた。
「ああ、足捻っちゃったみたいですね」
天使様はそのまま屈んで私の足袋を脱がせると左足を見た。あちゃー、どうしよう、やっちゃったわ。でも、
「どうしよう、早く逃げなきゃいけないのに」
思わず口を出た(最近思ってることをついつい口に出しちゃうのよね、歳かしら)言葉に天使様は、
「えっ、君も逃げなきゃいけないの?」
驚いてそう言った。でも、「も」って何?
その時、
「タケちゃん、タケちゃん!」
と焦ったような男性の声がした。
「や、ヤバい。見つかる」
天使様は舌打ちしながら小声でそう言うと、
「君も逃げなきゃいけないんですよね」
と言いながら、軽々と私を抱き上げ、
「じゃぁ、このまま一緒に逃げますか」
と、駐車場に向かってスタスタ歩きだした。
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