プリンセスになりたかった

浅月ちせ

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第1章

シャイネス王国

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「痛い。痛い。痛い。ひどいよ、途中で諦めるなんて。もっと粘ってよ。人の命がかかってンだよ。」

「うるせぇな。俺があそこまで粘ってやったから大した怪我をせずに済んだんだろ。」


ズドンと落下した後、わたしはぐちぐちと水色くんに文句を言っていた。
自分の身が危険にさらされたのだから正当な意見だと思うのに『うるせぇ』とは、解せぬ。


「軽傷で済んだら傷害罪にならないのかい?え?違うでしょ。」

「…何で助けてやったのに俺が罪に問われてんだよ。」

「助けてくれたことには感謝だけども、もうちょい頑張ってくれたっていいじゃない。って話でしょ?結果的にやっぱり怪我しちゃったじゃない。」

「俺だって努力した。けど疲れたんだから仕方ないだろ。」

「いや、まさかの人命と疲労の天秤よ!!!?」

「キリがねぇな。」


水色くんの名前はレグルス。
わたしをズドンと落としたあとふらふらと気怠げに『大丈夫か?』と近寄ってきた。思わずいや、君が大丈夫か?と返したのだった。


見慣れない水色頭ではあるが、顔が整っているせいか違和感なくよく似合っている。つり眉たれ目のわたしの好みどんぴしゃりでなかなか評価は高かった。
しかし、話していくうちに見えてきたのだ。
こ奴ちょいちょい口が悪い。いちいちカチンとくるのでわたしの中の好感度は今やだだ下がりなのである。
まぁ歯に衣着せぬと思えば何考えてるのかわかりやすいからいいのだけれど、ね。ああ、ほんと残念。


「まぁまぁ!確かに諦めるのは早かったけど、レグルスの出した鳥のおかげで大木から地面への急行直下は免れたわけだしさ!前向きに捉えてやってよ!」

金髪ツンツンの名前はサルドナ。三白眼で目付きがちょっとこわいのだが、見た目だけで中身は悪くないっていうやつは舞台役者にごまんといるので特に抵抗もなく話すことができる。

そしてこいつは



「ねーー?ユミィ?」




茶髪ツインテールちゃんのことが好きなようである。『ねーーユミィ?』ってこの数分で何度聞いたことか。わかりやすすぎか!


「でもでも、足首真っ青だね。あっためてマッサージしてあげなくちゃ。」

ユミィちゃんは、リスみたいにくりくりした黒目がちの大きな目と白い肌にピンクほっぺ。ぷるぷるの唇の持ち主で、お人形なのか!天使なのか!と叫び回りたいほどの美少女だった。尚且つ優しさ100点満点という、見た目も相まってとんでもなく癒し系である…っ!!!しかも花屋て!!!!



「レグルスは治癒魔法は使えないからね。」


ずずーーーん


ユミィの一言に、レグルスが顔を曇らせた。

「あぁユミィ…  レグルスが沈んじゃったよ。」

「あ!  レグルスごめんね!」



そう。さっきから鳥を出しただの治癒がどうの…
レグルスはいわゆる魔法使いらしい。



「ごめんね、悪気はなかったの!治癒できないんだし安全な浮遊魔法にしとけばとか、体力ないんだから大きい鳥さん出せば力を分散しなくて良かったのにな、とか、あ、でもでも咄嗟だったもん仕方ないよね!レグルス魔法苦手なのに、よく頑張ったと思うの!!!」


ずずーーん


さらに凹ませるユミィ。



「レグルスーーーー!」

「えぇ?! ごめんんんん!!」


レグルスはどうやら魔法レベルは高くないらしく、偉そうなくせにメンタルは薄弱らしい。そしてユミィはお口が滑るらしい。


魔法使いがいるだなんてビックリだ。


しかし、この世界が特別魔法の国というわけではなく、これはこれで珍しいそうである。ユミィもサルドナも使えないと言っていた。


まだ数分間しか一緒には過ごしていないがレグルスの自信の無さはわたしでも感じられた。

他人が持っていないものの素質を持ってるんだから、もっと胸張って生きたらいいのに。


なんて平凡なわたしは思ってしまいますけどね。


ちなみにここは日本でも東京でもない。聞かずともすぐにわかった。

景色が。

空気が。

わたしの知っているそれとは違ったから。


引っかかっていた大木の葉の、異常なまでの青々しさ。

南国特集でしか見たことがないような形の花や果物。

空と海の境界線が虹のように色鮮やかに輝いていて。

周りには、プリズムっていうのかな?表現し難い色の光がちらちらと風景に混ざっていて……

「ああ、それ妖精。」

レグルスにばっさり言い切られた。



「よ、妖精??!」

「妖精が珍しいか? そうか…。お前も魔法が使えないんだな。」

どうやら魔法には妖精さんのお力が必要不可欠らしく。
わたしが魔法使いでないと知るとレグルスはわかりやすくがっくりしょんぼり落ち込んだのだ。

最初はどこか外国なのかなーなんて思ったけれど、ここはとってもファンタジーな世界なのだった。

初めて出会ったのが彼らだったからか、大木から落下というハラハラクエストに遭遇したからか、わたしがファンタジー脳(魔法、妖精、異世界大好き)だったからか不思議と恐怖は抱かなかった。


稽古場に向かう途中だったわたしが横断歩道を渡っている最中。気が付けばこの世界の大木の枝に挟まっていたのも、どうやらレグルスの魔法が原因だったらしい。


「俺以外の魔法使いに会ってみたくて召喚魔法に挑戦してみたが……やはり失敗だったか。」

「レグルスは魔法がへたくそな上に、失敗前提の心意気で挑戦するからあんまり上達しないの。ごめんね。許してあげてね。」



ずずーーーん



「レグルスーー!!」


うん。ユミィがお口を滑らせて、サルドナがレグルスを慰めるっていうのはデフォルトなんだな。


「あ!そういえば名前!なんていうの?」

話を逸らすためかサルドナにふいに尋ねられた。

あ。自分の自己紹介忘れてた。


「わたしは天音和葉(あまねかずは)!えーと、しがない舞台役者をしております。はは。
本名は周万葉(あまねかずは)って書くんだけど…どうせ字とか伝わらないのが異世界セオリーだと思うからカズハでいいよ。」

『何言ってんだお前。』とレグルスにすかさずつっこまれる。

それは役者という職業のことか?芸名のことか?異世界セオリーのことか?
と憤ったが自分の自己紹介がつっこみ要素満載であったことを自覚しただけだった。



がさがさっ


「おわ!  なんだ??」


側の茂みを掻き分けてたくさんの男の人たちが現れた。青と白と金の装飾をされた鎧を着てみんな手に剣を持っている。


突然現れた武装した大男たちに戸惑うわたしと、さささっとレグルスの後ろに引っ込むサルドナとユミィ。



こんな若者相手に武装兵士10人以上も!一体なんだっていうの??!
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