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第7話 Night Stalker (III)
Chapter-40
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「こ、これが……」
真帆子は、驚愕のあまり声を失っていた。
「こ、これは……まるで…………」
ゴクリ、喉を鳴らして言う。
「日本で中華料理店に入った感じじゃない、アメリカのヌードルスタンドのものよりずっと本格的だわ!」
湯気を上げ、香ばしい醤油と出汁の香りを漂わせるラーメンを見て、真帆子はそう言った。
「ま、麺もスープもファイの手製だからな」
朱鷺光は、そう言うと、ダイニングテーブルの上の自分のドンブリを抱え寄せ、箸をつけて麺をすする。
「麺もスープもある程度まとめてつくって冷凍しているので、そこまで上等かどうかはわかりませんが」
ファイは、苦笑しながら言う。
「でも、その冷凍まで計算に入れて作るんだろ?」
弘介が訊いた。
「ええ、まぁ、いろいろ研究しました」
ファイは、少しだけ胸を張るようにして、言う。
「研究って……あなたもロボットでしょう?」
「そうですけど……まぁ、自負を持ちたいものに関してはやはり気合が入りますし」
真帆子に聞かれて、ファイはそう答えた。
「はぁ……」
「あんまりしげしげ見つめてても、のびるだけだぞ」
朱鷺光が、麺をすすりながら行儀悪くそう言った。
「それで、例のロボット、正体は割れそうなのかよ」
淳志が、一度咀嚼していた麺を嚥下した後、朱鷺光に訊いてきた。
また今日も、左文字家で夕食を取りながら時間外を稼いでいるらしい。
「まぁ半ば仕方なかったとは言え、オムリンとパティアが派手にぶっ壊したからなぁ、構造の復元まではちょっと無理かもしれんが」
朱鷺光も、一度口の中身を嚥下し、そう言ってから、分厚いチャーシューを箸でつまむ。
「でも、大体の見当はつきそうなんだろう?」
「んー、まはへ」
朱鷺光は、行儀悪く、チャーシューを咀嚼しながらそう言った。
「この後じっくりまったりバラしてやるから、ちぃと待ってな」
そう言って、朱鷺光は、一気に麺をすすり上げた。
「おい、これは……」
食事を終えて、朱鷺光の作業部屋。
本来R.Series用のメンテナンスデッキに、先程のロボットの残骸が乗せられていた。
弘介が、まず、ロボットがジャケットのしたに着ていた、レオタード地のスーツをハサミで切って、その表皮を露出させると、その肌触りを確かめるようにしつつ、怪訝そうな顔をした。
「液晶感応被膜じゃないのか?」
弘介が、険しい表情で言う。
「朱鷺光のロボットにも、使われているやつだな。それが、どうかしたのか?」
淳志が、タバコが吸えない口慰みにと、本来、朱鷺光が疲労回復用に用意しているチェルシー・ヨーグルトスカッチを口に放り込みながら、そう言った。
「左文字博士は、これでパテントを取っていたはずよね?」
「日本の特許庁にだけどね」
真帆子が、やはり険しい顔で言うと、朱鷺光は、口元を尖らせるようにしながら、そう言った。
「なら、そのパテントを追えば、これの製造主に当たるんじゃないかしら」
「その程度で尻尾を掴ませるとは思えないんだが、まぁ調べてみる価値はありそうだな」
険しい表情の真帆子の言葉に、朱鷺光は面白くもなさそうな表情でそう言った。
「よし、それはこっちでも調べてみよう」
淳志はそう言うと、スマートフォンを取り出し、連絡のメッセージを打ち込み始める。
「パティア、掃除機構えててくれ」
「解った」
朱鷺光が言うと、パティアは、ノズルを外した掃除機の先端のパイプを、構えた。
ガレージのものほど大容量ではないが、作業部屋にもR.Series関連の工作をするため、高儀製の小型エアコンプレッサーが置いてあった。
朱鷺光は、それに、エアグラインダーを接続し、ロボットの、人間で言えば肋骨の間あたりにサンダーを当てる。
