Body Language

神山 備

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告白

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「ええ、その時には陸もまなこもいたわ。私、寂しかったの」
加奈子は固まったままの未来に、亮平とのことを話し始めた。

「私ね、前に話したことあったかしら、MAX103kgあったのよ」
「103kg……ですか」
加奈子のダイエット前のカミングアウトに未来は首を傾げながら復唱する。それはそうだろう、メタボ大国となった昨今、身近にも超肥満の人はいるだろうが、その人が実際にどれほどの体重があるかはわからない。
「修司は仕事人間だったし、丁度仲の良い女友達もだいたい似たり寄ったりの環境で子育てで手一杯。今から考えると、私はたぶん食べることにしか楽しみを見出せなかったんだと思うの。
でも、その僅かな楽しみが、徐々に私の中の感覚を狂わせていったわ。1回だけ見るとほんの少しのオーバーなんだけど、まさに『塵も積もれば山』だから、簡単には痩せる方法が見出せなかった。
でも、私は普通の料理レシピを見るのに入ったブログでそのことに気づかせてもらえたの。人ってね、自分が必要なカロリーより毎日190kcalオーバーし続けるだけで、年に10kgも太れるのよ。190kcalっていうと、今川焼きが一つ食べられるかどうかってとこ。マルチパックじゃなきゃ、アイスなんてほとんどNGなはずよ」
そんな加奈子の説明で未来の顔つきが講義を受ける学生のようになる。ダイエットは現代女性にとって一生のテーマ。特に出産直後の未来にとっては、産後太りが気になる所なのだろう。
「最初はただ見てるだけだったんだけど、みんながあまりにも楽しそうだったし、私にもできるかなってダイエットを始めて、ブログを立ち上げた。そのブロ友のひとりがその、エイプリル……綿貫亮平というひとだったの」
未来の肩が亮平の名前を告げたところで、ピクンと震える。

「彼優しくってね、私の小さな変化にもいちいち反応してくれたわ。だから、休みの日にまで仕事だって言って出て行く修司と気持ちが逆転していくのも早かった。
私は痩せたい以上に、前を走っている彼に付いて一緒に歩いていく感覚が楽しくてダイエットに励んだわ。そして、競いあうように痩せて、彼が一足先にゴールを迎えたの。
でね、ゴールを記念して彼が東京でオフ会を開いたの。みんなが集まりやすいからってブログには書いてあったけど、ホントはたぶん怖かったんだと思う。私もゴール目前だったし、ネットなんて落ちてしまえばそれまでだから。
そこでリアルで知り合った私たちは、そのまま深い関係になった。彼ね、子供たちを連れて岐阜に来てほしいとまで言ってくれたのよ」
加奈子はそこまで話して、深くため息をつく。
「でも、行けなかった。私は修司と別れることはできても、子供たちからパパとママのどちらかを取り上げることができなかったの。特に瞳は……あの子は赤ん坊の頃、手を振ることでさえ泣く子だったから。
丁度そのときだった。修司が今のお店を始めるために日進に行こうと言いだして。陸は友達と離れるのがいやだと泣いたけど、瞳は即答で修司と一緒に行くと言い切ったわ。それで、私は目が覚めたの。私にはこの家族を捨てられないって気づいた。
それに、全然私のことなんか見ていないと思っていた修司が、本当は結構見ていてくれた事も分かって嬉しかったし。だから私は、ネットのことを全部忘れて、新しい土地で新しい私としてやり直したいと思ったのよ」
そこまで話して、加奈子は未来を見る。この先を話せば、完全に引いてしまうだろうなと思いつつ言葉を続ける。
「でもね、そう考えたのは私だけじゃなかったの。修司が脱サラを決めた本当の理由……永年勤めていた会社の業績が以前ほど上がらなくなっていたのは事実だけど、中堅どころになっていた彼が辞めなきゃならないほどではなかったわ。実はね、私だけじゃなく、彼にもリセットしなきゃならない関係があったからなの」
未来の大きな瞳が更にまた大きく見開かれた。

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