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第21話 立太子の儀でひと悶着起こす事になる。
Chapter-30
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「お初にお目にかかります、殿下。私は今回、アドラーシールム帝国親善大使として立太子の儀に参加させていただいていたマイケル・アルヴィン・バックエショフです。こちらは妻の──1人になります、ミーラ・プリムス・バックエショフです」
「こちらこそ、お会いできて光栄です、バックエショフ子爵。自分がブリアック・フォートリエ・シエルラ、ガスパルの第2王子になります」
なるほど、たしかに武人然としたシグル王子やアシル王子に比べると、少し学者肌と言うか、そんな感じの漂う、やや童顔の優男だ。
今、外では、大祭壇での騒ぎを完全に収束させるために、ガスパル王が皆に訴えかけているところだ。
俺は、ミーラだけ連れてブリアック王子の元を訊ねていた。他のメンバーは大祭壇の下で待機しているはずだ。
というのも、
「まさかブリアック殿下が、私の部下にそのような命令をしていたとは思いませんでした」
と、クロヴィス大佐は、ガスパル王やシグル王子を殺害しようとしていた連中が、ブリアック王子の命令でそれを実行したと、思い込んでいたからだ。
「おそらくそれは違うでしょう。別の者が、意図があってあの者達に命令したのではないかと思います」
「と、言いますと?」
俺が言うと、クロヴィス大佐は軽く驚いたように訊き返してきた。
そこで俺は、
「断言はしかねるのですが。もし差し障りがなかったら、ブリアック殿下に直接お会いして、その真意を確かめたいのですが、可能でしょうか?」
と、申し出た。
ガスパル王が俺達にそれなりの信頼をおいていたからか、クロヴィス大佐も俺達がブリアック王子に会うことに快諾してくれた。
そういうわけで、俺達はブリアック王子とこうして対面している。
王子がいたのは、王城の天守閣の、大祭壇を見下ろすことができる部屋だった。
もちろん、そこが本来の、ブリアック王子の居室だとか、魔導師としての研究工房だというわけではない。
ブリアック王子がそこにいたのは、大祭壇の上に攻撃を仕掛ける者がいないか、見渡せる場所だったからである。
部屋自体は物置部屋のようだったが、そこに不釣り合いな、銀の装飾のついた、姿見の鏡がひとつ。
「この鏡は、殿下が持ち込まれたもので?」
「はい、指定した一定の範囲で、魔法を発動させようとする者がいる場合、感知することができます。もっとも、かなり直前でないと反応できないのが欠点ですが……」
なるほど。
姉弟子が作っていた魔法発動感知のイヤリングと同じ代物だ。
「それで、大祭壇が魔法で狙撃された時、シールドを張って防いでいたのですね」
「はい。ただ、私以外にも同じことをしていた魔導師が、別にいたようですが……」
俺が問いかけると、ブリアック王子は、苦笑交じりに、そう答えた。
「やっていたのは私の姉弟子で、リリー・シャーロット・キャロッサ準男爵。ご存知ですか?」
「父王の戴冠式の際にお会いした覚えがあります。あれ、でも確かリリー殿は騎士爵ではありませんでしたか?」
俺が説明すると、ブリアック王子は、最初は思い出すようにしてどこか懐かしげに言ったが、ふと気がついたように、そう訊き返してきた。
「我が帝国でも、色々ありまして、異例の陞爵を受けたのです」
「なるほど、そうだったのですね」
「ところで、殿下は、ガスパル陛下やシグル殿下を害しようとする勢力があると知って、このような対策をしたり、クロヴィス大佐らに備えさせていたりしたようですが、その情報は一体どこから得たのですか?」
俺は、核心に迫るところを訊いた。
「それは、ダヴィド・ジェラン・モンタルヴァン、と、名前だけ言っても、ご存知ないでしょうが……」
「残念ながら……」
穏やかそうな苦笑交じりに言うブリアック王子に対し、俺も、苦笑で応えるしかなかった。
「我が国の軍務卿、エルネスト・グノー・ナルバエス公爵はご存知ですか」
「!」
ブリアック王子が出した名前に、俺もミーラもハッとする。