「行くぞ」
チュイィィィン、と音がして、朱鷺光がちょうど胸郭から腹部にかけてに当たる部分を、エアグラインダーで切断していく。
パティアは、その切断の際の塵が舞わないように、グラインダーの刃の近くに、掃除機のパイプを当てて吸い込ませていた。
「いよし」
朱鷺光は、グラインダーを離すと、ふぅ、と息を付いた。
すると、朱鷺光と入れ替わるように、オムリンが、バールを持ってロボットに近寄る。
「深く差すなよ、まぁ、腰をぶっ壊してるから、今更だが」
「了解」
朱鷺光に言われると、オムリンは浅く差し込んでうまく引っ掛け、ロボットの胸郭の部分を、こじ開けた。
「なーるほどやっぱりなぁ、主制御装置は胴体の方に搭載してたってわけか」
オムリンがこじ開けた内部を、朱鷺光はピンセットを持って差し込むようにしながら、観察する。
「弘介、頭部任せた」
「O.K.」
頭部はすでに、パティアのブレードで割られた形になっていた。弘介がそれを抑えると、
「オムリン、頼む」
「了解」
と、オムリンが、やはりその刀傷からバールを差し込んで、こじ開ける。
パキン、と音がして、頭部の外殻部が分解した。
「イメージングの素子と……」
頭部に搭載されていた基盤を1枚、1枚と弘介は外していったが、
「おやおや、出てきたぜ見覚えのあるチップ」
と、ニヤリと笑い、延髄のやや上あたりに収まっていた子基盤をソケットから外し、メンテナンスデッキの上に乗せた。
基盤の上に載ったチップには「Qualcomm」と刻印されている。
チップ自体はそれほど特殊なものではなかった、というより、朱鷺光や弘介にはもちろん、真帆子にも見覚えのあるものだった。
移動体データ通信用のチップである。
現在、中国の華為、日本のカネボウ半導体と世界を三分する製品だ。
「どうやら、それがビンゴみたいだな」
朱鷺光は、胸部に搭載されたと思しき制御装置から、スマートケーブルの1本を追っていった。それは、弘介が抱えていた頭部の、先程、ドーターボードをソケットから外したあたりに接続されていた。
「つまり、どういうことだ?」
県警へのメッセージを送信し終えたらしい淳志が、険しい表情で訊いた。
「こいつはオムリン達と違って主演算を自分に搭載してないのよ」
「遠隔操縦ってことか?」
朱鷺光がニヤリとしながら言うと、淳志がさらに訊ねる。
「ある意味そうなる。ただし、操縦していたのは人間じゃねぇ、それでオムリンやパティアと格闘戦とか、無理だからな」
朱鷺光が言った。
「まさか、それって────」
真帆子が、驚愕したように目を円くしながら、朱鷺光に訊ねる。
「主制御器もうまいことバラせりゃ良いんだがな、オムリンが電撃浴びせちまってるからどこまで復元できることか」
朱鷺光は制御器の基盤を外そうと、そろっとドライバーを差し込んでいく。
「まさか、それじゃ、これもナホがやってことだっていうの──!?」
愕然としたように、真帆子が言う。
「いや」
即座に否定の声を出したのは、オムリンだった。
「私はナホと接触している。こいつは、ナホとは別の人格だったように思える」
「それに、真帆子は格闘の心得があるのか?」
オムリンに続いて、パティアが言い、真帆子に問いかけた。
「いいえ……いえ、多少、護身術の心得はあるけど」
「Project MELONPARKの為に、君をサンプリングしたのは割と最近だろう?」
真帆子が答えると、今度は朱鷺光が問いかけた。
「ええ、去年の春頃ね」
「ほぼ不意打ちとは言え一度はパティアを機能停止に追い込んでるんだ、パティアはR-Systemの移植ってチートを使ってるし、オムリンと互角。ナホにそんな事ができるとは思えない」
真帆子の答えに、朱鷺光は口元で笑ったまま、目元では険しくし、そう言った。
「じゃあ、……じゃあ、どういうことなの?」
問い質すように言う真帆子に対し、
