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第1章
知らずに犯す罪
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コツコツコツコツコツコツ…
スッ
コツコツコツコツコツコツ…
廊下から足音が聞こえたかと思えば、足音の持ち主はわたしの部屋の前で止まるとドアの隙間に紙を差し入れ、また去って行った。
なんだろう…
目を覚ましてから初めて起き上がるので、眩暈に気をつけてゆっくりと体を起こしドアまで向かう。
紙にはメッセージが書かれていた。
『起きたら右隣の部屋の使用人に声をかけて執務室へ来なさい。』
どうやら足音の主はイーゼル様本人か彼に頼まれた使用人のようである。もう少し寝ていろと言って部屋を出たから起こさないようにメモにしてくれたらしい。
イーゼル様の好感度がだだ上がりだ。
どうしようか。このままこの部屋に居ても得られる情報は限られる。早めに覚悟を決めて、話を聞きに行くべきか。
幸いイーゼル様は良い人っぽいし。
そうと決まれば、わたしはまず自分の身の回りと部屋の窓の外を確認した。
女性達の話通り服は家から着て来た物とは変わっていた。大体の型は同じだが、腰回りはレースで飾ったコルセットの様な物がついていて、スカートも足首まで隠れるロング。全体的に上品なフリルがふんだんに使われていた。ユミィ達と買い物に行った時に色々な店を回ったがこのタイプは見たことがなかった。特別仕様、もしくはオーダーメイドだろうか。
窓の外は背の高い木々が目一杯植えられているらしく、目に見える範囲は緑一色だった。
荷物はドレッサーの上に置かれていた。バッグの中からベルを取り出し再び手首に装着する。
部屋には、ドレッサーとベッド、クローゼットの必要最低限の物しか置かれていなかった。それでも10畳以上の広さはありそうだ。客室だろうか。
ベッドに腰掛け直しベルを鳴らす。
が、電池切れのようだ。最低!!!
たしかGPSのような探知機能がついた機種をサルドナが選んでくれたはずだからそれを使ってくれることを期待するしかないか。
執務室には使用人の男性が連れて行ってくれた。
男性曰く、ここはイーゼル様のプライベート用のお屋敷らしくバナームでお仕事が続く期間のみお住まいになる別荘のような所らしい。
予想外の長期になる事もあるので、基本的には使用人は立候補した者の中から数名だけ連れてくるのだとか。
数名とはいっても30前後いるみたいだけど。
「夢現の巫女として俺に協力してもらいたい。」
窓際に立ってわたしに背を向けたまま、イーゼル様は言った。
彼の言い分はこうだった。
どうやらわたしはシャイネス国第一王女セレス様に瓜二つらしい。そして、セレス様はとてもやんちゃなお姫様らしくよく勝手に城を抜け出しては色々な街に出かけていた。
ある日、また勝手に遊びに出た彼女は白山より更に奥地にあるアヌビスの森で盗賊団に出逢ったらしい。そしてそのお頭とやらに恋をしてしまったそうだ。
王様は随分と寛大な方で、姫が愛しているのならとそのお頭との恋に反対はしていないようなのだが、お頭側が乗り気じゃない。王族や財産、地位権力などに興味は無く『俺に惚れたなら俺の縄張りで生きる努力をしろ』とセレス様を振ってしまった。
悲しみに暮れるお姫様…かと思いきや、俄然燃えてしまったらしく『城を出る!』と着々と家出の準備をしているそうだ。
寛大な王様といえど愛されてもいなければ全く無知の環境へ愛娘を放り投げるわけにもいかず、とりあえず待てと引き止める日々なんだとか。
「おまえはセレス様の代わりに盗賊団と生活を共にし、日々の出来事を詳細にまとめ逐一俺に報告してほしい。異世界から来た巫女であればこちらの世界に血の繋がりのある者はいないだろうし、何かあれば巫女の力で乗り切れるだろう。」
そう言うと彼はまたわたしの前髪をさらりと撫でた。麗しい微笑み付きで。
いや、しかし。
あなたは馬鹿か。
「お言葉ですけれど、わたしもわざわざ巫女として召喚された身。お姫様と同等とは言いませんがそんなぞんざいに扱われる存在ではないと自負しております。あなた方でも無知な盗賊団との生活をわたしに危険を顧みず引き受けろとは、随分無茶なお願いのように思いますが。」
そんな怖いこと誰が進んでやるものか!絶対に嫌!!!
