プリンセスになりたかった

浅月ちせ

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第1章

イーゼル・クライン

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ザワザワと耳触りの悪い音が聞こえる。


ちゃぷんと水の跳ねる音、バタンと扉の閉まる音、カサカサと布の擦れる音……

周囲の音が同時に鳴っているため全て雑音として耳に届いているようだ。そのくらいのことがわかる程度には意識が戻っている。

首に痛みを感じてから今までわたしは気を失っていたようだ。

しかし、今目を開けるのは得策ではない。


あの痛みは故意だ。


誰かがわたしを背後から襲ったのだ。


まずは、情報収集が先決である。

わたしは目を閉じたまま、少しずつバレない範囲で体の様子を確かめた。

両足の指を一本ずつ動かす。
同時にゆっくりと両手の指にも力を入れて正常に動作するかチェックをする。

脹脛、太腿、腰、脇腹、腹、胸、腕…

徐々に力を入れる位置を変えていく。

痛いところは特にないようだった。



「それにしても本当にそっくりね」
「実は本人なんじゃないかしら」
「あら、首を叩いて気絶させたのよ。本人だったら一体どれだけの罰を与えられることか」
「やめてよ恐ろしい」


会話が始まった。
話しているのは3人。全員女性。

女の人に殴られたの?


「イーゼル様は手刀の達人よ。この娘が首の痛みを訴えない限りバレることはないわ」
「痛みは一瞬。どこも傷つけない!」
「本当に凄いわねー。どうやっているのかしら」
「それがわかれば誰だって達人になれちゃうわよ」
「この娘がイーゼル様に抱き抱えられて来た時は嫉妬で心が千切れそうだったわ」
「やめときなさい、嫉妬するだけ無駄よ」
「なによ!」
「どうせ相手にされないって言ってるの!」
「なんですって!」


ベッドの真横で喧嘩が始まった。どうやら、イーゼル様という手刀の達人はこの女性たちにとって高嶺の花で憧れの存在であるらしい。そして、わたしはそのイーゼル様によって気絶させられお姫様抱っこで運ばれた……と。


展開と登場人物はわかった。
あとは目的と人間関係図がわからないと無闇には起きられないな…。

さっき体をチェックした時にベルが手首に着いてないこともわかったし、レグルスとは合流できるんだろうか。


わたしのこと探してくれてるかな…?



コンコン


誰か来た。


「しっ!」
「きっとイーゼル様よ!」


「はーーーーい!」


猫なで声。
男性の前で態度が変わる女性が本当に好きじゃない。この3人とは仲良くなれそうにないな。


「失礼する。」


男性の声。例のイーゼル様だろうか。


「まだ起きないのか?」
「ええ。きちんと湯浴みもしましたし、服も着替えさせましたけれども一向に起きませんわ」
「自然に起きた方がいいかと思いまして、特に物音を控えたわけでもないのですけれど」
「頬を叩いて起こしましょうか?」


ひぃ!もっと優しく起こしてよ!!

知らない内に湯浴みまでさせられたのか。全部脱がされたってことよね……同性同士からまあいいけどさ…


「いや、こいつはもう起きている」


どきり。
一気に体の体温が下がったのがわかった。

イーゼル様が近寄ってきている。
瞼の中の視界が暗くなる。
顔を覗き込まれている。


どうしようどうしようどうしよう…!


目覚めるべきか寝たふりを続けるべきか、まだ情報が集まりきっていない。
しかし今は寝ている方が不利か?どっちにしろ叩き起こされるなら自分から目を開けた方がいいかもしれない。


恐る恐る…さも今目が覚めました風を装って目を半開きに。視界が定まってないように演技をする。


「あなたは……だあれ?」
「俺はイーゼル・クライン」
「…イーゼル…。わたしの知ってる人…?」
「いや、初めてだ。おまえとそっくりな奴ならよく会っているがな」
「わたしと…?」
「ああ。   まだ意識がはっきりしないか。ここでもうしばらく寝ているといい。次に会う時にきちんと話をしよう」


優しく微笑んだイーゼル様はわたしの前髪を撫で、喧しい3人を引き連れ部屋を出て行った。


バタン



緊張した……っ!


いや、しかし麗しかったなイーゼル様。銀色に輝く長髪に少しだけ尖った特徴的な耳。全身は見えなかったけど、真っ白で金の刺繍の施されたロングコート。全てが完璧か。
あれ?でも、胸元に見覚えのあるマークがあったような…。
半目でふわふわした口調を意識していたからあまりハッキリ見えなかった。失敗したな。

イーゼル様はわたしに危害を加える雰囲気は纏っていなかった。
手段として気絶させただけなのだろう。

わたしをここに連れて来たかった理由が絶対あるはずだ。

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