「そうだな、これ以上は推測の域を出ないが……例えば───現役のCIAのエージェントをサンプリングしたA.I.が用意されている、なんてどうだ?」
真帆子は、驚愕のあまり声を失っていた。
「こ、これは……まるで…………」
ゴクリ、喉を鳴らして言う。
「日本で中華料理店に入った感じじゃない、アメリカのヌードルスタンドのものよりずっと本格的だわ!」
湯気を上げ、香ばしい醤油と出汁の香りを漂わせるラーメンを見て、真帆子はそう言った。
「ま、麺もスープもファイの手製だからな」
朱鷺光は、そう言うと、ダイニングテーブルの上の自分のドンブリを抱え寄せ、箸をつけて麺をすする。
「麺もスープもある程度まとめてつくって冷凍しているので、そこまで上等かどうかはわかりませんが」
ファイは、苦笑しながら言う。
「でも、その冷凍まで計算に入れて作るんだろ?」
弘介が訊いた。
「ええ、まぁ、いろいろ研究しました」
ファイは、少しだけ胸を張るようにして、言う。
「研究って……あなたもロボットでしょう?」
「そうですけど……まぁ、自負を持ちたいものに関してはやはり気合が入りますし」
真帆子に聞かれて、ファイはそう答えた。
「はぁ……」
「あんまりしげしげ見つめてても、のびるだけだぞ」
朱鷺光が、麺をすすりながら行儀悪くそう言った。
「それで、例のロボット、正体は割れそうなのかよ」
淳志が、一度咀嚼していた麺を嚥下した後、朱鷺光に訊いてきた。
また今日も、左文字家で夕食を取りながら時間外を稼いでいるらしい。
「まぁ半ば仕方なかったとは言え、オムリンとパティアが派手にぶっ壊したからなぁ、構造の復元まではちょっと無理かもしれんが」
朱鷺光も、一度口の中身を嚥下し、そう言ってから、分厚いチャーシューを箸でつまむ。
「でも、大体の見当はつきそうなんだろう?」
「んー、まはへ」
朱鷺光は、行儀悪く、チャーシューを咀嚼しながらそう言った。
「この後じっくりまったりバラしてやるから、ちぃと待ってな」
そう言って、朱鷺光は、一気に麺をすすり上げた。
「おい、これは……」
食事を終えて、朱鷺光の作業部屋。
本来R.Series用のメンテナンスデッキに、先程のロボットの残骸が乗せられていた。
弘介が、まず、ロボットがジャケットのしたに着ていた、レオタード地のスーツをハサミで切って、その表皮を露出させると、その肌触りを確かめるようにしつつ、怪訝そうな顔をした。
「液晶感応被膜じゃないのか?」
弘介が、険しい表情で言う。
「朱鷺光のロボットにも、使われているやつだな。それが、どうかしたのか?」
淳志が、タバコが吸えない口慰みにと、本来、朱鷺光が疲労回復用に用意しているチェルシー・ヨーグルトスカッチを口に放り込みながら、そう言った。
「左文字博士は、これでパテントを取っていたはずよね?」
「日本の特許庁にだけどね」
真帆子が、やはり険しい顔で言うと、朱鷺光は、口元を尖らせるようにしながら、そう言った。
「なら、そのパテントを追えば、これの製造主に当たるんじゃないかしら」
「その程度で尻尾を掴ませるとは思えないんだが、まぁ調べてみる価値はありそうだな」
険しい表情の真帆子の言葉に、朱鷺光は面白くもなさそうな表情でそう言った。
「よし、それはこっちでも調べてみよう」
淳志はそう言うと、スマートフォンを取り出し、連絡のメッセージを打ち込み始める。
「パティア、掃除機構えててくれ」
「解った」
朱鷺光が言うと、パティアは、ノズルを外した掃除機の先端のパイプを、構えた。
ガレージのものほど大容量ではないが、作業部屋にもR.Series関連の工作をするため、高儀製の小型エアコンプレッサーが置いてあった。
朱鷺光は、それに、エアグラインダーを接続し、ロボットの、人間で言えば肋骨の間あたりにサンダーを当てる。
「行くぞ」
チュイィィィン、と音がして、朱鷺光がちょうど胸郭から腹部にかけてに当たる部分を、エアグラインダーで切断していく。
