公爵令嬢アリシアは思い通りになどなりません~獣人王に嫁ぐことになりましたがお馬鹿な妹や王子が馬鹿すぎるのですぐさまわからせてあげます~

吉武 止少

文字の大きさ
6 / 15

第6話

しおりを挟む
 それから二日後。学園に併設へいせつされたカフェテリズでアリシアは紅茶を飲んでいた。向かい側にはふんわりした雰囲気に優しげな瞳を持った少女。学友のリズ・ストークスだ。

「リズさん、ごめんなさいね」
「いえいえ。他ならぬアリシアさんの頼みですもの」
「すぐさま動いてくれて、助かりました」

 スコーンにクロテッドクリームを塗って口に運んでいると、サンドイッチをもぐもぐと頬張ほおばる第三王子を引っ張りながらノーリッツが突撃してきた。

「さ、探しましたよッ!」
「ひっ」
「リズ嬢……!」
「大丈夫よリズさん。何があっても私が守りますからね」
「あ、アリシアさん……!」
 
 リズが頬を染めてアリシアを見つめたところでノーリッツが悔しそうに唇をかみしめたが、ハッと気付いてアリシアを睨む。

「アリシア嬢、何をしたんですかッ!」
「何の話ですの?」
「とぼけないでください! あなたと話した翌日から、クラスの女子たちにひそひそされるようになったんです! あなたが何かを言いふらした以外に考えられません!」
「被害者であるリズさんが誰かに相談したとか、そういう可能性は?」
「リズさんはおっとりしていて誰かを陥れたり、誰かに相談するなんて出来ないタイプです!」

 鼻息荒く、頬を紅潮させながら断言するノーリッツだが、それは逆説的にアリシアならやりかねないと判断した、という意味でもある。

「リズさん聞きました? リズさんが一人で抱え込むタイプだって分析して襲ってきたみたいですよ」
「あ、アリシアさん……私、怖いです。手を握ってもらえますか……?」
「ぼ、僕の前でイチャつかないでくださいッ! それよりアリシア嬢、説明してください!」
「ノーリッツ様。クラスの女子達はどんな様子でしたか?」
「僕や殿下のことをチラチラ見ながらひそひそと内緒話をしているんです。クスクス笑われたりして、何を言われているかと思ったら……!」
「大丈夫です。性犯罪者に向けられるのは絶対零度の視線ですので、笑われている時点でノーリッツ様の犯罪行為はバレていません」
「それなら良かった……って、誤解です! リズ嬢もゴミをみるような目で僕を見ないでくださいッ!」

 誘導尋問ゆうどうじんもんだが、被害者のリズからすればノーリッツが自白したようにしか聞こえないのだからドン引きするのも仕方ないことだろう。

「調べはついているんです! 妹君のエリス嬢からあなたが侍女とこそこそ何かをしていたと!」
「えっ、わざわざエリスから話を聞くなんて……リズさんの次は私がターゲットなんですの?」
「僕はリズさん一筋ですッッッ! ああ、なんで引いてるんですかッ!?」
「ストーカー……私の次はアリシアさんまでもを毒牙に掛けようと……!」
「ちょっと待ってください! まだ何もしてないじゃないですかっ!?」
「「……”まだ”……?」」
「言葉のあやですぅぅぅぅぅぅぅ!」

 泣きべそをかき始めたノーリッツだが、絶叫ぜっきょうのせいで周囲からの注目を集めていた。その中には当然ノーリッツのクラスメイトもおり、

「ひそっ、ひそひそ」
「クスクスクス」
「ひそひそ、ひそォ……」
「ほ、ほらぁ! 何か変な空気になるんですよ! 僕はおろか、ゴードン殿下が問いただしても曖昧あいまいに微笑むばかりで!」
「大丈夫です。あの方たちはおそらくあなたたちのファン・・・ですから」
「……ファン?」

 アリシアの言葉が理解できず、ノーリッツが固まる。
 妙な静寂せいじゃくが辺りを支配したところで、先ほどまでひそひそしていた者たちが近づいてきた。第三王子であるゴードンに軽く頭をさげてからリズとアリシアに近づく。

「新作、さっそく読みましたわリズ先生!」
「原案のアリシア様もごきげんよう! 主従しゅじゅうを超えた本物の愛! 素敵でしたわ!」
「ありがとうございます」
「アイデアは全てアリシアさんのものですわ」
「あの、せっかくなのでお二人のサインを頂けませんか!?」

 女生徒が取り出したのは娯楽小説。それも貴族向けに出回るような立派なものではなく、平民たちでも手を出しやすいペーパーバックの一冊だ。

「何ですか、それは! ちょっと見せてください!」
「きゃっ」
「ちょ、ちょっと」

 ノーリッツが無理矢理手に取る。

「……『第三王子と強引従者ごういんじゅうしゃのイケない放課後』……? 何ですかコレは! ま、まさか殿下と僕を……!?」

 男性同士の恋愛を主軸にした、耽美小説だった。

「もう、何を言ってるんですか。セメは情熱的なケダモノ系従者のノータリンッツくんですし、ウケの名前もグードン殿下ですよ?」
「ノータリンッツくんが泣きながら『僕にはあなたしかいないんですぅー!』って迫るシーンは涙なしでは読めませんでしたわ!」

