公爵令嬢アリシアは思い通りになどなりません~獣人王に嫁ぐことになりましたがお馬鹿な妹や王子が馬鹿すぎるのですぐさまわからせてあげます~

吉武 止少

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第8話

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「お待たせいたしました」
「いや、そんなことはない。それに、とても綺麗だ」

 すっかり支度を終えたアリシアが下に下がった時、すでにアルフレッドを乗せた馬車は玄関前のポーチに止まっていた。
 アリシアが姿を見せると同時、アルフレッドが現れて馬車に乗るエスコートをしてくれた。てっきり狼頭の獣人姿で現れるかと思っていたら、オールバックの美青年姿だった。
 やや野性的な迫力はあるものの、色気すら感じられる美しさにアルフレッドのことをよく知らない者達が驚きに目を見開いていた。誰もが狂暴で残忍な獣人を想像していたのだろう。

「では参りましょうか、我が姫」

 芝居じみた台詞とともに馬車が動き始める。対面にアルフレッド、横にリリーを乗せた馬車がゆっくりと揺れ始めた。

「そういえば、ですけれど。巨狼になれるのが秘密とおっしゃっていましたが、人の姿になれるというのは秘密にしなくて良いのですか?」
「ああ。ヒト化はきちんと訓練すれば誰でもできることだしな。……獣人の中には人の姿を取らないことに誇りを持っている者も多いから忘れられた技術だが、秘密するほどのものではないな」

 やりたがる者がいないために知られていないらしい。

「では、あの巨狼の姿は?」
「……王族の血を引く者のみができるものだ。初代王は獣神フェンリルの血を引いていると言われていてな」
「知らない神ですわ」
「獣人の神話は口伝くでんばかりだからな。興味があるなら詳しく話そうか?」
「ぜひっ!」

 公爵家の蔵書を読破し、それでは足りずに自ら耽美小説の構想を作り始めたりと物語全般に興味があるアリシアはあっさりと食いつく。

「……なんで意外そうな顔をしてるんです?」
「素直だなと思って」
「あら、反抗的な方がお好み?」
「いや……この間の君も嫌いじゃないが、素直なのも可愛い」

 まっすぐに言われてたじろぐが、すぐに気を取り直す。

「それはありがとうございます。ずいぶん変わった趣味をお持ちですこと」
「獣人でアニマルテラピーしようとする者よりは変わってないと思うが」
「なっ!? 聞き耳を立てていたんですか!?」
「言っただろう。俺の耳は、他の者が思っている以上に性能が良いんだ」
「お嬢様、ずいぶん大きな声で叫んでましたしね……」
「リリー! どっちの味方なの!?」
「お嬢様ですよ──大局的な意味で」
「余計なことは考えなくていいわ!」
 
 ぴしゃりと言い切れば、向かいに座ったアルフレッドが笑った。
 それからしばらく問答を続けたが、決着がつかないまま獣人に伝わる神話の話になる。政治や歴史、風習の話を交えながらの雑談は驚くほど弾んだ。
 博学なアリシアに対してアルフレッドも手加減なしに知識と経験、思考をぶつけた結果である。

「……というわけで、獣神フェンリルがこの地を去った後も我ら獣人は獣を宿した姿を誇っているのだ」
「なるほど。はやり人間と獣人との間には誤解が多くありますわ」
「それはお互い様だな。獣人も人間を嫌うあまり、まっすぐな目線で見れていない者が多い」

 苦笑したアルフレッドに、アリシアが首を傾げた。

「質問です。アルフレッド様が普段は獣人姿でいるのは種族的な誇りと仰いましたよね?」
「ああ。ヒト化を駄弱だと思う者も多いからな」
「では、どうして我が家を訪れた時は人の姿を取っていたのです?」
「獣人は獰猛で残忍。聞いたことがあるだろう? そう思っている者の元に、普通の人間として現れた時に見える驚き顔が楽しくてな」
「……良い性格していますこと」

 言いながらアリシアも微笑めば、それに、とアルフレッドがことばを続ける。

「それにな。……仮にも望外の美女を婚約者に出来たのだ。ペット扱いされるのも、アニマルテラピーと言われるのも面白くない」
「あら、『お互いに恋愛は難しい』『平和に向けて戦う同志』なんて言っていたのに」
「……一応、そちらに気を遣ったつもりだったのだ」

 あまりにも根回しがなかったからアリシア自身ですら忘れそうになるが、この婚約は人間と獣人との融和を目的として国王が主導したものだ。
 獣人がどう思われているのかを理解しているアルフレッドは、婚約相手も王命で嫌々婚約するものと思い込んでいたらしい。

「……俺は好みだし本気だが、無理に好かなくてもいいなんて言ったら気を遣わせるし重すぎるだろう」
「それは確かに」
「だが、本人から全力で口説くようにお達しが来たからな。遠慮はしないぞ」
「……という振りをして、融和のために何とか婚約を成立させようとしている可能性は?」
「疑り深いな。そんな疑念を抱けなくなるくらいに口説いて欲しいってことか?」
「そんなこと言っていません!」
「信じてもらえるよう頑張るしかないな。ちなみに今のところは及第点か?」
「知りません」

 そっぽを向いて言えば、アルフレッドは再び微笑んだ。
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