Cascade~想いの代償~

神山 備

文字の大きさ
3 / 31

ゲームスタート

しおりを挟む
 健史は自分の荷物や靴と共に風呂場に身を潜めた。ここは、弱冠25歳の独身男が住むには少々広ぎる3LDKだが、この部屋に龍太郎が住み始めたのは高校卒業時、およそ7年前になる。そして、その最初の時からほぼ毎週通い詰めていた恋人夏海にとっては、住んではいないが勝手知ったる空間なのである。最近の龍太郎の生活を心配して、今日の最初の舞台であるリビングダイニング以外にもひょっこりと顔を出さないという保証はどこにもない。大体、女というものは妙なところでカンが働く。いつもと違う動きをされてはかなわない。
 
 やがて、インターフォンの呼び出しと共に、夏海と龍太郎の声が聞こえる。(ゲームスタートだ)健史は空の浴槽で息を殺す。折角ここまできたのだ。ここで頓挫する訳には絶対にいかない。彼女の性格を考えれば、『合意』の上での『二度目』はないだろう。
 
 しばらくすると、夏海の叫び声と、椅子が床を擦る音が聞こえた。その声や音が納まった後、健史は徐に浴室を出ると、寝室に向かった。龍太郎は首尾良く眠らせた夏海の服を脱がせるのに奔走中だ。女性とはいえ、眠った大の大人の服を一人で脱がせるのは大変だ。だが、
「手伝うよ」
と言った健史に、龍太郎は
「いいよ、僕一人で大丈夫」
とぶっきらぼうに言いつつ、夏海の既に幾分露わになった身体を自身で覆い隠す。
「どうせ、ヤる時にはバッチリ見るし触るんだぜ」
触るどころではない、今日はそれ以上のことをしに来ているのだ。
「でも……」
健史がそう言ってもなお、龍太郎の表情は硬い。夏海は龍太郎にとって、悪魔に魂を売ってでもつなぎ止めたい相手なのだ。試しに、
「じゃぁ、手を退こうか?」
と健史が言うと、
「そ、それは……」
案の定、龍太郎はなんとも困ったような表情をして見せた。(これが最上の策だと、思いこませたからな。ま、こいつは倉本の事になると昔から全然余裕がなかったけどな)
「倉本はお前のもんだ。間違っても盗ったりしねぇよ」
健史がそれに笑ってそう返すと、龍太郎はようやく一歩下がって協力を要請した。その様子を見ながら健史は(間違っても俺はお前の大事な花になんか手を出しゃしねぇよ。そう、俺が本当に欲しいのは……)と心の中で独りごちる。
 
 健史は全裸になった夏海を諸手をあげた状態でベッドに寝かせ、その左右に別々の手錠を填め、もう一方をこの計画のために龍太郎に用意させた病院でも使用されているベッドの上部の柵に填めた。一度の事なのだからチープなパイプベッドでも良かったのだろうが、組み立て式は今一つ柵の強度が心配だし、巨大企業御曹司の龍太郎なら、このベッドを使い捨てるくらいの端金は屁でもない。
 
 そして、健史は徐にベッドサイドからアイマスクを取って、夏海に目隠しを施した。愛する男が目の前で『自分を裏切る行為』をするのをまざまざと見せないための、せめてもの温情とでも言えばいいだろうか。目に焼き付いてしまえば、繰り返し思い出してしまうに違いない。ま、情報が遮断されることによって、さらに不安を煽り、交感神経を高ぶらせるのも目的の一つではある。
 ふと、見ると全ての準備を終えた龍太郎は、夏海がいつ起きても良いように自身も服を脱ぎ始めている。彼の小柄だが引き締まった肉体を見て、健史は思わず目を背けた。
「じゃぁ、あっちで待機してるから、起きたところで合図をくれ。
それから、何か掛けてやれよ。温度管理はしてあるが、寝たままじゃ冷える」
健史はそう言うと、そわそわと寝室を後にした。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

この胸の高鳴りは・・・

暁エネル
BL
電車に乗りいつも通り大学へと向かう途中 気になる人と出会う男性なのか女性なのかわからないまま 電車を降りその人をなぜか追いかけてしまった 初めての出来事に驚き その人に声をかけ自分のした事に 優しく笑うその人に今まで経験した事のない感情が・・・

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

シスルの花束を

碧月 晶
BL
年下俺様モデル×年上訳あり青年 ~人物紹介~ ○氷室 三門(ひむろ みかど) ・攻め(主人公) ・23歳、身長178cm ・モデル ・俺様な性格、短気 ・訳あって、雨月の所に転がり込んだ ○寒河江 雨月(さがえ うげつ) ・受け ・26歳、身長170cm ・常に無表情で、人形のように顔が整っている ・童顔 ※作中に英会話が出てきますが、翻訳アプリで訳したため正しいとは限りません。 ※濡れ場があるシーンはタイトルに*マークが付きます。 ※基本、三門視点で進みます。 ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

出来損ないの花嫁は湯の神と熱い恋をする

舞々
BL
凪が生まれ育った湯滝村は、温泉地として栄えた地域だ。凪は湯滝村で一番老舗とされている温泉宿、「椿屋」の一人息子。幼い頃から両親の手伝いをして、椿屋を支えている。そんな湯滝村にある湯花神社には、湯の神「湯玄」が祀られ、村人たちから信仰されてきた。 湯滝村には湯玄に花嫁を捧げるという風習ある。湯玄は花嫁から生気を貰い、湯滝村に温泉をもたらすのだ。凪は自ら志願し、花嫁となって湯滝神社へと出向いたが「子供には用がない」と追い返されてしまった。村に戻った凪は「出来損ないの花嫁」と村人たちから後ろ指をさされ、次第に湯玄を恨むようになる。 凪が十七歳になり、美しい青年へと成長した頃、湯玄より「もう一度凪を花嫁として捧げよ」という申し渡しがあった。しかし凪は、湯玄からの申し渡しを受け入れることができずにいる。そんな凪に痺れを切らした湯玄は、椿屋に押しかけてきてしまったのだった。 湯玄が椿屋に来てからというもの、貧乏神、アカシャグマ、商売繁盛の神に五穀豊穣の神……色々な神が椿屋を訪れるようになる。椿屋を訪れる神々は実に個性豊かで、椿屋は次第に以前のような活気を取り戻していく。 はじめのうちは突然椿屋にやってきた湯玄に反発していた凪。しかし、強引に迫ってくるだけではなく、自分を溺愛してくる湯玄に少しずつ心を許し、二人の距離は次第に縮まっていく。 出来損ないの花嫁凪と、温泉の神湯玄。そして八百万の神々が送る温泉宿物語。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

夢の続きの話をしよう

木原あざみ
BL
歯止めのきかなくなる前に離れようと思った。 隣になんていたくないと思った。 ** サッカー選手×大学生。すれ違い過多の両方向片思いなお話です。他サイトにて完結済みの作品を転載しています。本編総文字数25万字強。 表紙は同人誌にした際に木久劇美和さまに描いていただいたものを使用しています(※こちらに載せている本文は同人誌用に改稿する前のものになります)。

処理中です...