「ナルバエス公爵が関わっているのですか?」
「モンタルヴァンはナルバエス家の陪臣で、軍務執政の補佐をしている人物です」
ミーラが、思わず、といった様子で、俺に先んじて問いただしてしまうと、ブリアック王子は、そう答えた。
「ナルバエスには思うところがあったのは事実ですが、万一、真実であったなら見過ごせないと思い、このように備えていたわけです」
ブリアック王子はそう説明した。
「なるほどな、だんだん線がつながってきたみたいだぞ」
「アルヴィン、こうなったら、あと、確かめなければならないのは!」
ミーラが言った。多分、それは正しい。
俺達はアシル王子を探した。
と言っても、別に逃げも隠れもせずに、大祭壇の、外側の下にいた。立太子の儀で、王子が登っていく正面の階段のあたりだ。
「アルヴィン殿、どうやら、父上とシグルの命を護っていただいたようで、本当にありがとうございます」
俺とミーラが、事態の収集にあたっていたアシル王子のもとへ行くと、アシル王子は俺達にそう、礼を言ってきた。
「いえ、とんだ騒ぎにしてしまい、申し訳ない限りです」
俺は、多少は申し訳無さそうに、そう言った。
実際、その結果どんな騒ぎになっても責任持てないし、そうなると事前に言ってはあったが。
「兄上」
「ブリアック、お前も一緒だったのか」
もう狙撃の心配はないし、あったとしても近くに姉弟子が居るから大丈夫、と、ブリアック王子に説明し、ついてきてもらった。
「軍人の一部が、お前の命令で動いていたようだぞ。王子といえど、父上の許諾なしに、直接軍に命令することがあっては規律が乱れる」
「申し訳ありません、何分、私だけでは対処しきれない事が起きようとしていたものですから」
アシル王子が、ブリアック王子を叱責するように言うと、ブリアック王子は、実際に申し訳さそうな様子で、そう言った。
「対処しきれないような事?」
「アシル殿下、ブリアック殿下も、ガスパル陛下とシグル殿下を襲撃する人間が居るという情報を知って動いていたんですよ」
不思議そうに言うアシル王子に、俺がそう言うと、アシル王子の顔色が変わった。
「モンタルヴァンは、それは私にしか相談できないことだと言っていたはずだが……」
「!」
それを聞き逃さず、俺とミーラが表情を険しくした。
「やはり、モンタルヴァン殿が関わっているのですね」
「というより、ナルバエス公爵家が、だろうな」
ミーラの言葉に、俺が続けた。
線が、だいたいつながって来たな……
「こちらこそ、お会いできて光栄です、バックエショフ子爵。自分がブリアック・フォートリエ・シエルラ、ガスパルの第2王子になります」
なるほど、たしかに武人然としたシグル王子やアシル王子に比べると、少し学者肌と言うか、そんな感じの漂う、やや童顔の優男だ。
今、外では、大祭壇での騒ぎを完全に収束させるために、ガスパル王が皆に訴えかけているところだ。
俺は、ミーラだけ連れてブリアック王子の元を訊ねていた。他のメンバーは大祭壇の下で待機しているはずだ。
というのも、
「まさかブリアック殿下が、私の部下にそのような命令をしていたとは思いませんでした」
と、クロヴィス大佐は、ガスパル王やシグル王子を殺害しようとしていた連中が、ブリアック王子の命令でそれを実行したと、思い込んでいたからだ。
「おそらくそれは違うでしょう。別の者が、意図があってあの者達に命令したのではないかと思います」
「と、言いますと?」
俺が言うと、クロヴィス大佐は軽く驚いたように訊き返してきた。
そこで俺は、
「断言はしかねるのですが。もし差し障りがなかったら、ブリアック殿下に直接お会いして、その真意を確かめたいのですが、可能でしょうか?」
と、申し出た。
ガスパル王が俺達にそれなりの信頼をおいていたからか、クロヴィス大佐も俺達がブリアック王子に会うことに快諾してくれた。
そういうわけで、俺達はブリアック王子とこうして対面している。
王子がいたのは、王城の天守閣の、大祭壇を見下ろすことができる部屋だった。
もちろん、そこが本来の、ブリアック王子の居室だとか、魔導師としての研究工房だというわけではない。
ブリアック王子がそこにいたのは、大祭壇の上に攻撃を仕掛ける者がいないか、見渡せる場所だったからである。
