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想いの代償
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隼人の葬儀はあいにくの雨の中。しかし、現役若手旗手の謎の死ということで、支持者・マスコミともに相当数が集まり彼の死を悼んだ。
隼人は、薬物中毒による鬱状態からの自殺だった。もっとも、その事実は彼の所属する与党第一党、誠実党の総力をかけてもみ消されたが。
「私には、上河原がなぜそんな物に手を出したのか解りませんの。産まれてくる子が男だと分かって、本当に楽しみにしていたのに……」
放心状態の隼人の妻、芽衣は今妊娠七ヶ月だ。先日の検診で、隼人はお腹の子が男だと聞いて、大喜びした矢先だったという。
だが、首を傾げる芽衣を見ながら、(だからだ)と健史は思った。
隼人は真性のゲイだ。女の身体を見ても興奮しない。それでも隼人は跡取りを残すために、催淫剤を駆使してことに臨んで、芽衣は無事妊娠。しかし、生まれた第一子は女の子。昨今、女性でも政治にどんどん参画しているが、基本男の社会だ。また、地盤は古くからの保守派。後援会の方からも、次は男の子という声も少なからずあり、どうしても男の子をという気持ちが捨てきれなかったのだろう。芽衣が娘を出産した後も、隼人は子作りを止めなかった。
それに、どんな薬でもそうだが、使い続ければその効果は薄れる。前と同じような興奮を得ようして、どんどんと量を増やしていき、それも効果がなくなれば、違法な薬物に。坂を転がり落ちるように隼人は薬物中毒の道に染まっていった。それに気づいて止めることができなかったのは、自分の落ち度だったと健史は思う。芽衣が第二子を妊娠した時、隼人は健史に、
「芽衣には悪いけど、これで打ち止めでいいですよね」
と言っていた。その言葉の真意にその時気づいていれば……
そして、隼人は誰にも内緒で薬物を断つと決め、一人ある一室に籠った。しかし、隼人の身体と心は思いの外蝕まれていたようだ。
隼人は、妻と子供たちのために完全に薬を断とうとした禁断症状の中生まれた自殺願望に呑まれて、自らの命を絶ってしまった。
表だって薬を絶つなど現役の国会議員として絶対にできないかもしれない、それでも自分だけにでも相談してくれれば、極秘で専門の施設を手配してそこで治療するという選択肢もあったのに。そうすれば、隼人はこんなに早く命を落とすことはなかったろう。ただ、龍太郎たちの不妊治療に健史をけしかけるような彼のことだ。健史がどんなに勧めても医療機関に頼るという方法は選ばなかった可能性は高いが。
そして、政治という世界がそこまでして居なければならない所だとは自分には思えない。もう主はいないのだ、潮時だと健史は思った。
そして、もしかしたら俺たちは知らないうちに悪魔に魂を売っていたのかもしれないなとも、健史は思った。最愛の人との想いを遂げる―自分には龍太郎の、隼人には己の命をその代償として……
だが健史は、その意に反して政治の世界から離れることはできなかった。隼人の後援会が、今度は健史を担ぎ上げることにしたからである。
それに対して、真っ先に動いたのは義母多佳子。彼女は意図的に健史が諏訪の子であることをマスコミにリークした。そしてそれをちゃっかりと、
「行方不明だった元婚約者の忘れ形見を見つけて認知する」
という、お涙頂戴的な美談に仕立て上げた。もちろん、父正治は大喜びで健史を後継者に据えた。隼人の弔い合戦という事もあり、結果は圧勝で衆議院議員、諏訪健史が誕生することとなった。
健史はそのまま生涯政治家として人生を終えた。
-Fin-
隼人は、薬物中毒による鬱状態からの自殺だった。もっとも、その事実は彼の所属する与党第一党、誠実党の総力をかけてもみ消されたが。
「私には、上河原がなぜそんな物に手を出したのか解りませんの。産まれてくる子が男だと分かって、本当に楽しみにしていたのに……」
放心状態の隼人の妻、芽衣は今妊娠七ヶ月だ。先日の検診で、隼人はお腹の子が男だと聞いて、大喜びした矢先だったという。
だが、首を傾げる芽衣を見ながら、(だからだ)と健史は思った。
隼人は真性のゲイだ。女の身体を見ても興奮しない。それでも隼人は跡取りを残すために、催淫剤を駆使してことに臨んで、芽衣は無事妊娠。しかし、生まれた第一子は女の子。昨今、女性でも政治にどんどん参画しているが、基本男の社会だ。また、地盤は古くからの保守派。後援会の方からも、次は男の子という声も少なからずあり、どうしても男の子をという気持ちが捨てきれなかったのだろう。芽衣が娘を出産した後も、隼人は子作りを止めなかった。
それに、どんな薬でもそうだが、使い続ければその効果は薄れる。前と同じような興奮を得ようして、どんどんと量を増やしていき、それも効果がなくなれば、違法な薬物に。坂を転がり落ちるように隼人は薬物中毒の道に染まっていった。それに気づいて止めることができなかったのは、自分の落ち度だったと健史は思う。芽衣が第二子を妊娠した時、隼人は健史に、
「芽衣には悪いけど、これで打ち止めでいいですよね」
と言っていた。その言葉の真意にその時気づいていれば……
そして、隼人は誰にも内緒で薬物を断つと決め、一人ある一室に籠った。しかし、隼人の身体と心は思いの外蝕まれていたようだ。
隼人は、妻と子供たちのために完全に薬を断とうとした禁断症状の中生まれた自殺願望に呑まれて、自らの命を絶ってしまった。
表だって薬を絶つなど現役の国会議員として絶対にできないかもしれない、それでも自分だけにでも相談してくれれば、極秘で専門の施設を手配してそこで治療するという選択肢もあったのに。そうすれば、隼人はこんなに早く命を落とすことはなかったろう。ただ、龍太郎たちの不妊治療に健史をけしかけるような彼のことだ。健史がどんなに勧めても医療機関に頼るという方法は選ばなかった可能性は高いが。
そして、政治という世界がそこまでして居なければならない所だとは自分には思えない。もう主はいないのだ、潮時だと健史は思った。
そして、もしかしたら俺たちは知らないうちに悪魔に魂を売っていたのかもしれないなとも、健史は思った。最愛の人との想いを遂げる―自分には龍太郎の、隼人には己の命をその代償として……
だが健史は、その意に反して政治の世界から離れることはできなかった。隼人の後援会が、今度は健史を担ぎ上げることにしたからである。
それに対して、真っ先に動いたのは義母多佳子。彼女は意図的に健史が諏訪の子であることをマスコミにリークした。そしてそれをちゃっかりと、
「行方不明だった元婚約者の忘れ形見を見つけて認知する」
という、お涙頂戴的な美談に仕立て上げた。もちろん、父正治は大喜びで健史を後継者に据えた。隼人の弔い合戦という事もあり、結果は圧勝で衆議院議員、諏訪健史が誕生することとなった。
健史はそのまま生涯政治家として人生を終えた。
-Fin-
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