血の繋がりどうちゃらって暗に死んでも困らないだろうと言われているようなものでしょ!
「謝礼は弾もう。そして、もう1つおまえにメリットもある。」
イーゼル様は余裕の微笑みを崩さない。
「聞かれないから自己紹介を忘れていたな。名前は名乗ったが俺が何者かわからぬだろう。」
今いる屋敷と使用人の言動、それからさっきの話の内容はとても王族に近い人しか知り得なさそうな点から、それなりに権力を持っている人くらいにしか予想ができない。
「イーゼル・クライン。俺はシャイネス国 王宮直属警備団エリア警備団の総司令官だ。」
彼の上着の胸元にある王冠の装飾が主張して見えた。そうだ。何か覚えがあると思ったら、この世界に来た時、白山で出会ったエリア警備団の人たちの鎧に同じマークが付いていた。
「と、いうことは…スロウさんたちの上司さん…ってこと?」
「第3地区のリーダーだな。もうすぐ辞任すると聞いているが。」
「えっと、わたしのことを知っていたのはそれで…?」
「ああ。スロウが辞任の報告の際に言っていた。伝説の夢現の巫女が現れて自分にこれから先の未来を授けてくれたのだと。しかし……おかしいなぁ。」
イーゼル様は再びわたしの前髪を弄ぶ。優しく撫でるのではなく、人差し指でくるくると強めに混ぜている。雰囲気も変わって少し怖い。
「伝説の巫女召喚なんていうのはかなりの上等魔法。周囲にどんな影響を及ぼすかわからない上に色々なことが未知数だ。従って、実験でさえ国王の許可が下りエリア警備管轄近衛騎士団の上位騎士同席の元、選ばれた魔法使いにしか実行は許されない。因みに今ならアドンレスのみだな。弟子だか何だか知らないが、王宮の許可無くそんなことをした場合、終身刑に罰せられる。」
彼は笑う。
「こちらに協力してくれれば、おまえの存在と弟子の罪はお咎めなしとしてやるぞ。」
いい人だと思った。優しい人だと。
とても美しいと思った彼の微笑みは
とんでもない悪人ヅラだったーー…
スッ
コツコツコツコツコツコツ…
廊下から足音が聞こえたかと思えば、足音の持ち主はわたしの部屋の前で止まるとドアの隙間に紙を差し入れ、また去って行った。
なんだろう…
目を覚ましてから初めて起き上がるので、眩暈に気をつけてゆっくりと体を起こしドアまで向かう。
紙にはメッセージが書かれていた。
『起きたら右隣の部屋の使用人に声をかけて執務室へ来なさい。』
どうやら足音の主はイーゼル様本人か彼に頼まれた使用人のようである。もう少し寝ていろと言って部屋を出たから起こさないようにメモにしてくれたらしい。
イーゼル様の好感度がだだ上がりだ。
どうしようか。このままこの部屋に居ても得られる情報は限られる。早めに覚悟を決めて、話を聞きに行くべきか。
幸いイーゼル様は良い人っぽいし。
そうと決まれば、わたしはまず自分の身の回りと部屋の窓の外を確認した。
女性達の話通り服は家から着て来た物とは変わっていた。大体の型は同じだが、腰回りはレースで飾ったコルセットの様な物がついていて、スカートも足首まで隠れるロング。全体的に上品なフリルがふんだんに使われていた。ユミィ達と買い物に行った時に色々な店を回ったがこのタイプは見たことがなかった。特別仕様、もしくはオーダーメイドだろうか。
窓の外は背の高い木々が目一杯植えられているらしく、目に見える範囲は緑一色だった。
荷物はドレッサーの上に置かれていた。バッグの中からベルを取り出し再び手首に装着する。
部屋には、ドレッサーとベッド、クローゼットの必要最低限の物しか置かれていなかった。それでも10畳以上の広さはありそうだ。客室だろうか。
ベッドに腰掛け直しベルを鳴らす。
が、電池切れのようだ。最低!!!
