公爵令嬢アリシアは思い通りになどなりません~獣人王に嫁ぐことになりましたがお馬鹿な妹や王子が馬鹿すぎるのですぐさまわからせてあげます~

吉武 止少

文字の大きさ
1 / 15

第1話

しおりを挟む
「ごきげんよう。ゴキブリかと思ったらアリシアお姉様でしたのね」

 金髪をすとんと落とし、フリルがたっぷりあしらわれたサーモンピンクのドレスを身にまとった少女が、耳を疑うような言葉を発した。明確な悪意を持った言葉を発したのはしかし、いじめっ子ではなくアリシアの妹だ。
 
「ごきげんようエリス。私とゴキブリの区別がつかないなんて……悪いのは目? 頭? それとも両方かしら」
「嫌味で言ってるんですッ!」
「分かっていてよ? 嫌味で返しただけなのにそれも理解できないなんて……やはり頭が……?」

 深刻そうな顔で俯けば、ハーフアップにした銀髪がさらりと流れて陽光にきらめいた。端正な顔立ちに凛とした佇まい。エリスとは真逆と言っても良い雰囲気だが、学園中の男性を虜にするほどの美貌だった。

「きぃぃぃっ! これだからお姉様が嫌いなんです!」
「私は大好きですわ」
「ふ、ふんっ! そうやって余裕ぶっていられるのも今のうちです!」

 時刻は昼。弁当を広げる場所を求めてさまよう生徒たちが噴水前でのやりとりにぎょっとして、それから「ああ、またフローライト姉妹が喧嘩してるのか」とやや距離を取りながら興味を失っていく。

「お姉様に縁談の話が来ました!」
「なんで私より先にあなたが知ってるの?」
「朝、お父様が執事のセバスチャンと話をしているのを聞いたのよ!」
「お父様もセバスも、後で折檻せっかんね……」
「何か言いました?」
「なんでもないわ……お父様が起きてきた時に家にいたってことは、学園は遅刻したのね?」
「う、うるさいです! お姉様には関係ありませんわ!」
「……それで、お相手はどちらでしょう?」
「アルフレッド・ヴァーミリオン公王閣下ですわ! 素手で人を切り裂くとか、敵対した人間を食べると噂の獣人王!」

 エリスの言葉を受けてアリシアの脳裏に浮かぶのは一冊の絵本だ。
 り切れるほど読んであげたそれは、全て暗記しているほどお気に入りだ。

「ああ、懐かしいわね。三歳のあなたは『人の勇者と獣人の魔王』を読むと泣きながら逃げ惑っていたものね。……でもあれは創作よ?」
「わ、忘れかけていたトラウマが……! そ、そんなことよりも! どんな気分ですか、獣人に嫁がされるのは!」
「どうもこうもないわね。家の事情や国のパワーバランス、その他諸々もろもろを考えて、あとは獣人王閣下本人がどんな人なのかを見て決めます」
「果たしてそううまく行くかしら」

 にやりと笑うエリス。

「……エリス。まさかとは思うけれど、勝手に返事を出したりはして──アッ、こら! 待ちなさい! 逃がさないわよ!」
「もう授業が始まってしまいますわよ! 私と違って優等生のお姉様がサボりなどと──」
「第二言語学は卒業分まで勉強し終えてますからあなたにお仕置きをする時間くらいはありますッ!」
「ひぃっ!? け、計算外ですわぁぁぁ!」

 追いかけっこをするという、淑女にはあるまじき行為。
 ましてやそれが宰相を務めているフローライト公爵家の娘ともなれば醜聞しゅうぶんと言われても仕方がないのだが。

「……フローライト姉妹は今日も元気だな」

 生徒も教師も、学園の者たちは慣れ切っていた。エリスの悲鳴を聞き流すほどに。
 ちなみに捕まえたエリスを自白させたところ、偽の手紙は頭が痛くなるようなポエムが散りばめられた恋文だった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

たまこ
恋愛
 公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。  ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。 ※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

【完結】年下幼馴染くんを上司撃退の盾にしたら、偽装婚約の罠にハマりました

廻り
恋愛
 幼い頃に誘拐されたトラウマがあるリリアナ。  王宮事務官として就職するが、犯人に似ている上司に一目惚れされ、威圧的に独占されてしまう。  恐怖から逃れたいリリアナは、幼馴染を盾にし「恋人がいる」と上司の誘いを断る。 「リリちゃん。俺たち、いつから付き合っていたのかな?」  幼馴染を怒らせてしまったが、上司撃退は成功。  ほっとしたのも束の間、上司から二人の関係を問い詰められた挙句、求婚されてしまう。  幼馴染に相談したところ、彼と偽装婚約することになるが――

ヒュントヘン家の仔犬姫〜前世殿下の愛犬だった私ですが、なぜか今世で求愛されています〜

高遠すばる
恋愛
「ご主人さま、会いたかった…!」 公爵令嬢シャルロットの前世は王太子アルブレヒトの愛犬だ。 これは、前世の主人に尽くしたい仔犬な令嬢と、そんな令嬢への愛が重すぎる王太子の、紆余曲折ありながらハッピーエンドへたどり着くまでの長い長いお話。 2024/8/24 タイトルをわかりやすく改題しました。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

捨てられ聖女は、王太子殿下の契約花嫁。彼の呪いを解けるのは、わたしだけでした。

鷹凪きら
恋愛
「力を失いかけた聖女を、いつまでも生かしておくと思ったか?」 聖女の力を使い果たしたヴェータ国の王女シェラは、王となった兄から廃棄宣告を受ける。 死を覚悟したが、一人の男によって強引に連れ去られたことにより、命を繋ぎとめた。 シェラをさらったのは、敵国であるアレストリアの王太子ルディオ。 「君が生きたいと願うなら、ひとつだけ方法がある」 それは彼と結婚し、敵国アレストリアの王太子妃となること。 生き延びるために、シェラは提案を受け入れる。 これは互いの利益のための契約結婚。 初めから分かっていたはずなのに、彼の優しさに惹かれていってしまう。 しかしある事件をきっかけに、ルディオはシェラと距離をとり始めて……? ……分かりました。 この際ですから、いっそあたって砕けてみましょう。 夫を好きになったっていいですよね? シェラはひっそりと決意を固める。 彼が恐ろしい呪いを抱えているとも知らずに…… ※『ネコ科王子の手なずけ方』シリーズの三作目、王太子編となります。 主人公が変わっているので、単体で読めます。

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。 ※後日談を更新中です。

処理中です...