プリンセスになりたかった

浅月ちせ

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第1章

あたたかい

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そもそも、わたしは好きで召喚されたわけでもないしレグルスだって別に本気で夢現の巫女を呼び出そうと思ったわけじゃない。

まぁ、魔法使いに会いたいとは言っていたから召喚魔法が上等だっていうのならレグルスに全く非がないとは言い切れない。けど、でも!失敗しちゃったし!わたしただの人間だし!


なんて言い訳が通じればいいのだけれど、巫女に未来を見てもらったと信じているスロウさんの報告があるわけだし、嘘つきましたとはとても言い難い…。

イーゼル様のこの様子だと結局詐欺罪とかどうとかこうとか理由を付けて巻き込まれそうだし…。


微笑みを浮かべるイーゼル様を見つめ、腹の内を探っていると、先ほどわたしを連れてきてくれた使用人さんがドアの外からイーゼル様に呼びかけた。


「イーゼル様。そちらの女性のお連れ様が御到着です。」
「もう見つかったか。思ったより早かったかな。いや、おまえが寝過ぎたせいか?」


イーゼル様はポンとわたしの頭に手を乗せると、そのままわたしを通り過ぎて部屋のドアを開けた。


「どうぞ。」

使用人を下げさせると後ろにいた人を招き入れる。



「カズハ…っ!!  探したぞ!」


入ってきたのはレグルスだった。

思わず駆け寄って彼の両腕を強く掴む。冷静に振舞っていたつもりだったけど、知らない場所で自分だけの意思で動かなければならないのは怖い。正直心細かった。


「レグルス!わたし、ベルの電池切れちゃって、GPSもきっと作動しないし、もう、1人でこんな所でどうしようと思って…っ。ねぇ、よくわかったね!!」

「大丈夫だ。落ち着け。おまえのベルにGPSはついてねーよ。その代わり俺の魔力を込めた石をケースに嵌め込んである。それを辿ってきたんだ。」


GPSがついてないなんて知らなかった。確かにサルドナは『そういうのがあるから』と言って選んでくれたが、それを買ったとは言っていなかった。
レグルスから貰ったわたしのベルケースはライトピーチ色のスワロフスキーでデコレーションしてある。レグルスにしてはずいぶん可愛い物を贈ってくれたなと思っていたが、この石に魔力を込めてくれていたのか。


「なるほど…。探知機能を装備させてあったのか。ならわざわざ引き離してこっそり連れて来る必要もなかったな。まだ返事ももらっていない。」


イーゼル様がレグルスの後ろからこちら側へと歩いて来る。
すれ違い様にするりとわたしの手をレグルスの腕から離させ、そのまま肩を抱き寄せる。


「さて。今取引をしていたところなのだが…。彼女の意思というよりは君に聞いた方が早そうだな。」


イーゼル様はわたしを捕まえたまま、先ほどと同じことをレグルスに伝えた。

巫女召喚魔法は禁止されていること、姫の代わりとして盗賊団の生活を探ってくること、見返りとして報酬と罪を不問にしてくれること。

レグルスは顎に手を当てて少しだけ考えると、口を開いた。


「王様は気にしていないようですが、相手は盗賊。要は犯罪者です。幾ら何でも王族を犯罪者に落とすわけにはいかないし、お姫様を犯罪者扱いすることはできないのではないでしょうか。
こいつが盗賊団に紛れて好感度を上げることで、そのお頭にお城入りしてもらって結婚した方が健全だと思います。」

たしかに、王様はお姫様の気持ちを優先させたいとは言っていたけれど、家出をするという件にはストップをかけていた。やっぱり心配は心配なんだと思う。


「正直な所、今回の件は姫に恋心を諦めてもらう為の作戦に過ぎなかった。だが、なるほど。向こうの言い分を受け入れず、姫の為にこちら側へ引き込む作戦に変更するということだな。」
「そうです。姫は姫のまま、お頭にその気になってもらえばそれで済む話です。」
「この娘にそれができると…?」
「もちろんです。こいつは伝説の夢現の巫女ですから。」



交渉成立。



わたしを除け者にして。



イーゼル様とレグルスは固く握手を交わし、早速と契約書にサインをしている。

何度か口を挟もうとしたが悉くレグルスに遮られ、一度もわたしの意見を聞いてもらうことはできなかった。
当事者はわたしなのにおかしくない?