パティアは、その切断の際の塵が舞わないように、グラインダーの刃の近くに、掃除機のパイプを当てて吸い込ませていた。
「いよし」
朱鷺光は、グラインダーを離すと、ふぅ、と息を付いた。
すると、朱鷺光と入れ替わるように、オムリンが、バールを持ってロボットに近寄る。
「深く差すなよ、まぁ、腰をぶっ壊してるから、今更だが」
「了解」
朱鷺光に言われると、オムリンは浅く差し込んでうまく引っ掛け、ロボットの胸郭の部分を、こじ開けた。
「なーるほどやっぱりなぁ、主制御装置は胴体の方に搭載してたってわけか」
オムリンがこじ開けた内部を、朱鷺光はピンセットを持って差し込むようにしながら、観察する。
「弘介、頭部任せた」
「O.K.」
頭部はすでに、パティアのブレードで割られた形になっていた。弘介がそれを抑えると、
「オムリン、頼む」
「了解」
と、オムリンが、やはりその刀傷からバールを差し込んで、こじ開ける。
パキン、と音がして、頭部の外殻部が分解した。
「イメージングの素子と……」
頭部に搭載されていた基盤を1枚、1枚と弘介は外していったが、
「おやおや、出てきたぜ見覚えのあるチップ」
と、ニヤリと笑い、延髄のやや上あたりに収まっていた子基盤をソケットから外し、メンテナンスデッキの上に乗せた。
基盤の上に載ったチップには「Qualcomm」と刻印されている。
チップ自体はそれほど特殊なものではなかった、というより、朱鷺光や弘介にはもちろん、真帆子にも見覚えのあるものだった。
移動体データ通信用のチップである。
現在、中国の華為、日本のカネボウ半導体と世界を三分する製品だ。
「どうやら、それがビンゴみたいだな」
朱鷺光は、胸部に搭載されたと思しき制御装置から、スマートケーブルの1本を追っていった。それは、弘介が抱えていた頭部の、先程、ドーターボードをソケットから外したあたりに接続されていた。
「つまり、どういうことだ?」
県警へのメッセージを送信し終えたらしい淳志が、険しい表情で訊いた。
「こいつはオムリン達と違って主演算を自分に搭載してないのよ」
「遠隔操縦ってことか?」
朱鷺光がニヤリとしながら言うと、淳志がさらに訊ねる。
「ある意味そうなる。ただし、操縦していたのは人間じゃねぇ、それでオムリンやパティアと格闘戦とか、無理だからな」
朱鷺光が言った。
「まさか、それって────」
真帆子が、驚愕したように目を円くしながら、朱鷺光に訊ねる。
「主制御器もうまいことバラせりゃ良いんだがな、オムリンが電撃浴びせちまってるからどこまで復元できることか」
朱鷺光は制御器の基盤を外そうと、そろっとドライバーを差し込んでいく。
「まさか、それじゃ、これもナホがやってことだっていうの──!?」
愕然としたように、真帆子が言う。
「いや」
即座に否定の声を出したのは、オムリンだった。
「私はナホと接触している。こいつは、ナホとは別の人格だったように思える」
「それに、真帆子は格闘の心得があるのか?」
オムリンに続いて、パティアが言い、真帆子に問いかけた。
「いいえ……いえ、多少、護身術の心得はあるけど」
「Project MELONPARKの為に、君をサンプリングしたのは割と最近だろう?」
真帆子が答えると、今度は朱鷺光が問いかけた。
「ええ、去年の春頃ね」
「ほぼ不意打ちとは言え一度はパティアを機能停止に追い込んでるんだ、パティアはR-Systemの移植ってチートを使ってるし、オムリンと互角。ナホにそんな事ができるとは思えない」
真帆子の答えに、朱鷺光は口元で笑ったまま、目元では険しくし、そう言った。
「じゃあ、……じゃあ、どういうことなの?」
問い質すように言う真帆子に対し、
「そうだな、これ以上は推測の域を出ないが……例えば───現役のCIAのエージェントをサンプリングしたA.I.が用意されている、なんてどうだ?」
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