プリンセスになりたかった

浅月ちせ

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第2章

恋は盲目

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「それでは!ユミィ先生の盗賊団講座、はじまりはじまり~!!」


サルドナの気合いの入った一声の後、ユミィ先生が照れ照れと紙芝居状にしてきてくれた資料をテーブルの上にドンと出した。


「まずは、盗賊団の名前からね。彼らは『ディタ盗賊団』っていうの。わたし達の住むミンティアから白山を挟んで反対側の麓の集落、アヌビスの更に奥にある森を拠点にしているわ。」
「ディタ?なにそれ、ライチ?」


ディタって聞いたらカクテルに使うライチのリキュールしか思い付かない。


「アフロディーテって女神様からもじっているみたい。」
「ああ、アフロディーテ!豊穣とかを司るギリシャ神話の女神様だよね。」


ギリシャはわたしの世界の国の名前だし、ユミィに通じるかな?と思ったけど、神話や迷信の類は土地土地に細かい違いはあれど共通しているものが多いみたいで大丈夫だった。


A4の厚紙に盗賊団の説明が色鉛筆で可愛らしく書かれている。イラストも描いてあってわかりやすい。


「ディタ盗賊団は今内部分裂中なの!現頭領のシャロン様派と、若手を纏めているライド派とで二分しているみたい。お姫様がシャロン様に夢中になっていた時にそのまま王宮乗っ取りを期待していた過激派が、お姫様を振ってしまったシャロン様に反発してライド派を支持するようになったって感じね。カズハはとりあえずこの二分構造を理解して、メンバーの誰がどっち派かっていうのがわかっていたら良いかも。」


そう言うと、ユミィは紙芝居を閉じ新しい資料を取り出した。

生写真が何枚も入ったクリアファイルのようだ。


「これはディタ盗賊団、シャロン様派のメンバーのブロマイドだよ~!」
「え、ちょっと待って!盗賊団のくせにブロマイドとかあるの?!」
「そうなの!シャロン様派はとっても美形揃いで、それを自覚しているから定期的にブロマイドを撮影してメイリーズにある専門店で売ってるのよ。ナンバー組はすぐ売り切れちゃうから新作が発売したら朝から並ばなきゃなの!」


ズラッと写真が入ったクリアファイルを開いて、キラキラと目を輝かせたユミィは語る。

発売済みの写真は網羅しているから、このファイルだけでシャロン派の完全版カタログみたいになっているそうだ。


つまりディタ盗賊団の一部メンバーはアイドル並みの人気があって、世間一般にわりと素性が知られていると。

ユミィは大ファンだから『詳しいことはユミィに聞け』ってレグルスは言っていたんだなと一瞬で理解できた。
素性が知られているって盗賊団としてどうなんだろ……?


「ちなみに一番人気はやっぱりシャロン様ね!次は頭領右腕のジークさん!わたしの推しは4番人気のルーイ様なの~~!!」


1人でテンションただ上がりなユミィ。現実世界でもアイドルにまったく興味がなかった身としては少しついていけないかもしれない。


そして、最初の一声以降一切口を挟まず隣で体育座りで大人しく拗ねているサルドナが気になって仕方ない。
可哀想すぎる。


「えーーっと…サルドナも、大変だね…」
「いいんだ。ディタ盗賊団やルーイ様の話をしてる時のユミィはキラキラしてて可愛いから……」


うーむ、重症。
仕方がないから、ユミィのディタ盗賊団講座を受けながらサルドナの頭をなでなでしてあげたのだった。
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