部屋自体は物置部屋のようだったが、そこに不釣り合いな、銀の装飾のついた、姿見の鏡がひとつ。
「この鏡は、殿下が持ち込まれたもので?」
「はい、指定した一定の範囲で、魔法を発動させようとする者がいる場合、感知することができます。もっとも、かなり直前でないと反応できないのが欠点ですが……」
なるほど。
姉弟子が作っていた魔法発動感知のイヤリングと同じ代物だ。
「それで、大祭壇が魔法で狙撃された時、シールドを張って防いでいたのですね」
「はい。ただ、私以外にも同じことをしていた魔導師が、別にいたようですが……」
俺が問いかけると、ブリアック王子は、苦笑交じりに、そう答えた。
「やっていたのは私の姉弟子で、リリー・シャーロット・キャロッサ準男爵。ご存知ですか?」
「父王の戴冠式の際にお会いした覚えがあります。あれ、でも確かリリー殿は騎士爵ではありませんでしたか?」
俺が説明すると、ブリアック王子は、最初は思い出すようにしてどこか懐かしげに言ったが、ふと気がついたように、そう訊き返してきた。
「我が帝国でも、色々ありまして、異例の陞爵を受けたのです」
「なるほど、そうだったのですね」
「ところで、殿下は、ガスパル陛下やシグル殿下を害しようとする勢力があると知って、このような対策をしたり、クロヴィス大佐らに備えさせていたりしたようですが、その情報は一体どこから得たのですか?」
俺は、核心に迫るところを訊いた。
「それは、ダヴィド・ジェラン・モンタルヴァン、と、名前だけ言っても、ご存知ないでしょうが……」
「残念ながら……」
穏やかそうな苦笑交じりに言うブリアック王子に対し、俺も、苦笑で応えるしかなかった。
「我が国の軍務卿、エルネスト・グノー・ナルバエス公爵はご存知ですか」
「!」
ブリアック王子が出した名前に、俺もミーラもハッとする。
「ナルバエス公爵が関わっているのですか?」
「モンタルヴァンはナルバエス家の陪臣で、軍務執政の補佐をしている人物です」
ミーラが、思わず、といった様子で、俺に先んじて問いただしてしまうと、ブリアック王子は、そう答えた。
「ナルバエスには思うところがあったのは事実ですが、万一、真実であったなら見過ごせないと思い、このように備えていたわけです」
ブリアック王子はそう説明した。
「なるほどな、だんだん線がつながってきたみたいだぞ」
「アルヴィン、こうなったら、あと、確かめなければならないのは!」
ミーラが言った。多分、それは正しい。
俺達はアシル王子を探した。
と言っても、別に逃げも隠れもせずに、大祭壇の、外側の下にいた。立太子の儀で、王子が登っていく正面の階段のあたりだ。
「アルヴィン殿、どうやら、父上とシグルの命を護っていただいたようで、本当にありがとうございます」
俺とミーラが、事態の収集にあたっていたアシル王子のもとへ行くと、アシル王子は俺達にそう、礼を言ってきた。
「いえ、とんだ騒ぎにしてしまい、申し訳ない限りです」
俺は、多少は申し訳無さそうに、そう言った。
実際、その結果どんな騒ぎになっても責任持てないし、そうなると事前に言ってはあったが。
「兄上」
「ブリアック、お前も一緒だったのか」
もう狙撃の心配はないし、あったとしても近くに姉弟子が居るから大丈夫、と、ブリアック王子に説明し、ついてきてもらった。
「軍人の一部が、お前の命令で動いていたようだぞ。王子といえど、父上の許諾なしに、直接軍に命令することがあっては規律が乱れる」
「申し訳ありません、何分、私だけでは対処しきれない事が起きようとしていたものですから」
アシル王子が、ブリアック王子を叱責するように言うと、ブリアック王子は、実際に申し訳さそうな様子で、そう言った。
「対処しきれないような事?」
「アシル殿下、ブリアック殿下も、ガスパル陛下とシグル殿下を襲撃する人間が居るという情報を知って動いていたんですよ」
不思議そうに言うアシル王子に、俺がそう言うと、アシル王子の顔色が変わった。
「モンタルヴァンは、それは私にしか相談できないことだと言っていたはずだが……」
「!」
それを聞き逃さず、俺とミーラが表情を険しくした。
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