 既視感のあるシーンにノーリッツがめまいを覚えてふらつく。
 どう考えても自分がモデルだ、と思う一方で、それを主張してしまえばリズにフラれたことや、性犯罪者扱いされそうな言動についてバレてしまいそうで何も言えなくなる。

「同好の志から手書きの紙束が回ってきましたが印刷したものは販売しないんですか?」
「私と侍女が徹夜で書き写したのは早く読んで欲しかったからよ。心配しなくても出版社が印刷を頑張ってくれてるから、近いうちに市井しせいにも出回るわ」
「やった!」
「まぁ本当に頑張ったのは私じゃなくてリズさんですけど。事情をお願いしたらたった一日で書き上げてくれたんだもの」
「アリシアさんの考えた設定やストーリーがそれだけ素晴らしかったんですわ」

 唐突に生まれたドぐされ空間にノーリッツはもはや失神寸前だった。
 どうしてクラスメイトがヒソヒソしていたのか。
 自分だけでなく殿下までもがヒソヒソされたのか。
 妙な笑みや視線がどういう意味なのか。
 それに思い至ってしまったのだ。

「ま、まさか、その、僕と、ゴードン殿下の、その……絡み、を……?」
「いやですわノーリッツ様。私たちが楽しんでいるのは愚鈍ぐどんゴホン、グードン殿下とノータリンッツくんの絡みです。ええ、創作上の人物ですし、実在の人物とは何の関係もありませんよ?」

 楽しそうに告げるアリシアだが、その視線はノーリッツの手元へと注がれていた。
 サンドイッチを食べるゴードンをがっしりとつかんだ、ノーリッツの手へと。

「続編はピクニックにしましょう。食事に夢中なウケを人気のない森まで引っ張り込み、護衛に見付かるかもというスリルの中で──」
「しししし、失礼しますっっっ!」

 ノーリッツはゴードンを引っ張って慌てて逃げ出した。
 きゃあ、と黄色い悲鳴をあげる女生徒たちとともにそれを見送ってから、アリシアはリズに向き直った。

「ありがと、付き合ってくれて」
「良いのよ。元々書いてたヤツをちょっと変えてから、名前を差し替えただけですもの。それよりも書き写したやつ、後半でキャラクターの名前に誤字が増えるのはやっぱりわざと?」
「うふふ、なんの事かしら。徹夜の疲れで誤字が増えただけよ。知り合いに似てる名前だから余計にね」
「そういうことにしておきましょ」

 二人は続編のシチュエーションについて打ち合わせをしてから帰路きろいた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

たまこ
恋愛
 公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。  ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。 ※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

【完結】年下幼馴染くんを上司撃退の盾にしたら、偽装婚約の罠にハマりました

廻り
恋愛
 幼い頃に誘拐されたトラウマがあるリリアナ。  王宮事務官として就職するが、犯人に似ている上司に一目惚れされ、威圧的に独占されてしまう。  恐怖から逃れたいリリアナは、幼馴染を盾にし「恋人がいる」と上司の誘いを断る。 「リリちゃん。俺たち、いつから付き合っていたのかな?」  幼馴染を怒らせてしまったが、上司撃退は成功。  ほっとしたのも束の間、上司から二人の関係を問い詰められた挙句、求婚されてしまう。  幼馴染に相談したところ、彼と偽装婚約することになるが――

ヒュントヘン家の仔犬姫〜前世殿下の愛犬だった私ですが、なぜか今世で求愛されています〜

高遠すばる
恋愛
「ご主人さま、会いたかった…!」 公爵令嬢シャルロットの前世は王太子アルブレヒトの愛犬だ。 これは、前世の主人に尽くしたい仔犬な令嬢と、そんな令嬢への愛が重すぎる王太子の、紆余曲折ありながらハッピーエンドへたどり着くまでの長い長いお話。 2024/8/24 タイトルをわかりやすく改題しました。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

捨てられ聖女は、王太子殿下の契約花嫁。彼の呪いを解けるのは、わたしだけでした。

鷹凪きら
恋愛
「力を失いかけた聖女を、いつまでも生かしておくと思ったか?」 聖女の力を使い果たしたヴェータ国の王女シェラは、王となった兄から廃棄宣告を受ける。 死を覚悟したが、一人の男によって強引に連れ去られたことにより、命を繋ぎとめた。 シェラをさらったのは、敵国であるアレストリアの王太子ルディオ。 「君が生きたいと願うなら、ひとつだけ方法がある」 それは彼と結婚し、敵国アレストリアの王太子妃となること。 生き延びるために、シェラは提案を受け入れる。 これは互いの利益のための契約結婚。 初めから分かっていたはずなのに、彼の優しさに惹かれていってしまう。 しかしある事件をきっかけに、ルディオはシェラと距離をとり始めて……? ……分かりました。 この際ですから、いっそあたって砕けてみましょう。 夫を好きになったっていいですよね? シェラはひっそりと決意を固める。 彼が恐ろしい呪いを抱えているとも知らずに…… ※『ネコ科王子の手なずけ方』シリーズの三作目、王太子編となります。 主人公が変わっているので、単体で読めます。

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。 ※後日談を更新中です。

処理中です...