たしかGPSのような探知機能がついた機種をサルドナが選んでくれたはずだからそれを使ってくれることを期待するしかないか。
執務室には使用人の男性が連れて行ってくれた。
男性曰く、ここはイーゼル様のプライベート用のお屋敷らしくバナームでお仕事が続く期間のみお住まいになる別荘のような所らしい。
予想外の長期になる事もあるので、基本的には使用人は立候補した者の中から数名だけ連れてくるのだとか。
数名とはいっても30前後いるみたいだけど。
「夢現の巫女として俺に協力してもらいたい。」
窓際に立ってわたしに背を向けたまま、イーゼル様は言った。
彼の言い分はこうだった。
どうやらわたしはシャイネス国第一王女セレス様に瓜二つらしい。そして、セレス様はとてもやんちゃなお姫様らしくよく勝手に城を抜け出しては色々な街に出かけていた。
ある日、また勝手に遊びに出た彼女は白山より更に奥地にあるアヌビスの森で盗賊団に出逢ったらしい。そしてそのお頭とやらに恋をしてしまったそうだ。
王様は随分と寛大な方で、姫が愛しているのならとそのお頭との恋に反対はしていないようなのだが、お頭側が乗り気じゃない。王族や財産、地位権力などに興味は無く『俺に惚れたなら俺の縄張りで生きる努力をしろ』とセレス様を振ってしまった。
悲しみに暮れるお姫様…かと思いきや、俄然燃えてしまったらしく『城を出る!』と着々と家出の準備をしているそうだ。
寛大な王様といえど愛されてもいなければ全く無知の環境へ愛娘を放り投げるわけにもいかず、とりあえず待てと引き止める日々なんだとか。
「おまえはセレス様の代わりに盗賊団と生活を共にし、日々の出来事を詳細にまとめ逐一俺に報告してほしい。異世界から来た巫女であればこちらの世界に血の繋がりのある者はいないだろうし、何かあれば巫女の力で乗り切れるだろう。」
そう言うと彼はまたわたしの前髪をさらりと撫でた。麗しい微笑み付きで。
いや、しかし。
あなたは馬鹿か。
「お言葉ですけれど、わたしもわざわざ巫女として召喚された身。お姫様と同等とは言いませんがそんなぞんざいに扱われる存在ではないと自負しております。あなた方でも無知な盗賊団との生活をわたしに危険を顧みず引き受けろとは、随分無茶なお願いのように思いますが。」
そんな怖いこと誰が進んでやるものか!絶対に嫌!!!
血の繋がりどうちゃらって暗に死んでも困らないだろうと言われているようなものでしょ!
「謝礼は弾もう。そして、もう1つおまえにメリットもある。」
イーゼル様は余裕の微笑みを崩さない。
「聞かれないから自己紹介を忘れていたな。名前は名乗ったが俺が何者かわからぬだろう。」
今いる屋敷と使用人の言動、それからさっきの話の内容はとても王族に近い人しか知り得なさそうな点から、それなりに権力を持っている人くらいにしか予想ができない。
「イーゼル・クライン。俺はシャイネス国 王宮直属警備団エリア警備団の総司令官だ。」
彼の上着の胸元にある王冠の装飾が主張して見えた。そうだ。何か覚えがあると思ったら、この世界に来た時、白山で出会ったエリア警備団の人たちの鎧に同じマークが付いていた。
「と、いうことは…スロウさんたちの上司さん…ってこと?」
「第3地区のリーダーだな。もうすぐ辞任すると聞いているが。」
「えっと、わたしのことを知っていたのはそれで…?」
「ああ。スロウが辞任の報告の際に言っていた。伝説の夢現の巫女が現れて自分にこれから先の未来を授けてくれたのだと。しかし……おかしいなぁ。」
イーゼル様は再びわたしの前髪を弄ぶ。優しく撫でるのではなく、人差し指でくるくると強めに混ぜている。雰囲気も変わって少し怖い。
「伝説の巫女召喚なんていうのはかなりの上等魔法。周囲にどんな影響を及ぼすかわからない上に色々なことが未知数だ。従って、実験でさえ国王の許可が下りエリア警備管轄近衛騎士団の上位騎士同席の元、選ばれた魔法使いにしか実行は許されない。因みに今ならアドンレスのみだな。弟子だか何だか知らないが、王宮の許可無くそんなことをした場合、終身刑に罰せられる。」
彼は笑う。
「こちらに協力してくれれば、おまえの存在と弟子の罪はお咎めなしとしてやるぞ。」
いい人だと思った。優しい人だと。
とても美しいと思った彼の微笑みは
とんでもない悪人ヅラだったーー…
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