ふたたびの……

神山 備

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停滞

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 停滞期ーそれは相当量の減量をする際には必ず通らねばならない道だ。
 特に、超肥満の者にとっては、それまでの減り幅が大きい分、止まってしまったショックも大きい。そこで限界を感じて止めてしまい、じわじわとリバウンドへの道を歩むことはよくある話だ。
 逆に、そうならぬよう、つい日々の代謝に必要な分まで削ってしまい、体調不良やダイエット鬱に陥ってしまう者も多い。ここをどうやり過ごすかがダイエット成功の大きな鍵を握っていると言っても過言ではないのだ。

 因みに美郷は完全に後者のタイプで、一日に必要ギリギリのカロリーで考えている料理すら食欲がないと残し始めた。まぁ、全く食べないわけではないし、昼の弁当はちゃんと食べてきているので、あまり口うるさく言うべきではないと亮平は黙っていたのだが……

 ある日、綿貫家に一本の電話がかかってきた。美郷が職場で倒れたというのだ。慌てて駆けつけた亮平に、
「主任、最近胃の調子が悪いってお昼もお茶しか飲んでないし、心配してたんっすよ」
と職場の部下である男性は、耳を疑うような話をしてきた。
「弁当を……持たせていたはずだが」
弁当箱は毎日空で返ってきている。もしや毎日捨てていたのかと愕然とした亮平は、
「あ、食べてないと作った人に悪いからって、自分らが交代でお相伴に与ってました。
マジ旨いから、自分の分も作って欲しいって言ってたくらいで……」
「僕は君に食べさせるために作ってるんじゃない!!」
続く部下の言葉に、思わず胸座を掴んでそう叫んでいた。
「うわっ、苦しい苦しい……すんません」
「い、いや……こちらこそ大人げなかった」
そうだ、彼らは無理矢理美郷から弁当を取り上げて食した訳ではない。当の美郷から頼まれて食したに過ぎないのだ。だが、
「でも、主任も幸せですよね。こんな愛情弁当作ってくれる彼氏ができて」
と不意打ちをくらわされ、亮平は
「か、彼氏なんかじゃない」
と慌てる。しかしそれを見て、
「あ、じゃぁお父さんですか。失礼しました」
こちらも慌てて返した部下がなぜか納得顔なのが、幾分ショックだったたのはどういうことか。自分は美郷に対してどういう立ち位置でいたいのか……正直複雑な気分だった。

 その後、美郷を引き取った亮平はその足で医者に向かった。倒れたのは食べていないからだろうが、胃痛でと言うのが気になる。
 実際、妻香織の時にはその小さな違和感を見逃して、結果的に彼女を失うことになってしまったのだ。大げさだと言われようが、念には念を入れることにこしたことはない。
 胃に軽い炎症が見られるということで薬をもらって帰ってきた。

「どういうつもりだ、胃の調子が悪いのならそう言ってくれれば……」
帰り着いた後、亮平が美郷に薬を渡しながらそう言うと、
「すいません……」
美郷は小声で謝り俯いてしまった。それを見て亮平は、
「大したことじゃなくて本当に良かった」
と慌てて付け加える。しまった、美郷は何でも自分のせいにして殻に閉じこもってしまうタイプだった。
「けど、こんなんじゃ痩せる前に体を壊してしまう」
「ええ……はい、すいません」
そしてまた謝る美郷。
「謝らなくていいさ。今は、胃を治して。健康になった方が絶対に痩せるから」
というより、体調不良による減量は体調が回復すると必ず元に戻そうという力が働くので無駄になることの方が多いのが本当のところだ。
「痩せるでしょうか」
不安そうにそう返す美郷に亮平は、
「ああ、痩せるさ。君は本当に努力家だから」
時々過ぎる程にねと言う。美郷はばつが悪そうに笑った。
 そして薬を飲んで、
「ありがとうございます、早く胃を治してがんばります」
と改めて決意表明をする美郷に、
「そうだ、そうだその意気だ」
と大げさにエールを送った亮平だったが、
「……でも、本当に痩せてしまったら……ここを出なきゃならないんですよね」
と返して部屋に引っ込んだ彼女の言葉に固まったまま、動けなくなってしまった。
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