レグルスのサインが終わりイーゼル様が確認をすると、レグルスはさっさとわたしの手を引いてお屋敷を出てしまった。30人前後いる使用人さんとは誰ともすれ違わなかった。

この間、わたしは何度もレグルスに声をかけているが総シカトである。
ガン無視。


「いい加減にしてよ!!少しは会話して!!」


内容はともかくこちらからの呼び掛けに一切反応を返してもらえないのは寂しすぎた。先ほど心細さから開放されたばかりなのに再び心が冷える思いだ。

もう随分と歩いたので振り返ってもお屋敷は見えない。


「もうすぐ夜中になる。早いうちに大通りまで行かないと危ないんだ。後で聞いてやるから少し我慢しろ。」


レグルスは少しも足を止めずにザカザカと歩き続ける。
全然大通りに出る気配がない。むしろどんどん山道に入っている気がする。でもわたしはお屋敷まで気絶して運ばれていたから正直どうやって来たのかわからないし、黙ってレグルスについて行くしかなかった。





「ーーって!かんっっぜんに迷子ってこと??!」


ズズーーーン


メンタル弱しなレグルスは、抱えた膝に頭を埋めて落ち込んでいる。
最初の頃に悪意の無いユミィに詰められて凹んでいた時と同じだ。

ここ最近は魔法も練習していなかったしあまりこの姿を見かけてはいなかったが。

「いや、迷子ではない。疲れただけだ。一休みだ。」
「さっきあんた一刻も早く大通りに出たいって言ってなかった?こんな所で一休みするの?」
「仕方ないだろ。疲れたら歩くのが遅くなる。少し休んでまた進んだ方が効率がいい。」

最もらしいことを言っているが、ここはどう見ても森の中だ。右も左も、見渡しても木しかない。なんなら今立っている所は獣道ですらない。存分に草が生い茂っている。

「こんな所…。虫が出るかもしれないし、何か怖い動物がいるかもしれないし、野宿なんて嫌だよ。」
「心配するな。怖い動物なんて出ない。ここは街に近い森の中だからな。人間を襲うようなものはいないさ。」

そういう問題かなぁ…

「魔法ミストを作ってやった。これで虫除けと冷気除けはできるから。」

レグルスは自分とわたしに香水瓶のような物でミストを吹き付けた。
彼の魔法は長時間は保たないから、テントや毛布を出してもその場しのぎにしかならないが、物体でなければ効果に制限時間は無いらしい。

夜の森は少し肌寒く感じていたが、ミストのおかげか鳥肌が立つことはなかった。

レグルスは魔法で温かいスープを出したり薪に火をつけたり、着々と野宿の準備をしている。

薪の火は動物を追い払う効果もあるらしい。そういえばそんな映画のシーンを見たことがあったかもしれないな。


パチパチパチ…

火が静かに燃えるのを2人で黙って見つめる。
わたしの右腕とレグルスの左腕はぴったりくっついていた。
何となくレグルスはこういうの照れちゃうタイプかなーと思ったが体温を分けるというちゃんとした理由があるので文句はないようだった。

わたしはというと、気絶していた時に湧き上がった黒い感情がお腹の深いところでぐるぐるしていることを気にしていた。

あれは、わたしがこっちの世界に飛んでくる前に抱いていた想いだった。
普段から積もり積もって、ふとした時に心を闇に引っぱり込む厄介な感情。
楽しい時には何とも思わないのに…やっぱり異世界に飛ぶってそれなりにストレスだったかな。



「カズハ。俺に言いたいことがあるんじゃなかったのか?」


ハッとして隣を向くとレグルスがわたしの目を覗き込んでいた。
あまりに近くて少し照れてしまう。何となく、火を見たまま口を開かない様子のわたしを心配してくれたのかなと思った。


「うん、そうだった。 どうしてわたしに何にも言わないでイーゼル様と約束しちゃったの?わたしできないよ、お姫様のことなんて全然知らないんだし。」


どんなに念入りに演技したって、役作りが不十分じゃ無理がある。
すぐにバレるし、盗賊団の中に入るなんて怖すぎ。


「心配するな。お姫様のことなんて下々の者はだーれも知らねーよ。」
「でもお頭はお姫様と面識があるのよ。少なくともわたしよりは知ってるわよ。」
「俺の師匠は王宮直属魔法執行部教授だぜ?俺の方が姫のこと知ってるっつーの。だからカズハ、心配するな。俺も一緒に行く。」
「え…   ほんと?」
「ああ。姫がたった一人でそんな所行くわけないだろ。護衛だって言えば難なく一緒に居られるさ。」

自信を持って優しく微笑むレグルスは凄く心強かった。
わたしもしっかり覚悟を決めて、明日に備えて眠ったのだった。


火は朝まで消えることなくわたし達を見守っていてくれた。
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